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(平10.5.28裁決、裁決事例集No.55 511頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人J、同K及び同L(以下「請求人ら」という。)は、平成5年9月8日に死亡したM(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に別表の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告し、次いで、それぞれ別表の「第1回修正申告」欄ないし「第3回修正申告又は更正の請求」欄のとおり、修正申告又は更正の請求をした。原処分庁は、当該更正の請求に基づき平成6年10月14日付で別表の「減額更正」欄のとおりの更正処分をした。
 その後、請求人らは、原処分庁所属の職員の調査を受け、本件相続税について別表の「第4回修正申告」欄及び「第5回修正申告」欄のとおりとする修正申告書をそれぞれ平成6年12月19日及び平成8年4月3日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年10月12日付及び平成8年7月3日付でそれぞれ別表の「(1)過少申告加算税の賦課決定処分」欄及び「(2)過少申告加算税の賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をした。また、原処分庁は、平成8年7月3日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人らは、これらの処分のうち本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として平成8年8月29日に別表の「異議申立て」欄のとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月15日付で棄却の異議決定をしたので、同年12月13日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Jを総代として選任し、その旨を平成8年12月13日に届け出た。

(2)原処分の概要

 請求人らは、本件相続税の計算の基礎となった財産のうち、P市S町4丁目25番所在の宅地457.82平方メートル(以下「本件土地」という。)の価額を、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成6年2月15日付課評2―2ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)25《貸宅地の評価》の(1)の定めに基づき、同通達13《路線価方式》から20《不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地等、がけ地等の評価》の定めにより評価した宅地の価額(以下「自用地としての価額」という。)から、同通達27《借地権の評価》の定めにより算出した借地権の価額を控除した金額により評価し、また、N株式会社(以下「N社」という。)の株式1,200株(以下「本件株式」という。)の価額を、同通達179《取引相場のない株式の評価の原則》の(3)のただし書の定めに基づき、同(2)の定めによる類似業種比準方式(同通達180《類似業種比準価額》により評価したものをいう。)と純資産価額方式(同通達185《純資産価額》により評価したものをいう。)による評価方式(以下「併用方式」という。)を選択して、その1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額。)の計算に当たり、N社が有する本件土地に係る権利の価額を上記の借地権の価額として評価し、期限内申告ないし第5回修正申告等をした。
 これに対し、原処分庁は、本件土地の価額は、評価通達86《貸し付けられている雑種地の評価》の(1)の定めに基づき、同通達82《雑種地の評価》の定めにより評価した雑種地の価額(以下「雑種地としての価額」という。)から、同通達87《賃借権の評価》の(2)の定めにより算出した賃借権の価額を控除した金額により評価すべきであり、また、これに伴い本件株式の価額を併用方式で算定する際のN社が有する本件土地に係る権利の価額も当該賃借権の価額になるとして本件更正処分をした。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 本件土地及び本件株式の価額については、次のとおり評価すべきであるから、本件更正処分は違法である。
(イ)本件土地の価額について
