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(平9.7.1裁決、裁決事例集No.54 505頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、審査請求人(以下「請求人」という。)の次表記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、F生命保険相互会社(所在地P市、以下「F生命」という。)との生命保険契約(以下「本件生命保険契約」という。)に基づく解約返戻金の支払請求権(以下「本件債権」という。)を平成7年9月20日に差し押さえるとともに、請求人に対し同日付で差押調書の謄本を送達した。

 次に、原処分庁は、本件債権を取り立てるため、F生命に対して本件生命保険契約の解約権を行使し、平成8年7月22日に解約返戻金236,690円の給付を受け、平成8年7月23日付でその全額を本件滞納国税に配当する旨及びその交付期日を平成8年7月30日とする旨の配当計算書を作成し、同日付でその謄本を請求人あてに発送(以下「本件配当処分」という。)した。
 請求人は、これに対し平成8年7月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は平成8年10月28日付で、却下の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について、不服があるとして、平成8年11月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件配当処分は、次の理由により不当であるから、全部の取消しを求める。
イ 本件生命保険契約は、約20年前に、請求人の母Gが請求人名義で加入し、保険料の支払をしてきたものであり、本件債権は、実質的には請求人のものではないこと。
ロ 本件滞納国税については、原処分庁に、現在係争中の相続の問題が決着した時点で一括納付することとし、それまでは月々の支払可能額を納付する旨申し出ており、当該申出に基づき、少額ではあるが納付してきたこと。
 なお、本件生命保険契約が解約されたことから、医師の勧める入院もできなくなったこと。

(2)原処分庁の主張

 本件配当処分は、次の理由により適法であるから棄却するとの裁決を求める。
イ 本件生命保険契約は、請求人を契約者とする保険契約であり、その保険料も請求人の給与から支払われていることから、本件債権は請求人のものであること。
ロ 請求人は、平成6年分の所得税の確定申告に係る国税を滞納しており、平成7年7月に500,000円を納付した後も一部納付を続けていたが、滞納国税に比しきん少(毎月3,000円)であり、係争中である相続問題の裁判の決着が付き次第納付すると申し立てるのみで、完納の見込みがなかったことから、本件配当処分を含む滞納処分の各手続を行ったものであり、当該各手続は適法に行われていること。

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3 判断

 本件審査請求においては、本件配当処分の適否について争いがあるので、以下審理する。

(1)本件審査請求の適否について

 異議審理庁は、本件配当処分に係る異議申立てについて、趣旨等が不明等であることを理由に却下の決定をしているが、当審判所において、異議申立書等を調査したところ、これを不適法とするほどのかしは認められないから、本件審査請求は適法と認められる。

(2)配当処分について

イ 原処分庁が、本件滞納国税について、平成7年5月2日付で督促状により納付の督促を行っていることについては、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
ロ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所において調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)生命保険証券によれば、本件生命保険契約に係る契約年月日及び契約者等の内容は、次表のとおりであること。
保険証書番号  ○○−××××
保険名称    終身保険〔重点保証プラン〕
契約年月日   昭和60年11月21日
保険期間の終期 平成24年11月20日
契約者名    H(請求人)
被保険者名   H(請求人)
保険料払込方法 月払毎回 5,898円
(ロ)平成7年分の本件生命保険契約に係る保険料は、請求人の勤務するJ有限会社(所在地Q市、以下「J社」という。)の給料から毎月5,604円が差し引かれ、団体扱いでF生命に支払われており、また、請求人がJ社に提出した平成7年分給与所得者の保険料控除申告書によれば、本件生命保険契約に基づく年間の保険料は、67,248円と記載されていること。
(ハ)原処分庁の担当者は、請求人の妻Kを通じ、短期間で完納の見込みがなければ財産の差押えを行う旨説明していること。
ハ ところで、納税者が国税をその納期限までに完納しないときの徴収の手続については、国税通則法第37条《督促》に規定する督促を行い、滞納となった国税が完納されない場合には、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第47条《差押の要件》の規定により、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならないこととされている。
 また、徴収法第67条《差し押えた債権の取立》第1項には、徴収職員は、差し押さえた債権の取立てをすることができる旨規定されており、取り立てた金銭を、同法第129条《配当の原則》の規定により配当をしようとするときは、同法第131条《配当計算書》の規定により、税務署長は、配当計算書を作成し、所定の期間内に債権者及び滞納者に交付するため、その謄本を発送しなければならない旨規定されている。
ニ 上記イ及びロの事実に基づき上記ハに照らし、判断すると、次のとおりである。
(イ)本件配当処分に至るまでの経緯については、原処分庁は、本件滞納国税があることから、前記イのとおり、平成7年5月2日付で督促状により納付の督促を行い、納付の督促をしても本件滞納国税について完納されないことから、平成7年9月20日に本件債権の差押処分を行い、次いで、平成8年7月22日に本件債権に係る金銭の給付を受け、平成8年7月23日付でその全額を本件滞納国税に配当する旨及びその交付期日を平成8年7月30日とする旨の配当計算書を作成し、その謄本を請求人あてに発送したことが認められ、一連の徴収手続に違法は認められない。
 また、一連の徴収手続のうち、配当処分については、配当計算書の記載事項に誤りがある場合には違法となると解されるところ、本件配当処分に係る配当計算書には、解約返戻金236,690円の全額を第1順位の本件滞納国税に配当し、その交付期日を平成8年7月30日とする旨等が記載されており、その記載事項に誤りは認められないから、本件配当処分は適法である。
(ロ)つぎに、本件債権は請求人のものではない旨の本件債権の帰属に関する請求人の主張については、仮に、その主張どおりであったとしても、本件債権の差押えや本件配当処分は請求人に不利益を及ぼさないから、当該主張は、本件配当処分の取消しを求める理由とはなり得ないこととなるが、念のため検討すると次のとおりである。
 本件生命保険契約の契約者は、前記ロの(イ)のとおり、保険契約書上請求人本人であり、その保険料についても、前記ロの(ロ)のとおり、請求人が負担していたことが認められるから、本件生命保険契約は請求人に係るものであり、したがって、本件債権も請求人に帰属すると認めるのが相当であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)さらに、請求人は、本件滞納国税については、原処分庁に現在係争中の相続の問題が決着した時点で一括納付することとし、それまでは月々の支払可能額を納付すると申し出ていた旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張するような趣旨の申出があったとしても、前記ロの(ハ)のとおり、これを徴収職員が承諾したとは認められず、また、徴収職員は、滞納国税が完納されるまでは、滞納処分手続を続行できるものと解されることから、原処分庁の一連の滞納処分に違法はなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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