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(平10.10.22裁決、裁決事例集No.56 184頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、特別養護老人ホームR荘、老人デイサービス事業及び老人在宅介護支援センター(以下「特別養護老人ホーム等」という。)の設置運営事業を営む社会福祉法人であるが、原処分庁は、請求人に対し、平成9年1月10日付で、平成7年12月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、源泉所得税の額を32,142,156円とする納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び重加算税の額を11,249,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成9年3月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月3日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年7月2日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 納税告知処分について
 請求人は、株式会社J(以下「J社」という。)との間で平成7年1月6日にR荘の新築工事請負契約金額を432,600,000円(以下「本件工事金額」という。)とする請負契約(以下「本件工事契約」といい、本件工事契約に係る書面を「本件工事契約書」という。)を締結した。
 また、請求人は、J社との間で平成7年2月1日に設備整備用の備品購入金額45,320,000円(以下「本件備品購入金額」といい、本件工事金額との合計金額477,920,000円を「本件工事金額等」という。)とする売買契約書(以下「本件備品購入契約書」といい、本件工事契約と併せて「本件工事契約等」という。)を締結した。
 原処分庁は、これに対し、本件工事金額には水増金額があり、当該水増金額は、平成7年12月13日にJ社から請求人の施設長であるH(以下「H」という。)名義のt銀行e支店の普通預金(口座番号×××××、以下「H預金口座」という。)へ振り込まれた73,294,000円(以下「本件金員」という。)であると認定し、本件金員は、本来請求人が受領すべきところ、社会福祉法人の設立に当たり必要な寄付金(以下「設置者負担金」という。)をHが調達するための資金として振り込まれたものであり、このことは、請求人が、本件金員をHに交付したものと認められるから、請求人からHへの経済的利益の供与であり、賞与に当たるとして本件納税告知処分を行った。
 しかしながら、請求人は、次の理由から、Hに対して経済的利益を供与する理由及びその事実もない。
(イ)本件金員は、HのJ社の代表取締役社長M(以下「M」という。)からの借入金であること。
(ロ)請求人は、本件金員相当額をHからの寄付金として受領し、J社へ本件工事金額等の残金として支払ったものであり、HとMとの間の金銭貸借については一切関与していないこと。
(ハ)本件工事契約は、J社及び株式会社S(以下「S社」という。)を含め5社の建築工事会社との指名競争入札を実施し、当該入札の結果締結されたものであり、原処分庁が主張する水増工事金額が存在する余地はないこと。
(ニ)原処分庁は、原処分に係る税務調査(以下「本件調査」という。)において、Hが、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対して、「R荘建築工事及び備品購入に際し、J社と契約した額477,920,000円(本件工事金額等のこと。)の内73,294,000円は、工事費の減額とし返納され法人の自己負担金として支払った。これは、施設整備、設備整備補助金の単価割れを防ぐためのものである。」旨を記載した平成8年12月17日付の事実申立書と題する文書(以下「本件事実申立書」という。)を提出していると主張するが、本件事実申立書は、調査担当職員が作成したものであり、Hが自己の責任において作成したものではなく、本件事実申立書の記載内容は、事実と異なること。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件納税告知処分は違法であり、その全部を取消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその全部を取消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 納税告知処分について