 本件土地の価額は、次のとおり、N社が本件土地に借地権を有していることから、評価通達25の(1)の定めに基づき、本件土地の自用地としての価額155,429,890円から、同通達27の定めにより当該価額に借地権の割合60パーセントを乗じて算出した借地権の価額93,257,934円を控除した金額62,171,956円と評価すべきである。
A 被相続人が本件土地をN社に貸し付けた経緯等は、次のとおりである。
(A)被相続人は、N社との間で、被相続人が所有していたP市Q町3丁目12番1所在の宅地354.84平方メートル(以下「甲土地」という。)及び同所同番5所在の宅地233.58平方メートル(以下「乙土地」という。)について、建物所有を目的とする賃貸借契約を締結した。そして、N社は、隣接する甲土地上及び乙土地上にそれぞれ共同住宅(以下、甲土地及び乙土地上の共同住宅を「甲建物」及び「乙建物」という。)を建築し、これらの建物を入居者に賃貸した。
(B)その後、甲土地及び乙土地並びに甲建物及び乙建物については、P地区土地区画整理事業(以下「本件事業」という。)の用に供するため、P市に次のとおり収用された。
a 甲建物及び乙建物は、昭和48年10月17日及び昭和51年7月5日にそれぞれ収用された。
b 甲土地は、P市の所有する本件土地と交換され、また、乙土地は、P市が所有するP市S町4丁目16番所在の宅地312.52平方メートル(以下「丙土地」という。)と交換された(以下、甲土地と本件土地の交換を「本件交換」といい、乙土地と丙土地の交換と併せて「本件事業における交換」という。)。
(C)そして、N社は、丙土地上に鉄筋コンクリート造りの4階建のマンション(以下「丙建物」という。)を建築して入居者に賃貸し、本件土地上にはアスファルト舗装とフェンスを設置し、月決めの青空駐車場として丙建物の入居者も含め第三者に賃貸した。
 なお、本件土地は、N社が資金の関係上取りあえず青空駐車場として使用し現在に至っているが、N社は、本件土地上に後日建物を建築することとしている。
B ところで、本件事業は、都市計画法第18条《都道府県知事の都市計画の決定》に基づき認可されたもので、土地収用法第3条《土地を収用し、又は使用することができる事業》に該当する事業であることから、本件事業の地区内の土地所有者、借地権者及び借家人等は、これを拒むことができないものであり、買収すなわち収用という形態をとっても交換という形態をとったとしても強制力がその背後にあるという点で何ら異なるところはない。このため、土地区画整理法第113条《地代等の増減の請求等》及び第114条《権利の放棄等》は、憲法上の財産権の補償(憲法第29条第3項)の規定を受けて、土地区画整理事業を施行する土地の区域(以下「施行地区」という。)内の土地に借地権等の権利が存する場合においては、まず第一に借地権等の継続を前提として従前の地代を補償しようとしており、それが可能でない場合は、借地権等の放棄又は契約の解除ができるとし、この場合は借地権者等が施行者に対する損失補償(究極は土地所有者に転嫁)を求めることができる旨規定している。そして、土地区画整理法第113条第1項及び第114条第1項に規定する「土地区画整理事業の施行により」とは、換地処分に限らず土地区画整理事業の用に供するための交換も含むと解すべきであるところ、本件交換の場合もその交換により施行者の提供する土地を全く自由に選べるものではなく、しかも収用か交換かの二者択一を迫られるものであるから、同法第113条及び第114条の規定が適用されるべきである。
 また、土地区画整理法第86条《換地計画の決定及び認可》は、施行者は換地計画を定め、都道府県知事の認可を受けなければならない旨規定しているところ、当該換地計画には、同法第89条《換地》の規定する換地を定める場合に限らず、同法第90条《所有者の同意により換地を定めない場合》に規定する所有者の同意により換地を定めない場合も含まれるのであって、そうすると、土地区画整理事業の用に供するための本件交換も換地を定めない場合の換地計画に当たるから、この場合の借地権者の権利も土地区画整理事業の施行によるものとしてその保護を受けるべきである。
 以上のとおりであって、本件事業の用に供するための本件交換は、土地区画整理事業の施行によりされたものであるから、本件土地には、甲土地に存在していたN社に対する借地権が存続していると解すべきである。
 なお、本件事業の施行者であるP市長が発行した昭和50年3月3日付○○市第▲▲号による土地区画整理事業の用地交換証明書(以下「本件交換証明書」という。)は、このことを証明したものである。
