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(平10.5.28裁決、裁決事例集No.55 25頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成7年分の所得税について、青色の確定申告書に総所得金額を582,878円、分離課税の長期譲渡所得金額を23,316,106円及び納付すべき金額を5,799,200円と記載して、法定申告期限までに申告(以下「本件申告」といい、それによって提出された申告書を「本件確定申告書」という。)した。
 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員(以下「調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)を受け、平成7年分の所得税について、総所得金額を897,410円、分離課税の長期譲渡所得金額を71,737,249円及び納付すべき金額を19,522,800円とする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成8年12月2日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年1月31日付で過少申告加算税の額を3,000円及び重加算税の額を4,791,500円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分のうち、重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を不服として、平成9年3月17日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月16日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年7月8日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 本件賦課決定処分は、次の理由により違法であるから、その全部が取り消されるべきである。
イ 請求人は、請求人の次男が延納している相続税に充てるため、自己の所有する、R市N町四丁目123番6の宅地198.56平方メートル(以下「A物件」という)を平成7年8月22日付売買契約に基づき24,968,000円で、R市N町四丁目123番7の宅地216.83平方メートル(以下「B物件」という。)を平成7年8月29日付売買契約に基づき26,618,000円で及びR市N町四丁目123番2の宅地216.55平方メートル(以下「C物件」といい、A物件及びB物件と併せて「本件物件」という。)を平成7年9月1日付の売買契約に基づき25,966,000円で有限会社E(以下「E社」という。)に譲渡した。
 なお、請求人は、本件確定申告書において、譲渡所得金額について、C物件の譲渡に係る所得金額のみを記載して申告したことは事実である。
ロ 原処分庁は、請求人のK銀行M支店N出張所の請求人名義普通預金口座(口座番号××××××、以下「本件口座」という。)の預金残高が、平成7年分所得税の確定申告期限である平成8年3月15日現在6,222,629円に過ぎず、それのみで本件物件の譲渡に係る所得税を納付することが不可能であること及び請求人に課税時期を誤認若しくは失念する等の要素はないと考えられることを理由に、本件申告は、所得税の納付資金の不足を起因とした過少申告であり、課税を免れることを意図して作為的に行われたものと推認される旨主張するが、以下に述べるとおり、原処分庁の主張には誤りがある。
(イ)原処分庁は、推認により課税を免れる行為と認定しているが、脱税の意図ありとして推認し公権力を行使する場合には、事実関係、調査時の申立て、証拠書類等を慎重に吟味して行われるべきであり、所得税においては、事業所得と譲渡所得とではその推認する要素が異なるものと考えられる。
 すなわち土地の譲渡の場合は、契約により移転登記が必ず行われ、個々の取引が確実に把握されることから、事業所得における「つまみ申告」とは異なるものと思考される。
 したがって、譲渡所得の不正を定義するには、隠ぺい又は仮装行為が伴って始めて脱税行為と推認されるものと考えられる。
 請求人には、申告漏れに係る譲渡契約書及び譲渡代金の授受について、隠ぺい又は仮装の事実はない。
