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(平10.4.24裁決、裁決事例集No.55 556頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成4年11月29日に死亡したS(以下「被相続人」という。)の共同相続人3人のうちの1人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税について、相続税の申告書に別表1のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、当初申告は雑種地の評価が過大であること等を理由として平成6年5月30日に別表2のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
 これに対し、原処分庁は、当初申告の取得財産の価額が過大であったことは認められるが請求人が相続した有限会社H(以下「H社」という。)の出資の評価が過少でありこれを是正すると請求人の納付すべき税額は増加するとして、平成8年1月29日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をするとともに、同日付で課税価格及び納付すべき税額を別表3のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、原処分を不服として、平成8年2月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が、同年5月21日付で棄却の異議決定をしたので、同年6月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、本件更正処分についてはその一部の取消しを、また、本件賦課決定処分についてはその全部の取消しを求める。
 なお、原処分のその他の部分については争わない。
イ 本件更正処分について
(イ)H社の出資の価額について
 本件相続に係る相続財産のうち、H社への出資持分100口(以下「本件出資」という。)の価額については、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成5年6月23日付課評2―7ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)185《純資産価額》に定める純資産価額の計算上、評価通達186―2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》(以下これらを併せて「本件通達」という。)に定める相続税評価額と帳簿価額との評価差額に対する法人税額等に相当する金額(以下「法人税額等相当額」という。)を控除し1口当たり1,417,100円、総額141,710,000円と評価すべきところ、原処分庁は、法人税額等相当額を控除せずに1口当たり2,790,000円、総額279,000,000円と評価して本件更正処分を行ったが、これは、次のとおり租税法律主義等に反しており違法である。
A 相続税法第22条《評価の原則》は、財産の価額はその取得の時における時価による旨規定しており、いわゆる時価主義を採用しているが、財産の時価を客観的に評価することは必ずしも容易なことではなく、また、納税者の間で財産の評価がまちまちになることは公平の観点からしても好ましいことではないため、評価通達において財産評価の基本的な方針及び各種財産の評価方法が定められ、この評価通達に従って画一的な財産評価が行われている。
 このように、評価通達は、税務執行の統一性(ひいては課税の公平)を確保し、納税者と課税庁職員の便宜を図るものと解されるところ、同通達によって示達された内容が税務執行によって実施され、相手方である納税者においてその取扱いが異議なく受容されるとともに、その内容が合理性を有している場合に、同通達が定める要件を満たしているにもかかわらず、これを適用しないとした課税処分は租税法の基本原則の一つである公平負担の原則に違反し、また、法的安定性及び予測可能性という租税法律主義の理念に著しく違背するというべきである。
 そして、本件通達に定める法人税額等相当額の控除は、昭和47年以来20数年にわたって認められてきたものであり、一つの合理的な評価方法として実務にも十分定着しており、行政先例法あるいはそれに準ずるものとしての役割を果たしているものであって、本件通達が定める要件を満たしているにもかかわらず、同通達の定める法人税額等相当額を控除しないとした本件更正処分は租税法律主義に違背する違法なものである。
 また、本件出資のように取引相場のない株式を現物出資した場合と、(1)土地を低額で現物出資した場合、(2)上場株式を低額で現物出資した場合、(3)会社が所有する土地の相続税評価額が増額した場合、(4)会社が所有する株式の相続税評価額が増額した場合及び(5)取引相場のない株式を時価を下回る価額により承継する合併をした場合との出資の経済的価値は等しく、客観的交換価値は同額であるにもかかわらず、取引相場のない株式を現物出資した場合の出資の評価についてのみ法人税額等相当額の控除を認めないということは不平等な評価であり客観的合理性はない。