C そして、被相続人とN社は、甲土地及び乙土地(以下、両土地を併せて「交換前の土地」という。)について、その交換の前後を通じて何ら権利の放棄又は契約の解除をしておらず、また、N社は、本件事業における交換により取得した本件土地及び丙土地(以下、両土地を併せて「交換後の土地」という。)を占有して使用し、その地代も交換前の土地の年間賃借料360,000円と同額を支払っているのであるから、その契約に係る賃貸借物件のうち本件土地を駐車場として利用していたとしても、これをもって契約内容が駐車場の使用目的に変更されたとみることは相当でなく、交換前の土地に係る建物の所有を目的とする賃貸借契約が交換後の土地にも継続しているとみるべきである。
D さらに、法人税法上、本件土地は、法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達。以下「法人税基本通達」という。)13―1―14《借地権の無償譲渡等》に定める借地に該当し、その借地の譲渡又は返還の際に、N社に借地権が存在するものとして課税されることとなるところ、その借地権の価額は、交換後の土地に係るN社の支払地代が年額600,000円であることからすると、同通達13―1―15《相当の地代で賃借した土地に係る借地権の価額》の(2)のロに定めるところにより、通常取引される借地権の価額、すなわち、その土地の更地価額に本件土地の所在する地域の借地権割合60パーセントを乗じて計算した価額となる。
 このように、法人税法上からみても、本件土地にはN社の借地権が存することとなる。
E 原処分庁は、本件土地に存する権利が雑種地に係る賃借権であると認定しているが、その理由は、次のとおりいずれも合理的根拠とはなり得ないものである。
(A)原処分庁は、甲建物の滅失時(昭和48年9月7日)の固定資産税評価額が2,518,600円であるにもかかわらず、P市長が発行した昭和50年10月9日付○○市第◆◆号の収用証明書(以下「本件収用証明書」という。)によると、N社の所有していた甲土地上の甲建物は、P市に昭和48年10月17日、18,568,900円で買収されていることから、P市がN社に甲土地の借地権の価額に相当する価額(以下「借地権相当額」という。)を支払ったものだと認定し、これにより甲土地に存していたN社の借地権が消滅したと主張する。
 しかしながら、新築された建物の固定資産税評価額は、実際の取得価額より相当低く評価されるのが常識であり、また、収用の場合は、完全補償の憲法上の要請から単に対価補償金に該当するものにとどまらず、入居者に対する立退料、その他移転に伴う費用としての移転補償金、家賃等の収入に対する営業補償金も支払われるものであり、本件収用証明書の買収金額にはこれらのものが含まれているにすぎない。
 このことは、P市が本件交換証明書に「土地等(土地の上に存する権利も含む。)」と記載し、甲土地及び本件土地の価額をそれぞれ更地の価額(底地価額+借地権価額)である47,477,592円及び40,444,495円と算定し、その差額金7,033,097円を被相続人に支払っていることからも明らかである。
 したがって、本件収用証明書の買収金額には、甲土地の借地権相当額は含まれておらず、この点に関する原処分庁の認定は誤りである。
(B)また、原処分庁は、本件交換証明書に借地権者の記載がないことから、本件土地には借地権が存在しないと認定しているが、前記B及びCで述べたとおり、本件土地には甲土地の借地権が継続しているものであるから、本件交換証明書に殊更借地権者がN社である旨の記載をする必要はなかったというにすぎず、この点に関する原処分庁の認定は誤りである。
(C)さらに、原処分庁は、被相続人とN社の間で本件土地について新たな賃貸借契約は締結していないことから、本件土地には借地権が存在しないと認定しているが、前記B及びCのとおり、本件土地には土地区画整理法の規定するところにより、本件交換前の甲土地の借地権が存続しており、また、当事者間において当該借地権に係る賃貸借契約について何ら権利の放棄又は契約の解除をしていないものであるから、本件土地について新たな賃貸借契約を締結する必要はなく、この点についての原処分庁の認定も誤りというほかない。
 仮に、原処分庁の認定が正しいとすれば、本件事業における交換後の丙土地についても被相続人とN社の間で賃貸借契約が締結されていないことになるが、原処分庁は丙土地については借地権が存在すると認定しているのであって、整合性のない認定となっている。
(D)次に、原処分庁は、N社の法人税の申告書に添付された固定資産台帳兼減価償却明細書(以下「固定資産台帳等の明細書」という。)及び地代家賃等の内訳書(以下「地代家賃の内訳書」という。)に、本件土地を駐車場として使用していると記載されていることから、本件土地について建物所有を目的とする賃貸借契約が締結されたとは認められない旨主張するが、これらの書類における記載から認定できるのは本件土地を駐車場用地として使用しているという事実のみであり、これをもって契約上の目的までは認定できないものである。
