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(平10.9.2裁決、裁決事例集No.56 144頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、牛乳販売業を営む者であるが、平成7年分の所得税について、次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年2月14日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(単位 円)
区分確定申告更正処分等
総所得金額2,120,00010,810,283
内訳
事業所得の金額2,120,0002,120,000
一時所得の金額の2分の1相当額8,690,283
所得控除の額1,723,0001,343,000
内訳
配偶者特別控除額380,000
上記以外の所得控除の額1,343,0001,343,000
課税総所得金額397,0009,467,000
納付すべき税額33,7001,560,100
過少申告加算税203,000

 請求人は、これらの処分を不服として、平成9年4月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月2日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年7月30日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)死亡保険金等に対する課税関係
A 請求人は、請求人の配偶者J(以下「J」という。)が、昭和60年7月9日にR生命保険相互会社(以下「R生命」という。)との間で、Jを被保険者、請求人を保険契約者及び保険金受取人とし、満期保険金を1,548,800円、死亡保険金を10,000,000円(不慮の事故による死亡保険金を20,000,000円)、災害特約保険金を5,000,000円及び月額保険料を16,809円とする生命保険契約(以下、この契約を「本件保険契約」といい、この契約書を「本件保険契約書」という。)を締結していたところ、平成7年5月26日にJが死亡したことから、死亡保険金及び配当金(以下「本件保険金等」という。)20,210,459円を受領した。
B 原処分庁は、これに対し、本件保険金等について、所得税法第34条《一時所得》に規定する一時所得として課税すべきであるとして、本件更正処分をした。
C しかしながら、本件保険金等については、次のことから、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項第1号に規定する相続財産とみなすべきである。
(A)Jは、収入はなかったが、平成6年分までは所得税法第57条《事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等》第3項に規定する請求人の事業専従者であるから、同項第1号に規定する事業専従者控除額の範囲内で、請求人の営む事業に係る収入の一部をJの労務の対価としてG銀行S支店のJ名義の普通預金(口座番号×××××××、以下「G銀行口座」という。)へ預金し、当該口座からJの意思で本件保険契約に係る保険料(以下「本件保険料」という。)及び国民年金の掛金等を口座振替の方法により支払っていたものであるから、本件保険料の実質負担者は、Jであること。
(B)本件保険契約は、Jが請求人の知らないうちに締結していたものであり、保険契約者が請求人となっていたことについて、不知で、このことは、本件保険契約書の契約者記入欄の筆跡がJのものであることからみても明らかであること。
(ロ)課税総所得金額
 課税総所得金額は、確定申告書に記載したとおりである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 本件賦課決定処分は、本件更正処分の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)死亡保険金等に対する課税関係
A Jは、平成6年分までは請求人の営む事業の事業専従者に該当するが、請求人がJに対して労務の対価を支払ったとする事実を証する帳簿書類等の提示はなく、また、Jには、ほかに給与所得等の所得があった事実もない。
 このため、本件保険料の負担者がJであるとは認められない。
 なお、前述のとおり、平成6年分までは、Jは事業専従者に該当するので、同年分まで、請求人の事業所得の金額の算定上、事業専従者控除額が必要経費の額に算入されている。
 ところで、所得税法第57条第3項に規定する事業専従者控除は、事業専従者に対する給与の支払いの事実の有無にかかわらず、事業専従者に該当し、かつ、確定申告書にその旨の記載がある場合に認められるものであり、本件の場合、事業専従者に該当するので、事業専従者控除額の範囲内から、本件保険料を支払っているとの請求人の主張は認められない。
B 本件保険料は、G銀行口座から口座振替の方法により支払われているが、同口座には、請求人の得意先が発行した小切手が入金されており、また、同口座から家庭用電化製品の購入代金及び平成4年1月までは請求人の国民年金の掛金についても口座振替の方法により支払われている。
 これらのことから、G銀行口座はJ名義であったとしても、Jの個人用口座であるとは認められない。
C 請求人は、R生命から、本件保険契約に基づく貸付制度を利用して、平成2年5月22日及び平成7年2月17日に借入(以下、順次「第1回借入」及び「第2回借入」という。)を行っているが、第1回借入は、JがR生命T支社に赴き、請求人の委任通知書を提出するなどの手続きを行うことにより実行されており、この借入金は、L銀行M支店の請求人名義の普通預金(口座番号×××××××に振り込まれている。