B 原処分庁は、本件出資は清算所得に対する課税の機会がないから法人税額等相当額を控除することはできない旨主張しているが、法人税額等相当額の控除は、清算所得に対する課税の機会の有無とは関係なく定められた評価上のしんしゃくに過ぎないから、課税の機会の有無を問題にする判断は、評価通達185の趣旨を誤ったものである。
 加えて、法人税額等相当額の控除は、平成2年の評価通達の改正(平成2年8月3日付直評12ほかによる改正)において当該規定がしんしゃく規定であることを確認することにより、評価会社が所有する取引相場のない株式の評価については当該控除ができないこととされたが、評価会社自体の株式の評価については当該控除が認められていたので、本件相続開始日においては当該控除が当然に認められるであろうとの予測可能性を納税者に与えていたのであるから、これに反する原処分は信義則に反する。
C 原処分庁は、H社の設立に伴う一連の行為は経済的合理性がなく、相続税の負担を回避する目的で行ったものであると判断しているが、これが租税回避行為と同義であるならば、相続税法には、同法第64条《同族会社の行為又は計算の否認》の規定以外に租税回避行為を否認する規定はないから、法律の根拠なく租税回避行為を否認したこととなる。すなわち、原処分庁が評価通達の執行に組み込んで租税回避行為を否認するのであれば、租税回避行為を通達で否認することとなり、租税法律主義に違反する。
 また、相続税法第22条に規定する時価が客観的な交換価値であることからすれば、本件出資の評価に当たっても客観的に妥当な交換価値が探求されねばならないところ、原処分庁の上記判断は主観的であり、このような主観的要素により本件出資を評価した本件更正処分は租税法律主義に違反する。
D 原処分庁は、本件出資の評価に当たり評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》を適用した旨主張するが、通達とは上級行政庁が下級行政庁に対してする指示命令であるから、評価通達6が国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めている以上、原処分庁が当該指示なく評価通達6を適用することは、たとえその価額が相続税法第22条に規定する時価であったとしても上級行政庁の指示命令に違反することとなる。
 したがって、国税庁長官の指示及びその内容が明らかでない本件更正処分は、適正手続の保障原則に反する。
(ロ)納税猶予税額について
 本件更正処分は、別表1のとおり当初に申告した請求人の取得財産の価額を減額するものであるにもかかわらず、本件更正処分の結果納付すべき税額が生じた理由は、租税特別措置法第70条の6《農地等についての相続税の納税猶予等》第1項に規定する納税猶予(以下「本件納税猶予」という。)が期限内申告に係る税額についてのみ適用され、更正による増加税額についてはその適用がないことによるものである。
 しかしながら、本件更正処分によって増加税額が生じたのは、原処分庁が評価通達の定めからは請求人が予測し得ない評価方法を採用したためであり、また、国税庁長官は平成6年6月27日に評価通達を改正して本件出資のような場合に法人税額等相当額を控除しないこととしたが、請求人が申告したのは当該改正前の平成5年6月1日であるから、評価誤りの原因の所在は請求人のみに存在するのではなく原処分庁及びその上級官庁又は国税庁長官に及ぶものとなる。
 したがって、納税猶予税額の計算においてその対象となる税額を期限内申告書に記載した納税猶予税額に制限するのは公平負担の原則に違背するものであり、本件は立法上想定していない場合に該当し、請求人の期限内申告による納付すべき税額がなかったことの責任は原処分庁等にも及ぶのであるから、納税猶予税額を再計算したところによって更正処分すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)上記イの(イ)のとおり、本件更正処分のうち本件出資の価額については違法であるから、本件賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。
(ロ)仮に、本件更正処分が適法であったとしても、請求人は、当初申告時点において法人税額等相当額の控除が当然に認められると認識し、評価通達6の適用は想定できなかったのであるから、請求人らには国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件出資の価額について
A 本件出資は、次のとおり、1口当たり2,840,000円、総額284,000,000円と評価すべきであるから、この範囲内で行った本件更正処分は適法である。
(A)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
a 被相続人は、請求人が代表取締役を務める有限会社Lとの間の土地賃貸借契約に伴い受領した預り保証金140,000,000円(以下「本件預り保証金」という。)及びT市農業協同組合K支所からの借入金150,000,000円(以下「本件債務」という。)を原資として、平成4年11月10日に280,000,000円を出資して有限会社R(以下「R社」という。)を設立し、同社の全出資持分80口(1口当たりの払込金額3,500,000円)を取得した。
