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(平10.3.30裁決、裁決事例集No.55 742頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、F株式会社(所在地R市、以下「滞納会社」という。)に係る別表1の滞納国税を徴収するために、滞納会社が別表2の第三債務者欄の取引先6社(以下「第三債務者」という。)に対して有する運賃等売掛債権の支払請求権(以下「本件債権」という。)を、別表3の「差押処分」欄のとおり差し押えた(以下「本件差押処分」という。)。
 次に、原処分庁は、本件債権は滞納会社と審査請求人(以下「請求人」という。)との譲渡担保契約に基づく譲渡担保財産であるとして、譲渡担保権者である請求人に対して平成8年11月14日付で国税徴収法(以下「徴収法」という。)第24条《譲渡担保権者の物的納税責任》第4項の規定により、別表3の「告知処分」欄のとおりの告知処分(以下「本件告知処分」という。)をし、滞納会社及び請求人の所在地を所轄する税務署長に対して、その旨を通知した。
 請求人は、本件告知処分を不服として、平成9年1月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月18日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年4月19日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、滞納会社との石油製品等の取引から生ずる売買代金債権(以下「代金債権」という。)を担保するため別表2の「債権譲渡契約日」欄の日に、請求人と滞納会社との間で本件債権の譲渡契約(以下、「本件契約」といい、本件契約に係る書面を「本件契約書」という。)を締結した。
 次に、滞納会社は、第三債務者に対し、別表2の「債権譲渡通知日」欄のとおり本件債権を請求人へ譲渡した旨の通知(以下、「本件通知」といい、本件通知に係る書面を「本件通知書」という。)を内容証明郵便により発送し、本件通知書は、同表の「通知書到達日」欄の日に第三債務者に到達している。
 そうすると、本件債権は、本件通知がされるまでは、徴収法第24条第1項の譲渡担保財産であったとしても、本件通知によって第三者への対抗要件を備えることになり、譲渡担保権が実行され確定的に請求人に帰属したというべきである。
 したがって、原処分庁が本件告知処分により徴収しようとする本件債権は、徴収法第24条第1項に規定する譲渡担保財産ではないから、本件債権に対する同条第2項による滞納処分をすることはできない。
ロ 徴収法第24条第1項では「滞納者の滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から納税者の国税を徴収することができる。」旨規定されているところ、原処分庁は、滞納会社の本件債権以外の財産に対する滞納処分をしておらず、徴収すべき国税に不足するか否かの判断がなされていないと認められるから、同項の要件を満たしているとはいえず、本件債権に対する滞納処分をすることはできない。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は本件通知により、第三者への対抗要件を備えたと主張するが、本件通知は本件契約を締結した旨の通知であり、本件債権は差押処分時において、徴収法第24条第1項に規定する譲渡担保財産であったと認められるから、本件告知処分は適法である。
ロ 徴収法第24条第1項に規定する「国税に不足すると認められるとき」とは、同条第2項の通知を発するときの現況において、納税者に帰属する財産で滞納処分により徴収できるものの価額が納税者の国税の総額に満たないと認められることをいい、その判定は、滞納処分を現実に執行した結果に基づいてする必要はないから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件告知処分の適否にあるので、以下審理する。
(1)次のことについては、請求人及び原処分庁の間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 滞納国税の法定納期限等は、別表1の「法定納期限等」欄のとおり、源泉所得税が平成8年8月5日並びに消費税が平成8年5月31日及び平成8年7月1日であること。
ロ 請求人と滞納会社との間では、別表2の「債権譲渡契約日」欄の契約日付(平成8年7月10日及び同年8月1日)で本件契約が締結されていること。
ハ 本件契約の内容は別紙のとおり債権譲渡担保契約であり、また、本件契約書は、いずれも平成8年10月31日の確定日付により公証人役場において公正証書として登簿されていること。
