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(平10.9.28裁決、裁決事例集No.56 351頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、平成8年9月9日付で次表のとおりの平成3年分贈与税の決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(単位 円)
取得した財産の価額の合計額660,953,574
納付すべき税額454,312,100
無申告加算税の額68,146,500

 請求人は、原処分を不服として、平成8年10月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月18日付で異議申立てを棄却する異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年12月27日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
(イ)本件決定処分の基となった請求人と請求人の父であり有限会社H(以下「第一会社」という。)及び有限会社J(以下「第二会社」という。)の代表取締役であるY(以下「Y」という。)との間で取り交わした第二会社の出資1,598口(以下「本件出資」という。)の売買契約(以下「本件売買契約」という。)は、Yの関与税理士であったL(以下「L税理士」という。)とT銀行の担当者(以下、L税理士と併せて「L税理士等」という。)の勧める相続税の回避を目的とした相続税対策スキーム(以下「本件スキーム」という。)の一環として行われたものである。しかるに、本件売買契約に基づいて本件決定処分が行われたことにより、本件スキームは相続税対策としては意味をなさないものとなるから、本件スキームに基づいて行われたすべての法律行為は錯誤により無効となる。
 したがって、本件売買契約も無効となる。
(ロ)本件スキームと同様のスキームを利用した者で贈与税が課税されていない者の存在が明らかにされているが、請求人についてのみ贈与税が課税されたことは、日本国憲法第14条に規定する課税の公平の原則に違反する。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)原処分庁の調査担当者(以下「調査担当職員」という。)が調査したところによると、次の事実が認められる。
A 平成2年3月14日にYは、P銀行S支店(以下「P銀行」という。)から1,815,000,000円の融資を受け、金利及び融資手数料を差し引いた1,728,841,526円がP銀行のY名義の普通預金口座(口座番号××××××)に入金されていること。
B 第一会社は、平成2年4月2日に代表取締役をY、事業目的を不動産の賃貸並びに有価証券の投資及び運用、出資1口の金額を10,000円、資本の総額を16,000,000円として設立された法人であること。
 そして、第一会社の設立に際してY及び請求人の母であるX(以下「X」という。)の引き受けた出資の内訳は、次のとおりであること。

C 平成2年4月2日、P銀行のY名義の普通預金口座から、1,600,000,000円が引き出され、同銀行の第一会社名義の普通預金口座(口座番号○○○○○○)に入金されていること。
D 第二会社は平成2年4月10日に代表取締役をY、事業目的を不動産の賃貸並びに有価証券の投資及び運用、出資1口の金額を10,000円、資本の総額を15,990,000円として設立された法人であること。
 そして、第二会社の設立に際してY及びXの引き受けた出資の内訳は次のとおりであること。
(A)Yは、第二会社に第一会社の出資1,598口(出資額15,980,000円)を現物出資し、第二会社は、Yに対して本件出資を与えている。
(B)Xは、第二会社に第一会社の出資1口(出資額10,000円)を現物出資し、第二会社は、Xに対して同社の出資1口を与えている。
E 平成3年3月1日に請求人は、P銀行から886,000,000円を借り入れて、金利及び融資手数料を差し引いた842,969,934円を同銀行の請求人名義の普通預金口座(口座番号△△△△△△)に入金していること。
F 平成3年3月14日にYは、請求人に本件出資を1口当たり497,779円、総額795,450,842円で売却し、同日、795,450,842円がP銀行の請求人名義の普通預金口座から引き出され、同銀行のY名義の普通預金口座に入金されていること。
 また、平成3年3月14日、Yは、本件出資の売買に伴い納付すべき有価証券取引税2,386,350円をP銀行から納付していること。
G 調査担当職員の調査に際して請求人は、Yとの間で本件出資の売買を行い、自らが第二会社の出資者であると認識している旨申述していること。
(ロ)本件売買契約の無効の主張について
 上記(イ)の各事実から判断すると、請求人とYとの間で締結した本件売買契約が有効に成立していること及びこの売買代金の授受も行われていることなどから、請求人の主張する錯誤に基づく本件売買契約の無効という事実は認められない。
(ハ)本件決定処分が課税の公平の原則に違反するとの主張について
 請求人以外にも本件スキームと同様の相続税対策を実施し贈与税が課税されなかった者がいるという請求人の主張する事実は、本件決定処分の効力に何ら影響を及ぼすものではない。
(ニ)本件決定処分の適法性について
 上記(イ)の各事実から総合判断すると、本件決定処分は、次のとおり適法である。
 Yは、P銀行からの多額の借入金を原資として第一会社を設立し、第一会社の出資を第二会社に対して著しく低い価額により現物出資することによって、し意的に帳簿価額と相続税財産評価に関する基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、ただし、平成3年3月26日付直評4ほかによる改前のものをいい、以下「評価通達」という。)に基づき計算した価額(以下「相続税評価額」という。)との評価差額を作り出し、評価通達の定める非上場会社の株式の評価方法を形式的、画一的に適用すれば第二会社の出資の評価上、評価差額に対する法人税等相当額(評価通達186―2《評価差額に対する法人税等に相当する金額》に定める「評価差額に対する法人税等に相当する金額」をいう。以下同じ。)が控除されることを利用して、本件出資の価額を評価通達185《純資産価額》に定める純資産価額方式により算定し、通常第三者間では成立し得ない著しく低い価額である795,450,842円で請求人に本件出資を譲渡したものである。
 以上のとおり、請求人及びYの行った一連の取引は、専ら贈与税の負担を回避するためだけに行われた行為であったことは明らかであり、このような贈与税、ひいては将来発生することが予想される相続税の負担の回避を図ることのみを目的として行われた行為によって、し意的に作りだされた評価差額についてまで評価通達に定める法人税等相当額を控除して相続税法第7条に規定する時価を算出することは、著しく不適当であり、かつ、納税者間の租税負担の公平を著しく害する。
 したがって、本件のような場合には、し意的に作りだされた評価差額に対する法人税等相当額を控除しないで本件出資の価額を算定することが相当である。
 そうすると、本件出資の売買時における第一会社の出資1口当たりの時価は、別表1の「(11)」欄のとおり915,966円となり、第二会社の出資1口当たりの時価は、別表2の「(11)」欄のとおり914,721円となるから、請求人が現実に購入した第二会社の出資1口当たりの価額497,779円との差額416,942円に売買された出資口数1,598口を乗じた666,273,316円に相当する金額が、相続税法第7条に基づきYから請求人に贈与された金額とみなされる。
 以上の結果、請求人の贈与税の課税価格は、別表3の「(4)」欄のとおり665,673,000円となり、納付すべき税額は、同表の「(9)」欄のとおり458,036,100円となるから、これらの金額の範囲内で行われた本件決定処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イの(ニ)のとおり、本件決定処分は適法であり、請求人の場合、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項に規定する「正当な理由があると認められる場合」には該当しないから、同項の規定に基づき無申告加算税を賦課したことは適法である。