(イ)請求人名義のt銀行e支店の普通預金(口座番号×××××××、以下「請求人預金口座」という。)は、平成6年9月9日に開設されているにもかかわらず、本件金員の振込みに当たり、H預金口座を利用したのは、L県等からの補助金を受給する際、社会福祉法人の設立の主宰者等が寄付金の原資を有することの証明(預金残高証明)及び設置者負担金の資金調達の必要からである。
 また、H預金口座には、J社から本件金員のほか、平成6年12月26日に90,000,000円(以下「第1回金」という。)及び平成7年5月17日に91,000,000円(以下「第2回金」という。)の振込みがあるが、第1回金及び第2回金はL県等の補助金交付機関に提出するHの預金残高証明書を得るためのものと認められる。
 しかしながら、本件金員は、その振込日である平成7年12月13日にH預金口座から請求人預金口座に入金されており、当該入金は請求人の帳簿上、Hからの寄付金として処理され、L県等の補助金交付機関へもHから請求人への寄付金として報告されていることから、本件金員は、Hが設置者負担金の資金を調達するために振り込まれたものであり、単に、残高証明書作成のために振り込まれたものとは認められないこと。
(ロ)本件金員は、次の理由から、本件工事契約等において、本件金員相当額を水増しして調達されたものであると認められること。
A Hは、本件調査の際、調査担当職員に対し、「73,294,000円水増しした工事契約を締結し、その水増しした金額については法人の自己負担金として支払ったこと及び水増し工事契約を締結しなければ県等からの補助金の単価割れが生じる。」旨を申し立てている。
B 請求人は、平成9年3月13日に提出した異議申立ての追加理由書において、「社会福祉法人の認可に当たり、その設立母体の自己資金として73,294,000円が必要であり、その調達方法は建設工事会社との水増工事代金を充当することとしたが、建設工事会社から社会福祉法人への直接寄付は禁止されていることから、自己負担金がなければ法人建設(開所)ができないときの窮地の策として、やむを得ず、Hの個人名を借用した。」旨主張していることからも、本件工事契約等は、本件金員相当額が水増しされたものであることは明らかである。
(ハ)本件事実申立書は、調査担当職員が、Hに対して資金の流れ等についてその事実を書面に記載し、その記載した内容を確認の上署名押印して提出するように求めたところ、請求人の副施設長T(以下「T」という。)が代筆を申し出て、同人が作成したものであり、請求人の「原処分庁の調査担当職員が作成した」旨の主張は誤りである。
(ニ)本件金員は、HがMからの借り入れた旨の請求人の主張は、本件調査及び異議申立てに係る調査において主張されておらず、また、それを証する書類の提示もない。
(ホ)以上のことから、本件金員は、本来、本件工事金額等の減額として契約の当事者である請求人が受領し、固定資産取得価格を減額すべきものであるにもかかわらず、Hが受領し、これを請求人に対する設置者負担金としており、このことは、請求人が本件金員をHに交付したもので、請求人からHに対し経済的利益の供与があったものと認められるから、原処分は正当である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イのことから、請求人が、本来の工事請負契約の金額を水増しし、本件工事金額等に仮装した上、その返金の事実を隠ペいし、水増し部分の本件金員をHに交付したものであり、このことは、国税通則法第68条《重加算税》第3項に規定する重加算税の賦課要件に該当することから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件金員が、請求人からHに対する経済的利益の供与に当たるか否かにあるので、以下審理する。

(1)納税告知処分について

イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査したところによってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、平成7年5月1日付で設立登記された社会福祉法人であり、登記簿上の理事は、Y1名であること。
 また、請求人の施設である特別養護老人ホームR莊は、平成7年8月1日に開所していること。
(ロ)請求人の定款によれば、請求人の役員は、理事長がY(以下「Y」という。)であり、理事がH、T及びその他の者の3名と監事が2名であること。