 また、第2回借入は、請求人が自らR生命T支社に赴き、自己の運転免許証を提示して、本件保険契約の保険契約者であることを証明の上、契約貸付請求書に所定の事項を記載するなどの手続きを行い、即日、借入金を現金で受領している。
 これらのことから、請求人が、本件保険契約の保険契約者が請求人自身であることを知らなかったとは認められない。
D 税法上、生命保険金受取人の受け取った保険金が、一時所得として所得税の課税対象となるのか、あるいは相続財産とみなされて相続税の課税対象となるのかは、受け取った保険金に係る保険料の負担者がだれであるかによって判定されるべきものであるが、前記A及びBのとおり、本件保険料の負担者は請求人であると認められるから、請求人が受け取った本件保険金等は、所得税法第34条に規定する一時所得として課税するのが相当である。
(ロ)課税総所得金額等
A 一時所得の金額
 請求人が受取った本件保険金等は、前記(イ)のDのとおり、一時所得として課税すべきであるので、一時所得の金額は、所得税法第34条第2項の規定により、本件保険金等20,210,459円から既払込保険料2,329,893円を控除した後の金額から、一時所得の特別控除額500,000円を控除した17,380,566円となる。
B 総所得金額
 総所得金額は、所得税法第22条《課税標準》の規定により、事業所得の金額2,120,000円に、前記Aの一時所得の金額17,380,566円の2分の1に相当する8,690,283円を加算した10,810,283円となる。
C 所得控除の額
 所得控除の額は、請求人が確定申告書に記載した社代保険料控除の額468,000円、生命保険料控除の額100,000円、損害保険料控除の額15,000円、配偶者控除の額380,000円及び基礎控除の額380,000円を合計した1,343,000円となる。
 なお、総所得金額が10,000,000円を超えることから、所得税法第83条の2《配偶者特別控除》第2項の規定により、配偶者特別控除の適用はない。
D 課税総所得金額
 課税総所得金額は、前記Bの総所得金額から前記Cの所得控除の額を控除して1,000円未満の端数を切り捨てて算定すると9,467,000円となる。
 以上の結果、請求人の平成7年分の課税総所得金額は、本件更正処分に係る課税総所得金額と同額となるので、本件更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 前記イのとおり、本件更正処分は適法であり、更正処分により増加した税額の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
 また、過少申告加算税の額は、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づき正しく計算されており相当である。

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3 判断

 税法上、生命保険金受取人の取得した保険金が、一時所得として所得税の課税対象となるのか、あるいは相続財産とみなされて相続税の課税対象となるのかは、その保険金に対応する保険料の負担者がだれであるかによって判定されるべきものであり、本件審査請求の争点は、本件保険料の負担者が請求人とJのいずれであるかにあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 死亡保険金等に対する課税関係
(イ)次のことについては、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査においても、その事実が認められる。
A 本件保険契約は、請求人を保険契約者及び保険金受取人とし、Jを被保険者としていること。
B 本件保険料及び平成4年1月までの請求人の国民年金の掛金は、G銀行口座から口座振替の方法により支払われていること。
C 請求人は、本件保険金等20,210,459円を受領していること。
D Jは、平成6年分までは請求人が営む事業の事業専従者であること。
E Jには、本件保険契約の締結日から同人の死亡日までの間に、収入はなかったこと。
(ロ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件保険契約の締結日から、Jの死亡による死亡保険金請求日までの間に、保険契約の内容及び保険契約者の変更はないこと。
B 第2回借入は、請求人自らR生命T支社に赴き、自己の運転免許証を提示して、本件保険契約の保険契約者であることを証明の上、契約貸付請求書に所定の事項を記載するなどの手続を行い、即日、借入金を現金で受領していること。
C R生命が、請求人に送付した平成7年分生命保険金・共済金受取人別支払調書(事業者控)の写しによれば、既払込保険料等の金額は、2,329,893円であること。
D G銀行口座には、請求人の事業専従者としてのJの労務の対価に見合う定期・定額の入金の事実はないこと。
E G銀行口座には、請求人の事業に係る得意先からの小切手や請求人の事業に関連すると思われる現金が入金されていること。
F G銀行口座には、本件保険料のほか、請求人に係る国民年金の掛金や家庭用電化製品の代金の支払い等があること。
