ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.54 >> (平9.11.19裁決、裁決事例集No.54 481頁)

(平9.11.19裁決、裁決事例集No.54 481頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人Fほか1名(以下「請求人ら」という。)は、平成6年5月23日に死亡したG(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書に、別表の「当初申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人らは、原処分庁所属の職員の調査を受け、平成8年11月28日に別表の「修正申告」欄のとおり記載した相続税の修正申告書を提出した。
 原処分庁は、これに対して、平成8年12月13日付で修正申告について、別表の「賦課決定処分」欄のとおり過少申告加算税の賦課決定処分をし、同月20日付で別表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人らは、平成8年12月20日付で更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を不服として平成9年1月21日に別表の「異議申立て」欄のとおり、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月4日付で別表の「異議決定」欄のとおり、いずれも棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年4月1日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成9年4月1日に届け出た。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人らは、相続税の課税価格に算入すべき金額の算定に当たり、被相続人が所有し、有限会社H(以上「H社」という。)に貸し付けていたP市R町1番10所在の宅地1筆101.88平方メートル(以下「本件宅地」という。)については、租税特別措置法第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項の規定を適用し、本件宅地の価額252,415,239円に百分の五十の割合を乗じて計算した上で相続税の申告をした。
(ロ)これに対し、原処分庁は、本件宅地は租税特別措置法第69条の3第1項に規定する被相続人の事業の用に供されていた宅地等に該当しないとして、更正処分をした。
(ハ)しかしながら、本件宅地は、租税特別措置法第69条の3第1項の「被相続人の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。)の用に供されていた宅地等」及び同法施行令第40条《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項に規定する「事業と称するに至らない不動産の貸付けで相当の対価を得て継続的に行うもの」に、次のとおり該当するから、相続税の課税価格に算入すべき金額は、租税特別措置法第69条の3第1項の規定を適用して計算すべきであり、更正処分は違法である。
A 被相続人がH社に貸し付けていた本件宅地の地代の額については、賃貸借期間を昭和57年6月1日から昭和77年5月31日までの20年間とする土地賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)により、地代の額は無料とするが、本件宅地の固定資産税及び都市計画税に相当する金額については、地代相当額としてH社が負担する旨を定めており、現在まで、本件賃貸借契約に基づき、本件宅地の固定資産税及び都市計画税をH社が負担している。
B しかしながら、被相続人及びH社は、昭和57年11月30日付で本件宅地の使用に関する土地の無償返還に関する届出書及び本件賃貸借契約に係る契約書の写しを、原処分庁に対して、連名により提出していることから、被相続人は、法人税法施行令第137条《土地の使用に伴う対価についての所得の計算》の規定及び法人税基本通達13−1−7《権利金の認定見合わせ》の定めにより、本件宅地の地代の額については、同基本通達13−1−2《使用の対価としての相当の地代》に定める相当の地代の額(以下「相当の地代の額」という。)を収受しなければならず、また、被相続人が相当の地代の額を収受していなければ、相当の地代の額から上記Aの地代相当額を控除した金額を、借地人であるH社に贈与したものとして取り扱われるべきである。
C したがって、被相続人がH社に貸し付けていた本件宅地の地代の額については、上記Aの地代相当額ではなく、上記Bの相当の地代の額であり、法人税法施行令第137条により「土地の使用の対価として相当の地代を収受しているときは、土地の使用に係る取引については正常な取引条件でされたもの」である旨規定されていることから、本件宅地の貸付けは、相当の対価を得て行うものに該当する。
D また、本件宅地の貸付けは、本件賃貸借契約を結び、昭和57年6月1日から相続開始の直前まで継続して貸し付けていることから、継続的に行うものに該当する。
(二)本件宅地の価額252,415,239円については、争わない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)本件宅地が租税特別措置法第69条の3第1項に規定する被相続人の事業の用に供されていた宅地等に該当するか否かについては、同項及び同法施行令第40条第1項の規定から、本件宅地の貸付けが相当の対価を得て継続的に行われているか否かにより判断するのが相当であるところ、本件宅地の貸付けにおける対価は、固定資産税及び都市計画税に相当する金額であることから、相当の対価を得て貸付けが行われていたということはできない。
 また、被相続人が本来受けるべき本件宅地の貸付けに係る地代の額を贈与していたという事実もない。
 したがって、本件宅地が租税特別措置法第69条の3第1項に規定する被相続人の事業の用に供されていた宅地等に該当する旨の請求人らの主張には理由がなく、本件宅地について、同項を適用して本件相続に係る相続税の課税価格に算入することはできないとしてなされた更正処分は、適法である。
(ロ)上記(イ)のとおり、本件宅地については、租税特別措置法第69条の3を適用することができないのであるから、本件相続における相続税の課税価格に算入すべき本件宅地の価額は252,415,239円となり、請求人らのそれぞれの相続税の課税価格に算入すべき本件宅地の価額は、126,207,619円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎になった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件宅地が租税特別措置法第69条の3第1項に規定する被相続人の事業の用に供されていた宅地等に該当するか否かであるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 次のことについては、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)被相続人は、H社に対して、本件宅地を次の本件賃貸借契約の内容によって、相続開始の直前まで貸し付けていたこと。