 なお、R社の出資1口当たりの金額は50,000円である。
b 被相続人は、平成4年11月17日に同人が所有するR社の全出資持分80口を現物出資するとともに現金4,000,000円を出資してH社を設立し、本件出資持分100口を取得した。
 なお、H社の出資1口当たりの金額は50,000円であり、H社は現物出資されたR社の出資持分80口を1,000,000円で受け入れた。
c R社の本件相続開始時の所在地は、T市Y町8丁目20番4号であり、法人の目的は(1)不動産の賃貸及び管理、(2)有価証券の投資、(3)上記各号に附帯する一切の業務であり、役員は代表取締役が請求人、取締役がS、J及びNである。
 また、H社の本件相続開始時の所在地は、T市Y町8丁目20番4号であり、法人の目的は(1)不動産の賃貸及び管理、(2)有価証券の投資、(3)上記各号に附帯する一切の業務であり、役員は代表取締役が請求人、取締役がS及びJである。
d 請求人は、本件相続により本件出資、本件預り保証金及び本件債務を相続した。
e R社は営業収益がなく、有限会社Wへの貸付金280,000,000円に係る受取利息が営業外収益の大部分を占めている。
 なお、R社は、請求人ら役員に対して、上記受取利息に相当する額の役員報酬を支払っている。
f H社は、設立時から平成7年5月31日までにおいて、前記cに記載の事業をほとんど行っていない。
(B)ところで、相続税法第22条は、相続等により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているが、多種多様の財産について個々にその時価を把握することは相当な困難を伴うものであり、また、統一的運用を必要とすることから、財産評価の一般的基準として評価通達を定めており、評価通達1《評価の原則》において、時価とは、相続開始の時における財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、原則としてこの通達の定めによって評価した価額による旨定めている。
 しかしながら、評価の統一性、便宜性の要請に基づいて定められている評価通達による評価方法を画一的に適用した場合にはかえって時価の算定が不適正となり、納税者間の公平を実質的に害することとなる場合には、その財産の態様に応じた他の合理的な評価方法によって時価評価すべきところから、評価通達6は、この通達の定めによって評価することが著しく不適当であると認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めている。
(C)これを本件についてみると、(1)H社の設立の直前に、同一の所在地及びほぼ同じ社員で事業内容を同じくするR社を設立していること、(2)H社の設立の際の出資の一部がR社に対する出資持分の現物出資によりなされていること、(3)この現物出資の受入価額が、その直前にされたR社への払込金額をはるかに下回るものであったこと及び(4)H社の有するR社の出資は、本来企業活動の基本財産とはなり得ない財産であり、このような財産を低額で受け入れることにより恣意的に含み益を創出することには何ら経済的合理性が認められないことから、これらの会社設立及び現物出資は、専ら相続税の負担を回避する目的として行われた行為であるといわざるを得ない。
 したがって、本件出資の価額を評価通達185に定める法人税額等相当額を控除して評価することは、意図的に創り出された評価差額に対して法人税額等相当額を控除することとなる結果、かえって時価の算定が不適正となり、課税の公平を欠くことになると認められるので、本件出資の価額の評価に当たり、法人税額等相当額を控除することは相当ではない。
(D)そうすると、本件出資の評価において、法人税額等相当額を控除せずに算出した本件出資の1口当たりの価額は2,840,000円となり、これに請求人が本件相続により取得した出資持分100口を乗じて計算すると、本件出資の総額は284,000,000円となる。
B 請求人は、本件更正処分が租税法律主義等に違反する違法なものであると主張するが、当該主張には次のとおりいずれも理由がない。
(A)請求人は、本件通達を適用しないのは租税法律主義に違背するとともに本件出資の評価についてのみ法人税額等相当額の控除を認めないのは不平等な評価であり客観的合理性がない旨主張するが、本件出資の取得は、上記Aの(C)のとおり、専ら相続税の負担を回避する目的で行われたものであり、これに本件通達を適用することは、かえって時価の算定が不適正となり課税の公平を欠くことになると認められるので、原処分は評価通達6を適用したものであって、本件出資を他の出資と区分して評価することには客観的合理性があり、請求人が主張するように土地を低額で現物出資した場合等における評価との比較において不平等であるとする請求人の主張には理由がない。
