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(平10.3.13裁決、裁決事例集No.55 353頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、大型精密機械加工業を営む同族会社であるが、平成7年3月1日から平成8年2月29日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に所得金額を926,773円及び納付すべき税額を256,900円と記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年2月28日付で所得金額を10,738,259円及び納付すべき税額を3,264,400円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を425,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成9年3月21日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件更正処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 本件更正処分のその他の部分については争わない。
イ 更正処分について
 請求人は、平成7年10月2日に、M株式会社(以下「M社」という。)製の横中ぐりフライス盤1台(以下「本件機械設備」という。)を財団法人P協会(現在は財団法人Q公社。以下「Q公社」という。)から、期間7年でリースするリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。
 請求人は、本件リース契約に係る取引(以下「本件リース取引」という。)は資産の取得であるとして、本件機械設備を自己所有資産とし法人税法第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項の規定を適用して算定した償却費の額(以下「普通償却費の額」という。)3,680,388円及び租税特別措置法(平成9年法律第22号による改正前のもの。以下同じ。以下「措置法」という。)第45条の2《中小企業者の機械等の特別償却》第1項の規定を適用して算定した特別償却費の額5,906,796円の合計額9,587,184円を本件事業年度の損金の額に算入した。
 原処分庁は、これに対し、本件リース取引は売買取引とは認められず法形式どおり賃貸借取引とすべきであるとし、請求人の行った会計及び税務上の処理を否定する本件更正処分をした。
 しかしながら、企業会計上ファイナンスリースは、次の(イ)から(ハ)の理由により資産の取得を原則としていることから、本件リース取引については資産を取得したものとし、本件機械設備に係る減価償却費の損金算入を認めるべきである。
(イ)リース取引に関する通達である「リース取引に係る法人税及び所得税の取扱いについて」(昭和53年7月20日付直法2―19、直所3―25の国税庁長官通達をいい、以下「53年通達」という。)によると、広く一般に行われているファイナンスリースについて、その賃貸借処理をそのまま認めることはできないものもあるとし、53年通達の「売買として取扱うリース取引」、「リース料の一部を前払費用として取扱うリース取引」及び「中古資産をリースバックした場合の取扱い」に掲げる取引については、賃貸借取引としないということを定めている。
 この53年通達を文脈から解釈すれば、賃貸借処理が慣行となっているが、前記に掲げる取引は、慣行にかかわらず慣行となっている処理を認めないというものであり、このことは、企業会計上ファイナンスリースについては、資産の取得を原則としているということである。
(ロ)また、ファイナンスリースについては、資産の取得すなわち売買取引を原則としているが、企業会計、証取会計、商法会計及び税務会計のいずれも通称であるこれらの間の会計処理の整合はとれていない。
 平成6年3月1日付の証券局長通達はリース取引に係る会計基準については、平成5年6月17日に企業会計審議会第一部会により設定された「リース取引に係る会計基準に関する意見書」を一般に公正妥当と認められる企業会計の基準として取り扱う旨を定め、その意見書では、ファイナンスリース取引については原則として通常の売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うこととしている。
 この通達は、各会計間の会計慣行成熟化・一般化の過程的現象について、漸次的解決への姿勢を示したものと思われるが、それにもかかわらず、慣行としてファイナンスリース取引については賃貸借処理が一般化している。