ロ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件金員等の入出金状況及び請求人の経理状況は、次のとおりである。
A 本件金員は、H預金口座に振り込まれた平成7年12月13日に同額が引き出され、同日に請求人預金口座へ入金された後、J社のn銀行f支店の預金口座へ送金(以下、一連の入出金を「本件銀行取引」という。)されていること。
B 本件銀行取引は、請求人の帳簿上、まず、Hからの設置者負担金の寄付金収入として経理処理が行われ、その後、J社に対し本件工事金額の残金27,974,000円及び本件備品購入金額45,320,000円の合計額73,294,000円を支払った旨の経理処理が行われていること。
C 第1回金は、振り込まれた翌日に、L県に対する社会福祉法人認可申請書の添付資料として、また、第2回金は、振り込まれた日に社会福祉・医療事業団に対する借入申込書の添付資料として、それぞれH預金口座の残高証明書作成後、同額が同預金口座から出金され、請求人口座へ入金後J社のn銀行f支店の預金口座へ送金されていること。
 なお、請求人の帳簿上、第1回金及び第2回金については経理処理が行われていないこと。
D 請求人の平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度の本部会計収支計算書には、寄付金収入77,916,699円が計上され、この中にはHからの設置者負担金として本件金員相当額73,294,000円が含まれていること。
(ロ)社会福祉法人が、特別養護老人ホーム等を建設する場合の建物建築工事費、備品購入費等(以下「特別養護老人ホーム建築費用等」という。)に関する国及び県の補助金制度等並びに社会福祉・医療事業団の融資制度の概要は次のとおりであること。
A 国及び県の補助金制度は、平成3年11月25日付厚生省社第409号により厚生事務次官から各都道府県知事あてにされた「社会福祉施設等施設整備費及び社会福祉施設等設備整備費の国庫負担(補助)について」の通知の別紙「社会福祉施設等施設整備費及び社会福祉施設等設備整備費の国庫負担(補助)金交付要綱」(以下「本件交付要綱」という。)に基づくものであり、また、本件交付要綱の内容は、要旨次のとおりであること。
(A)本件交付要綱における社会福祉施設等は、老人福祉法第5条の3に基づく老人福祉施設であり、特別養護老人ホーム等は、当該社会福祉施設等に該当すること。
(B)特別養護老人ホーム建築費用等に関する補助金は、社会福祉施設等施設整備費補助金(以下「施設整備費補助金」という。)及び社会福祉施設等設備整備費補助金(以下、「設備整備費補助金」といい、施設整備費補助金と併せて「本件補助金」という。)であり、その交付金額算定方法は、次のとおりであること。
a 施設整備費補助金
 国等が定めた1平方メートル当たりの基準単価と建物建築工事費に基づく1平方メートル当たりの実額単価とのいずれか少ない金額に入所定員に基づく基準面積を乗じた金額の3/4(国が1/2、県が1/4)相当額の範囲内の額を交付する。
b 設備整備費補助金
 国等が定めた事業区分ごとの基準額と設備備品購入費等の実支出額とのいずれか少ない金額の3/4(国が1/2、県が1/4)相当額の範囲内の額を交付する。
(C)本件補助金の交付申請書は、事業計画書を添付して毎年7月25日までに、事業実績報告書は、建物建築請負契約書等を添付して、事業完了後25日以内又は翌年度4月5日のいずれか早い日までに県知事に提出すること。
B 社会福祉・医療事業団の融資制度は、社会福祉法人が老人福祉法に規定する老人福祉施設等を建設する場合に、社会福祉法人に対して福祉貸付資金を貸付ける制度であり、その貸付限度額は、原則として、社会福祉・医療事業団の算定基準額から、上記Aの(B)の補助金の交付算定額を控除した残額の80パーセントであること。
C 上記A及びBの補助金交付算定方法及び貸付限度額算定方法から、これらの補助金及び貸付金だけでは特別養護老人ホーム建築費用等を調達することができず、不足資金は、設置者負担金として、通常、特別養護老人ホーム等の設立の主宰者等からの寄付金により調達されていること。
 なお、各市町村の独自の予算により、補助金が交付される場合があり、本件においては、K村から補助金が交付されていること。
(ハ)請求人のL県に対する本件補助金の交付申請状況等は、次のとおりであること。
A 本件補助金の交付申請及び交付状況は、別表1及び別表3のとおりであり、本件補助金は、請求人の交付申請額と同額が交付されていること。