(B)請求人は、法人税額等相当額の控除は清算所得に対する課税の機会の有無とは関係なく定められた評価上のしんしゃくにすぎないので、原処分には評価通達185の趣旨を誤って解釈した違法があり、本件出資の評価についてのみ法人税額等相当額を控除しないのは租税法律主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、評価通達185において評価差額に対する法人税額等相当額の控除を定めた趣旨は、取引相場のない株式等の評価については純資産価額方式を採ることを前提としつつ、株式の所有を通じて法人の資産を所有する場合と個人の事業主がその事業用資産を直接所有する場合とではその所有形態が異なるため、両者の事業用資産の所有形態を経済的に同一の条件の下に置き換えることが必要となるために、将来法人を清算した際に評価差額に対して清算所得として課される法人税額等をあらかじめ控除しておくことにより、評価の均衡を図ったという点にあると解されるところ、本件出資のような取引相場のない株式等は清算を経ずして出資の大部分を回収することが可能であり、また、取引相場のない株式等を著しく低い価額で現物出資することは経済的合理性のある取引とはいえず、これについて法人税額等相当額を控除することは、評価通達の想定する趣旨に明らかに反するというべきである。
 また、請求人は、法人税額等相当額の控除を認めない本件更正処分は信義則に反する旨主張するが、H社設立に係る被相続人の一連の行為は、本件出資の評価額を恣意的に低くし、相続税の負担を回避する目的で行ったものと認められるから、請求人らが信義則に反する旨の主張を行うこと自体失当である。
(C)請求人は、租税回避行為を相続税法第64条を適用して否認するのでなく、評価通達によってこれを否認した原処分は租税法律主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、原処分は、H社の設立及びH社設立に伴う現物出資等の一連の行為が専ら相続税の負担を回避することを目的として行われた行為であると認定した上で、本件出資の評価を評価通達に定める原則的な評価方法によって評価することが著しく不適当であると判断して、これを評価通達6の定めにより評価したものであって、相続税法第64条の規定を適用したものではなく、租税法律主義に違反するとの請求人の主張には理由がない。
(D)請求人は、評価通達6の適用に当たっては国税庁長官の指示を明らかにするべきである旨主張するが、評価通達6に定める国税庁長官の指示は、国税庁内部における処理の準則を定めたものにすぎず、その指示の有無を明らかにしなくても課税処分の適法性に影響を及ぼすものではない。
(ロ)納税猶予税額について
 請求人は、本件更正処分は予測できない評価方法により行われたものであるから本件納税猶予の税額についても再計算を行い更正処分するべきである旨主張する。
 ところで、租税特別措置法第70条の6第1項は、農業相続人が相続又は遺贈により被相続人の農業の用に供されていた農地及び採草放牧地(以下「農地等」という。)を取得した場合には、当該相続に係る相続税法第27条《相続税の申告書》第1項の規定による申告書(当該申告書の提出期限前に提出するものに限る。)の提出により納付すべき相続税の額のうち、農地等で当該申告書に同項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるものに係る納税猶予分の相続税については、当該申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税の額に相当する担保を提供した場合に限り、納税猶予期限までその納税を猶予する旨規定している。
 これを本件についてみると、本件更正処分は、農地等以外の不動産及び出資の評価誤りに基づくものであり、納税猶予額の計算に影響するものではないからこの点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件賦課決定処分について
(イ)以上のとおり、本件更正処分は適法であり、これに基づいて行った本件賦課決定処分も適法である。
(ロ)なお、請求人は、仮に本件更正処分が適法であったとしても、請求人には当初申告時点において、評価通達6の適用は想定できなかったから、請求人には通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある旨主張する。
 ところで、通則法第65条第4項に規定する更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められる場合とは、納税者に故意過失がなく、真にやむを得ない理由によるものである場合をいうものと解され、例えば申告時において公表されていた税法の解釈に関する取扱通達が変更された場合等がこれに該当し、過少申告となった理由が納税者の税法の不知や解釈の相違に基づく場合は、これに当たらないと解されている。
 したがって、請求人には通則法第65条第4項に規定する正当な理由はない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件出資の時価の評価方法及びその多寡並びに納税猶予税額にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 本件出資の価額について
(イ)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 被相続人は、平成4年11月10日(被相続人が死亡する19日前、当時被相続人は満73歳)に、本件預り保証金及び本件債務を原資として280,000,000円を出資してR社を設立し、R社の出資持分80口を取得した。R社の出資1口当たりの金額は50,000円であり、出資1口に対する払込金額は3,500,000円であった。そして、払込総額280,000,000円のうち4,000,000円が資本金に、その余の276,000,000円は資本準備金にそれぞれ組み入れられた。
