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(平10.6.26裁決、裁決事例集No.55 155頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 教員で不動産所得を有する審査請求人(以下「請求人」という。)が共有持分を有する土地に賃借権を設定したことに伴い取得した権利金等(譲渡所得の収入金額)を、譲渡所得の計算に当たり、どのように短期譲渡所得と長期譲渡所得に区分すべきかが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人、L、M及びN(以下、これら4名を併せて「請求人ら」という。)は、R市S町4丁目88番1所在の田の一部、同所89番1所在の田の一部、同所91番1所在の田及び同所92番1所在の宅地合計2,960.38平方メートル(以下、これらの土地を併せて「本件土地」という。)を共同で所有(請求人の共有持分は6分の3、L、M及びNの共有持分は各6分の1)していたが、このうち588.00平方メートルの田をG(以下「小作人甲」という。)に、1,675.00平方メートルの田をK(以下「小作人乙」といい、小作人甲と併せて「小作人ら」という。)に戦前から貸し付けていた(以下、本件土地のうち小作人らに賃貸していた合計2,263.00平方メートルの田を「A土地」といい、本件土地からA土地を除いた請求人らの自用地部分の土地697.38平方メートルを「B土地」という。また、A土地に対する小作人らの権利を「本件小作権」という。)。
ロ 請求人らは、平成6年10月11日にF株式会社(以下「F社」という。)との間で、本件土地についてF社が借地権付分譲マンション(鉄筋コンクリート造地上11階建)を建築することを目的とする50年間の土地賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
 なお、本件賃貸借契約において、F社は、借地権(以下「本件借地権」という。)の設定の対価として、請求人らに権利金381,137,000円(以下「本件権利金」という。)を支払うこととされた。
ハ 請求人らとF社は、平成6年10月11日に、F社が本件土地上に建築する分譲マンションのうち2戸(以下「本件マンション」という。)を50,000,000円で請求人らに譲渡する旨の覚書を締結した。
ニ 請求人らとF社は、平成6年10月12日に小作人乙との間で、また、同月16日に小作人甲との間で、F社が本件賃貸借契約の締結に伴い本件土地上に共同住宅を建設するために小作契約を解除する旨の合意書を締結した。
ホ 請求人らは、平成7年1月10日にF社から本件権利金の内金として331,137,000円を受領し、同日、小作人らに離作補償料として171,137,000円(以下「本件離作料」という。)を支払った。
ヘ その後、F社は、本件土地上に鉄筋コンクリート造陸屋根11階建のマンションを建築した。
 請求人らは、F社との覚書に基づき、本件権利金の残金50,000,000円と本件マンションの購入代金50,000,000円を相殺し、本件マンションの引渡しを受け、平成8年3月28日に所有権の保存登記をした。
ト 請求人は、平成7年分の所得税について、本件借地権の説定による本件権利金が所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する譲渡所得に該当するとして、短期譲渡所得に係る収入金額(A土地の旧小作権部分に係る収入金額。以下、当該部分を単に「旧小作権部分」といい、旧小作権部分以外のA土地を「旧底地部分」という。)を本件離作料と同額とし、長期譲渡所得に係る収入金額(旧底地部分とB土地部分に係る収入金額。以下、当該部分を「その他の部分」という。)を本件権利金から本件離作料を控除した210,000,000円とし、これに基づき短期譲渡所得と長期譲渡所得の所得金額を算定して、法定申告期限内に申告した。
チ 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、当該職員から請求人らが取得した本件マンションの購入代金50,000,000円は、F社が一般に分譲する価額より6,634,197円低額であり、当該金額は所得税法施行令第80条《特別の経済的な利益で借地権の設定等による対価とされるもの》第1項に規定する特別の経済的利益に該当するので、当該金額を本件権利金に加算した387,771,197円(以下、本件権利金と併せて「本件権利金等」という。)が本件借地権の設定による譲渡所得の収入金額になる旨の指摘を受け、平成8年6月20日にその旨の修正申告を行った。
