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(平10.12.8裁決、裁決事例集No.56 291頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、香港に住所を有し平成2年2月8日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したH(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に次表の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、次表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成4年7月7日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成5年1月22日付で次表の「更正」欄のとおりとする更正処分(以下「当初更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「当初賦課決定処分」といい、当初更正処分と併せて「当初更正処分等」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成5年3月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月6日付で次表の「異議決定」欄のとおり、当初更正処分については棄却の、当初賦課決定処分については一部取消しの異議決定をした。
 その後、原処分庁は、平成5年7月30日付で次表の「再更正」欄のとおりとする再更正処分(以下、「再更正処分」といい、当初更正処分と併せて「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、「再賦課決定処分」といい、当初賦課決定処分と併せて「本件賦課決定処分」と、また、再更正処分と併せて「再更正処分等」という。)をした。

 請求人は、異議決定を経た後の当初更正処分等に不服があるとして、平成5年8月2日に審査請求(以下「当初審査請求」という。)をした。
 また、請求人は、再更正処分等を不服として、平成5年9月16日に異議申立てをしたところ、当該異議申立書が平成5年12月10日に当審判所に送付されたため、国税通則法第90条《他の審査請求に伴うみなす審査請求》第3項の規定により、同日付で審査請求がなされたものとみなされた(以下、これと当初審査請求とを併せて「本件審査請求」という。)ので、当初審査請求と併合審理をする。
 なお、請求人は自身の住所を平成3年1月25日にP市L町六丁目10番39―713号からQ市N町二丁目24番10―404号へ、平成10年9月13日に同地から肩書地へ移動したが、これに伴い、原処分庁はE税務署長からF税務署長を経てG税務署長となった。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法かつ不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 原処分庁は、本件相続税について請求人が申告した財産のほかに香港に所在する本件被相続人の財産(以下「香港所在財産」という。)が別表1に記載のとおり(以下、別表1記載の財産を「本件財産」という。)存在すると認定して本件更正処分及び本件賦課決定処分をしているが、請求人は、原処分庁が認定した本件財産の存在について全く承知しておらず、また、その確認もできないものである。
 したがって、原処分庁は本件財産について確実な証拠をもってその存在したこと及びその財産の価額が相当であることを明らかにすべきであるところ、次のことが全く明らかにされていない。
(イ)原処分庁は、本件被相続人の共同相続人で請求人の姉であるJ(以下「J」という。)及び請求人の兄であるK(以下、「K」といい、Jと併せて「Jら」という。)が、1991年6月28日に香港政庁に対し、香港所在財産について記載した香港の相続税の申告書(以下「香港申告書」という。)を提出し、次いで、1991年9月15日に香港申告書に係る修正申告書(以下「香港一次修正申告書」という。)を提出し、さらに、1992年4月16日に香港申告書に係る修正申告書(以下、「香港二次修正申告書」といい、これら3つの申告書を併せて「香港各申告書」という。)を提出しているとし、香港各申告書による本件財産は香港所在財産として相当なものであるとしている。しかしながら、香港各申告書を何によって確認したのか疑問である。
(ロ)原処分庁は本件財産はJらの香港各申告書によったものであるとしているが、その申告の内容が適正であるかどうかについて、何によってどのように確認したのか疑問である。
(ハ)本件財産が本件相続開始日において、本件被相続人の遺産として真実存在したことを示す確実な証拠がない。