 53年通達も基本的にはこの慣行の追認であるが、これは課税上の処理の統一を期しながらも、追認を法規に準ずるものとして、かつ、それを絶対化したものではないと思われる。
 すなわち、実質基準としての53年通達の意図するところは、賃貸借処理のみなし取得への実質的整合であると解される。
(ハ)さらに、青山学院大学教授渡辺淑夫氏(以下「渡辺淑夫」という。)は、自己の著書である「フォーラム会社税務の疑問点」において53年通達に触れ、「…(略)…この通達は、リース取引について、その経理基準を一方向に決め付けているわけでなくて、『こういう条件の下では契約形式に従った単純な賃貸借として経理していい』といっているだけのことです(以下省略)」と述べ、また、取引の当事者の双方が減価償却を行うことについては、意図的なものは別としてやむを得ないとする認識を示している。
 このことについて原処分庁は、その掲示された文章の一部のみを取り上げて、当該意見を国際取引に係るリースのみを対象としたものであるとしているが、原処分庁は、リース取引の処理が法に取り上げられない背景、通達が提示する実質基準の設定、広くは法と通達の関係、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第4項とリース会計基準の関係及び証券取引法適用企業と商法適用企業における処理方法の取扱いの差についての根拠等を明らかにしていない。以上のとおり、リース料を単純に損金とする認識は、53年通達において売買取引等とされないいわゆる税法適格リースにしても問題の残るところであるが、これらのリース取引の処理の統一までの暫定的な慣行追認通達を強行法規のごとく認識した本件更正処分は、理解し難い更正処分である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 過少申告加算税の賦課決定処分は、本件更正処分の一部取消しに伴い、その一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 本件更正処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)リース取引に関する会計処理の方法について、法人税法は特別の規定を設けてはいない。したがって、その会計処理は法人税法第22条第4項の規定により、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によるべきである。
 また、租税法律主義の下においては、私法上の契約が単なる形式にすぎず、契約形式をそのまま認めたならば、課税上の公平を著しく害するような場合はともかく、税法は原則として当事者の選択した法形式をもって課税の基礎とするものであり、取引が私法上有効になされていれば、税法はそれを前提として課税標準を決定するのが法的安定性、予測可能性の要請に合致するものである。
 すなわち、税務上、リース取引について、これを法形式どおり一般の賃貸借と同様に取り扱うことに課税上の弊害のあるものは別として原則的にはその法形式に従い賃貸借として認めるものである。
 このことについて、53年通達は、その趣旨において、「…(略)…一般の賃貸借と同様に取扱うことに課税上弊害のあるものも認められるので、個々のリース取引の経済的実質に応じてこれを売買取引等として取扱う(以下省略)」と述べているのであり、そのような取引については、取引が賃貸借契約という法形式であっても、税務上はこれを売買取引等として取り扱うこととし、その処理の統一を図ったもので、ファイナンスリースであれば原則として売買取引等として取り扱うというものではない。
(ロ)原処分庁の調査によれば、本件リース取引については、次のとおりである。
A 請求人は、Q公社が事業として行っている貸与制度により、平成8年1月23日に、本件機械設備を本件リース契約により貸与を受け、それに基づき「平成8年第○○○号リース契約公正証書」(以下「本件公正証書」という。)を作成していること。
B 本件公正証書に添付されている別表によると、本件リース契約の目的物は、M社製造の規格品であり、請求人の用途に合わせ特別な仕様により製作されたものではないこと。
C 本件公正証書第20条(契約の更新)の規定によると、本件リース契約は更新可能であり、契約更新後の月額リース料は、リース期間中の月額リース料の12分の1と定められており、この金額はリース期間経過後にリース物件を無償と変わらない名目的な対価により譲渡するものとは認められないこと。
D 本件公正証書第21条(リース設備の引揚)の規定によると、リース期間の満了後、本件機械設備を速やかに引揚げるものと定められており、リース期間の経過後においても本件機械設備の所有権は賃借人に移転しないこと。