リ 原処分庁は、短期譲渡所得(旧小作権部分)と長期譲渡所得(その他の部分)の収入金額の区分に当たっては、まず、本件権利金等をA土地とB土地の面積比率によりあん分し、これにより算出されたA土地部分に係る収入金額296,423,506円について、所得税法基本通達(昭和45年7月1日付直審(所)30(例規)国税庁長官通達。以下「所基通」という。)33―11の2《借地権等を消滅させた後、土地を譲渡した場合等の収入金額の区分》の定めにより、旧小作権部分と旧底地部分の収入金額に区分し、かつ、これらの取得費についても、同通達38―4の2《借地権等を消滅させた後、土地を譲渡した場合等の譲渡所得に係る取得費》を適用し、短期譲渡所得と長期譲渡所得の所得金額を算定すべきであるとして、平成9年6月20日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 本件更正処分について
(イ)本件権利金等(譲渡所得の収入金額)については、A土地とB土地の従前の利用状況及びこれらの土地の現況を考慮し、それぞれの土地の実勢価格に基づきあん分すべきであり、そうすると、A土地の旧小作権部分に係る収入金額は、同土地に設定されていた本件小作権を解除するために要した本件離作料の額となる。そして、これと同額でA土地について新たな本件借地権を設定したものと解すべきである。
(ロ)原処分庁は、本件賃貸借契約において本件権利金がA土地及びB土地に区分されていないこと、A土地の旧小作権部分に係る本件借地権の設定の対価を本件離作料の額と同額とすると、その額は1坪当たり250,000円となり、そうすると、B土地の本件借地権設定による対価は1坪当たり約995,000円となるが、状況の同じ地域内に隣接する土地が接する道路の幅員が異なるだけで約4倍もの格差が生じることになることなどを理由として、本件権利金等を本件土地の面積に応じてあん分すべきである旨主張するが、いずれも次のとおり誤りである。
A 本件賃貸借契約に係る契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)において、本件権利金がA土地及びB土地に区分して記載されていないのは、本件権利金と本件離作料との関係でこれらの区分は明らかであり、あえて記載する必要がなかったこと及び小作人らについても租税特別措置法第31条の2《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項の規定(以下、この規定による特例を「優良住宅地の特例」という。)の適用が受けられるようにとの配慮がされたことによるものである。
B また、本件賃貸借契約を仲介したJ株式会社(以下「J社」という。)の調査によれば、本件土地の実勢価額は1坪当たり750,000円であるところ、このうちA土地については1坪当たり450,000円ないし550,000円であり、B土地については表路線に面する土地であり、路線価若しくは公示価格に基づき算定するとA土地より実勢価額は高いとの結果が出ている。
 すなわち、A土地は、無道路地でその間に請求人らの私有地があって南北に分断されていたものであるのに対し、B土地は、その南側が公道に面し、本件賃貸借契約の目的とするマンション建築計画上、建築条件確保のためには必要不可欠の土地であり、当該土地がなければ本件賃貸借契約は成立していなかったものである。それゆえに、A土地とB土地の実勢価額には当然に格差があったのであるから、両土地に係る本件借地権設定の対価に格差があるのは当然である。
C このように、A土地とB土地の実勢価額が異なるにもかかわらず、本件権利金等を本件土地全体に均一にあん分することは不合理というほかない。
(ハ)原処分庁は、本件権利金等を本件土地の面積に応じてあん分した上、これにより算出されたA土地の収入金額296,423,506円について、所基通33―11の2及び同通達38―4の2を適用して、短期譲渡所得(旧小作権部分)と長期譲渡所得(旧底地部分)に区分し、それぞれの収入金額及び取得費を算定している。
A しかしながら、小作人らとの間で本件小作権を消滅させた直後に、その消滅について支払った本件離作料の額と同額の権利金(171,137,000円)を受け取って、新しい借地人であるF社との間で改めて本件借地権を設定した本件の場合には、法形式上は旧借地権の消滅、新借地権の設定という手順を踏んだことになるが、その経済的実質は、旧借地権者から新借地権者への借地権の移転とみることができ、その借地権の内容には何ら変更がないのであるから、その実質面、担税力等を配慮して、請求人にとって現実的な収入金額がない限り、その借地権取引によって所得が発生したと考えるのは相当でなく、上記通達の単なる形式的な運用は排除すべきである。
