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(平10.9.3裁決、裁決事例集No.56 274頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、紙製品卸売業を営む法人であるが、平成7年11月30日にビル賃貸業及び損害保険代理業を営んでいたJ株式会社(以下「被合併法人」という。)を吸収合併した。
 被会併法人は、平成6年4月1日から平成7年3月31日までの事業年度(以下「平成7年3月期」という。)の法人税について、青色の確定申告書に所得金額を61,323,104円、納付すべき税額を22,049,600円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 請求人は、被合併法人の平成7年4月1日から同年11月29日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に所得金額を22,058,041円、納付すべき税額を7,725,400円と記載して、平成8年2月6日に申告した。
 E税務署長は、これに対し、R国税局の職員の調査に基づき、平成9年4月30日付で本件事業年度の法人税について、欠損金額を80,917,181円、納付すべき税額を零円、翌期へ繰り越す欠損金を80,917,181円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
 請求人は、法人税法第81条《欠損金の繰戻しによる還付》第4項の規定に基づいて、被合併法人の平成7年3月期の所得に対する法人税の額につき、本件事業年度の欠損金額のうち61,323,104円を繰戻し、法人税額22,236,056円の還付請求(以下「本件還付請求」という。)をする旨を記載した欠損金の繰戻しによる還付請求書(以下「本件還付請求書」という。)を平成9年5月19日に提出した。
 E税務署長は、これに対し、R国税局の職員の調査に基づき、平成9年10月23日付で本件還付請求書が合併による解散の事実が生じた日以後1年以内に提出されていないため、法人税法第81条第4項の規定に該当しないとして、本件還付請求に理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、本件通知処分を不服として平成9年12月16日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成10年2月24日付で棄却の異議決定をしたので、同年3月20日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人が本件還付請求書を合併による解散の事実が生じた日以後1年以内に提出できなかったのは、本件更正処分が当該期限を既に徒過していたのが原因であり、また、請求人は、本件更正処分により本件事業年度が欠損事業年度になったため、本件還付請求をしたのであるから、更正処分の時期によって欠損金の繰戻しによる還付請求ができないのは、不公平な取扱いであり、法の趣旨に反する。
ロ 請求人は、本件事業年度の法人税の確定申告において、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第62条の2《新規取得土地等に係る負債の利子の課税の特例》第2項第3号に規定する新規取得土地等に係る累積損金不算入負債利子額の損金算入(以下、この規定による特例措置を「本件特例」という。)をしなかったため、本件更正処分を受けたものである。
 しかしながら、仮に、請求人が本件特例の適用を誤っていたとしても、本件更正処分により生じた被合併法人の欠損金は、請求人に引き継ぐことができないのであるから当該欠損金を損金に算入する機会がなく、救済の方法がないことになるので本件還付請求を認めないのは不合理というべきである。

(2)原処分庁の主張

原処分は、次のとおり適法であるから審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 法人税法第81条第4項は、内国法人につき解散、営業の全部の譲渡、会社更生法又は金融機関の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続の開始その他これらに準ずる事実で政令で定めるもの(以下「解散等」という。)が生じた場合の欠損金の繰戻しによる還付は、解散等の事実が生じた日以後1年以内に請求することができる旨規定しているところ、本件還付請求書は、当該期限を徒過した平成9年5月19日に提出しているのであるから本件還付請求は、法令に規定する要件を欠いているため認められない。
ロ なお、請求人は、本件還付請求書を合併による解散の事実が生じた日以後1年以内に提出できなかったのは、本件更正処分が当該期限を既に徒過していたのが原因であり、更正処分の時期によって欠損金の繰戻しによる還付請求ができないのは不公平な取扱いであり、法の趣旨に反する旨主張するが、更正処分は、国税通則法(以下「通則法」という。)第70条《国税の更正、決定等の期間制限の特例》に規定する期間内であれば、これをなし得るものであり、当該期限までにこれをしなければならないとする規定はない。また、合併による解散が上記イに規定する解散等に該当しないという特段の規定はなく、かつ、欠損金の繰戻しによる還付請求が期限を徒過した場合のゆうじょ規定も存しないのであるから、請求人の主張には理由がない。
ハ また、請求人は、本件更正処分により生じた被合併法人の欠損金は、請求人に引き継ぐことができないのであるから当該欠損金を損金に算入する機会がなく、救済の方法がないことになるので、本件還付請求を認めないのは不合理である旨主張するが、本件更正処分により欠損金が生じたのは、請求人が本件特例の適用を誤っていたことに起因するのであるから、上記イのとおり、法令に規定する要件を欠いた本件還付請求を認めないとしたことに不合理はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件還付請求について、法人税法第81条の規定の適用があるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件通知処分について