 なお、R社の法人の目的は(1)不動産の賃貸及び管理、(2)有価証券の投資、(3)上記各号に附帯する一切の業務である。
B 被相続人は、平成4年11月17日(R社設立の7日後)にR社の出資持分80口を現物出資により、また、4,000,000円を現金により出資してH社を設立し、本件出資100口を取得した。H社の出資1口当たりの金額は50,000円であり、H社は現物出資に係るR社の出資持分80口を1,000,000円で受け入れた。
 なお、H社の法人の目的は(1)不動産の賃貸及び管理、(2)有価証券の投資、(3)上記各号に附帯する一切の業務である。
C R社の法人税の確定申告書によれば、R社は設立から平成7年5月31日までの各事業年度において、前記Aに記載の事業活動を行っておらず、設立時に受け入れた出資金280,000,000円は有限会社Wに全額貸し付け、受取利息に見合う役員報酬を支出している。
D H社の法人税の確定申告書によれば、H社は設立から平成7年5月31日までの各事業年度において、前記Bに記載の事業活動を行っておらず、本件出資に対する配当金の支払もない。
E 本件債務の当初借入利率は年5.6パーセントであり、被相続人は年間8,400,000円の金利負担を要することとなる。
F 本件相続開始日におけるR社の相続税評価額(評価通達の定めにより算定された価額をいう。以下同じ。)による純資産価額は、280,000,000円(出資1口当たり3,500,000円)である。
G 本件相続開始日におけるH社の帳簿価額による純資産価額は5,000,000円であり、このうちR社の出資持分80口を上記Fに基づいて評価した場合の相続税評価額による純資産価額は、法人税額等相当額を控除しない場合は、284,000,000円(出資1口当たり2,840,000円)であり、法人税額等相当額を控除した場合は141,710,000円(出資1口当たり1,417,100円)である。
H 請求人は、当審判所に対して被相続人は平成4年4月頃から入院していた旨答述した。
(ロ)ところで、相続税法第22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、ここにいう時価とは、課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値を示す価額であると解される。
 しかしながら、客観的な交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価の一般基準として評価通達が定められており、特別な事情がない場合には、同通達に定められた評価方法によって財産を評価することとされている。
 これは、財産の客観的な交換価値を示す価額を個別に評価する方法を採用した場合には、その評価方法、基礎資料の選択の仕方により異なった評価額が生じることは避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難になる恐れがあること等からして、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が納税者間の公平、納税者の便宜及び徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由によるものと解される。
(ハ)そうすると、租税法律主義という観点からは、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって、租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるが、他方、同通達に定められた評価方法を形式的に適用することによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである等の特別の事情がある場合には、他の合理的な評価方法によることができるものと解すべきである。
(ニ)評価通達では、本件出資のような有限会社に対する出資の評価方法について同通達194《合名会社等の出資の評価》において株式に準じて評価する旨定めており、また、上場株式及び気配相場等のある株式以外の取引相場のない株式の評価方法等については同通達178以下において評価会社の規模に応じた具体的な評価方法を定めて、小会社の株式の価額は、純資産価額方式により評価することとし、その場合本件通達において純資産価額の計算上相続税評価額と帳簿価額との評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除することとしている。
 これは、小会社が事業規模や経営の実態からみて個人企業に類似するものであり、これを株式の実態からみても、株主が、所有する株式を通じて会社財産を完全支配しているところから、個人事業者が自らその財産を所有している場合と実質的に変わりはなく、その株式を、それが会社財産に対する持分を表現することに着目して、純資産価額方式により評価することを基本としているものと解される。