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3 判断

本件審査請求の争点は、本件売買契約が錯誤により無効となるか否か及び本件決定処分が課税の公平の原則に違反するか否かであるので、以下審理する。

(1)本件決定処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人が、平成8年10月8日に異議審理庁に対し異議申立書に添付して提出したL税理士の平成7年7月3日付「陳述書」には、本件スキームについて、要旨次のとおり記載されていること。
A Yが、銀行から借り入れた現金等1,600,000,000円で第一会社を設立し、同社の資本金を16,000,000円、資本準備金を1,584,000,000円とする。
B 第一会社の出資16,000,000円を現物出資し、第二会社を設立する。
 第二会社の財産は、貸借対照表上、借方有価証券16,000,000円、貸方資本金16,000,000円となる。
C Yが請求人に第二会社を譲渡する。この場合、第二会社の財産の評価を評価通達179《取引相場のない株式の評価の原則》の純資産価額で計算するが、同通達185により評価差額に対する法人税等相当額を控除することができるので、第二会社の財産評価額は、792,160,000円となる。
 そこで、この評価額を譲渡代金とする。
D Yは、銀行から借り入れた1,600,000,000円の内800,000,000円を請求人からの上記Cの譲渡代金で返済する。
 請求人は、第二会社を買うために銀行から800,000,000円借り入れし、借入金は、請求人及びYと合わせて1,600,000,000円となるが、Yは、800,000,000円の借入金を負うことにより、この借入金と他の800,000,000円の積極財産と差引きして相続税の課税対象額は零円となる。請求人には、800,000,000円の借入金が残るが、実質1,600,000,000円の価値のある第二会社を取得することとなる。
E 上記Cの評価額で売買される限り、贈与税は課税されないこととなる。
(ロ)第一会社の商業登記簿謄本及び同社の定款には、要旨次の記載があること。

A 設立年月日平成2年4月2日
B 代表取締役Y
C 事業目的不動産の賃貸、有価証券の投資及び運用
D 出資1口の金額10,000円
E 資本の総額16,000,000円
F 出資の内訳次表のとおり。

(ハ)第二会社の商業登記簿謄本及び同社の定款には、要旨次の記載があること。

A 設立年月日平成2年4月10日
B 代表取締役Y
C 事業目的不動産の賃貸、有価証券の投資及び運用
D 出資1口の金額10,000円
E 資本の総額15,990,000円
F 出資の内訳次表のとおり。