(ニ)原処分庁は、香港各申告書に記載された財産の価額の邦貨換算額をもって香港所在財産の価額とし、その価額が相当であると認定しているが、本件財産の個々の価額について相続税法第22条《評価の原則》及び相続税財産評価に関する基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成2年3月28日付直評3ほかによる改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)に照らし相当であるか疑問である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法かつ不当であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法かつ正当であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)異議審理庁が調査したところ、次の事実が認められる。
A 本件被相続人の相続人は、請求人及びJら(以下「請求人ら」という。)の3人であること。
 なお、Jは非嫡出子であるため、請求人及びKの法定相続分はそれぞれ5分の2となり、Jのそれは5分の1となること。
B 本件被相続人の遺産は、請求人らの間においていまだ分割されていないこと。
C Jらは、香港政庁に対して香港各申告書を提出していること。
D 香港各申告書によれば、香港所在財産は別表1の「所在等」欄記載のとおりと認められること。
E Jらは、香港各申告書に係る本税を、1991年10月10日及び同月15日に合わせて6,316,470ドル(香港ドルを示す。以下同じ。)、1992年4月16日に5,774,342.06ドル香港政庁に納税していること。
F 下記の日における香港ドルの電信買相場及び電信売相場は下記のとおりであること。
 平成2年2月8日  (本件相続開始日)     電信買相場 18.21円
 1991年6月28日(香港申告書提出日)    電信売相場 18.22円
 1992年4月16日(香港二次修正申告書提出日)電信売相場 17.70円
G 本件相続開始日におけるJらの住所は、香港△△△―△△であること。
(ロ)香港所在財産について
A 上記(イ)のC及びDに記載した事実及び原処分庁の調査によれば、港香所在財産は、本件財産のとおりである。
B なお、請求人は、本件財産についてはその存在について全く承知しておらず、また、これについて確認できないものである旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、答弁書において本件財産の明細を示していること、また、請求人は、平成4年2月1日に平成3年(家*)第****号遺産分割調停事件に係る平成4年1月16日付の上申書の写しをE税務署長に提出しており、その上申書には本件財産の一部の目録が記載されていることから、請求人の主張には理由がない。
(ハ)香港所在財産の価額について
 本件相続開始日現在における香港所在財産の価額は、Jらが香港各申告書により申告した価額が相当と認められるが、Jらが香港ドルにより申告した財産については邦貨に換算する必要があるところ、香港所在財産を香港ドルにより処分するとした場合には、受け取った香港ドルを為替銀行に売却し邦貨に換金することになるから、本件相続開始日現在における、香港所在財産の邦貨換算レートは、為替銀行の電信買相場によるのが相当であると認められるところ、本件相続開始日における電信買相場は上記(イ)のFのとおり、18.21円であるから、香港所在財産を邦貨換算した場合の価額は、別表1に記載したとおり1,222,193,616円となる。
(ニ)相続税の課税価格に算入される香港所在財産の価額について
 相続税法第11条の2《相続税の課税価格》第2項の規定及び上記(イ)のGの事実から、Jらが取得する香港所在財産については、相続税の課税対象とならない。
 したがって、相続税の課税価格に算入される香港所在財産の価額は、相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》の規定並びに上記(イ)のA及びBの事実から、上記(ハ)の金額に5分の2を乗じて算出した488,877,446円となる。
(ホ)債務控除について
 本件被相続人の債務及び葬式費用の合計額は別表3の「債務等の合計額」欄に記載したとおりであるところ、上記(イ)のA及びGに記載した内容並びに相続税法第13条《債務控除》の規定により、相続財産から控除される金額は、別表2―3の「債務と葬式費用の合計額」欄に記載したとおり162,439,908円となる。
(ヘ)外国税額控除額について
 相続税法第21条《在外財産に対する相続税額の控除》の規定及び上記(イ)のEの事実から、当該Eに記載した金額の合計額12,090,812.06ドルの5分の2相当額は、請求人の納付すべき相続税額の計算上控除される。
 なお、当該控除額については邦貨に換算する必要があるところ、香港政庁に香港の相続税を納付するためには、それを納付すべき日に香港ドルを為替銀行から購入して納付しなければならないから、当該控除額の換算レートは、納付すべき日の為替銀行の電信売相場によるのが相当であると認められるところ、香港申告書及び香港二次修正申告書を提出した日における電信売相場は上記(イ)のFのとおりであるから、外国税額控除額は次の算式により計算した86,916,774円となる。
(6,316,470ドル×18.22円+5,774,342.06ドル×17.70円)×5分の2