B L県に対する本件補助金の事業実績報告状況は、別表2のとおりであり、請求人がK村長あてに提出した平成7年8月25日付の事業実績報告書によると、請求人の自己負担金は73,294,000円であり、これは本件金員と同額であること。
C また、L県、K村からの補助金及び社会福祉・医療事業団からの借入金の状況並びにJ社及び株式会社E(以下「E社」という。)への特別養護老人ホーム建築費用等の支払状況は、別表3のとおりであること。
 なお、社会福祉・医療事業団からの借入金の償還期間は、20年であること。
(ニ)本件工事契約書及び本件備品購入契約書の記載内容は次のとおりであること。
A 本件工事契約書(ただし、抜粋である。)
(1)契約日 平成7年1月6日
(2)発注者 社会福祉法人 X会(請求人)理事長 Y
(3)請負者 株式会社 J
(4)請負代金額 432,600,000円
B 本件備品購入契約書(ただし、抜粋である。)
(1)契約日 平成7年2月1日
(2)買主 社会福祉法人 X会(請求人)設立代表者 Y
(3)売主 株式会社 J
(4)契約金額 45,320,000円
(ホ)Hは、本件調査に際し、調査担当職員に平成8年12月17日付でV税務署長宛の本件事実申立書を提出しており、その記載内容は、次のとおりである。
「R荘建築工事及び備品購入に際し(株)J社と契約した477,920,000円の内73,294,000円は、工事費の減額分として返納され、法人の自己負担金として支払った。これは、施設整備、設備整備補助金の単価割れを防ぐためのものであります。」
(ヘ)平成6年9月1日付で、社会福祉法人X会設立代表者YとE社との間で報酬額を10,506,000円とする設計監理業務委託契約(以下「本件設計監理契約」という。)が締結されていること。
(ト)J社は、平成8年12月に手形不渡事故を起し、事実上倒産しており、また、Mが行方不明で帳簿書類等の所在も不明であるが、同社の平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度の法人税の確定申告書によれば、当該事業年度末現在で、同社が請求人またはHに対して貸付及び寄付を行った事実並びに本件工事契約等に係る未収入金の計上は認められないこと。
(チ)平成6年9月12日付で、YとHとの間で「社会福祉法人X会の移譲に関する約定書」(以下「本件約定書」という。)が締結されており、その内容は要旨次のとおりであること。
 Y(以下「甲」という。)とH(以下「乙」という。)との間において、L県に認可申請中の社会福祉法人X会(以下「X会」という。)が運営する特別養護老人ホーム(以下「老人ホーム」という。)の建設及び運営の移譲に関する約定が次の各条項のとおり成立した。
第1条(権限の移譲)
 甲は、理事長として各理事とともに認可申請中のX会の認可後の運営、老人ホームの建設及び同ホームの運営の権限と責任の一切を乙に移譲し、乙はこれを譲受けて老人ホームを建設し、同ホームの土地建物その他同ホームの財産をX会に寄付し、その運営に当たるものとする。
第4条(理事の変更)
(1)X会の理事長及び理事は、認可申請中の甲とその理事が就任する。なお、認可後は乙は筆頭理事、乙が指名する1名が理事に就任し、乙は筆頭理事として理事長の職務を行う。
(2)X会設立認可の日から2年経過する日をもって甲及び現理事は退任する。
(リ)Hは、当審判所に対し、後記ニの(ニ)のとおり本件金員はMからの借入金である旨答述し、その旨を証する書面(以下「本件借用証」という。)を提出したが、その記載内容は、要旨次のとおりであること。
(1)名称 借用証
(2)金額 一金七千参百二拾九万四千円也
(3)記載内容 M様、上記金額正に借用しました。但し利息は無利息とす。返済については、医療事業団の返済が終り次第若しくは地元信用組合の返済が終了後、返済を開始、出来るかぎり早く返済出来るよう努力いたしますことを誓います。
平成7年12月13日 H
ハ Yは、当審判所に対して次のとおり答述していること。
(イ)請求人の設立手続等に関して、当初は、設立発起人代表者として、設立認可申請等の手続を行っていたが、L県から認可の通知がないまま、約10年間が経過し、L県から補助金の交付決定内定通知があったのは、平成6年3月頃であった。
(ロ)特別養護老人ホーム等の設立に当たっては、設立の主宰者等が設置者負担金を支出する必要があるが、L県に対する認可申請手続から補助金の交付決定内定通知を受けるまでの間に、自分が理事長である医療法人G病院の建物新築に資金を投入した関係から、設立を断念せざるを得なかった。