(ニ)平成3年3月(日付欄記載なし。)付の「株式売買契約書」には、要旨次の記載があること。
A Yは、本件出資を795,450,842円で請求人に譲渡する。
B 本件出資の評価は純資産価額とし、売買価額との関係は次のとおりである。
 1口当たり評価額497,779円
 1口当たり売買価額497,779円
C 請求人は、本件売買契約締結と同時に、Yに対し売買代金795,450,842円を支払うものとする。
(ホ)平成3年3月1日に請求人は、P銀行から886,000,000円を借り入れて、金利及び融資手数料を差し引いた842,969,934円を同銀行の請求人名義の普通預金口座に入金していること。
(ヘ)平成3年3月14日に795,450,842円がP銀行の請求人名義の普通預金口座から引き出され、同銀行のY名義の普通預金口座に入金されていること。
 また、平成3年3月14日、Yは、本件出資の売買に伴い納付すべき有価証券取引税2,386,350円をP銀行から納付していること。
(ト)請求人は、原告Yの補助参加人として平成4年12月28日にQ地方裁判所S支部に対し、L税理士、T銀行、R銀行及びW株式会社を被告として、被告の共同不法行為を理由に損害賠償請求訴訟を提起し、平成8年12月4日に請求の趣旨を本件スキーム全体の錯誤無効の確認等に変更し、現在も係争中であること。
(チ)請求人は、平成8年7月5日に調査担当職員が、本件売買契約が形式的なものであり実質は売買が行われず売買の認識もない場合には贈与が行われなかったことになるので贈与税の申告は必要ないが、売買の認識がある場合には贈与税の申告が必要であると指摘したことに対して、本件出資の売買及び第二会社の出資者としての認識がある旨申述していること。
(リ)原処分庁は、本件出資の価額を1,456,404,416円と評価し、売買価額との差額の660,953,574円を請求人がYから贈与を受けたものとみなして、本件決定処分を行っていること。
(ヌ)請求人の代理人であるN弁護士は、平成9年12月12日に当審判所に対して要旨次のとおり答述していること。
A 本件スキームに基づいて行ったすべての法律行為は、専ら相続税を回避する目的で行ったものである。
B 本件スキームが相続税法上認められないとする原処分庁の判断については争わない。
C 本件スキームに基づいて行った法律行為については、上記(ト)の訴訟を提起しているが、現在まで具体的な原状回復の手当てを行っていない。
ロ 本件売買契約の無効の主張について
 請求人は、本件売買契約に基づいて本件決定処分が行われたことにより、本件スキームが相続税対策としての意味をなさないから、本件スキームに基づいて行われた本件売買契約は錯誤により無効となる旨主張するので、以下審理する。
(イ)民法第555条は、「売買ハ当事者ノ一方カ或財産権ヲ相手方ニ移転スルコトヲ約シ相手方カ之ニ其代金ヲ払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス」と規定し、また同法第95条は、「意思表示ハ法律行為ノ要素ニ錯誤アリタルトキハ無効トス」と規定している。
(ロ)そうすると、売買契約とは、自己の財産を相手方に移転する旨の意思表示と相手方がその代金を支払う旨の意思表示により成立する有償契約であるところ、上記イの(ニ)のとおり、本件売買契約は、平成3年3月に、Yが請求人に対し本件出資の有償譲渡の意思表示をし、請求人がこれを譲り受ける旨の意思表示をすることにより成立した契約であり、その意思と表示との間には何ら不一致はないから、本件売買契約をなす意思表示自体には錯誤はないと認められる。
(ハ)ところで、上記イの各事実から、(a)Yは、銀行から借り入れた現金1,600,000,000円を出資して第一会社を設立し、さらに、第一会社の出資を16,000,000円の受入価額で現物出資して第二会社を設立し、第二会社の出資を請求人に対して譲渡するが、第二会社の出資は、評価通達179の純資産価額で評価することになり、その場合、同通達185により評価差額に対する法人税等相当額を控除することができるので、その評価額は、792,160,000円となり、1,600,000,000円の出資が約800,000,000円圧縮されることになること、(b)この評価額を第二会社の出資の譲渡代金とすると贈与税が課税されないこととなること及び(c)Yは、(b)の譲渡代金を借入金の返済に充てれば、約800,000,000円の借入金は残るものの、他の積極財産の価額約800,000,000円から控除されることとなるので、相続税の課税対象額は零円となることとする本件スキームをL税理士等からY及び請求人が勧められ、Y及び請求人は、おおむね本件スキームのとおり行動していることが認められる。
 したがって、Y及び請求人は、Yが本件出資を請求人に譲渡した場合には、その価額を評価通達に定める純資産価額で評価でき、かつ、その価額が第二会社の実質的な価値に比し著しく低額であることから、第二会社の実質的な価値と評価通達に定める純資産価額との開差を利用することにより、贈与税、ひいては相続税の大幅な節税になると考えて、本件売買契約を締結したものと認められるから、請求人が主張する錯誤は意思表示を形成するに至った動機に存したにすぎないものと認めるのが相当である。