(ロ)原処分庁は、請求人に課税時期を誤認若しくは失念する等の要素はない旨主張するが、人間は誰しも思い込みや勘違いはあるものである。
 本件確定申告書において、譲渡所得については、C物件に係る所得のみの申告となったのは事実であるが、これは、請求人が、本件物件の売買及び申告等の一切を任せていた請求人の次男であるT(以下「T」という。)が、同人が代表取締役をしている株式会社G(以下「G社」という。)の決算期が8月31日であったことから、同社の決算期と混同し、8月以前の譲渡については、前期分だから申告済みで、9月以降の分は当期分として申告すればよいとの勘違い等から、課税時期を錯誤したこと(以下「本件錯誤」という。)によるものと思われ、課税を免れることを意図して確定申告をした事実はない。
 また、請求人は、本件物件の譲渡の事実を否定しているものではなく、課税時期の錯誤であることを本件調査の時から一貫して主張しており、その証拠として、請求人は、本件調査時(平成8年11月28日)にA物件及びB物件の申告漏れに気づき、直ちに本件修正申告書を平成8年12月2日に提出し、同月5日に当該修正申告に係る所得税を納付しているところである。
(ハ)本件確定申告書に添付して提出した「譲渡内容のお尋ね回答書〔譲渡所得計算明細書〕」(以下「本件回答書」という。)は、原処分庁から照会があったものではなく、確定申告の際、譲渡所得の計算用として記入したものを任意に添付したものであり、虚偽の回答ではない。
 また、本件回答書にC物件のみ記載したのは、本件錯誤によるものであって、故意に他の物件の譲渡を漏らしたものではない。
(ニ)原処分庁は、本件物件の譲渡に係る所得税の納付資金が不足していた旨主張するが、請求人には、平成8年3月15日現在、本件口座の残高6,222,629円、K銀行M支店N出張所に6,162,388円の定期預金及びG社に対する貸付金13,177,848円があり、納税資金が不足していた事実はない。
 また、請求人は、若し納税資金に不足があれば、借入れを行っても納税義務を果たそうとする納税思想を持っており、このことは、原処分庁が、請求人の過去の納税状況を一瞥すれば歴然とするはずである。
(ホ)以上のとおり、本件申告は、請求人が課税を免れることを意図して行ったものではなく、本件錯誤に基づくものであったことは明らかであり、本件賦課決定処分は違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 調査及び審理したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成7年分の所得税の確定申告に当たり、譲渡所得金額については、平成7年中に譲渡した本件物件のうち、C物件の譲渡に係る所得金額のみを記載して本件確定申告書を提出したこと。
(ロ)本件物件の譲渡代金の合計額77,552,000円から、測量費その他の譲渡費用の額2,376,245円を差し引いた75,175,755円は、平成7年8月から同年10月までの間に本件口座に入金されていること。
 また、平成7年11月8日、本件口座から66,667,000円と4,200,000円が払い出され、これは、Tが延納している相続税のうち、平成7年11月9日及び平成8年11月11日の延納期限に係る相続税並びに利子税の納付に充てられていること。
 さらに、平成7年分の所得税の確定申告期限である平成8年3月15日現在の本件口座の預金残高は6,222,629円に過ぎず、それのみで本件物件の譲渡に係る所得税を納付することは不可能であったと認められること。
(ハ)請求人は、原処分庁が行った調査で、本件物件の譲渡の目的は、延納しているTの相続税を納付するために行った旨主張していること。
(ニ)本件回答書には、C物件に係る譲渡についてのみ記載があり、本件確定申告書にも当該譲渡に係る所得金額及び税額を記載して申告していること。
ロ 請求人は、本件物件の譲渡の事実を否定しているものではなく、課税時期の誤認である旨主張する。
 しかしながら、請求人の場合、本件譲渡の目的が延納しているTの相続税を納付するために行ったものであることは請求人が主張するところであり、本件物件の譲渡代金合計額の大部分が当該延納に係る相続税と利子税に、しかも、延納期限が到来していない平成8年分も含めて納付に充てられていることは、上記イの(ロ)のとおりである。