 本件土地に係る賃借権は、建物の所有を目的とするものであるから、借地法(平成3年法律第90号による廃止のもの。以下同じ。)の保護を受ける借地権であり、賃借人が著しく背信的な使用形態を採った場合には契約が解除されることもあるものの、建物の建築に何ら支障のないような駐車場に使用することなどは、背信的な使用形態とはいえないのであって、N社が本件土地を駐車場として使用し同地上に建物を建築していないからといって、本件土地に係る賃借権を借地法の保護を受けない構築物の所有を目的とする賃借権と認定することは誤りである。
(E)また、原処分庁は、N社が本件土地を駐車場用地として第三者に貸し付けて使用しているとして、本件土地を雑種地として評価すべきであるとしているが、前記B及びC並びに上記(D)のとおり、本件土地に係る賃借権は建物の所有を目的とするものであることからすると、その地目の区分を宅地として評価すべきであるから、原処分庁の上記認定は誤りである。
(ロ)本件株式の価額について
 上記(イ)のとおり、本件土地には、N社の借地権が存在しているから、本件株式の1株当たりの純資産価額の計算上、その借地権の価額は、評価通達27の定めにより評価した93,257,934円となる。
 したがって、本件株式の価額は、当該借地権の価額に基づきその1株当たりの純資産価額124,533円を算出し、併用方式によって算定した1株当たり74,619円、総額89,542,800円と評価すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 本件土地及び本件株式の価額については、次のとおり評価すべきであるから、本件更正処分は適法である。
(イ)本件土地の価額について
 本件土地に係るN社の権利は、次のとおり、駐車場設備である構築物の所有を目的とする賃借権であることから、同土地の価額については、評価通達86の(1)の定めに基づき、同通達82の定めにより評価した雑種地としての価額158,634,630円から、同通達87の(2)の定めにより評価した賃借権の価額3,965,866円を控除した金額154,668,764円と評価すべきである。
A 原処分庁が調査したところ、(1)本件収用証明書によれば、甲土地上のN社の甲建物は、P市に昭和48年10月17日、18,568,900円で買収されているが、その建物の滅失時(昭和48年9月7日)の固定資産税評価額が2,518,600円であること、(2)本件交換証明書によれば、被相続人が所有する甲土地とP市が所有する本件土地とを交換したもので、交換差金の受取人は被相続人一人であり、借地権者がN社である旨の記載もないこと、(3)請求人らの代理人であるW税理士(以下「W税理士」という。)の申述によれば、被相続人がP市より本件土地を本件交換により取得してから、N社と被相続人との間で新たな賃貸借契約をしていないこと、(4)N社の固定資産台帳等の明細書及び地代家賃の内訳書によれば、N社は昭和52年8月に本件土地上に駐車場設備を取得し、同土地を駐車場として使用していると記載されていること、また、N社は、本件交換後において本件土地上に建物を建築していないことなどの事実が認められ、これらの事実を総合すれば、本件交換により譲渡した甲土地に存していたN社の借地権は、本件交換により消滅したと認められ、また、被相続人とN社は、本件交換により取得した本件土地について建物の所有を目的とする賃貸借契約を締結しておらず、かつ、N社が本件土地上に建物を建築していない以上、本件相続開始日においてN社が本件土地に建物所有を目的とする借地権を有していたと認めることはできない。
 そして、本件土地については、N社が駐車場用地として第三者に貸し付け使用していることからすると、本件相続開始日においてN社が本件土地に有する権利は、駐車場設備である構築物の所有を目的とする賃借権であると解すべきである。
B そうすると、本件土地の価額は、評価通達86の(1)及び同通達87の(2)の定めに基づき評価すべきところ、本件土地の形状等及び地積からすると、その雑種地としての価額は158,634,630円であり、また、当該価額から控除する借地権の価額がその雑種地としての価額に100分の2.5(100分の5の2分の1)を乗じた3,965,866円(円未満切上げ)となるから、本件土地の貸地としての価額は154,668,764円となる。
C ところで、請求人らは、本件交換は土地区画整理事業の施行によりされたものであるから、換地処分の場合と同様に甲土地の借地権がそのまま本件土地に存続している旨主張するが、土地区画整理法上、換地処分による場合以外に換地処分前の土地(以下「従前地」という。)について存する各種権利が換地処分により整理された土地(以下「換地」という。)に移行する旨を定めた規定はないものである。