ニ 滞納会社は、第三債務者に対し、別表2の債権譲渡通知日の確定日付(平成8年10月30日、同年11月7日及び同年11月11日)で本件通知をしていること。
ホ 滞納会社は、平成8年10月22日(1回目)及び同年11月11日(2回目)に手形の不渡事故を起こして事実上倒産したこと。
(2)ところで、徴収法第24条の規定によれば、納税者の財産が譲渡担保に供されているときは、国税債権と譲渡担保の被担保債権との優劣関係を国税の法定納期限等と譲渡担保設定時期との先後関係により決することとし(同条第6項)、国税債権が優先する場合において、納税者の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに限り、譲渡担保財産から国税を徴収することができる(同条第1項)としており、その手続として、譲渡担保財産から国税を徴収する場合には、税務署長は、譲渡担保権者に対し、徴収しようとする金額その他必要事項を記載した書面により告知をし、当該譲渡担保権者の住所又は居所の所在地を所轄する税務署長及び納税者に対しその旨を通知することとし(同条第2項)、当該告知書を発した日から10日を経過した日までにその徴収しようとする金額が完納されていない場合には、徴収職員は、譲渡担保権者を第二次納税義務者とみなして、その譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができる(同条第3項)と規定している。
 そして、告知の後、譲渡担保債権が「債務不履行その他弁済以外の理由により消滅した場合(譲渡担保財産につき買戻、再売買の予約その他これらに類する契約を締結している場合において、期限の経過その他その契約の履行以外の理由によりその契約が効力を失ったときを含む。)」には、なお譲渡担保財産として存続するものとみなす(同条第5項)と規定している。
 また、税務署長が譲渡担保財産を設定者の財産として差し押さえた場合、換言すれば、滞納者に対する滞納処分が先行する場合については、徴収法第24条第1項の要件に該当する場合に限り、当該差押えを同条第3項の差押えとして滞納処分を続行することができ、この場合には遅滞なく告知及び通知をすること(同条第4項)と規定し、「前項の規定の適用を受ける差押」の後、譲渡担保債権が弁済以外の理由で消滅した場合についても、なお譲渡担保財産として存続するものとみなす(同条第5項)と規定している。
 なお、徴収法第24条第4項の規定に基づき差押処分及び告知処分を行った場合、差押財産が譲渡担保財産であるか否かの判断の基準時は、同条第5項において、徴収機関が譲渡担保財産を滞納者の財産として差し押さえた後、当該財産が譲渡担保に供されていることを認識し、譲渡担保権者の財産として滞納処分を続行するという判断をするまでの間に譲渡担保権の実行等により、譲渡担保財産が消滅したとしても、なお譲渡担保財産として存続するものとみなすとしていることからすれば、その判断の基準時は、当該差押えの時と解すべきである。
 したがって、譲渡担保財産から国税を徴収することができるのは、徴収法第24条第1項の要件に該当し、国税の法定納期限等後に滞納者が譲渡担保に供した財産で、かつ、差押処分の時点において当該財産が譲渡担保財産として存在するときとなる。
(3)前記(1)の事実及び上記(2)の法令に基づき、以下検討すると次のとおりである。
イ 法定納期限等との先後について
 本件契約が債権譲渡担保契約であることについては、前記(1)のハのとおり、請求人及び原処分庁の双方に争いのないところであるが、滞納国税の法定納期限等と本件契約による譲渡担保設定の時期について、その先後を検討すると、譲渡担保設定の日は、前記(1)のニのとおり、第三債務者に対し本件通知をした確定日付の日と解されることから、譲渡担保設定の日は、いずれも、前記(1)のイの滞納国税の法定納期限等の日に後れており、本件差押処分の時点において本件債権が譲渡担保財産として存在する限り、国税が優先することとなる。
ロ 徴収法第24条第1項の要件について
 徴収法第24条第1項に規定する「国税に不足すると認められるとき」とは、同条第2項の通知を発するときの現況において、納税者に帰属する財産で滞納処分により徴収できるものの価額が納税者の国税の総額に満たないと認められることをいい、その判定は、滞納処分を現実に執行した結果に基づいてする必要はないと解するのを相当とする。
 本件については、前記(1)のホのとおり、滞納会社が平成8年11月11日に2回目の手形不渡事故を起こして事実上倒産したことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いのないところであり、その事実からすれば、徴収法第24条第1項に規定する「滞納会社の財産につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき国税に不足すると認められるときに」に該当するから、本件差押処分は「前項の規定の適用を受ける差押」(同条第5項)に当たる。