B なお、原処分庁は、所基通33―11の2が掲げる算式中の「旧借地権等の消滅時の当該土地の更地価額」(A土地の更地価額)を1平方メートル当たり242,000円(1坪当たり800,000円)と算定しているが、原処分庁が当該価額を算定するに当たり、A土地と状況が類似する地域内にある公示地(R市S町3丁目69番2所在の土地。以下「本件公示地」という。)の平成6年分の公示価格333,000円を基準として行った補正のうち、街路条件等の補正率を0.9としたのは、次の理由から疑問であり、更に補正(補正率を0.7又は0.8)を行うべきである。
(A)本件公示地が南側4メートルの市道に面する市場流通性を有する土地であるのに対し、A土地は請求人らの所有する土地を介して公道に面する無道路地であり、単独では市場流通性が極めて低い土地である。
(B)仮に、A土地に戸建て建築を計画する場合には、その建築の許可条件として市へA土地の30パーセントないし40パーセント程度の土地を道路提供移管しなければならないことから、A土地の更地価額1平方メートル当たり242,000円(1坪当たり800,000円)の市場価格は到底形成しない。
(ニ)以上のとおりであって、請求人らの収入金額から必要経費を控除した後の金額は、別表3の1の「請求人主張額」欄のとおりとなり、そうすると、請求人の譲渡所得金額は、別表3の2の「請求人主張額」欄のとおりとなるから、本件更正処分は違法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件賃貸借契約に基づく本件借地権の設定は、本件小作権を消滅させて本件土地を更地とした上で、A土地及びB土地を一体とした本件土地上に借地権付分譲マンションを建築することを目的として設定されたものであるから、本件権利金等を短期譲渡所得(旧小作権部分)と長期譲渡所得(その他の部分)に区分するに当たっては、まず、当該権利金等をA土地とB土地の面積比率によりあん分し、さらに、これにより算出されたA土地部分の収入金額について所基通33―11の2を適用して短期譲渡所得(旧小作権部分)と長期譲渡所得(旧底地部分)に区分して計算すべきである。
(ロ)請求人は、譲渡所得の収入金額の区分につき以下のとおり主張するが、いずれも理由がない。
A 請求人は、本件権利金等をA土地とB土地の実勢価額に応じてあん分すべきである旨主張するが、当該権利金等は本件土地全体についての本件借地権の対価であるから、これを請求人主張のようにあん分することに合理的な理由はないし、請求人が主張するA土地の1坪当たり価額450,000円ないし550,000円についても、J社が小作人らに提示した「小作権放棄費用の提示について」と題する書面によれば、離作料は土地の実勢価額の20パーセントないし30パーセントが通常の相場である旨記載されており、これによると本件離作料の1坪当たりの価額250,000円は、上記実勢価額の45パーセントないし55パーセントになることからみても根拠のない金額というべきである。
 なお、請求人は、本件賃貸借契約書に本件権利金をA土地とB土地の実勢価額に区分して記載しなかったのは、小作人らについても優良住宅地の特例の適用が受けられるように配慮したからである旨主張するが、そのことが譲渡所得の収入金額の区分に何ら影響を及ぼすものとは考えられない。
B また、請求人の主張のとおり、A土地の旧小作権部分に係る本件借地権の設定の対価を1坪当たり250,000円とすると、B土地に係る本件借地権の設定による対価は1坪当たり約995,000円となり、状況の同じ地域内に隣接する土地が接する道路の幅員が異なるだけで約4倍もの格差が生じることになり不当である。
C 請求人は、本件小作権の消滅と本件借地権の設定の経済的実質は、旧借地権者から新借地権者への借地権の移転とみるべきであり、その借地権の内容には何ら変更がないのであるから、所基通33―11の2を形式的に適用すべきではない旨主張するが、本件の場合は、A土地につき本件小作権を消滅させ、新たに鉄筋コンクリート造地上11階建の堅固な建物の所有を目的とする本件借地権を設定したものであって、隣接するB土地と一体で利用することにより、本件土地全体の価値及び有効性を高めるもので、その経済的実質の内容に変更があったとみるべきであるから、当該主張は理由がない。
D 請求人は、A土地の更地価額を算定するに当たり、街路条件等の補正率を0.7又は0.8とすべきである旨主張するが、補正率を0.9としたのは、A土地及び本件公示地の接面する街路の系統、連続性等を総合勘案した結果、A土地は本件公示地より街路条件が劣ることから、利用価値の著しく低下している宅地の評価として課税実務上一般的に行われている10パーセント相当額の控除と平仄を合わせたものである。
