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(平10.6.23裁決、裁決事例集No.55 452頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人Gほか1名(以下「請求人ら」という。)は、平成5年4月26日に死亡した父E(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書に、本件被相続人名義の財産に係る相続分及び昭和39年5月16日に死亡した本件被相続人の父J(以下「先代」という。)名義の不動産(以下「本件不動産」という。)について、本件被相続人が有する法定相続分(5分の1)に係る法定相続分の合計額を課税価格として、次表の「当初申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、この申告を「当初申告」という。)。
 次いで、請求人らは、平成6年3月3日に本件不動産の分割に係る家庭裁判所の調停(以下「本件調停」という。)が成立したことから、次表の「第一次修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「第一次修正申告書」という。)を、同年5月2日に提出した。
 その後、請求人らは、誤って第一次修正申告書を提出したとして、平成6年7月1日に更正の請求をした。
 これに対して、原処分庁は、平成6年11月4日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 請求人らは、この通知処分を不服として平成6年12月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成7年3月23日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、これに対する審査請求は行わず、次表の「第二次修正申告」欄のとおり記載した修正申告書(以下「第二次修正申告書」という。)を、平成7年4月12日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年11月19日付で次表の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

 請求人らは、この処分を不服として平成9年1月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月9日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年5月8日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Gを総代として選任し、その旨を平成10年4月8日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 代償債権の評価の時期について
 相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》は、未分割財産に係る課税価格については法定相続分により取得したものとして計算する旨規定し、ただし書で、その後の分割において、法定相続分と異なる割合で財産を取得した場合には、計算をやり直すことができる旨規定しているが、この場合の計算において、当該財産の分割前と分割後とにおける相続税の課税価格の会計額及び相続税の総額は変わらないと解されている。
 そこで、遺産分割の一つの方法として家事審判規則第109条に規定する代償分割(共同相続人又は包括受遺者のうちの一人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいう。以下同じ。)が行われ、代償分割の対象とされた財産(以下「代償対象財産」という。)について、相続開始の日の時価(相続税評価額)と代償分割時の時価との間に差が生じた場合には、代償対象財産の分割時の価額を相続開始の日の時価に算定し直し、相続税の課税価格の合計額が分割前と変わらないようにする必要が生じることとなる。
 本件相続の場合、請求人らが本件被相続人から相続した本件不動産に係る持分権について代償分割が行われ、請求人らは、先代の共同相続人の一人であるK(以下「K」という。)から、それぞれ1,500万円の交付を目的とする代償債権(以下「本件代償債権」という。)を平成6年3月3日に取得し、請求人らは、それぞれ1,500万円の現金(以下「本件代償金」という。)を受領したことから、相続税法第55条のただし書の規定に基づいて、本件不動産に係る相続税の課税価格が本件調停による分割前と分割後とで変わらないようにすると、本件代償債権の評価の時期は、先代の相続開始の日となる。
ロ 代償債権の評価額について
 請求人らは、本件代償債権の評価に当たり、先代の相続開始の日の時価相当額を本件代償債権の額1,500万円に年8パーセントの複利現価率を用いて1,606,605円と算定したものであり、請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、別表1及び別表2の課税標準等及び税額等の計算明細の「G主張額」及び「L主張額」欄のとおりである。
 なお、本件相続に係る共同相続人の代償債権の総額は、本件代償債権の合計額3,000万円と本件被相続人の配偶者で共同相続人の一人であるM(以下「M」という。)に係る3,000万円の合計6,000万円である。
ハ 代償金の課税関係について
 原処分庁は、本件代償債権について、請求人らが行った前記ロの時価相当額の計算を認めず、本件更正処分を行っているが、請求人らは、既に本件相続に係る相続税の申告に含め課税された本件不動産に係る持分権の一部を失う代わりに、Kから本件代償金を受領したものであるから、このことは民法第905条に規定するような相続分を譲り渡したときに当たることとなり、請求人らは、Kに対し持分権の一部を譲渡したこととなるので、本件代償金は、持分権の譲渡代金であって相続財産ではない。
 なお、これにより生じた所得は、先代の共同相続人間の譲渡であるから、所得税法第9条《非課税所得》第1項第15号の規定により非課税となり、結果的に所得税も課税されないこととなる。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 代償債権の評価の時期について
(イ)請求人らの間で作成された本件相続に係る平成5年11月21日付の遺産分割協議書(以下「本件分割協議書」という。)に記載された内容から判断すると、同協議書の効果は、(1)本件被相続人に帰属する固有の財産、(2)本件被相続人が相続開始の時に有していた本件不動産に係る相続持分権、すなわち、将来的に請求人らの取得財産に変動を及ぼすことが見込まれる財産(相続持分権と異なる分割が行われた場合)とが、こん然とした状態での遺産分割であり、将来的に本件不動産の分割が確定した場合には、本件相続に係る相続税の計算の基礎となる課税価格の合計額に影響を及ぼす可能性のある流動的要素を含んだ遺産分割といえるが、このような遺産分割協議も私法上有効なものと認められる。
 そうすると、(1)当初申告は、未分割財産を含んだ状態でされたものとは認められず、また、(2)本件調停に伴い、本件相続に係る相続税の計算の基礎となる課税価格の合計額及び相続税の総額が増加することとなるから、相続税法第55条の規定の趣旨(分割前と分割後とにおける課税価格の合計額及び相続税の総額は変わらないと解されている。)からして、本件相続については、同条の規定の適用はできない。