イ 法人税法第81条第1項及び第4項は、解散等の事実が生じた場合において、当該事実が生じた日前1年以内に終了したいずれかの事業年度又は同日の属する事業年度の欠損金額がある場合には、その内国法人は、当該事実が生じた日以後1年以内に、納税地の所轄税務署長に対し、当該欠損金額に係る事業年度(以下「欠損事業年度」という。)開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度の所得に対する法人税の額に、当該いずれかの事業年度の所得の金額のうちに占める欠損事業年度の欠損金額に相当する金額の割合を乗じて計算した金額に相当する法人税の還付を請求することができる旨規定している。
ロ 措置法第62条の2第2項第3号は、法人の各事業年度(清算中の各事業年度を除く。)が解散その他の政令で定める事実が生じた日を含む事業年度に該当する場合には、当該事業年度終了の時において有する当該新規取得土地等に係る累積損金不算入負債利子額の合計額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定している。
ハ これを本件についてみると、本件還付請求書は、合併による解散の事実が生じた日の平成7年11月30日以後1年5か月以上も経過した平成9年5月19日に提出されていることから、上記イに規定された要件を欠く不適法な還付請求であることは明らかである。
ニ なお、請求人は、本件還付請求書を合併による解散の事実が生じた日以後1年以内に提出できなかったのは、本件更正処分が当該期限を既に徒過していたのが原因であり、更正処分の時期によって欠損金の繰戻しによる還付請求ができないのは、不公平な取扱いであり、法の趣旨に反する旨主張する。
 しかしながら、通則法第24条《更正》によれば、税務署長は、納税申告書の提出があった場合において、その納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正するとしており、更正処分は、通則法第70条に定める期間内であれば、何時でもこれをなし得るのであり、しかも、合併による解散の事実が生じた日以後1年以内にこれをしなければならないとする規定はない。
 一方、欠損金の繰戻しによる還付請求は、たとえ確定申告において本件特例を適用しないで申告していたとしても、合併による解散の事実が生じた日以後1年以内であれば、何時でもできることであって、更正処分がなければこれができないものではなく、一件記録を精査してみても、請求人がその責に帰すべからざる事由によって還付請求書を提出することができなかった事実を見い出すことはできない。また、欠損金の繰戻しによる還付請求が期限を徒過した場合のゆうじょ規定も存しない。
 したがって、本件還付請求書を当該期限までに提出することができなかった原因が原処分庁にあるとして本件還付請求が認められるべきであるとする請求人の主張には理由がない。
ホ また、請求人は、本件更正処分により生じた被合併法人の欠損金は請求人に引き継ぐことができないのであるから、当該欠損金を損金に算入する機会がなく、救済の方法がないことになるので、本件還付請求を認めないのは不合理である旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、請求人が本件事業年度において、本件特例を適用しなかったため、本件更正処分をしたものであり、仮に、請求人が本件特例を適用して正当なる申告を行っていれば、上記イの規定に基づき適法に欠損金の繰戻しによる還付請求をすることができたにもかかわらず、このことをしなかったのであるから、当該欠損金を損金に算入する機会がなくなったとしても、これはやむを得ないことであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上のとおり、本件還付請求は、法人税法第81条に規定する要件を満たしていないから、原処分庁が本件還付請求に理由がない旨の通知処分をしたことは適法である。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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