 また、土地区画整理法からすると、施行地区内の土地に借地権を有している者は、その旨を事業施行者に申告しなければならないとし、事業施行者は、申告のあった借地権については換地の指定をしなければならないが、N社が当該事業施行者に対して交換前の土地に借地権を有していた旨を申告したことを確認できる書類等はなく、また、当該借地権について、換地の指定を受けた事実を確認できる書類もない。
 以上のとおり、換地処分以前に当事者間で任意に行われた本件交換について、土地区画整理法の規定の適用はなく、また、甲土地についての借地権の申告及び換地の指定も確認できないから、同法の規定により本件交換前の甲土地に存していたN社の借地権が本件交換後の本件土地に移行存続したとする請求人らの主張を認めることはできない。
(ロ)本件株式の価額について
 前記(イ)のAのとおり、N社が本件土地に有する権利は、構築物の所有を目的とする賃借権であるから、本件株式の1株当たりの純資産価額の計算上、N社の資産として評価すべきその価額は、同(イ)のBのとおり3,965,866円となり、そうすると、本件株式の1株当たりの純資産価額は109,949円となる。
 したがって、本件株式の価額は評価通達179の(3)のただし書の定める併用方式により評価すると、80,792,400円となる。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件土地及び本件株式の価額の多寡にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 本件土地の価額について
(イ)請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A N社は、昭和31年に共同住宅の建設及び運営並びにこれに附帯する一切の業務を行うことを目的として設立された株式会社であり、本件相続開始前は被相続人の妻であるXが代表取締役を務め、平成6年2月に被相続人の長女であるYが代表取締役に就任している。
B 被相続人は、その所有する甲土地及び乙土地をN社に賃貸し、N社はこれらの土地上に甲建物及び乙建物を建築して第三者に賃貸していたが、P市が施行する本件事業の用に供するため、甲建物については、昭和48年10月17日にP市により18,568,900円で買収され、甲土地については、P市が所有するP市R町5丁目3番10所在の宅地660.73平方メートルと交換された。
 なお、乙建物も昭和51年7月5日にP市によって買収され、また、乙土地もP市の所有する丙土地と交換されている。
C P市は、上記甲土地に係る交換に際し、本件交換証明書を発行しているところ、そこには「下記土地等(土地の上に存する権利を含む。)は土地区画整理事業の用に供するために交換したものであることを証する。」と記載された上、被相続人所有の甲土地とP市所有の土地(従前地はP市R町5丁目3番10所在の宅地660.73平方メートル、仮換地はP市第1工区T換地区○街区3号地457.82平方メートル。以下「本件仮換地等の土地」という。)と交換すること、甲土地の価額は47,477,592円、上記P市所有の土地の価額は40,444,495円であり、交換差金7,033,097円の受取人は被相続人であること、交換登記年月日は昭和48年12月20日であることなどが記載されている。
D P市R町5丁目3番10所在の宅地660.73平方メートルについては、昭和48年12月20日の交換を原因としてP市から被相続人に対して所有権移転登記がされているところ、当該土地は昭和54年2月1日に土地区画整理法の換地処分により本件土地に換地されている。なお、本件土地には賃借権の設定登記などはされていない。
E 本件土地及び丙土地は、幅員6メートルの道路を挟んで正対する位置関係にあるところ、本件事業における交換後、N社は、昭和52年から昭和53年にかけて、総額6,476,000円の費用をもって本件土地をアスファルトで舗装し、フェンスを設置するなどして青空駐車場とし、第三者に賃貸して使用しており、また、丙土地上には丙建物(昭和52年3月12日に所有者をN社とする所有権保存登記がされている。)を建築して第三者に賃貸している。なお、N社の固定資産台帳等の明細書によれば、当該駐車場設備の耐用年数は15年ないし20年とされている。
F N社は、被相続人に対し、甲土地及び乙土地の地代として、昭和42年10月から昭和44年9月までは年180,000円、昭和44年10月からは年360,000円を支払っていたところ、本件事業における交換後も本件土地及び丙土地の地代として年360,000円を支払っている。なお、当該地代は、本件相続開始時においては年600,000円となっている。
G 請求人らの代理人であるW税理士は、原処分庁に対し、概ね次のとおり申述している。