(ハ)しかし、L県から補助金の交付決定内定通知があったことから、K村村長、同村議会議長等と他に適任者がいないかと検討したところ、民生委員歴の長いHが適任ということになり、K村村長、同村議会議長の立会いの下に、Hとの間で、本件約定書を締結するに至った。
(ニ)したがって、本件約定書締結後の請求人の設立手続や運営関係については、全く関与しておらず、本件工事契約に関する内容についても全く分からない。
 また、請求人の理事長印は、Hが保管しており手許にはない。
(ホ)なお、請求人の理事長の名義がそのままになっていることについては、当初の設立手続や補助金交付決定内定通知書等の名義人がYであったことから、本件約定書の第4条(理事の変更)において、社会福祉法人X会の設立認可から2年を経過する日をもってYは退任する旨を約したが、現在も変更されていないこと。
 その理由は、特別養護老人ホームの理事長と施設長との兼任ができないというHの都合から交代が延びてしまっていること。
ニ Hは、当審判所に対して次のとおり答述していること。
(イ)請求人の設立に当たり、当初の設立発起人であったYが請求人の設立を断念し、K村村長、同村議会議長から民生委員歴約30年で、保育園の園長でもあるという理由から、請求人設立の主宰者に就任の要請を受けた。
 自分自身も設置者負担金はなかったが、J社が、国、県等の申請に必要な寄付予定者の預金残高証明書を作成するからと誘いを受け、請求人の施設長となる予定で設立の主宰者となることを引き受けた。
(ロ)H預金口座の開設は自分で行ったが、同預金口座の通帳及び印鑑は、J社からの入金の都度同社の管理課長W(以下「W課長」という。)に預け、同口座からの出金、請求人預金口座への入出金及びJ社への送金手続は同人が行っていた。
(ハ)本件工事契約に関する指名競争入札の経緯は、次のとおりである。
A L県から補助金の交付決定内定通知があったことから、約15社からの指名願いを受け、平成6年12月6日に社会福祉法人F寺福祉会の保育園事務室で役員会を開催し、指名業者を5社に決定し、同年12月8日に入札通知及び同月11日に建物の仕様書を各指名業者に送付した。
B 指名競争入札は、平成6年12月28日の午前10時から宗教法人F寺の本堂において、各指名業者から委任状により委任を受けた担当者が出席し、入札書による入札を行い、その結果、J社との間で本件工事契約を締結するに至ったものである。
C 本件工事契約が締結されるまでの間のL県に対する補助金交付申請に係る建物新築工事見積額は、E社が算定した見積額433,630,000円としていた。
 また、E社は、J社のP地区営業所長Z(以下「Z」という。)からの紹介であり、同社は、J社が行う病院建築等の設計監理業務を行う会社であると聞いている。
(ニ)本件事実申立書は、今までに税務調査を受けた経験がなく、事態を認識する余裕もなかったことから説明する言葉を失い、調査担当職員の言うままにTが記載し、Hが署名押印したものである。また、その記載内容は事実と異なり、本件金員は、Mからの借入金であり、本件金員相当額は、本件工事金額等の残金としてJ社に支払った。
ホ Zは、当審判所に対して次のとおり答述していること。
(イ)社会福祉法人の設立には、設置者負担金が必要であるが、Hから設置者負担金相当額の自己資金がない旨の相談を受け、その旨をMに伝えたところ、MとHが話合い、福祉事業は基本的には資金がない者にはできない慈善事業であるが、このままでは、特別養護老人ホーム等の運営ができず大変であることから、L県等に対する寄付予定者の残高証明書作成のための資金を、J社の口座からH預金口座へ第1回金及び第2回金として振込んだ。
 また、本件金員は、MからHに対する貸付金である旨Mから聞いている。
(ロ)第1回金、第2回金及び本件金員の入出金手続は、すべてJ社のW課長が行っており、また、L県等への提出書類、寄付予定者の残高証明書作成手続は、J社の取締役商品開発部長N(以下「N部長」という。)が行った。
ヘ S社の代表取締役Q(以下「Q」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
(イ)請求人の建物建築工事は、積極的に受注したいというものではなかったことから、時期は明確に覚えていないが、r県内の納品業者から平成6年の秋頃に情報を得て、入札に参加することになった。
(ロ)入札に当たっては、事前に請求人から委任状及び入札書の用紙の送付があり、図面に基づき積算した見積金額を入札書に記載し、入札書及びQを入札に関する代理人として権限を委任する旨を記載した委任状を郵便により請求人へ送付した。