ハ 譲渡担保財産として存在していたか否かについて
(イ)請求人は、本件通知により、本件債権は第三者への対抗要件を備えることになり、譲渡担保権が実行され、確定的に請求人に帰属したと主張する。
 しかしながら、本件通知は、前記(1)のロのとおり、請求人と滞納会社との間で締結された平成8年7月10日付及び同年8月1日付の本件契約(本件契約においては、譲渡される債権が特定されておらず、個別の各債権については「債権譲渡通知書」により第三債務者に債権譲渡の通知がされたときに、当該債権の譲渡がされたことになる。)に基づいて、担保のために本件債権を譲渡したことを通知するものであって、これをもって譲渡担保権の実行が完了したということにならないのは、次記の(ロ)のとおりである。
(ロ)本件差押処分の時点で本件債権が譲渡担保財産として存在していたか否かについて、本件契約の各条項を基にして、以下検討する。
A 本件通知について
(A)本件通知については、本件契約書第1条(債権譲渡通知義務)及び同第5条(通知の時期及び実行・充当の時期)に定められている。
 本件契約書第1条によると、債務者は第三債務者に対し遅滞なく譲渡通知をするとともに、第三債務者の承諾を取り付けなければならないとし、同条また書によると、債権者も「債務者の代理人として任意のときに」譲渡通知をすることができるとされている。また、同第5条(通知の時期及び実行・充当の時期)の定めによると、第1条の債権譲渡の通知は、債務者に本条所定の債務不履行等の事由が生じたとき、「債権者の判断により必要に応じ実行、発送することができるとされている。
 そうすると、本件契約書第1条及び第5条に基づく限り、債務者は、第三債務者に対して債権譲渡の通知をする義務及び第三債務者の承諾を取り付ける義務があることは認められるが、それ以外の法的効果が生ずる旨の特約の定めはないことから、これらの条項に基づく債権譲渡の通知は、これを第三債務者に通知することによって、担保のために譲渡された債権が特定され、対抗要件が具備されることになるものの、債権者はこれにより、担保として本件債権を譲り受けたことを第三債務者に主張することができるに過ぎず、それ以上の法的効果は生じないと解される。
 なお、本件契約書第5条は、その標題から通知の時期及び実行・充当の時期を定めるために設けられた条項とは認められるが、当該条項からは、債権者の譲渡担保権の実行方法及び債権者において本件債権を代物弁済として取得する時期等は明らかでなく、また、同条項の「債権者の判断により必要に応じ実行」することとしていることからしても、これをもって譲渡担保権の実行と解することはできない。
 したがって、本件通知をもって、譲渡担保権実行の意思表示がされたとすることはできない。
(B)また、本件契約書第5条には、債権譲渡通知が発送された後は債務者の弁済受領は禁止されているものの、債権者が譲渡担保債権を即時取得する旨の特約はなく、仮に、本件通知に基づき第三債務者が弁済を行ったとしても、本件契約に基づく実行・充当については、後記Bのとおり定められていることから、本件通知及び第三債務者の弁済の事実をもって、担保権の実行・充当がされたとすることもできない。
B実行・充当について
(A)譲渡担保権の実行・弁済について、本件契約書第3条(弁済期到来通知義務)及び同第4条(実行・充当)の定めを検討したところ、次のとおりである。
 本件契約書第3条によると、譲渡担保に係る債権の弁済期は、債務者と第三債務者との間の契約に基づき到来する本来の場合のほか、譲渡担保権者の請求があるときは、債務者は「直ちに弁済期を到来させなければならない」とされている。
 しかしながら、本件契約書第4条によると、弁済期後、債権者が第三債務者から弁済を受けたときは、当該金員は保証金として債務者の「担保金」となるとされていることからすると、請求人が、弁済期後、第三債務者から弁済を受けたとしても、当該金員は保証金として滞納会社の担保金となることから、請求人の譲渡担保権が消滅したとはいえず、弁済期後であっても、なお譲渡担保権は存続していると解される。
(B)次に、本件契約書第4条なお書によると、弁済期後、債権者が第三債務者から弁済を受領し、これを保証金に組み入れないこととしたときは、その金員に相当する被担保債権が消滅するとされているところ、その保証金に組み入れないとする行為は、債権者の優先弁済権の行使であるから、債権者は債務者に対し担保権実行の意思表示を要すると解される。
 そうすると、本件契約書第4条なお書においては、請求人が優先弁済権の行使のために滞納会社に対して行う担保権実行の意思表示についての定めはなく、また、本件契約書の他の条項においても、担保権実行の方法及びその時期等についての定めはなされていないことから、本件契約を基に担保権実行の方法及びその時期等を判断することはできないというほかはない。