 そして、本件通達が、評価会社の純資産価額の計算上、相続税評価額と帳簿価額との評価差額に対する法人税額等に相当する金額を、会社の正味財産価額の計算上控除することとしているのは、小会社の株式といえども株式である以上は、株式の所有を通じて会社の資産を所有することとなり、個人事業主がその事業用財産を直接所有するのとは、その所有形態が異なるため、両者の事業用財産の所有形態を経済的に同一の条件のもとに置き換えた上で評価の均衡を図る必要があることによるものであると解される。すなわち、評価会社の資産の相続税評価額とその帳簿価額との評価差額を法人税法第92条《解散の場合の清算所得に対する法人税の課税標準》に規定する清算所得の金額とみなし、事業用資産の所有形態を、法人所有から個人所有に変更した場合に課税されることとなる清算所得に対する法人税額等に相当する金額を評価会社の資産の相続税評価額から控除することによって、上記均衡を図ろうとしているものであると解される。
(ホ)前記(イ)の各事実を上記(ロ)ないし(ニ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A 被相続人が本件出資を取得した目的は、次の理由から、H社の事業活動から生じる配当(及び値上がり益)を期待するものではなく、専ら将来において発生するであろう相続の際に相続税の負担の軽減を図るためであることが推認される。
(A)被相続人は、R社及びH社の設立時すでに満73歳の高齢であり、平成4年4月頃から入院中であるにもかかわらず、多額の本件債務等を充ててほぼ同時期に両社を設立しているところ、これら両社の事業目的は同一であり、あえてR社の出資持分をH社へ現物出資してH社を設立することには合理的な理由があるとは解し難いものである。さらに、R社の出資1口に対する払込金額は3,500,000円であるところ、50,000円が資本金に残額の3,450,000円が資本準備金に組み入れられるという異常な資本構成が採られている上、H社に現物出資されたR社の出資持分80口の受入価額は1,000,000円であるところ、これは、被相続人が当該出資持分を取得するためにR社へ払い込んだ出資金280,000,000円に比して極めて低額であると認められる。
(B)被相続人は、多額の本件債務等を原資として本件出資を取得したのであるから、本来、本件出資の取得により本件債務等に基づく金利に見合う配当がなければならないところ、H社は、本件債務等の利息を上回る配当を行い得る会社であるとは考えられず、事実、本件債務の金利が年間約8,400,000円要するところ、H社は3期経過しても事業収入がなく、これらのことを総合すれば、被相続人にとって本件出資を取得する経済的合理性は全く認められない。
(C)本件相続によって本件出資並びに本件預り保証金及び本件債務が相続されたところ、R社及びH社の設立から本件相続まではわずか20日程しか経っていないのであるから、本件出資の経済的価値は、被相続人がR社の出資持分80口を取得するためにR社へ払い込んだ出資金280,000,000円とH社へ出資した現金4,000,000円との合計額に見合うものになるはずであるところ、本件通達に定める法人税額等相当額を控除して本件出資を評価すると上記経済的価値のほぼ半額となる反面、消極財産である本件預り保証金及び本件債務は全額が相続財産から債務控除される結果、相続税の課税価額が著しく減少し多額の相続税の負担が軽減されることとなる。
B 以上のとおり、被相続人が本件出資を取得した目的は、H社に対して著しく低額な現物出資を行うことにより多額の評価差額を創り出し、これに形式的に本件通達を適用して法人税額等相当額を控除して計算することにより、課税価額を著しく圧縮し、相続税の負担の軽減を図るためのものであると推認される。
 また、前記(ニ)で述べたように、本件通達に定める法人税額等相当額の控除が資産を個人が直接所有する場合と所有する株式を通じて間接所有する場合の均衡を図るものであることからすると、このように被相続人のR社及びH社に対する出資払込金がほぼそのまま請求人らに移ったものと評価できるにもかかわらず、本件通達を適用して法人税額等相当額を控除して計算することは、他の納税者との間の実質的な租税負担の公平という観点からして看過し難いといわざるを得ず、加えて、租税制度全体を通じて税負担の累進性を補完するとともに富の再配分機能を通じて経済的平等を実現するという相続税法の立法趣旨からしても著しく不相当なものというべきである。
 したがって、本件については、評価通達に定める原則的な評価方法によらないことの特別な理由があると認められ、本件出資の評価については、本件通達に定める法人税額等相当額を控除せずに評価する方法が妥当であり、それによる価額が本件出資の客観的な交換価値であると解すべきである。
(ヘ)請求人は、本件出資の評価について、合理性を有している本件通達を適用しないことは公平負担の原則に違反し、法的安定性及び予測可能性という租税法律主義の理念に違背する旨及び本件出資の評価を土地を低額で現物出資した場合等の評価と区別することには客観的合理性がなく不平等である旨主張する。
 しかしながら、上記(ホ)のBで述べたとおり、本件出資を評価通達に定める原則的な評価方法によらず、他の合理的な方法によりその客観的な交換価値を評価することについては、他の納税者との間での実質的な租税負担の公平の見地から是認されるものというべきであるから、このような取扱いが合理性を欠くものとはいえず、公平負担の原則に違反するということもできない。