 したがって、入札会場には出席しておらず、入札の実施日、場所及び他の入札参加業者等については全く分からない。
ト 前記イ及びロの事実並びに前記ハないしヘの答述を基に判断すると次のとおりである。
(イ)本件工事契約等
 本件工事契約等に水増相当分があるか否かについて検討すると次のとおりである。
A 請求人は、本件金員はHがMから借り入れたものである旨主張し、Zも前記ホの(イ)のとおり同様の答述を行っている。
 しかしながら、(1)本件借用書は、前記ロの(リ)のとおりの記載内容であるところ、Mが73,294,000円もの高額な金員を無利子、無担保で、具体的な返済方法も定めず、しかも返済開始時期が、社会福祉・医療事業団からの借入金の返済終了後(20年後)という長期の返済猶予期間を設けて貸し付ける合理的な理由がなく、(2)Hが提示した本件借用証は、本来、金銭の貸主がその旨を証する書面として保有するものを借主であるHが持っていること自体が不自然であると言わざるを得ないことから、本件借用書は、本件金員をHがMから借り入れたことを証する資料とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人及びZの答述は採用することができない。
B 請求人は、本件工事契約は指名競争入札を行った結果に基づくものであり、水増工事金額が存在する余地はない旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張する指名競争入札参加業者であるS社のQは、前記への(ロ)のとおり、入札書及び委任状は請求人に郵送し、入札会場には出席しておらず、入札実施日、場所及び他の入札参加業者等については分からない旨答述していることから、本件工事契約は、請求人が主張するように指名競争入札実施日に各指名業者の委任を受けた担当者が一同に会し、その立会いの下に入札書の提出後、開札し、最低価格で落札するという正式な指名競争入札を経て、請求人とJ社との間で締結されたものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
C 上記のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がないから、本件工事契約等について検討すると、次のとおりである。
(A)Hは、前記ニの(イ)のとおり、K村村長等から請求人設立の主宰者に就任の要請を受けたが、同人には、請求人に対し、設置者負担金相当額を提供できる資金はなく、J社が、県等への申請に必要な寄付予定者の預金残高証明書を作成するからと誘いを受け、請求人の設立の主宰者となった旨答述していること。
(B)寄付予定者の預金残高証明書作成のための資金は、J社から前記ロの(イ)のCのとおり、第1回金及び第2回金としてH預金口座に振り込まれており、当該残高証明書やL県等に対する提出書類の作成手続は、前記ホの(ロ)のZの答述から、J社のN部長が行ったものと認められること。
(C)請求人がL県に提出した平成6年8月31日付平成6年度施設整備費補助金交付申請に係る建物工事費計画額433,630,000円は、前記ニの(ハ)のCのHの答述から、J社が行う病院建築等の設計監理業務を行っているE社が算定した見積額であること。
(D)上記Bのとおり、本件工事契約は正式な指名競争入札が行われたとは認められないこと。
 以上のことから、本件工事契約は、HがYから請求人の設立の主宰者を引受け、本件約定書を締結した平成6年9月12日の時点で、請求人とJ社との間で締結することが既に決定されていたものと推認するのが相当である。
D Hは、原処分庁の調査担当職員に対し、前記ロの(ホ)のとおり、J社との間で契約した本件工事金額等の内、本件金員相当額73,294,000円は、L県からの補助金の単価割れを防ぐために水増しされたものであり、本件金員は本件工事契約等に係る工事費の減額として返納された旨の本件事実申立書を提出していること。
E 本件工事金額等から本件金員相当額を減算したところにより、本件補助金交付要綱に基づき本件補助金額を算定すると、建物建築工事費の実支出額に基づく1平方メートル当たりの単価が、国等が定めた1平方メートル当たりの基準単価に満たないこと(以下「単価割れ」という。)になり、本件補助金は29,521,000円相当額が減額されることとなると推認されること。
F 上記AないしEのことから、本件金員は、HのMからの借入金であり、また、本件金員相当額は本件工事金額等の残金としてJ社へ支払っていることから本件工事金額等は水増しされたものではない旨の請求人の主張は採用することができず、請求人は、特別養護老人ホーム等の設立に当たり、本件補助金の単価割れを防ぐために、すなわち、請求人の設立に当たりHが負担することとしていた設置者負担金を捻出するために本件金員相当額73,294,000円を水増しして本件工事契約等を締結したものと推認するのが相当である。