A 本件宅地の賃貸借期間は、昭和57年6月1日から昭和77年5月31日までの20年間であること。
B 本件宅地の地代の額は、無料とするが、H社が本件宅地の固定資産税及び都市計画税に相当する金額を負担すること。
C 特約事項として、本件宅地の返還の際には、H社は被相続人に無償で本件宅地を返還することを定めていること。
(ロ)被相続人とH社は、本件賃貸借契約に係る契約書の写しを添付したうえ、昭和57年11月30日付で本件宅地に係る土地の無償返還に関する届出書を原処分庁に提出していること。
(ハ)本件宅地の価額については、路線価を基に算定すると252,415,239円であること。
ロ 当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
 H社は、平成4年10月1日から平成5年9月30日まで及び平成5年10月1日から平成6年9月30日までの各事業年度(以下、順次、「平成5年9月期」及び「平成6年9月期」という。)の法人税の各確定申告書において、被相続人に対する本件宅地の地代の額については、平成5年9月期は、228,500円、平成6年9月期は251,700円を賃借料として損金の額に算入し、いずれも固定資産税相当額であることを勘定科目内訳明細書の地代家賃の内訳の摘要欄に記載していること。
ハ 請求人らは、当審判所に対して、次のとおり答述している。
 被相続人が生存中のP市役所に対する上記イの(イ)のBの本件宅地の固定資産税及び都市計画税の支払については、H社が、直接、P市役所に支払っていたこと。
ニ ところで、租税特別措置法第69条の3の規定の趣旨は、相続開始の直前において、被相続人の事業の用に供されていた宅地は、相続人等の生活基盤の維持のために不可欠なもので、事業を継続させる必要性が高いことなどから、その処分について相当の制約を受けるであろうことにかんがみ、必要最小限の部分につき相続税の課税価格の計算上減額を認めたものであり、同条第1項では、「個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、被相続人の事業の用に供されていた宅地等がある場合には、それらの宅地等の二百平方メートルまでの部分のうち、当該個人が取得した宅地等の相続税の課税価格に算入すべき金額は、当該宅地等の価額にその定められた一定の割合を乗じて計算した金額とする」旨規定されているが、この被相続人の事業には、同法施行令第40条第1項において、「事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で、相当の対価を得て継続的に行うものを含む」旨規定されている。
 そして、「相当の対価を得て」については、貸付け等の用に供している資産の賃貸料が、貸付け等の用に供している資産の固定資産税その他の必要経費を回収した後において、相当の利益を生ずるような対価を得ていることと解され、相当の対価を得ていたかどうかについては、相続開始の直前において、相当の対価を現実に得ていたかどうかという客観的事実により判断するものと解される。
ホ 以上を踏まえて、本件についてみると、次のとおりである。
(イ)上記イの(イ)及びロの事実並びに上記ハの答述のとおり、被相続人は、H社に対して、本件宅地を、本件宅地の固定資産税及び都市計画税に相当する金額によって、相続開始の直前まで貸し付けていたものであることが認められる。
 そうすると、被相続人は、相当の利益を生ずるような対価を得てH社に本件宅地を貸し付けていたとは認められないことから、本件宅地については、租税特別措置法第69条の3第1項に規定する被相続人の事業の用に供されていた宅地等に該当しないというべきである。
 したがって、本件相続における相続税の課税価格に算入される本件宅地の価額は、上記イの(ハ)のとおり252,415,239円であり、租税特別措置法第69条の3第1項の規定を適用して計算をすべきであるとする請求人らの主張には理由がない。
(ロ)また、請求人らは、本件宅地に係る土地の無償返還に関する届出書を原処分庁に提出していることを理由として、被相続人がH社に貸し付けていた本件宅地の地代の額は、法人税法施行令第137条の規定及び法人税基本通達13−1−2及び13−1−7の定めによる相当の地代の額であり、相当の地代の額であれば、相当の対価を得て貸し付けていたものであるから、本件宅地の相続税の課税価格に算入すべき金額は、租税特別措置法第69条の3第1項の規定を適用して相続税の課税価格の計算をすべきである旨主張する。
 この点については、上記イの(ロ)のとおり、請求人らは本件宅地に係る土地の無償返還に関する届出書を、原処分庁に提出していることが認められるが、法人税法施行令第137条の規定及び法人税基本通達13−1−2及び13−1−7の定めは、いずれも法人が借地権の設定により他人に土地を使用させた場合の規定等であることから、次の理由により、これらの規定等を本件宅地の貸付けに関して適用することはできず、また、上記(イ)のとおり、被相続人は、相当の利益を生ずるような対価を得て貸付けをしていたとも認められないので、この点に関する請求人らの主張を採用することはできない。
A 法人と個人の税法上の取扱いについては、法人が常に純経済人として経済的利害得失を意識した行動をとり、利潤の追求のための経済的活動を本旨としているのに対して、個人は、常に経済人として行動するという保証もなく、経済的利益を伴わない行為を行うこともあることから、その存在の目的及び理由により課税関係も異なること。
B 法人については、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項で「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする」と、無償による役務の提供なども収益の額とすることを規定しているが、個人については、無償による役務の提供などを収入金額とする規定が存在しないこと。
ヘ 以上のとおり、請求人らの主張には理由がなく、本件宅地は租税特別措置法第69条の3第1項に規定する被相続人の事業の用に供されていた宅地等に該当しないと認められることから、本件相続における相続税の課税価格に算入される本件宅地の価額を252,415,239円とし、請求人らのそれぞれの相続税の課税価格に算入される本件宅地の価額を126,207,619円とした更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎になった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る