 このように、譲渡代金の使途に目的があって土地を譲渡し、その譲渡代金のほとんどがその目的に従って使われている事実から、必要な金額の収入を得るということと、その支払いのすべてが計画されて行われたものと認められ、さらに、それらが請求人の一つの普通預金口座において行われている事実からすれば、請求人において、平成7年分の譲渡がC物件だけであると誤認若しくは失念するといった要素はないと考えられることから、請求人の主張が申告漏れの理由であったとは認められない。
ハ ところで、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項では、納税者がその国税の課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代えて重加算税を賦課する旨規定している。
 当該規定の趣旨が、脱税的不正行為を要件として、その納税義務に反した者に対してこれを課すことにより納税義務違反の発生を防止し、もって申告秩序の維持を図ることを目的としたものであることから考えると、仮に、取引の事実に関する隠ぺい又は仮装行為がなかったとしても、所得金額の一部又は全部を申告しない不申告行為や申告書に虚偽の内容を記載して過少な申告がなされていた場合において、それが課税を免れることを意図して作為的に行われたものと推認できるときには、税法や事実関係の不知から生じた単なる一部申告漏れなどとは性質を異にする点で、その不申告又は虚偽申告行為自体を一つの隠ぺい又は仮装行為と認定できるものと解される。
 本件申告は、上記イの事実及び上記ロの理由から、平成7年分の所得税の納付資金の不足を起因とした過少申告と認められ、課税を免れることを意図して作為的に行われたものと推認されることから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件申告に関し、請求人に隠ぺい又は仮装行為があったかどうかにあるので、以下審理する。
(1)次のことについては当事者間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、Tが延納している相続税に充てるため、A物件を平成7年8月22日付売買契約書に基づき24,968,000円で、B物件を平成7年8月29日付売買契約書に基づき26,618,000円で及びC物件を平成7年9月1日付の売買契約書に基づき25,966,000円でE社に譲渡したこと。
ロ 本件物件の譲渡代金の合計額77,552,000円から、測量費その他の譲渡費用の額2,376,245円を差し引いた75,175,755円は、平成7年8月から同年10月までの間に本件口座に入金されていること。
ハ 平成7年11月8日、本件口座から66,667,000円と4,200,000円が払い出され、Tが延納している相続税のうち、平成7年11月9日及び平成8年11月11日の延納期限に係る相続税並びに利子税の納付に充てられていること。
ニ 請求人は、平成7年分の譲渡所得金額について、C物件の譲渡に係る所得金額のみを記載した本件確定申告書を、S税理士(以下「S税理士」という。)を介して、平成8年3月14日にR税務署長に提出したこと。
ホ 請求人は、本件回答書及び申告漏れとなったB物件の譲渡に係る売買契約書を本件確定申告書に添付してR税務署長に提出したこと。
 なお、B物件の譲渡に係る売買契約書は請求人が任意に添付したものであること。
へ 本件回答書には、C物件に係る譲渡価額、売り先、取得費及び譲渡費用の記載はあるが、譲渡代金の受領状況の記載がないこと。
ト 本件口座の平成8年3月15日現在の預金残高が6,222,629円であること及び本件口座は、請求人が所得税の振替納税用口座として利用していること。
チ 請求人は、本件調査により判明した事項に基づき、総所得金額314,532円、長期分離課税の譲渡所得金額48,421,143円及び納付すべき税額13,723,600円を増加させる本件修正申告書を提出したこと。
リ G社の事業年度は、毎年9月1日から翌年の8月31日であること。
(2)当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件申告前の事実
(イ)Tは、請求人の夫でTの父であるHが平成6年3月9日に死亡したことから、同年11月9日、Tの納付する相続税が124,790,800円となる被相続人Hに係る相続税の申告書をR税務署長に提出したこと。