 また、評価通達6が同通達によらない場合の例外を定めている趣旨からすれば、同通達を適用しない課税処分が直ちに租税法律主義の理念に反するものということはできない。
(ト)請求人は、法人税額等相当額の控除は課税の機会の有無とは関係なく定められた評価上のしんしゃくにすぎないから、課税の機会の有無を問題にする原処分庁の判断は評価通達185の趣旨を誤ったものである旨主張する。
 しかしながら、本件出資の評価については、前記(ホ)のBで述べたとおり、本件通達に定める法人税額等相当額を控除することが相当でない客観的合理的な理由があると認められるのであるから、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
 また、請求人は、本件相続開始日においては法人税額等相当額の控除が当然に認められるであろうとの予測可能性を納税者に与えていたものであるから、これに反する原処分は、信義則に違反する旨主張する。
 しかしながら、信義誠実の原則は、適法性の要請に優先してまで納税者の利益を保護すべきことが、正義、公平の見地から真にやむを得ないと認められる場合に限り適用されると解すべきところ、請求人の主張する信頼によって保護される利益というのは、本件の場合、他の納税者との実質的な公平の観念に反して租税負担の軽減を享受し得る利益をいうにすぎず、このような利益は、それ自体法的な保護に値するものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張も採用することができない。
(チ)請求人は、租税回避行為の否認には法律の根拠が要求されるところ、本件更正処分は評価通達により租税回避行為を否認したも同様であり租税法律主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、本件出資の取得に係る一連の行為について、相続税の負担を回避する目的で行われた行為である旨の判断をしているものの、本件出資の取得行為自体を租税回避行為として否認したものではなく、相続税の負担軽減を目的として取得した本件出資について、本件通達を適用することは不合理・不適正であるとした上で、評価通達185に定める純資産価額から法人税額等相当額を控除しない価額が相続税法第22条に規定する時価であるとしたものにすぎず、このように本件通達によらないことが相当であると認められるような特別な事情がある場合に、他の合理的な評価方法により評価することは、何ら租税法律主義に違反するものではない。
 また、請求人は、相続税法第22条に規定する時価が客観的交換価値であることからすれば、本件出資の評価に当たっても客観的に妥当な交換価値が探求されねばならないところ、経済的合理性がなく相続税の負担を回避する目的でされた行為という原処分庁の判断は主観的であり、このような主観的要素により本件出資を評価した本件更正処分は租税法律主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、請求人の算定した本件出資の価額が客観的な交換価値を示す価額であるか否かの判断において、その算定方法や取得に至る事情等にかんがみ、本件の場合は法人税額等相当額を控除して算出された価額が客観的な交換価値である時価とは認められないと判断したものにすぎず、本件出資の評価に主観的要素を盛り込んだものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
(リ)請求人は、国税庁長官の指示及びその内容が明らかでないまま評価通達6を適用した本件更正処分は、適正手続の保障原則に違反する旨主張する。
 しかしながら、評価通達は、税務執行の便宜上、単に評価の目安となるべき基準を示したものであり、また、そもそも通達とは、上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって法規たる性質を有せず、それ自体が納税者を拘束するものではないこと及び通達の適用に関する国税庁長官の指示は、関係下級行政庁ないしその職員のみを拘束するにすぎないものであり、加えて、国税庁長官の当該指示を納税者に対して明確にしなかったとしても、これにより直ちに原処分が違法となるものではないと解するのが相当である。
(ヌ)以上のとおり、本件出資の価額は、法人税額等相当額を控除せずに算定すべきであり、そうすると、本件出資1口当たりの価額は2,840,000円となるから、これに被相続人の出資持分100口を乗じて計算すると、本件出資の総額は284,000,000円となる。
 そして、本件出資の価額以外の相続財産の評価については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても相当と認められるその他の相続財産の価額を基に請求人の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
ロ 納税猶予税額について