(ロ)本件調停の分割の効力は、本件不動産に係る遺産分割であり、その分割の効力は先代の死亡の時に遡及するのは民法第909条の規定からして当然である。
 しかし、本件調停に係る本件不動産(本件代償債権を含む。)の帰属については、先代が死亡した時点においては本件被相続人であるEは生存しており、先代の共同相続人の一人であったのであるから、本件調停に係る本件不動産(本件代償債権を含む。)は、本件被相続人の相続開始の時までは本件被相続人に帰属する財産と認められるので、請求人らは、本件被相続人に帰属する財産を本件被相続人の死亡を原因として、この時に本件被相続人から相続により取得したものである。
 なお、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者の相続税の基礎となる相続税の課税価格は、相続税法第11条の2《相続税の課税価格》第1項において、その相続又は遺贈により取得した財産の合計額によると規定し、また、同法第22条《評価の原則》において、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によると規定しており、ここでいう「取得の時」とは、相続又は遺贈にあっては、相続開始の時と解されている。
 したがって、本件代償債権は、相続税法第22条の規定から、本件被相続人の相続開始の日である平成5年4月26日の時価によって評価することとなる。
ロ 代償債権の評価額について
(イ)第二次修正申告書に添付された請求人らの本件代償債権の評価額の計算
 請求人らは、本件代償債権の評価額を先代の相続開始の日である昭和39年5月16日を基準に1,606,605円としている。
 しかしながら、前記イの(ロ)で述べたとおり、本件代償債権の評価については、本件被相続人の相続開始の日の時価によるべきであり、請求人らが先代の相続開始の日を基準として評価したのは明らかに誤りである。
(ロ)本件更正処分における本件代償債権の評価額の計算
 本件代償債権の評価額は、次の算式のとおり、本件被相続人の相続開始の日である平成5年4月26日における時価、すなわち、本件代償金の額1,500万円について本件被相続人の相続開始の日から本件調停が成立した日の平成6年3月3日までの期間である311日を年8パーセントの複利現価率により圧縮計算した価額14,011,708円となる。
[本件代償債権の価額] [本件代償債権の評価額]
15,000,000円=X×[1+(1÷365)×0.08]の311乗
          X=15,000,000円÷[36,508÷36,500]の311乗
          X=14,011,708円
 以上のことから、本件相続に係る請求人らの課税価格及び納付すべき税額については、別表1及び別表2の課税標準等及び税額等の計算明細の「原処分庁主張額」欄のとおり、本件更正処分と同額となるので、本件更正処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求においては、(イ)本件代償債権の評価の時期、(ロ)本件代償債権の評価額及び(ハ)本件代償金の課税関係について争いがあるので、以下審理する。
(1)次のことについては、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る財産の分割協議は、本件被相続人の共同相続人間において有効に成立し、平成5年11月21日付で本件分割協議書が作成されており、本件不動産に係る本件被相続人の法定相続分(5分の1)を、Mが2分の1、請求人らがそれぞれ4分の1取得する旨記載されていること。
ロ 請求人らは、本件調停の共同相続人の一人である本件被相続人が死亡したことから、本件被相続人に代位して本件調停の当事者となり、本件代償債権を取得したこと。
ハ 請求人らは、本件代償債権の評価額の計算方法中、基準日を本件調停が成立した平成6年3月3日とし、年8パーセントの複利現価率を用いていること。
(2)前記(1)の事実を基に請求人の主張について判断すると、次のとおりである。
イ 代償債権の評価の時期について
 請求人らは、本件代償債権の評価の時期は、相続税法第55条の規定から、先代の相続開始の日とすべきである旨主張する。
 ところで、相続税法第55条は、申告書の提出の時までに遺産の全部又は一部の分割が行われていない場合におけるその分割されていない財産について、各共同相続人が民法(第904条の2を除く。)の規定による相続分の割合に従ってその財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとし、その後これと異なる割合で遺産の分割がなされた場合には、その分割された内容に従って課税価格の計算をやり直し、それに基づいて、申告書の提出、更正の請求又は更正若しくは決定をすることができる旨規定したものである。
 そこで、これらの規定に基づき本件相続についてみると、前記(1)のイのとおり、本件相続に係る分割協議は請求人らの間で有効に成立しており、本件不動産に係る法定相続分(5分の1)については、請求人らの相続分が確定し、本件相続に係る財産には未分割の財産は存在しないのであるから、相続税法第55条の規定の適用はなく、また、前記(1)のロのとおり、請求人らは、本件調停によって本件被相続人に代位して本件代償債権を取得したのであり、このことは、本件被相続人が先代から相続により取得した本件代償債権を、本件被相続人の死亡を原因として、この時点で請求人らが本件被相続人から取得したと解するのが相当であるので、その評価の時期は、相続税法第22条の規定により本件被相続人の相続開始の日である平成5年4月26日とすべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 代償債権の評価額について
 請求人らは、本件代償債権の評価額は、先代の相続開始の日の時価相当額で評価すると、1,606,605円となる旨主張する。
 しかしながら、前記イのとおり、本件代償債権の評価の時期は、本件被相続人の相続開始の日とすべきである。
 したがって、これを前提とし、双方に争いのない年8パーセントの複利現価率を用いてなされた原処分庁の計算を不相当とする理由はなく、その算定に誤りは認められないので、本件代償債権の評価額は、14,011,708円となる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
ハ 代償金の課税関係について
 請求人らは、本件代償金は、持分権の譲渡代金であり、相続財産ではない旨主張する。
 しかしながら、本件代償債権は、前記イのとおり、請求人らが、本件被相続人が先代から相続により取得したものを、本件被相続人の死亡を原因として取得したものであるから、本件相続に係る相続財産であることは明らかであり、本件代償金は、請求人らが主張する持分権の譲渡代金には当たらない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上の結果、本件相続に係る請求人らの課税価格及び納付すべき税額は、別表1及び別表2の課税標準額等及び税額等の計算明細の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、本件更正処分と同額となるので、本件更正処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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