E 本件リース契約のリース期間は、平成8年1月24日から平成15年1月23日までの7年間と定められており、このリース期間は本件機械設備の法定耐用年数である12年に比して、相当短く定められているものとは認められないこと。
F 本件リース契約のリース期間中に支払うべきリース料の総額は56,330,400円(2,557日相当額)であるので、本件事業年度の期間に含まれるリース期間である平成8年1月24日から同年2月29日までの37日間に対応するリース料の金額は795,381円であること。
G 請求人は、リース期間中に支払うべきリース料の総額56,330,400円について、45,436,893円は機械装置に、1,363,107円は仮払消費税に、9,530,400円は長期前払費用に経理した上、本件機械設備に係る減価償却費として、普通償却費の額3,680,388円と措置法第45条の2の規定による特別償却費の額5,906,796円との合計額9,587,184円を損金の額に算入していること。
H 本件機械設備の賃貸人であるQ公社では、本件リース取引をその契約形式のとおり賃貸借取引として取扱い、本件機械設備を自己の減価償却資産に計上し、これに係る減価償却費を損金の額に算入していること。
(ハ)前記(ロ)のAからFのことから、本件リース取引は、賃貸借契約と認められるにもかかわらず、前記(ロ)のG及びHのとおり、請求人は、当事者が締結した契約の法形式と異なる会計処理を行うことにより、法形式に従った会計処理を行った場合に比して多額の損金を計上している。
 しかしながら、本件リース契約は、当事者が交わした契約を否定して53年通達に定める売買として取り扱うべき内容のものとは認められず、当事者が組成した法律関係に従って税務上の取扱いを行うのが相当であり、そうすることが法人税法第22条第4項に規定する「公正妥当と認められる会計処理の基準」に合致するものである。
(ニ)ところで、前記(1)のイの(ロ)で請求人が証券局長通達という平成6年3月1日付蔵証第269号「『リース取引に係る会計基準に関する意見書』の取扱いについて」の文書は、「本意見書は、証券取引法の規定の適用に当たっては、『一般に公正妥当と認められる企業会計の基準』として取扱い、(以下省略)」と述べているとおり、その適用範囲については証券取引法の範囲を予定しているものである。
 また、請求人が渡辺淑夫の著書である「フォーラム会社税務の疑問点」から引用した意見は、その表題「クロスボーダーのリース取引の疑問点の解明」が示すとおり、レバレッジド・リース取引のような国境をまたいだリース取引について論じられているものであって、本件リース取引のような国内のリース取引について取引の当事者の双方が減価償却費を計上し、かつ、借手側は普通償却に加え特別償却を行っているような場合を想定したものではない。
 以上のとおり、53年通達についての請求人の解釈及びリース取引に係る税務上の取扱いに関する請求人の主張は、請求人独自のものであり採用されるべきではない。
 また、原処分庁は、53年通達自体を強行法規のごとく認識し、本件更正処分を行ったものでもない。
 したがって、本件事業年度に係る所得金額は、確定申告書に記載された所得金額に減価償却限度超過額9,587,184円及び債権償却特別勘定繰入額1,019,700円を加算し、また、所得金額から本件事業年度の期間に含まれるリース料795,381円及び雑損失の計上漏れ17円を減算すると、10,738,259円となり、本件更正処分に係る所得金額と同額となるので、本件更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 本件更正処分は適法であり、同更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人が本件リース取引により使用する本件機械設備を、売買取引により取得したものとし、減価償却費を損金の額に算入したことの適否にあるので、審理したところ次のとおりである。

(1)更正処分について

 請求人は、企業会計上ファイナンスリースは資産の取得を原則としていることから、本件リース取引により使用することとなった本件機械設備に係る減価償却費の損金算入を認めるべきである旨主張する。
イ 当審判所が、原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)請求人が、Q公社と締結した本件リース契約及び本件リース取引の内容は、次のとおりである。
A 本件リース契約は、平成7年10月2日に契約され、平成8年5月7日に本件公正証書が作成されていること。
B 本件公正証書第1条(契約の趣旨・目的)によれば、Q公社は、本件機械設備を請求人にリースし、請求人はこれを借り受けるものとすると定められていること。
C 本件公正証書第3条(リース期間)によれば、リース期間は、平成8年1月24日から平成15年1月23日までの7年間とすると定められていること。