 請求人は、本件納税猶予は租税特別措置法第70条の6第1項により、期限内申告に係る税額についてのみ適用される旨規定されているところ、本件相続開始日は本件出資の評価について本件通達が適用できないことと評価通達が改正された平成6年6月27日以前であるから本件更正処分による本件出資の評価方法の変更は請求人にとって予測し得ないものであるので、本件において納税猶予の計算の対象となる税額を期限内申告に係る納付税額に制限するのは公平負担の原則に違背するものであり、その責任を請求人にのみ求めるのは不当であるから、納税猶予税額を再計算すべきである旨主張する。
 ところで、租税特別措置法第70条の6第1項は、農業相続人が相続又は遺贈により被相続人の農業の用に供されていた農地等を取得した場合には、相続税の申告書(当該申告書の提出期限前に提出するものに限る。)の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該農地等で当該申告書に納税猶予の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(以下「特例農地等」という。)に係る納税猶予分の相続税については、当該申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税の額に相当する担保を提供した場合に限り、納税猶予期限までその納税を猶する旨規定している。
 したがって、本件納税猶予は、期限内申告に係る相続税額に限って適用されることと規定されており、これについてはゆうじょ規定は設けられていないので、本件更正処分による納付すべき税額を対象として納税猶予分の相続税の額を再計算することはできない。
 なお、実務では修正申告又は更正があった場合で、当該修正申告又は更正が特例農地等の評価又は税額計算の誤りのみに基づいてされるときにおける当該修正申告又は更正により納付すべき相続税額については、当初から同項の規定の適用があることとして取り扱われている(「農地等に係る贈与税及び相続税の納税猶予等の適用に関する取扱いについて」昭和50年11月4日付直資2―224ほか国税庁長官通達)が、これは、期限内申告に含まれている特例農地等の評価誤り又は税額の計算誤りのような軽微な原因に基づく増加税額については、納税者の立場をも考慮しようとするものであり、それ以外の事由に基づく増加税額については適用されず、当審判所もこの取扱いを相当であると解する。
 これを本件についてみると、原処分関係資料によれば、本件更正処分は特例農地等の評価については当初申告のとおりであることが認められるから、上記取扱いが認められる余地はないものといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がなく、請求人の納税猶予税額は、請求人の期限内申告書に記載された納付すべき相続税額のうち納税猶予に係る特例の適用を受けようとする旨の記載があった19,724,000円となる。
ハ 申告期限までに納付すべき税額について
 以上によれば、請求人の申告期限までに納付すべき税額は、別表4の「審判所認定額」欄に記載のとおり、納付すべき税額53,310,300円から納税猶予税額19,724,000円を差し引いた33,586,300円となる。
 したがって、この範囲内でされた本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

イ 請求人は、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分も違法である旨主張するが、上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 請求人は、仮に本件更正処分が適法であったとしても、当初申告時点において本件出資の評価に評価通達6の適用があることは想定していなかったのであるから、本件出資の評価が過少であったことについては通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある旨主張するが、通則法第65条第4項にいう正当な理由に当たる事由としては、申告した税額に不足が生じたことについて、納税者が通常な状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情による場合等が考えられるところ、具体的には、(1)税法の解釈に関して申告当時に公表されていた公的見解が、その後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、(2)災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けた等のため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合及び(3)その他真にやむを得ない事由があると認められる場合等が該当するものと解されている。
 これを本件についてみると、本件出資の評価額が過少となった理由は、前記(1)のイのとおり、専ら相続税の負担を軽減する目的で本件出資を取得し、これに形式的に評価通達に定める原則的な評価方法を適用することにより評価額を圧縮したことによるものであるから、過少申告となったことについて上記に述べたような正当な理由があるとは認められない。
ハ したがって、原処分庁が通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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