(A)私は、N社の設立当初である昭和31年ころから同社の顧問をしているが、甲土地及び乙土地に対するN社と被相続人との間の建物所有を目的とする賃貸借契約は、そのころに締結されたものである。当該賃貸借契約に関する契約書などは当初作成したと思われるが、現在は残っていない。
(B)本件事業における交換後においては、本件土地及び丙土地についての新たな賃貸借契約は締結しておらず、したがって、契約書などは作成していない。甲土地及び乙土地については一括して地代を支払っていたが、本件事業における交換後も同額の地代を引き続き支払っていたものである。
(C)本件交換後、N社は、本件土地にアスファルト舗装を施し、月決め駐車場として第三者に賃貸している。
H 請求人らを含む本件相続に係る共同相続人全員が、平成6年12月28日付で原処分庁に提出した陳情書には、N社は、本件土地には後日建物を建築する予定であるが、資金の関係上取りあえず駐車場として運用している旨記載されている。
I P市役所の都市計画局区画整理部区画整理課の職員は、当審判所に対し、概ね次のとおり答述している。
(A)本件交換証明書に記載の事業は、P市が昭和22年ころから戦後復興事業として施行した土地区画整理事業であるところ、本件交換の具体的な内容は本件交換証明書に記載のとおりである。
(B)P市は、本件事業における施行地区のうち、第2工区内の減歩率が地元との話合いの結果、当初予定の25パーセントから最終的に16.5パーセント等になったことから、当該減歩率を確保し、公共施設予定用地(道路予定地)とするために甲土地を本件事業に先行して買収したものである。また、本件交換を行った経緯は、取引から相当の年数を経ているため明確ではないが、被相続人から甲土地に代わる土地が欲しいとの要望があったため、長期間にわたる交渉の結果、本件交換を行うことで合意したものと思われる。
(C)P市は、甲土地を公共施設用地として先行買収し、その補償として本件土地を譲渡したものであり、本件土地を土地区画整理法に基づく甲土地の換地として指定したものではない。
(ロ)ところで、土地区画整理事業とは、土地区画整理法第2条《定義》第1項によれば、都市計画区域内の土地について、公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、同法の定めるところに従って行われる土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更に関する事業であり、その土地区画整理事業の施行者は、同法第86条第1項の規定により、施行地区内の宅地について、換地処分を行うため換地計画を定め、同法第103条《換地処分》の規定により、換地計画において定められた関係事項を関係権利者に通知してする換地処分を行うこととされている。
 この換地処分は、土地区画整理事業における権利の確定処分で、土地に関する物件変動を権利を有する者の意思にかかわらず生じさせる公権力をもつ公法上の処分であるところ、土地区画整理法第104条《換地処分の効果》の規定により、換地は、法律上公告のあった日の翌日から従前地とみなされ、換地計画において従前地に存すると定められた所有権、賃借権等は当然に換地の上に移行することになる。
 また、土地区画整理事業の施行とは、都市計画区域の指定及び公告を都道府県知事が行い、都市計画事業として行うものについては、都道府県知事又は市町村長が土地区画整理事業に関する都市計画を定めて告示し、土地区画整理事業の施行者が換地計画を決定して、その認可を得た上で換地処分を行い、都道府県知事等がその換地処分の公告をし、その後、施行者が換地処分に伴う登記及び清算金の徴収又は交付を経て終了に至る一連の事業を行うことであり、したがって、土地区画整理法第113条第1項及び第114条第1項等に規定する「土地区画整理事業の施行により」とは、当該事業の施行者が都市計画事業として行うものについては、「都市計画の決定に関する手続から換地処分に伴う清算金の徴収又は交付までに至る一連の事業を行ったことにより」との意味であると解される。
(ハ)これを本件についてみると、前記(イ)の各認定事実のとおり、被相続人とP市は甲土地と本件仮換地等の土地を交換する旨の交換契約を締結しているところ、当該契約は、甲土地を本件事業の用に供するために行われたものであることは認められるものの、土地区画整理法に基づく換地処分としてされたものではなく、本件事業における換地処分前に当事者間で任意にされたものである。
 そうすると、甲土地と本件仮換地等の土地の交換が土地区画整理法に規定する換地処分でない以上、換地処分の効果として定められた同法第104条の規定の適用の余地はなく、甲土地に存在していたN社の権利が本件土地に当然に移行存続すると解することはできない。