 なお、請求人は、A土地が無道路地である旨主張するが、同土地の東側に隣接する土地は、従来から事実上は道路と一体の状況にあり、A土地は幅員4.5メートルの道路に面していたものであるから、同土地は無道路地に当たらず、請求人の当該主張は理由がない。
 したがって、上記街路条件の補正率を0.9としたことは相当であるから、請求人の主張は理由がない。
(ハ)以上の判断を前提に請求人らの収入金額から必要経費を控除した後の金額を算定すると、別表3の1の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、そうすると、請求人の譲渡所得金額は別表3の2の「原処分庁主張額」欄のとおりとなるところ、この金額は別表1の「更正処分等」欄の「分離長期譲渡所得の金額」欄の金額を上回る結果となるから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件借地権設定による譲渡所得の収入金額の区分にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 譲渡所得の所得金額の計算において、本件権利金等(譲渡所得の収入金額)をA土地及びB土地にどのように区分すべきかについて、請求人は、A土地の旧小作権部分に係る収入金額は本件離作料と同額とすべきである旨主張するのに対し、原処分庁は、A土地とB土地の面積比率によりあん分すべき旨主張するので、まずこの点につき検討する。
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、本件賃貸借契約は、F社が本件土地上に借地権付分譲マンションを建築することを目的として締結されたものであり、当該契約においては本件土地全体が借地権の目的とされ、実際に建築された建物も本件土地全体を利用する状況にあることが認められるのであって、本件賃貸借契約に基づく本件借地権の設定がA土地及びB土地を各別に区分してされたものでないことは明らかであるから、本件借地権の設定の対価として授受された本件権利金等を収入金額として区分するに当たっては、本件土地の面積、すなわち、A土地とB土地の面積比率によりあん分するのが相当である。
 請求人は、本件賃貸借契約書において、本件権利金がA土地及びB土地に区分されていないのは、本件権利金と本件離作料との関係でこれらの区分は明らかであったこと及び小作人らについて優良住宅地の特例の適用が受けられるようにとの配慮がされたことによるものである旨主張するが、本件権利金のうちに占める本件離作料の額が明らかであるとしても、それは本件権利金の使途の問題にすぎず、その割合が直ちに本件権利金を収入金額としてA土地及びB土地に区分する際の割合にならないことは当然であるし、本件権利金が本件土地全体に借地権を設定する対価として授受されたものと解される以上、これをA土地及びB土地それぞれの実勢価額であん分すべきとの請求人の主張は理由がないものというべきである。また、優良住宅地の特例の適用の有無と本件契約書に本件権利金を区分することとの間には何ら合理的な関連があるとは解されず、請求人の当該主張も採用することはできない。
(ロ)以上のとおりであって、本件借地権は、更地となった本件土地全体に均等に設定されたものと解されるのであり、その対価である本件権利金等を収入金額として区分するに当たっては、A土地及びB土地の面積比率によりあん分することが合理的であるところ、これに基づきそれぞれの土地に係る収入金額を算出すると、A土地に係る収入金額は296,423,506円、B土地に係る収入金額は91,347,691円となる。
 なお、B土地に係る収入金額の多寡を除き、当該土地に係る収入金額が長期譲渡所得の収入金額となることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所においてもこれを相当と認める。
ロ そこで、次に、A土地に係る収入金額をどのように長期譲渡所得と短期譲渡所得の収入金額に区分すべきかを検討する。
 なお、A土地に係る収入金額の多寡を除き、当該土地の旧小作権部分に係る収入金額が短期譲渡所得の収入金額となること及び当該土地の旧底地部分に係る収入金額が長期譲渡所得の収入金額となることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所においてもこれを相当と認める。