(ロ)Tは、平成6年11月9日、R税務署長に対し、同人が納付すべき相続税124,790,800円のうち、100,000,000円について延納の申請をしたところ、R税務署長は平成7年5月31日付で、同年11月9日に納付する額を33,334,000円、平成8年11月11日に納付する額を33,333,000円及び平成9年11月10日に納付する額を33,333,000円とする延納を許可したこと。
(ハ)請求人とTは、相続税の納付資金の捻出方法を相談した結果、請求人の所有する農地を宅地に造成(以下「本件開発」という。)して分譲することにし、本件開発等一切についてはE社に任せることにしたこと。
(ニ)E社は、平成7年5月26日、R市長に対し、請求人が所有する農地2,297.36平方メートルを10区画の宅地に造成し分譲することを内容とする本件開発に係る開発許可申請書を提出したところ、R市長は、平成7年5月29日付で申請どおりの開発許可証を発行したことから、本件開発を開始したこと。
(ホ)R市長は、平成7年8月4日に本件開発の完成検査を行い、同月10日に検査済証をE社に交付したことから、本件開発に係る宅地の分譲を開始したこと。
 なお、分譲方法は、E社が本件開発に係る宅地の買主を探し、買主を探した都度当該宅地を請求人が同社に売却し、同社が買主に分譲する方法であること。
(ヘ)請求人は、平成7年8月22日付の売買契約書に基づき、A物件を売買価格24,968,000円でE社に売却し、同年9月25日付で所有権移転登記が行われ、当該売買代金からE社に支払うべき譲渡費用2,376,245円を差し引いた残額22,591,755円については、平成7年8月23日に3,000,000円及び同年9月26日に19,591,755円が本件口座に入金されたこと。
 なお、譲渡費用2,376,245円は、本件開発に係る測量及び分筆登記等の費用であること。
(ト)請求人は、平成7年8月29日付の売買契約書に基づき、B物件を売買価格26,618,000円でE社に売却し、同年10月9日付で所有権移転登記が行われ、当該売買代金については、平成7年8月30日に2,000,000円及び同年10月9日に24,618,000円が本件口座に入金されたこと。
(チ)請求人は、平成7年9月1日付の売買契約書に基づき、C物件を売買価格25,966,000円でE社に売却し、同年9月28日付で所有権移転登記が行われ、当該売買代金については、平成7年9月4日に2,000,000円及び同年9月28日に23,966,000円が本件口座に入金されたこと。
(リ)上記(ヘ)ないし(チ)の売買契約書の作成及び所有権移転登記は適切に行なわれていること並びに譲渡代金の授受については、すべて本件口座に入金されていることから、事実の隠ぺい又は仮装は認められないこと。
(ヌ)Tは、平成7年11月8日、本件口座から、70,867,000円を払い戻し、同人が延納している相続税のうち、納期限が平成7年11月9日に係る33,334,000円及び延納に係る利子税4,200,000円並びに納期限が平成8年11月11日に係る33,333,000円をR税務署に納付していること。
(ル)上記(ヌ)のTが延納している相続税に充てた70,867,000円については、Tから請求人に対し、平成7年11月8日付の金銭借用証書が差し入れられていること。
(ヲ)請求人は、平成8年3月15日現在、K銀行M支店N出張所に6,162,388円の定期預金、G社に対する貸付金13,177,848円及び本件開発に係る宅地10区画のうち7区画の未分譲地を有していること。
ロ 本件申告後の事実
(イ)請求人及びTは、平成8年11月28日に行われた本件調査において、調査担当職員の質問に対し、平成7年中に3区画、平成8年に入ってから2区画譲渡した旨答え、当該譲渡に係る売買契約書等の資料をすべて提示したこと。
(ロ)請求人は、本件調査において、A物件及びB物件の売却に係る譲渡所得が申告漏れとなっていることを認め、平成8年12月2日に本件修正申告書を提出し、当該修正申告に係る所得税の額を同月5日に納付していること。
(ハ)請求人及びTには、本件調査に際し、申告漏れとなったA物件及びB物件の譲渡の事実を隠ぺいするような、虚偽の答弁、虚偽資料の作成・提出及び書類の隠匿・廃棄等の行為はなかったこと。
(3)Tは、当審判所に対して、次のとおり答述している。
イ 自分は、請求人の了解を得て、本件物件の譲渡に係る土地の造成から売買契約までのすべてを行ったこと。
ロ 自分の延納している相続税を納付するため、とりあえず5区画分を売却しようとしたが、平成7年中においては、3区画分が売却できたこと。