(ロ)本件金員
 原処分庁は、本件金員を、本件工事金額等の減額として請求人が受領すべきものである旨主張するので検討すると、次のとおりである。
A 本件工事契約は、上記(イ)のとおり、本件補助金の単価割れを防ぐため、本件金員相当額が水増しされたものであると推認されるところ、請求人からL県に対し、平成7年2月10日付及び同年8月25日付で提出された事業実績報告書(以下「本件事業実績報告書」という。)の内容は別表2のとおりであり、建物建築工事費は、本件工事金額である旨報告されていることから、請求人は、本件事業実績報告書が正当であることを取り繕うために、本来支払う必要のない水増しされた金額(本件金員相当額)を設置者負担金とし調達し、J社へ支払った旨の実績(本件銀行取引)を作る必要があったと認められる。
B 加えて、前記ニの(イ)のとおり、Hには設置者負担金相当額の資金はなかった旨答述していることから、請求人はHの設置者負担金相当額を捻出するため、本件金員相当額をJ社から資金提供を受けたものであると認められる。
C この資金提供は、前記トの(イ)で判断したとおり、本件金員相当額73,294,000円が本件工事契約等の水増しであり、同額をHは借り入れたとする証拠はないことから、H預金口座にJ社から振り込まれた73,294,0000円は、返済を要しない資金提供がなされたものと推認するのが相当である。
D 次に、HがJ社から資金提供を受けた金員の帰属であるが、(1)資金提供された金銭の原資は、結果的に本件工事契約等の水増し金額でまかなわれていること、(2)本件工事契約等の契約は、請求人とJ社との間で締結されていること、(3)Hの請求人に対する寄付金の資金捻出のため当初から計画されていたスキームであると推認できることからすると、法的にも実質的にも本件金員相当額73,294,000円は請求人に帰属するものと解するのが相当である。
E よって、本件金員相当額73,294,000円は、請求人がJ社から返金を受け、同額を請求人の理事であるHに贈与したものと判断した原処分は相当である。
(ハ)経済的利益の供与の有無
 原処分庁は、本件金員は、水増しされた本件工事金額等の減額として請求人が受領すべきところ、Hの設置者負担金の原資として調達された資金であり、請求人がHに交付し経済的利益を供与した旨主張するので検討すると次のとおりである。
A 本件金員は、前記(ロ)で審理したとおり、水増しされた本件工事金額等の水増相当額を請求人が受領すべきであるところ、Hの設置者負担金の原資に充てたものであると認められることからすると、このことは、請求人が本件金員相当額をHに交付し経済的利益を供与したことに当たることとなる。
B ところで、法人税法第35条《役員賞与等の損金不算入》第4項では、賞与とは、役員又は使用人に対する臨時的な給与のうち、他の定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいうとし、賞与には債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む旨規定しており、経済的利益とは、法人がこれらの行為をしたことにより、実質的にその役員等に対して賞与を支給したと同様な経済的効果をもたらすものをいうと解される。
C これを本件についてみると、請求人の主宰者であるHは理事の職務にあり、法人税法上役員に当たることから、本件金員は臨時的なものであることは明らかであることからすれば、請求人が本件金員相当額をHに対して賞与を支給したものであると認定した原処分の本件納税告知処分は相当である。

(2)重加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり本件納税告知処分は、適法であり、また、請求人は上記(1)のとおり、工事請負契約の金額を水増しし、本件工事金額等に仮装した上、その返金の事実を隠ペいし、水増し部分の本件金員をHに交付したものと認められ、このことは、国税通則法第68条第3項に規定する重加算税の賦課要件に該当することから、同項の規定に基づいてされた重加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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