(ト)以上述べたこと及び原処分庁の調査によれば、本件相続税の総遺産価額及び債務等の合計額は別表2―3の「総遺産価額」欄及び「債務と葬式費用の合計額」欄に記載したとおりであるところ、本件被相続人に係る相続財産は請求人らの間でいまだ分割されていないから、上記(イ)のA及びGに記載した内容に基づき計算すると請求人の相続財産の取得額及び債務控除額は、別表4の(2)の「(a)」欄及び「(b)」欄のとおり、それぞれ614,798,072円及び79,511,729円となり、請求人の課税価格及び納付すべき税額は同表の(2)の「(d)」欄及び「(J)」欄のとおり、それぞれ535,286,000円及び123,676,300円となるから、これと同額でした本件更正処分は適法かつ正当である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イの(ト)で述べたとおり、本件更正処分は適法であり、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法かつ正当である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、香港所在財産の存否及びその価額の適否であるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)本件被相続人の相続人は、請求人、J及びKの3人であり、その法定相続分は、請求人及びKが5分の2、Jが5分の1であること。
(ロ)本件相続開始日におけるJらの住所は、香港にあること。
(ハ)本件被相続人の遺産の分割については、M家庭裁判所において調停中であり、いまだ成立していないこと。
ロ 原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)Jらは、平成2年8月8日に請求人とともに本件相続税の申告をしたが、平成4年6月26日に香港所在財産が申告もれであったとして修正申告をしたこと。
(ロ)本件更正処分の内容は、次のとおりであること。
A 国内に所在する本件被相続人の財産(以下「国内財産」という。)の減額に伴う課税価格の減額
(a)株式会社R、株式会社S及び株式会社Tの株式数の減少に伴う有価証券の価額の減額及び(b)慰謝料請求権の相続分の誤りに伴う減額を行っている。
B 香港所在財産の新規認定に伴う課税価格の増額
 香港所在財産について本件財産のとおりと認定して、請求人の法定相続分に対応する価額を課税価格に算入している。
C 上記Bに伴う外国税額控除額の発生
 上記Bのとおり香港所在財産を本件財産のとおりと認定したことに伴い、本件財産に課せられた香港の遺産税を外国税額控除額として税額控除している。
(ハ)本件被相続人は、1988年6月1日から1989年9月21日までの間に本件被相続人及び請求人らの名義を使用して、日本から香港に送金しており、その額は確認されているだけでも、1,003,000,000円を超えていること。そして、この送金の基となった資金の一部は金融機関から借り入れられたものであり、当該金融機関に対する融資の申込み理由は、香港での不動産の取得となっていること。
(ニ)下記の日における香港ドルの電信買相場及び電信売相場は、下記のとおりであること。
 平成2年2月8日   電信買相場 18.21円
 1991年6月28日 電信売相場 18.22円
 1992年4月16日 電信売相場 17.70円
(ホ)香港の遺産税法には、(a)財産査定の一般原則として相続税が課税される財産の価額は公開市場で死亡日に売却される価額であると定められていること、また、(b)株式市場での価額のない株式は、故人の死亡日直近の会社の貸借対照表を基に税務当局が査定すること及び不動産は、通常、納税者と税務当局とで交渉され合意に達すると定められていること。
ハ 請求人は、平成10年6月9日に当審判所に対して、本件被相続人の遺産分割について調停が行われていること及びその進展状況について、香港所在財産は本件財産以上にあると思うが、本件財産の1,200,000,000円(別表1の「合計」欄の金額の邦貨換算額の概算)で妥協して調停を成立されるつもりである旨申述するとともに、「調停条項(案)」及び「遺産目録」と題する書面を提出したが、この遺産目録の内容は次のとおりである。
 この遺産目録には、国内財産及び「香港資産」の記載があり、同内財産については別表2―1から別表2―3までに記載の国内財産がすべて記載されていること、また、「香港資産」については本件財産と一致していること。
ニ Kは、平成10年6月29日に当審判所に対し、1998年6月25日付の「香港政庁に提出した遺産宣誓書等について」と題する書面並びに同人が本件被相続人の遺産税に関して香港政庁に提出した書類及び遺産税の納税を証する書類の写しを提出したが、これらの書面等にはおおむね次のことが記載されている。
(イ)香港政庁に提出した遺産宣誓書等について
A 1992年4月16日現在で、香港税務当局に宣誓した香港所在財産及びその価額は別表5記載のとおりであること。
B 香港遺産税署に納付した遺産税は次のとおりであること。
(A)納税日 1991年10月10日 納税額 5,721,640.92ドル
   納税日 1991年10月15日 納税額 1,350,000.00ドル