ハ 自分は、請求人から同人の確定申告及び申告に係る納税を委任され、本件確定申告書の作成は、請求人の代理人であるS税理士に依頼したこと。
ニ 本件確定申告書は、S税理士がR税務署長に提出したこと。
ホ 本件確定申告書を作成してもらうために、売買契約書及び造成費用の領収証をS税理士事務所(以下「S税理士事務所」という。)に持参したが、結果として、1区画分だけの売買契約書を持参してしまったことから過少申告となったと思われること。
ヘ 自分が主宰するG社の決算期が8月31日であることから、個人の課税時期を錯誤し、8月に契約した2区画分については、前期分の申告として済んだものと思い込み、9月に契約した1区画分のみの申告となったものと思われること。
ト 自分が延納している相続税の利子税が高いことから、少しでも早く納付したいと思い、請求人から、本件譲渡代金のほとんどを借りて納付したこと。
チ 本件譲渡に係る納税資金は、残りの区画分を売却して充てようと思っていたこと、また、残りの区画分が売れない場合には、手持ち資金の不足分を銀行からの借入金によって納税しようと思っていたこと。
リ 請求人の了解を得て、自分が本件口座の通帳を保管し、当該預金の入出金を行っていたこと。
(4)S税理士は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
イ 本件確定申告書は、S税理士事務所の勤務税理士であるL税理士(以下「L税理士」という。)が作成し、同申告書に自分が署名押印したこと。
ロ S税理士事務所の職員のFは、請求人から、確定申告書作成の資料として本件確定申告書に係るC物件の売買契約書と譲渡費用の領収証の提示を受けたこと。
ハ L税理士が本件回答書の原議を作成し、S税理士事務所の職員のJが清書したこと。
ニ 本件確定申告書に添付された売買契約書が、申告漏れとなった物件に係るものであったことは、異議調査の段階で原処分庁から示されて初めて分かったこと。
ホ 最初に提示を受けた申告分に係る売買契約書は、申告書作成後に、一旦Tに返戻したが、申告書に売買契約書のコピーを任意に添付するため、再度Tに提示を求めたところ、結果的に申告漏れに係る売買契約書の提示を受けたが、内容をよく確認しなかったため、そのままコピーして添付したこと。
ヘ 譲渡費用の按分計算は、本件開発に係る総面積とC物件の面積を基に行ったが、その際にもC物件以外の譲渡についての確認はしなかったこと。
ト C物件だけの申告となったのは、譲渡の申告に係る資料の提示がC物件だけであったこと及び請求人は信頼のおける人であるという認識が前提にあったことから、疑問の余地がなかったことが原因と考えられること。
(5)L税理士は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
イ 本件確定申告書は、S税理士の指示を受け、作成したこと。
ロ C物件の売買契約書及び本件開発に係る譲渡費用の領収証だけでは、C物件の譲渡費用を計算することができないので、本件開発に係る10区画分の測量図をTから提示を受けたこと。
ハ 本件回答書の原案は、Tが提示したC物件の売買契約書、本件開発に係る譲渡費用の領収証及び本件開発に係る10区画分の測量図を基に、譲渡所得計算の基礎資料として作成したこと。
ニ 本件回答書に譲渡代金の受領状況を記載しなかったのは、譲渡所得の計算上譲渡代金の受領状況は必要でないことから、請求人に対し、譲渡代金の受領状況の確認及び譲渡代金が入金された本件口座の提示を求めなかったことによるものであること。
(6)ところで、通則法第68条第1項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代えて重加算税を課す旨規定している。
 当該規定による重加算税制度の趣旨は、納税者が過少申告をしたことについて、隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 また、正確な帳簿書類等を保存しているにもかかわらず、それに基づかないで、真実の所得金額又は収入の一部のみを記載した納税申告書を提出する行為が、虚偽申告行為として、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装行為に当たるかどうかについては、同条の立法趣旨、真に納付すべき税額及び所得金額とのそれぞれの較差、納税申告前の諸事情及び納税申告後の諸事情(税務調査に対する虚偽答弁や虚偽資料の作成・提出、帳簿書類の隠匿・廃棄等)を基に総合的に判断するのが相当である。