 なお、本件仮換地等の土地は、昭和54年2月1日に土地区画整理法の換地処分により本件土地に換地されているが、このことは上記認定に何ら影響を与えるものでない。
 したがって、甲建物がP市に買収され、甲土地の所有権が交換によりP市に移転したことによって、甲土地に存在していたN社の賃借権は消滅したものと解するのが相当である。また、甲土地と一体として賃貸借の目的となっていた乙土地についても同様に乙建物の買収及び乙土地の交換により当該賃借権は消滅したものと解される。
(ニ)請求人らは、本件交換は土地区画整理法第113条第1項及び第114条第1項に規定する「土地区画整理事業の施行により」されたものであること、また、同法第86条の換地計画には、同法第90条に規定する所有者の同意により換地を定めない場合も含まれることなどから、借地権者は換地処分の場合と同様に権利関係の存続という保護を受けるべきである旨主張するが、前記(ロ)のとおり、「土地区画整理事業の施行により」とは、「都市計画の決定に関する手続から換地処分に伴う清算金の徴収又は交付までに至る一連の事業を行ったことにより」との意味であって、換地処分によらない交換契約のような場合を含むとは解されないし、同法第90条は宅地の所有者の申出又は同意があった場合には、換地計画において換地を定めないことができるとの規定にすぎず、結局、これらの規定をもって請求人らの主張を根拠づけることはできないというべきである。
(ホ)そうすると、甲土地及び乙土地についての賃貸借契約が本件土地について継続していると解することはできないところ、前記(イ)の各認定事実のとおり、N社は、本件交換後の昭和52年ないし昭和53年に本件土地にアスファルト舗装を施し、フェンスを設置するなどして駐車場として使用し、この使用状況は本件相続開始時までの約15年にわたり変化はなく、また、丙土地と併せて年額360,000円ないし600,000円の地代を被相続人に支払っていることから、契約書などは作成されていないものの、本件土地については被相続人とN社との間で駐車場設備である構築物の所有を目的とする新たな賃貸借契約が締結されたものと解するのが相当である。
 請求人らは、本件土地には甲土地に存在していた建物所有を目的とする賃借権が継続していると主張するが、その根拠とする土地区画整理法の解釈について採用できないことは上記(ニ)のとおりであるし、また、本件土地は法人税基本通達13―1―14に定める借地に該当する旨の主張についても、そもそもN社が本件土地に設置した駐車場設備は、同通達が予定する堅固な構築物に該当せず、その所有を目的とする賃借権は同通達で定める課税される借地権には当たらないと解すべきであるから、結局、これらの点に関する請求人らの主張は採用できない。
 また、請求人は、原処分庁が丙土地について建物所有目的の賃借権であると認定しながら、本件土地については駐車場設備の所有目的の賃借権であると認定していることは整合性に欠ける旨主張するが、前記(イ)の各認定事実のとおり、本件土地と丙土地は道路を挟んで独立した土地である上に、本件土地は駐車場として、丙土地はN社所有の丙建物の敷地としてそれぞれ利用され、その使用状況が異なるのであるから、それぞれ別個の内容の賃貸借契約が締結されたと解するのが相当であって、原処分庁の当該認定に誤りがあるということはできない。
(ヘ)以上を前提に、本件土地の価額について検討すると、前記(イ)の各認定事実のとおり、本件土地は駐車場の敷地として使用され、この使用状況は本件相続開始日においても同様であるから、評価通達7《土地の評価上の区分》の定めによれば、本件土地の評価上の区分は雑種地となり、また、本件土地はN社に賃貸されているから、同通達86の定めによると、同通達87の定めにより評価した賃借権の価額を本件土地の雑種地としての価額から控除した金額によって評価することとなる。これらの通達は、土地の実態に則した評価方法を定めるもので、当審判所においても合理的で相当なものであると認められる。
 そして、評価通達87は、雑種地に係る賃借権の価額は賃貸借契約の内容、利用の状況等を勘案して評定した価額によって評価するとした上で、その(1)において、地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権(例えば、賃借権の登記がされているもの、設定の対価として権利金その他の一時金の授受があるもの、堅固な構築物の所有を目的とするものなどがこれに該当する。)の価額は、相続税法第23条《地上権及び永小作権の評価》に規定する割合(以下「法定地上権割合」という。)又はその賃借権が借地権であるとした場合に適用される借地権割合のいずれか低い方の割合によって評価すること、その(2)において、上記(1)以外の賃借権の価額は、その賃借権が地上権であるとした場合に適用される法定地上権割合の2分の1に相当する割合によって評価することとしている。