D 本件公正証書第4条(リース料及び支払方法)第1項には、リース期間中におけるリース料及びその支払方法についての定めがあること。
E 本件公正証書第9条(リース設備の維持管理)第1項第4号によれば、請求人が遵守しなければならない事項として、本件機械設備を不動産に定着させないこととすると定められていること。
F 本件公正証書第10条(承認)第1項の各号によれば、請求人があらかじめQ公社の承認を受けなければならない事項が定められており、同項第4号に本件機械設備を改造し又は主要部品の取替えを行うときを定め、同条第2項において、第1項第4号により本件機械設備の改造が行われたときは、改造後のリース設備の所有権はQ公社に帰属し、請求人はQ公社に対し費用償還その他の請求を行わないものとすると定められていること。
G 本件公正証書第12条(届出義務)第1項の各号によれば、請求人に届出義務を課した事項を定め、同条第2項において本件機械設備について第1項第7号に定める第三者から仮差押え、仮処分、強制執行を受けたとき及び第1項第8号に定める本件機械設備に対するQ公社の所有権が第三者から侵害されるおそれが生じたときは、当該第三者に対して、本件機械設備がQ公社の所有物であることを主張し立証しなければならないものと定められていること。
H 本件公正証書第16条(解約の制限)によれば、あらかじめQ公社の承認を受けた場合を除き、請求人は本件リース契約を解約することができないものと定められていること。
I 本件公正証書第17条(期限前支払、契約解除)によれば、同条各号に定める事項に抵触することとなったときは、請求人に対し、Q公社がリース料残額の全部又は一部を繰り上げて支払うことを請求し、又は契約を解除し、本件機械設備の返還を請求することができるものと定められていること。
J 本件公正証書第20条(契約の更新)第1項によれば、請求人の申出があり、Q公社が特に必要と認めた場合は、契約を更新することができるものとし、同条第2項において、第1項のリース契約更新期間は原則として1年間とし、月額リース料は、リース期間中における月額リース料の12分の1とするものと定められていること。
K 本件公正証書第21条(リース設備の引揚)第1項によれば、Q公社は、リース期間が満了したときは、本件機械設備を速やかに引揚げるものとし、これに要する通常の取壊し、解体及び搬出のための費用は、Q公社が負担するものと定められていること。
(ロ)Q公社における本件機械設備の購入状況は、次のとおりである。
A Q公社は、平成7年10月2日に、有限会社K産業(以下「K産業」という。)から本件機械設備を46,800,000円で購入する売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し売買契約書(以下「本件契約書」という。)を作成していること。
B 本件契約書第1条(契約の発効)によれば、本件売買契約は、本件機械設備を請求人に貸与することを前提とし、Q公社と請求人との間に締結する貸与契約の成立を条件として効力を生じるものとすると定められていること。
C 本件契約書第5条(設備の所有権移転)によれば、本件機械設備の所有権は、本件機械設備の請求人への納入及び検査の合格をしたときをもって引渡しがなされたものとし、その引渡しの時点でK産業からQ公社へ移転するものと定められていること。
(ハ)前記(イ)及び(ロ)以外の事実については、次のとおりである。
A Q公社においては、帳簿上本件機械設備をリース設備資産として資産計上するとともに、リース設備減価償却費として費用計上する会計処理を行っていること。
B 本件機械設備に係る納入及び検査は、平成8年1月23日に完了していること。
C 請求人は、リース期間中に支払うリース料の総額56,330,400円について、本件機械設備の取得価額45,436,893円、仮払消費税1,363,107円及び長期前払費用9,530,400円とする会計処理を行行い、本件機械設備に係る減価償却費として、普通償却費の額3,680,388円及び措置法第45条の2の規定による特別償却費の額5,906,796円の合計額9,587,184円を損金の額に算入していること。
D 本件リース契約のリース期間中に支払うべきリース料の総額は、56,330,400円(2,557日相当額)であり、また、本件事業年度中に含まれるリース期間である平成8年1月24日から同年2月29日までの37日間に相当するリース料の金額は、原処分庁の算定に誤りはなく795,381円であること。
ロ 当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)本件機械設備の据付けは、その据付けに当たり特別に工場内の造作等の改造等を行った事実は認められず、機械の移設は随時可能であること。