 また、請求人は、当審判所に対し、本件通知のみをもって担保権の実行がなされた旨主張するにとどまり、本件契約書第4条なお書による保証金に組み入れないとする意思表示を滞納会社に対して行ったことを証する書類等の提出もないことから、請求人が滞納会社に対し優先弁済権の行使のための担保権実行の意思表示をしたとは認められない。
ニ 以上イないしハのとおり、本件通知をもって、譲渡担保権が実行され、本件債権を請求人が確定的に取得したとはいえず、本件差押処分がなされた時点において譲渡担保財産は存在していたと認められ、また、徴収法第24条第1項の要件を満たしているか否かの判断がなされていない旨の主張は、前記ロのとおり、同要件に該当すると認められるから、原処分庁が徴収法第24条に基づき行った原処分は適法である。
 したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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別紙 債権譲渡契約書

 債務者F社と債権者S社(請求人)との間の平成7年2月24日付商品売買基本契約書に基づき債務者が債権者に対して現に負担し、将来負担することのあるべき債務を担保する為、債務者が継続的運送契約等に基づき末尾記載の第三債務者に対して有する運賃等売掛債権を次の条件に従い債権者に譲渡することを約した。
(債権譲渡通知義務)
第1条 債務者は、第三債務者に対し、遅滞なく確定日付ある証書をもって債権譲渡の通知をするとともに、第三債務者の承諾を取りつけなければならない。
 尚、債務者は、予め債務者の記名押印のある債権譲渡通知書(日付及び金額等白地のもの)を債権者に交付し、債権者が白地補充記載することを認めると共に第三債務者に内容証明郵便にて発送することを承認し、債務者はこれに対し異議を述べない。
 又、債務者は、債権譲渡通知を第三債務者に行うことの代理権を債権者に付与し、債権者は、債務者の代理人として任意のときにその旨の内容証明郵便物を発することができ、債務者はこれに対し異議を述べないものとする。
(担保責任)
第2条 債務者は、本件譲渡債権につき、第三債務者から債務者に対抗し得べき事由のないことを担保する。
2).債務者は、譲渡債権につき譲渡禁止特約がないことを確認した。
(弁済期到来通知義務)
第3条 債務者は、第三債務者との間の契約に基づき、本件譲渡債権の弁済期が到来したとき、又は到来せしめ得るに至ったときは、直ちに債権者に通知し、債権者の請求あるときは、直ちに弁済期を到来させなければならない。
(実行・充当)
第4条 債権者が弁済期後に於て、本件譲受債権を第三債務者から弁済を受けたときは、弁済を受けた金員は保証金として債務者の担保金となる。
 但し、債権者の意思により前記金員の一部又は全部を保証金に組み入れないことができる。
 尚、この場合は、その組み入れない金員に相当する債務者の債権者に対する債務は消滅するものとする。
 又、そのいずれの部分を消滅せしめるかについては債権者の任意とする。
(通知の時期及び実行・充当の時期)
第5条 第1条の債権譲渡の通知は、債務者に於て下記事項に該当する事由が生じたとき、債権者の判断により必要に応じ実行、発送することができる。
 又、債権譲渡通知が発送された後の譲渡債権は、債務者は第三債務者からの弁済を受けることはできない。
 尚、下記事項に該当する事由が生じるまでは、譲渡債権にかかる運賃等売掛債権を債務者において、第三債務者から弁済を受けることを債権者は異議を述べない。
1.債権者に対する債務の弁済を怠ったとき。
2.債務者が振り出した手形又は小切手が不渡りと成ったとき。
3.強制執行、競売、差押、仮処分、仮差押、破産の申立を受けたとき。
4.自己破産、会社整理、会社更生、和議の申立をしたとき。
5.債務者が20日以上所在不明になったとき。
6.その他、債権者と債務者で締結した商品売買基本契約書の第5条第2項により、債権者が契約を解除したとき。
(債権の返還)
第6条 本件譲渡債権の弁済期到来前に、債権者、債務者間の取引が終了し、かつ債務者が債務の全部を債権者に弁済したときは、債権者は遅滞なく本件譲受債権を債務者に再譲渡し、第三債務者に対しては、遅滞なく確定日付ある証書をもって債権譲渡の通知をしなければならない。
 尚、この通知に要する費用は債務者の負担とする。
 この契約を証するため、本証書2通を作り、債務者、債権者各記名押印のうえ、各1通ずつを保管するものとする。
平成8年○月○日
債務者(譲渡人)
R市W町4番地74
F社
代表取締役△△△△印
債権者(譲受人)
N市L町2丁目2番4号
S社(請求人)
代表取締役□□□□印
       記
第三債務者
○○県○○(第三債務者の所在地)
○○○○(第三債務者の名称)

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