(ト)これを本件についてみると、前記(イ)の各認定事実のとおり、本件土地には賃借権の登記はされていないこと、被相続人とN社は、本件交換に際して本件土地についての新たな賃貸借契約は締結しておらず、本件事業における交換の前後を通じての同額の地代が支払われていることから、本件土地の賃貸借契約に当たり権利金等の授受はないと推認されること及び本件土地にN社が設置したアスファルト舗装等の駐車場設備は堅固な構築物とは認められないことなどからすると、本件土地に存する賃借権の価額は、評価通達87の(2)の定めにより評価するのが相当である。
 そして、本件土地についての賃貸借契約における契約期間は必ずしも明らかでないものの、前記(イ)の各認定事実のとおり、本件土地上の構築物はアスファルト舗装とフェンスなどの駐車場設備にすぎず、その撤去も比較的容易にできるものであること、N社は資金面の関係から取りあえず本件土地を駐車場として使用しているものであることなどからすると、本件土地についての賃貸借契約における契約期間は、N社が共同住宅を建築するまでの一時的なものであると認められる。これに加えて、N社は本件土地上の駐車場設備の耐用年数を15年ないし20年としており(なお、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)によればアスファルト舗装及びフェンスなどの耐用年数は10年である。)、当該駐車場が設置された昭和52年ないし昭和53年から本件相続開始日までに既に約15年が経過していることにかんがみれば、評価通達87の(2)を適用するに当たっての賃借権の割合は、相続税法第23条に規定する地上権割合のうち、残存期間10年以下に対応する100分の5を法定地上権割合とし、その2分の1である100分の2.5とするのが相当である。
(チ)原処分庁は、本件土地の雑種地としての価額における1平方メートル当たりの価額を346,500円と認定しているところ、当審判所の調査によっても当該価額の算出根拠は相当であることが認められる。そして、この価額に本件土地の地積を乗じると、本件土地の雑種地としての価額は158,634,630円となる。
 そうすると、本件土地の価額は、雑種地としての価額から当該価額に100分の2.5を乗じて算出した賃借権の価額3,965,866円(円未満切上げ)を控除した154,668,764円となり、この価額は、原処分庁が認定した価額と同額となる。
ロ 本件株式の価額について
 本件株式の価額を評価通達179の(3)のただし書に定める併用方式により評価すること、類似業種比準方式による本件株式の1株当たりの評価額が24,706円であることについては、当事者間に争いがなく、当審判所の調査によってもこれを相当と認める。
 そして、本件株式の1株当たりの純資産価額の計算上、その評価額に争いがあるN社の本件土地に対する権利の価額については、前記イの(チ)のとおり、3,965,866円であると解すべきであるから、これを基に当該純資産価額を算出すると、その価額は109,949円となる。
 上記の各価額を前提に、評価通達179の(3)のただし書に定める併用方式により本件株式を評価すると、次のとおり、80,792,400円となり、この価額は、原処分庁が認定した価額と同額となる。
(イ)本件株式の1株当たりの価額
 24,706円×0.5+109,949円×0.5=67,327円(円未満切捨て)
(ロ)本件株式の価額
 67,327円×1,200株=80,792,400円
ハ 上記イ及びロのとおり、本件土地の価額は154,668,764円、本件株式の価額は80,792,400円と評価すべきところ、これらの価額以外には請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても相当と認められるその他の相続財産の価額を基に請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表の「更正処分等」欄の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないところ、請求人らの本件更正処分により納付すべき税額が別表の「更正処分等」欄のとおりであり、また、請求人らの本件更正処分前の納付すべき税額が別表の「第5回修正申告」欄のとおりであるから、請求人らの過少申告加算税の基礎となる税額(1万円未満の金額は切捨て)及び国税通則法第65条第1項の規定に基づき計算した金額は、本件賦課決定処分に係る加算税の額をそれぞれ1,000円下回ることとなるから、本件賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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