(ロ)本件機械設備の仕様書によると、本件機械設備は、請求人の用途に合わせ特別な仕様により製作されたものでなく、通常のカタログに示された仕様に基づきM社で製作された機械設備であること。
(ハ)原処分庁は、本件機械設備の法定耐用年数を12年と判断しているが、請求人の事業実態は大型精密機械による各種産業用機器及び部品の加工・組立業であることが認められるから、本件機械設備は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令第1条第1項第2号に規定する別表第二(機械及び装置の耐用年数表)の番号264に掲げる「その他の産業用機器又は部分品若しくは附属品製造設備」に該当し、その法定耐用年数は、13年であること。
ハ ところで、法人税法第22条には、各事業年度の所得の金額の計算に関する通則が規定されており、同条第4項において、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額及び損金の額に算入すべき金額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定されている。
 リース取引の取扱いについては、税法上具体的な規定はないので、基本的には、法人税法第22条第4項の規定にのっとり、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って会計処理がなされるべきであり、税務上、リース取引について、これを法形式どおり一般の賃貸借と同様に取り扱うことに課税上の弊害のあるものは別として原則的にはその法形式に従って会計処理を行うべきである。
 そこで、いわゆるファイナンスリースに係る法人税の取扱いについては、その経済的実質において一般の賃貸借と異なる面を有しているところから、ファイナンスリースを一般の賃貸借と同様に取り扱うことに課税上弊害のあるものも認められるので、個々のリース取引の経済的実質に応じ課税上弊害があると認められるものについては売買取引等として取り扱うこととし、53年通達でその処理の統一を図ることとしたものであるが、当審判所においてもその取扱いは、法人税法第22条第4項の規定に照らしても相当と認められる。
 53年通達において、リース取引とは、リース期間の定めがあり、そのリース期間中に支払われるリース料の額の合計額が、少なくともリース会社におけるその契約の対象となったリース物件の取得価額及びその取引に係る付随費用の額の合計額のおおむね全部を支弁するように定められていること並びにリース期間中における契約の解除が禁止されていることのいずれにも該当するリース契約に係る取引をいう旨を定め、また、税務上売買取引等として取り扱うリース取引として「売買として取扱うリース取引」、「リース料の一部を前払費用として取扱うリース取引」及び「中古資産をリースバックした場合の取扱い」に該当する場合を掲げている。
 さらに、「売買として取扱うリース取引」には、売買とみなされる場合の取引の類型として、(1)リース期間中の経過後にそのリース物件を無償又は名目的な対価により賃借人に譲渡すること又は無償と変らない名目的な再リース料によって再リースすることがリース契約において定められているリース取引、(2)土地、建物、建物附属設備又は構築物を対象とするリース取引、(3)機械装置等で、その主要部分が賃借人における用途、その設備場所の状況等に合わせて特別な仕様により製作されたものであるため、リース会社がその返還を受けて再び他に賃貸することが困難であって、その使用可能期間を通じて当該賃借人においてのみ使用されると認められるものを対象とするリース取引、(4)建設工事用の仮設資材のように賃借人における使用又は消費の状況からみてリース物件の特定が不可能と認められるものを対象とするリース取引及び(5)前記(1)から(4)までに掲げるリース取引以外のリース取引で、そのリース契約においてリース期間がリース物件の法定耐用年数に比べ相当短く定められ、かつ、リース期間の中途又はリース期間の経過後に賃借人がそのリース物件を購入する権利又は義務を有する旨定められているものの五つの類型(以下「売買取引とみなす五類型」という。)を定めている。
 そうすると、リース取引が、税務上売買取引とみなされるかどうかは、基本的には、個々の取引の経済的実質に着目し取引の実態を見定めて課税上弊害があるかどうかによることとなるが、具体的には、売買取引とみなす五類型に該当するかどうかによるものというべきである。
ニ 前記イ及びロの事実を前記ハに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)本件リース取引が、53年通達に定めるリース取引に該当するかどうかは、前記イの(イ)のC、H及び(ロ)のA並びに(ハ)のDの事実から該当することが認められ、また、53年通達に定める売買として取り扱うリース取引に該当するかどうかについては、