                   合計  7,071,640.92ドル
               (このうち本税 6,316,470.00ドル)
(B)納税日 1992年4月16日 納税額 6,659,744.00ドル
               (このうち本税 5,774,342.06ドル)
(ロ)遺産税に関して香港政庁に提出した書類
A 1991年6月28日に提出した遺産宣誓書
 宣誓内容は、別表5に記載の財産及びその価額から下記のB及びCの修正分を除いたものである。
B 1991年9月15日に提出した修正遺産宣誓書
 修正内容は、債務(未納所得税)162,450ドルの計上もれによる減額である。
C 1992年4月16日に提出した修正遺産宣誓書
 修正内容は、貸付金32,079,678.12ドル(Wリミテッドに対するもの6,126,161.40ドル及びXリミテッドに対するもの25,953,516.72ドル)の計上もれによる増額である。
(ハ)遺産税の納税を証する書類
A 1991年10月10日に納税した遺産税を証する書類
 当日における本件被相続人に係る遺産税5,721,640.92ドルの納税を証明
B 1991年10月15日に納税した遺産税を証する書類
 当日における本件被相続人に係る遺産税1,350,000.00ドルの納税を証明
C 1992年4月16日に納税した遺産税を証する書類
 当日における本件被相続人に係る遺産税6,659,744.00ドルの納税を証明
ホ 上記イからニの事実を基に判断すると次のとおりである。
(イ)請求人は、本件財産の存在について全く承知しておらず、その確認もできないものである旨主張する。
 しかしながら、(a)上記ロの(イ)のとおり、Jらは香港所在財産が申告もれであったとする修正申告をしていること、(b)上記ハのとおり、請求人は本件財産が香港所在財産であることを前提としてJらとの間で遺産分割の調停を行っていること及び(c)上記ニのとおり、Kが香港政庁に提出した遺産宣誓書(修正遺産宣誓書を含む。以下同じ。)には、別表5記載の財産が記載されていることから、本件相続開始日において少なくとも別表1(下記なお書きのとおり、別表1と別表5の記載内容は同一のものと認められる。)記載のとおりの財産が本件被相続人の遺産として香港に存在したと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、別表1と別表5の記載内容は、「共有財産」欄及び「債務」欄において異なっているが、別表1は共有財産であるマンションの金額から当該マンション購入に係る借入金の額を控除し、一方、別表5は共有財産であるマンションの金額から当該借入金の額を控除せず「債務」欄において当該借入金の額を控除しているもので、別表1及び別表5の記載内容は実質同一のものと認められる。
(ロ)請求人は、原処分の基となった香港各申告書が何によって確認されたのか疑問である旨主張する。
 しかしながら、Kが香港政庁に提出したとする遺産宣誓書(原処分庁は、この遺産宣誓書を香港各申告書と称している。以下同じ。)が偽りあるいは誤っているとの証拠を請求人は提出せず、当審判所の調査によってもそれが認められないこと及び上記ニの(ハ)のとおり、当該遺産宣誓書に係る遺産税の納税証明があることからすれば、それは一応真正なものと認めるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、香港各申告書の内容が適正であるか、また、当該申告書に記載された財産が、香港所在財産として真実相違ないか証拠もなく疑問である旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ハ)のとおり、香港に対して1,000,000,000円を超える送金があること、その送金理由として不動産の取得目的がうかがわれること及びJらが香港所在財産について、存在しない財産を遺産として遺産宣誓書に記載し過大に納税したとは考えられないことから、また、上記ハのとおり、請求人自身が、香港所在財産として香港各申告書に記載されているものは過少であると申述していることからすれば、遺産宣誓書に記載された内容及び遺産税の納付額を基に、本件相続税に係る請求人の課税価格及び納付税額を算定することには相当の合理性があると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)請求人は、本件財産の個々の価額が相続税法第22条及び評価基本通達に照らし相当であるか疑問である旨主張するので、その適否について検討したところ、次のとおりである。
 相続税法第22条は、相続財産の価額は特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨を規定しており、この時価とは、相続による取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価額をいうものと解される。そして、課税庁はこの客観的な交換価額を前提として、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法を明らかにした評価基本通達を定めていることが認められる。