(イ)土地所有者が旧借地権を消滅させた後に、当該土地に新借地権の設定をした場合においては、土地所有者は、旧借地権を取得して消滅させることにより、当該土地のうち旧借地権の消滅時に取得したものとされる旧借地権部分と旧底地部分を併せて所有することとなり、旧借地権部分と旧底地部分を併せた更地としての当該土地に新借地権を設定したものと考えられる。しかし、旧借地権部分と旧底地部分とでは、取得時期、取得費等の面で資産としての性格を異にしているものであるから、旧借地権部分と旧底地部分のそれぞれの部分について新借地権を設定したものとして取り扱い、新借地権設定による収入金額を旧借地権部分に係る部分と旧底地部分に係る部分とに区分すべきであり、それぞれの収入金額は旧借地権消滅時の旧借地権部分及び旧底地部分の適正価額の比によりあん分して計算するのが相当である。
 所基通33―11の2は、借地権等(借地権その他の土地の上に存する権利)の設定されている土地の所有者が、当該借地権等を消滅させた後に当該土地に新たな借地権等の設定をした場合には、当該土地のうち借地権等の消滅時に取得したものとされる部分(旧借地権部分)とその他の部分(旧底地部分)のそれぞれについて借地権等を設定したものとし、旧借地権部分の収入金額については、当該土地に係る借地権等の対価の額に、旧借地権等の消滅時における当該土地の更地価額に占める旧借地権等の価額の割合を乗じて算出し、旧底地部分の収入金額については、当該土地に係る借地権等の対価の額から上記により算出された旧借地権部分の収入金額を控除して算出する旨定め、また、所基通38―4の2は、同通達33―11の2の定めを受けて、譲渡所得の計算上控除される旧借地権部分と旧底地部分に係る取得費の計算方法について定めているところ、上記に照らし、これらの定めは合理的で相当なものであると認められる。
(ロ)これを本件についてみると、請求人らが本件離作料を払って本件小作権を消滅させたのは、本件賃貸借契約に基づく本件借地権設定の後であるが、本件賃貸借契約は本件土地上に借地権付分譲マンションを建築し、本件土地全体をその目的のために使用することを内容とするものであり、本件借地権と抵触する本件小作権を消滅させることは本件賃貸借契約の当然の前提とされていたものであるから、本件の場合においても本件小作権を消滅させた後に、新たに本件借地権を設定したものとして取り扱うのが相当である。
 そうすると、A土地に係る収入金額の区分については、所基通33―11の2の定めを適用し、旧小作権部分に係る収入金額と旧底地部分に係る収入金額に区分し、これにより短期譲渡所得及び長期譲渡所得の所得金額を計算すべきこととなる。
(ハ)所基通33―11の2の定めを適用するに当たっては、「旧借地権等の消滅時の当該土地の更地価額」及び「旧借地権等の消滅時の旧借地権等の価額」、すなわち、本件小作権の消滅時のA土地の更地価額及び本件小作権の価額を求める必要があるので、以下検討する。
A 本件小作権の消滅時のA土地の更地価額について
(A)この点につき、原処分庁は、本件公示地の平成6年分の公示価格を基準として、各補正を行いA土地の更地価額を1平方メートル当たり242,000円(1坪当たり800,000円)と算定しているところ、原処分関係資料によれば、本件公示地は○○鉄道△△駅の西約350メートルに位置する住宅地域に所在し、南側約4メートルの市道に面する土地であり、A土地から北西に約300メートルの距離にあること、本件公示地とA土地とはその周辺の状況が比較的類似していること、原処分庁は(1)本件賃貸借契約日である平成6年10月11日での時点修正(下落率0.5パーセント)、(2)路線価によるA土地と本件公示地との比較における場所的修正、(3)A土地が本件公示地に比較して奥行があるための奥行逓減補正(補正率0.91)及び(4)A土地が本件公示地に比較して街路条件が劣るための街路条件等の補正(補正率0.9)の各補正を行いA土地の更地価額を算出していることが認められ、当審判所の調査によってもかかる算定根拠は合理性があり相当なものであると解される。
(B)これに対し、請求人は、J社が小作人らにあてた平成6年3月30日付の「小作権放棄費用の提示について」と題する書面及び株式会社H鑑定社が作成した「不動産調査報告書」を提出し、A土地の更地価額は1坪当たり450,000円ないし550,000円である旨主張する。
 しかしながら、上記「小作権放棄費用の提示について」と題する書面には、A土地の実勢価額は1坪当たり450,000円ないし550,000円になる旨記載されているものの、そのように評価する合理的根拠が明確に示されていない上、当該金額を前提としてA土地に占める本件離作料の割合(小作権割合)を算出すると、45パーセントないし55パーセントとなり、同書面に「小作権放棄費用の評価は、土地の実勢価格の20パーセントないし30パーセントで決められるケースが多い。」と記載されていることと矛盾する。
 また、上記「不動産調査報告書」には、開発法によりA土地の実勢価額を算出すると、1平方メートル当たり143,000円(1坪当たり471,900円)となる旨記載されているものの、同報告書の冒頭部分には、これは鑑定評価書ではなく、A土地につき鑑定評価を行う場合の鑑定手法についての基本的な考え方と実勢価格についての推定値を述べたものである旨記載されており、実際にもその内容は開発計画を想定し、販売価格や建築費などを試算した上での評価にすぎないことが認められる。