(1)本件リース契約の更新及びリース期間満了後の本件機械設備の取扱いは、前記イの(イ)のJ及びKのとおりであり、リース期間中の経過後にそのリース物件を無償又は名目的な対価により賃借人に譲渡すること又は無償と変わらない名目的な再リース料によって再リースすることは契約上定められていないこと、(2)本件リース取引は、土地、建物、建物附属設備等を対象とするリース取引ではないこと、(3)本件機械設備は、前記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人における用途及びその設備場所の状況等に合わせて特別な仕様により製作されたものでなく、移設も容易に行えるものであること、(4)本件リース取引は、建設工事用の仮設資材のようにリース物件の特定が不可能と認められるものを対象とするリース取引ではないこと、さらに、(5)本件リース契約に定めるリース期間は、前記イの(イ)のCのとおり7年間と定められており、このリース期間は、前記ロの(ハ)で認めた本件機械設備の法定耐用年数である13年に比べて、相当短く定められたものとはいえず、かつ、リース期間の中途又はリース期間の経過後に賃借人がリース物件を購入する権利又は義務を有する旨の定めは契約上ないことから、これらの事実は、53年通達に定める売買取引とみなす五類型のいずれにも該当しない。
 また、本件リース取引は、53年通達の「リース料の一部を前払費用として取扱うリース取引」及び「中古資産をリースバックした場合の取扱い」に掲げる取引にも該当しない。
(ロ)本件契約書の契約の効力は、前記イの(ロ)のB及びCによると、本件機械設備をQ公社が請求人に貸与し、貸与契約の成立を条件としてその効力を生じるものとし、さらに、本件機械設備の所有権は、本件機械設備の検査を経てK産業からQ公社へ移転するものとしている。
 このことについては、前記イの(イ)のA及びイの(ハ)のBのとおり、平成7年10月2日に本件リース契約を締結し、平成8年1月23日に本件機械設備の納入及び検査が完了していることから、本件契約書の契約の効力は有効に成立していること、さらに、前記イの(イ)のBからKのとおり、本件公正証書の各条項によると、Q公社は、請求人に対し本件機械設備をリースし、また、請求人はこれを借り受けるものであるとし、本件リース取引についてQ公社は、請求人に対し、貸与者としての立場から本件機械設備に係る維持管理義務、改造等の事前承認、契約の解除及び届出義務など種々の義務及び制約を課し、原則としてリース期間が満了したときは、本件機械設備を速やかに引き揚げるものとしていることから、本件機械設備の所在権は、Q公社にあることが認められる。
(ハ)このように、本件リース取引については、53年通達に定める売買として取り扱うリース取引に該当せず、また、請求人が本件機械設備をQ公社から取得したという実態も認められないこと及びそのほか経済的実質からみてこれを売買として取り扱う特段の理由も認められないことから、法形式どおり、一般の賃貸借取引として取り扱うべきであり、結局、その取引は、K産業からQ公社が購入したものを請求人にリースする通常の貸賃借取引であることが認められ、前記イの(ハ)のAのとおり、Q公社が契約形式どおり自己の所有資産として資産に計上し減価償却を行っているのは自然であり、逆に、請求人が本件リース取引を資産の取得とみなし、普通償却に加え特別償却を行ったことは、費用の先出しという経済効果を結果として実現したものであり不自然といわざるを得ない。
 また、請求人が2の(1)のイの(ロ)で述べている証券局長通達に関する部分は、同通達は、証券取引法の規定の適用に当たっての「リース取引に係る会計基準に関する意見書」の取扱いに関するものであり、53年通達の取扱いに影響を与えるものではないと解するのが相当である。
 なお、2の(1)のイの(ハ)で述べている渡辺淑夫の著述に関する見解については、当審判所は審理する立場にない。
 以上のとおり、本件リース取引は税務上売買取引に該当するとは認められないから、請求人の主張には理由がなく、請求人が本件事業年度の減価償却費として損金の額に算入した9,587,184円は損金とは認められないとして損金に算入せず、本件事業年度において支払うべきリース料の額795,381円を損金の額に算入した本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 前記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、同更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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