 一方、上記ロの(ホ)の(a)のとおり、香港の遺産税法は、財産査定(評価)の一般原則として、遺産税が課税される財産の価額は公開市場で死亡日に売却される価額であると定めているところである。
 そうすると、相続税法第22条に規定する「時価」及び香港の遺産税法に定める「公開市場で死亡日に売却される価額」は、共に自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額を指向しているものと解することができるから、公開市場で死亡日に売却される価額をもって本件相続税の課税価格に算入する価額とすることを不相当とする理由は認められない。
 そして、上記のような香港の遺産税の財産査定の原則があることからすれば、遺産宣誓書に記載されている財産の価額がその原則に従って評価されているものと容易に推認でき、それが香港税務当局による是正処分あるいはJらによる遺産宣誓書の更なる修正といったことによって変更がない限りは、現時点において既になされている遺産宣誓に表現されている財産及びその価額が正当額と推認できるのであって、その価額をもって本件財産の価額とすることは、十分に合理的であると判断される。
 また、本件財産に含まれている株式及び不動産の価額の査定(評価)については、上記ロの(ホ)の(b)のとおり定められているところ、同(a)の財産査定の一般原則に従えば、当該財産は客観的な交換価額を超える価額により評価されているとは認め難く、また、当該財産に関する香港税務当局の査定の変更、あるいは、Jらと香港税務当局との不合意が認められない以上、当該財産の価額は香港の遺産税法の定める価額すなわち客観的な交換価額の範囲に収まっているものと推認することができる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。
ヘ 本件相続税に係る請求人の課税価格及び納付すべき税額について
(イ)課税価格
A 国内財産
 原処分庁は、上記ロの(ロ)のAのとおり、修正申告額から国内財産の価額を減額しているところ、この減額は相当と認められ、それ以上に国内財産の価額を減額する理由は認められない。
 したがって、国内財産は別表2―1から別表2―3までに記載のとおりとなる。
B 香港所在財産
 原処分庁は、香港所在財産について本件財産のとおりと認定しているところ、上記ホで述べたとおり、この認定は相当なものと認められ、本件財産の価額のうち課税価格に算入される価額は、上記イの事実及び相続税法第55条の規定から原処分庁計算のとおり、別表1の「請求人が取得したものとされる金額」に掲げる金額のとおりとなる。
 なお、本件財産の邦貨への換算については、上記ロの(ニ)の事実から原処分庁計算のとおり、別表1の「邦貨換算した場合の本件財産の価額」に掲げるとおりとするのが相当である。
C 債務及び葬式費用
 請求人及び原処分庁は、債務及び葬式費用の金額を別表3に記載のとおりとし、そのうち請求人の課税価格の計算上控除する金額を別表4の(2)の「(b)」欄のとおりとしているところ、これを不相当とする理由は認められない。
D 課税価格
 上記AからCまでのことから、本件相続税に係る課税価格の合計額及び請求人の課税価格は、それぞれ641,238,000円及び535,286,000円となり、これらの金額は、別表4の(1)の「(d)」欄及び同表の(2)の「(d)」欄の金額と同額である。
(ロ)納付すべき税額
A 相続税の総額及び請求人の相続税額
 上記(イ)のDの課税価格に基づき相続税の総額及び請求人の相続税額を算定すると、それぞれ254,197,500円及び212,196,349円となる。
B 税額控除額
(A)相次相続控除額
 原処分庁は、相次相続控除額を別表4の(2)の「(h)」欄のとおりとしているところ、これを不相当とする理由は認められない。
(B)外国税額控除額
 上記ホのとおり、本件被相続人の香港所在財産は本件財産のとおりと認めるのが相当であるから、本件財産に課された香港の遺産税については相続税法第21条の規定により外国税額控除額の対象とするのが相当と認められるところ、原処分庁は上記2の(2)のイの(ヘ)のとおり外国税額控除額を86,916,774円と算定しているが、上記ロの(ニ)並びにニの(イ)及び(ハ)の事実、また、上記(イ)のBのことから、この算定額は相当なものと認められる。
C 納付すべき税額
 請求人の納付すべき税額は、請求人の相続税額から上記Bの税額控除額を控除した残額124,888,700円となり、この金額は、別表4の(2)の「(j)」欄記載の金額を上回る。
ト 上記へのとおり、本件相続税に係る請求人の課税価格及び納付すべき税額は、本件更正処分の額を下回るとは認められないので本件更正処分は適法であって、他に不当と認められる点はない。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)のトのとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法であって、他に不当と認められる点はない。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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