 以上のとおりであって、これらの書面をもってA土地の実勢価額を請求人主張の450,000円ないし550,000円であると認めることはできず、他に当該主張を認めるに足りる証拠はない。
 なお、請求人は、本件公示地を基にA土地の更地価額を算出する際には、A土地は無道路地であるから街路条件等の補正率を0.7又は0.8とすべき旨主張するが、当審判所の調査によれば、原処分庁が当該補正率を0.9としたのは、本件公示地及びA土地の接面する街路の系統、連続性を総合勘案した上、利用価値の著しく低下している宅地の評価として実務上行われる10パーセント相当額の控除と平仄を合わせたものであること、A土地の東側に隣接する、平成6年7月に分筆され同年8月にR市に寄付されたR市S町4丁目88番2、同所89番2及び同所91番2所在の各土地について、R市農業委員会は、従前から事実上は道路と一体の状況にあった旨述べていることなどが認められるのであって、これによると街路条件等の補正率を0.9とすることに請求人が主張するような不合理性は認められないというべきである。
(C)以上のことから、A土地の更地価額は、1平方メートル当たり242,000円(1坪当たり800,000円)、総額547,646,000円と認めるのが相当である。
B 本件小作権の価額について
 請求人らは、小作人らに本件小作権の消滅の対価として本件離作料(171,137,000円)を支払っていることから、これが本件小作権の価額と認めるのが相当である。
(ニ)以上の結果により、A土地に係る収入金額296,423,506円を所基通33―11の2に定める算式を適用して旧小作権部分と旧底地部分に区分すると、旧小作権部分が92,631,060円、旧底地部分が203,792,446円となる。
(ホ)請求人は、本件離作料で本件小作権を消滅させ、本件離作料と同額の権利金(171,137,000円)を受け取って当該土地に係る本件借地権を設定したものと解すべきであり、所基通33―11の2の形式的な適用は排除すべき旨主張する。
 確かに、旧借地権を消滅させた直後に、その消滅について支払った対価の額と同額の権利金を受け取って全く同じ内容の新借地権を設定したような場合においては、その経済的実質は、単に旧借地権者から新借地権者への借地権の移転ととらえられるから、所得がなかったものとして課税しないと解する余地も存するが、本件のように、旧借地権の内容が他人の所有する農地に耕作することを目的として設定された小作権であるのに対し、新借地権の内容が建物の所有を目的として設定された賃借権であり、しかも、隣接する自用地と一体で利用することにより本件土地全体の価値及び有効性を高めることとなるものである場合には、旧借地権と新借地権はその性質を全く異にし、単に旧借地権者から新借地権者への借地権の移転があった場合と同視することはできないから、この点に関する請求人の当該主張は理由がないというべきである。
ハ 以上のとおり、譲渡所得の収入金額の区分に当たっては、まず、A土地とB土地の面積比率によりあん分すべきであり、これにより算出されたA土地に係る収入金額について、所基通33―11の2を適用して短期譲渡所得(旧小作権部分)と長期譲渡所得(旧底地部分)に区分し、かつ、これらの取得費についても、同通達38―4の2を適用して算定すべきである。
 そうすると、短期譲渡所得と長期譲渡所得の収入金額(総額)は、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなり、これらの収入金額に係る必要経費控除後の金額(総額)は、別表3の1の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
ニ 以上の結果に基づき、請求人の譲渡所得金額を計算すると、別表3の2の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 この金額は、別表1の「更正処分等」欄の「分離長期譲渡所得の金額」欄の金額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が同更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行われた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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