(7)上記(1)及び(2)の事実を上記(6)に照らして判断すると、次のとおりである。
イ 原処分庁は、平成7年分の所得税の確定申告期限である平成8年3月15日現在の本件口座の残高が6,222,629円に過ぎず、それのみで本件物件の譲渡に係る所得税を納付することは不可能であること及び譲渡代金の使途に目的があって土地を譲渡し、その譲渡代金のほとんどがその目的に従って使われていることから、必要な金額の収入を得るということとその支払いのすべてが計画されて行われたものと認められ、さらに、それらが請求人の一つの普通預金口座において行われている事実からすれば、請求人において、平成7年分の譲渡がC物件だけであると誤認若しくは失念するといった要素はないと考えられることを理由に、平成7年分の所得税の納付資金の不足を起因として、課税を免れることを意図して作為的に行われた過少申告と推認される旨主張する。
ロ そこで、上記イの原処分庁の主張について、以下検討する。
(イ)ところで、所得税を納付するための資金の捻出は、社会通念上、それぞれの納税者の個々の事情により、普通預金の残高だけにとどまらず、定期預金等普通預金以外の預金を取り崩す方法、金融機関等からの借入による方法、売掛金、未収金及び貸付金等債権の回収による方法及び所有資産を売却する方法等多種多様にわたっている。
 また、請求人の本件物件の譲渡に係る譲渡所得を含めた平成7年分の所得税の額が19,522,800円であることについては争いのないところ、上記(1)のト及び(2)のイの(ヲ)によれば、平成7年分の所得税の確定申告期限である平成8年3月15日現在、請求人には、本件口座の預金残高6,222,629円のほかに、K銀行M支店N出張所に6,162,388円の定期預金、G社に対する貸付金13,177,848円及び本件開発に係る未売却の宅地7区画を有している事実が認められる。
 そうすると、請求人には、本件物件の譲渡に係る所得税を納付するための資金の捻出方法は、本件口座の預金残高だけにとどまらず、K銀行M支店N出張所に有する6,162,388円の定期預金を取崩す方法、G社に対する貸付金13,177,848円を回収する方法、金融機関等から借り入れる方法及び所有資産を売却する方法等多種多様の方法が可能であることが認められ、これらのことからすれば、本件物件の譲渡に係る所得税の納付資金が不足しているということはできない。
(ロ)本件確定申告書において、本件物件の譲渡のうち、C物件の譲渡に係る所得のみを申告したこと及び本件確定申告書に添付した本件回答書にC物件に係る譲渡所得の計算内容のみが記載されていることについては争いのないところ、上記(3)によれば、Tは、請求人から、平成7年分の所得税の確定申告及び納税についてすべて任されていた旨及び本件確定申告書を作成してもらうために、売買契約書及び造成費用の領収証をS税理士事務所に持参したが、結果として、C物件に係る売買契約書だけを持参してしまったものと思われる旨答述している。
 また、上記(4)によれば、S税理士は、(a)請求人から確定申告の資料としてC物件に係る売買契約書と譲渡費用の領収証の提示を受けた旨、(b)譲渡費用の按分計算は、本件開発に係る総面積とC物件に係る面積を基に行ったが、その際にもC物件以外の譲渡についての確認はしなかった旨、(c)Tは信頼のおける人であるという認識が前提にあったことから過少申告かどうかの疑問を持たなかった旨及び(d)本件確定申告書及び本件回答書は、L税理士が作成した旨答述している。
 そして上記(5)によれば、L税理士は、(a)S税理士の指示を受け、本件確定申告書を作成した旨、(b)C物件の売買契約書及び本件開発に係る譲渡費用の領収証だけでは、C物件の譲渡費用を計算することができないので、本件開発に係る10区画分の測量図をTから提示を受けた旨、(c)本件回答書の原案は、譲渡費用の領収書、本件開発に係る測量図及びC物件に係る売買契約書を基に、譲渡所得計算の基礎資料として作成した旨及び(d)譲渡所得の計算上譲渡代金の受領状況は必要でないことから、Tに対し、譲渡代金の受領状況の確認及び譲渡代金が入金された本件口座の提示を求めなかった旨答述している。