(ハ)請求人は、Jは収入はなかったが、平成6年分までは所得税法第57条第3項に規定する請求人の事業専従者であるから、同条第1項に規定する事業専従者控除額の範囲内で、請求人の営む事業に係る収入の一部をJの労務の対価としてG銀行口座へ預金し、当該口座からJの意思で本件保険料を支払っていたものであるから、本件保険料の実質負担者はJであり、請求人が受領した本件保険金等は相続税法第3条第1項第1号に規定する相続財産とみなすべきである旨主張する。
 ところで、生命保険契約においては、商法第647条《他人のためにする保険―保険料支払義務》及び同法第683条《損害保険金に関する規定の準用》の規定により、保険契約者に保険料を支払う義務が課せられており、保険契約者が保険料を負担するのが通例である。
 しかしながら、保険契約者以外の者が保険料を負担している場合があることから、相続税法第3条第1項においては、保険料負担者と保険契約者が異なる場合があることを予定して受取保険金等の課税関係を規定しており、ここでいう保険料負担者とは、実質上の負担者をいうものと解されている。
 また、所得税法第57条第3項に規定する事業専従者控除は、同項に規定する青色申告者以外の申告者の事業に専ら従事する者が、事業専従者の要件に該当し、かつ、確定申告書にその旨の記載がある場合に、労務の対価の支払いの有無にかかわらず、一定額の労務の対価の支払いを擬制し、これを事業者の必要経費とみなす制度である。
 本件の場合、(1)前記(イ)のEのとおり、Jには収入はないこと、(2)前記(イ)のD及び(ハ)のとおり、Jは請求人の事業専従者であり、ここでいう事業専従者は、請求人から労務の対価の支払いの有無にかかわらず、一定額を必要経費とみなす制度であるから、請求人が現実にJの労務の対価をG銀行口座へ預金していたのであれば、当審判所に対し、Jに対する労務の対価の支払い内容を具体的に明らかにするとともに、労務の対価の支払いがあったことを証する帳簿書類等を提出すべきところ、これを行っていないこと、(3)前記(ロ)のDのとおり、G銀行口座へのJの毎月の労務の対価とみられる定期・定額の入金もないこと、(4)前記(ロ)のEのとおり、G銀行口座への入金は、請求人の営む事業に係る収入金が入金されていること及び(5)前記(ロ)のFのとおり、G銀行口座からの出金には、本件保険料の支払いのほか、請求人に係る国民年金の掛金や家庭用電化製品の代金の支払い等があること等を勘案すると、G銀行口座は、名義人はJであっても、請求人の家事費等の支払いの一部に充てるために請求人が自己の営む事業に係る収入金の一部を入金していたもの
と推認され、Jの労務の対価として、事業専従者控除額800,000円の範囲内でG銀行口座へ預金していたものとは認められないから、当該口座は、Jに帰属するものとは認められず、請求人に帰属する預金口座であると認められる。
 このことから、G銀行口座から支払われていた本件保険料の実質負担者は、請求人と解するのが相当である。
 したがって、事業専従者控除額の範囲内で請求人の事業収入の一部をG銀行口座に預金し、当該口座から本件保険料を支払っていたものであるから、本件保険料の実質負担者はJであるとする請求人の主張には理由がない。
(ニ)また、請求人は、本件保険契約はJが知らないうちに締結していたものであり、保険契約者が請求人名義になっていたことについて不知で、このことは、本件保険契約書の契約者記入欄の筆跡がJであることからみても明らかである旨主張する。
 しかしなから、前記(ロ)のBのとおり、第2回借入は、請求人自ら借入の手続きを行っていることからみても、請求人は、本件保険契約の保険契約者が請求人であることを認識していたことが認められ、また、契約者記入欄の筆跡がJであったとしても本件保険契約の内容に影響を及ぼすものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のことから、請求人の主張にはいずれも理由がなく、原処分庁が、本件保険料の実質負担者は請求人であると認定した上で、本件保険金等を請求人の一時所得として所得税の課税の対象になるとしたことは相当である。
ロ 課税総所得金額等
(イ)一時所得の金額
 一時所得の金額は、所得税法第34条第2項の規定により、本件保険金等20,210,459円から前記イの(ロ)のCの既払込保険料2,329,893円を控除した後の金額から、一時所得の特別控除額500,000円を控除した17,380,566円である。
(ロ)総所得金額
 総所得金額は、原処分庁の算定に誤りは認められないから、事業所得の金額2,120,000円に、前記(イ)の一時所得の金額17,380,566円の2分の1に相当する8,690,283円を加算した10,810,283円である。
(ハ)所得控除の額
 所得控除の額は、原処分庁が配偶者特別控除額について、所得税法第83条の2第2項の規定により、認められないとしたことは相当であり、また、原処分庁の算定に誤りは認められないから、1,343,000円である。
(ニ)課税総所得金額
 課税総所得金額は、原処分庁の算定に誤りは認められないから、9,467,000円である。
 以上の結果、請求人の平成7年分の課税総所得金額は、本件更正処分に係る課税総所得金額と同額となるので、本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 前記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が同更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った、本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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