 上記答述によれば、S税理士の指示を受けたL税理士は、Tが提示したC物件に係る売買契約書、譲渡費用の領収証及び申告漏れとなったA物件及びB物件を含む本件開発に係る10区画分の測量図等を基に本件確定申告書及び本件回答書の原案を作成したが、その際、S税理士及びL税理士は、Tに対し、C物件以外の譲渡の有無について、何らの確認又は指示をしなかったこと及び本件物件の譲渡代金が入金された本件口座の提示を求めなかったことが認められる。
(ハ)請求人が、本件確定申告書において、A物件及びB物件に係る譲渡所得金額を申告しなかったことについては争いのないところ、上記(2)のイの(ヘ)及び(ト)によれば、A物件及びB物件の譲渡代金が、C物件と同様に、請求人が所得税の振替納税口座として利用している、いわゆる公表預金口座である本件口座に入金されていること及び上記(2)のイの(ヌ)によれば、当該譲渡代金の大部分をTが延納している相続税としてR税務署に納付していることが認められ、上記(2)のイの(ヘ)ないし(チ)及び(ヌ)によれば、譲渡代金の授受及びその使途には、何ら隠ぺい又は仮装の事実がないことが認められる。
 また、土地建物が売買等によって所有権の移動があった場合には、通常所有権移転登記が行われるところ、上記(2)のイの(リ)によれば、申告漏れとなったA物件及びB物件の譲渡に係る売買契約書の作成及び所有権移転登記は、C物件と同様にいずれも適正に行われており、何ら隠ぺい又は仮装の事実がないことが認められる。
(ニ)本件調査において、上記(2)のロの(ハ)によれば、請求人及びTは、調査担当職員に対して、申告漏れとなったA物件及びB物件の譲渡の事実を隠ぺいするような、虚偽の答弁、虚偽資料の作成・提出及び書類の隠匿・廃棄等の行為が認められず、本件調査を困難ならしめるような特段の行為がなかったことが認められる。
(ホ)本件確定申告書に、申告漏れとなったB物件に係る売買契約書が添付されていることについては争いのないところ、上記(4)のホによれば、S税理士は、Tから最初に提示を受けたC物件に係る売買契約書は、申告書作成後に、一旦Tに返戻したが、申告書に売買契約書のコピーを任意に添付するため再度Tに提示を求めたところ、結果的に申告漏れに係るB物件の売買契約書の提示を受けたが、内容をよく確認しないで、そのままコピーして添付した旨答述している。
 また、上記(3)のホによれば、Tは、S税理士の求めに応じて、売買契約書を再提示する際に、当該売買契約書が申告漏れとなったA物件及びB物件に係るものか又は申告したC物件に係るものかどうかの確認をしなかったことが認められ、このことからすれば、少なくともTに隠ぺいする意図があったならば、B物件の売買契約書をS税理士に渡すはずもないことから、本件申告は、Tの何らかの思い込み又は誤認に基づいて行われたと見るのが自然である。
ハ 以上のことから、総合的に判断すると、本件確定申告書に係る譲渡所得及び税額と本件修正申告書に係る譲渡所得及び税額とは著しい較差があり、申告行為に疑念は残るものの、請求人の申告前及び申告後の行為には、事実の隠ぺい又は仮装及び本件調査を困難ならしめるような特段の行為は一切認められないことから、原処分庁の上記イの理由をもって、課税を免れることを意図して行為的に行われた過少申告であるとする推認は認め難く、他にこれを認めるに足る証拠資料はない。
 したがって、請求人が、通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したとする重加算税の賦課要件を満たしているとは認められず、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。
(8)上記(7)のとおり、本件は重加算税を賦課することは相当でないと認められるところ、本件修正申告により納付すべき税額の基礎となった事実のうちに、当該修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、過少申告加算税の賦課要件を満たしていることになるから、本件賦課決定処分は、通則法第65条第1項及び第2項の規定による過少申告加算税相当額を越える部分の金額につき取り消すのが相当である。
(9)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、本件全資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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