(ニ)現行税法は、現実に発生した経済的成果、経済的利益に担税力を認めて課税するいわゆる「実質主義」を基本原則としているところから、その解釈、適用に当たっては、課税の基因となるべき行為の法形式や法的評価よりは、その行為によって実現をみた実質、経済的成果に対して税法的評価を行うべきであり、仮に、課税の基因となった行為が厳密な法令適用の面からは、無効とみられるような場合であっても、その行為の結果、有効な場合と同様の経済的成果が発生し、かつ、存続していると認められる以上、これを対象に課税することは当然であって、何ら違法ではないというべきである。
(ホ)したがって、上記イの各事実によれば、(a)請求人は、本件出資をYから取得するという目的で、本件売買契約に係る売買代金に充てるため、P銀行から借入れをしたこと、(b)請求人は、その借入金を基に売買代金を支払って本件出資を取得したこと並びに(c)請求人は、原処分庁に対して本件出資の売買及び第二会社の出資者としての認識がある旨申述していることからすると、請求人は、本件売買契約によって生じた経済的成果を享受していることは明らかであるから、本件売買契約に基づいて課税することは当然である。
 また、本件スキームに基づく取引等の錯誤無効を求める訴訟が係属中であったとしても、本件売買契約の無効に基づく原状回復が行われていないこと及びその他本件売買契約が無効であることを認めるに足りる何らの証拠もないことから、外形上本件売買契約は有効に成立し、存続していると判断される。
 さらに、仮に、本件売買契約が厳密な法令適用の面からは、無効とみられるような場合であっても、本件決定処分が行われた時点において本件売買契約に基づく経済的成果が発生し、かつ、存続している以上、本件売買契約を基因として行った本件決定処分を違法ということはできない。
 そうすると、本件売買契約の無効を理由に本件決定処分の取消しを求める請求人の主張には理由がない。
ハ 本件決定処分が課税の公平の原則に違反するとの主張について
 請求人は、本件スキームと同様のスキームを利用していながら贈与税が課税されていない者がいるにもかかわらず、請求人のみが課税されることは、日本国憲法第14条に規定する課税の公平の原則に違反する旨主張する。
 しかしながら、仮に、他人に課税漏れがあるとしても、上記ロの(ホ)及び下記ニのとおり、本件決定処分に違法はなく適法であり、請求人に税法上格別不利益な結果を招来するものとはいえないから、そのことをもって課税の公平の原則に反するものということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 本件決定処分の適法性について
 本件決定処分の適法性について検討したところ、次のとおりである。
(イ)相続税法第7条は、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす」と規定している。
 この場合における当該財産の時価は、相続税法第22条《評価の原則》において、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定されており、この時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額であると解される。
 しかしながら、客観的な交換価値を示す価額というものが、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価の一般的基準として評価通達が定められており、特別な事情がない場合には、同通達に定められた評価方法によって財産を評価することとされている。
 これは、財産の客観的な交換価値を示す価額を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることは避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることから、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜という見地からみて合理的であるという理由によるものと解される。
 そうすると、租税平等主義という観点からは、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平も確保されるものと解されるが、他方、同通達の画一的な評価方法を適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなどの特別な事情がある場合には、他の合理的な評価方法によることができるものと解すべきである。
(ロ)上記イの各事実を上記(イ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A 請求人及びYが行った本件出資の売買に係る一連の行為は、本件スキームに基づき専ら相続税の回避を目的として行われたものであり、これら一連の行為を行い評価通達に定める画一的な評価方法を適用することにより、第二会社の財産の価額がし意的に800,000,000円余り圧縮されて評価されることになり、その結果、贈与税及び相続税が、これら一連の行為を行わなかった者と比べて不当に軽減されることになる。このような場合には、実質的な租税負担の公平という観点から、本件出資の価額の算定においては、評価通達に定める画一的な評価方法を適用しないことが相当と認められる特別な事情がある場合に該当すると解すべきである。
B 評価通達179及び185において純資産価額方式により株式の価額を算定する場合に純資産価額(時価)から評価差額に対する法人税等相当額を控除することとしている趣旨は、個人が財産を直接所有する場合と会社への出資という形態を通じて間接的に所有している場合との差を考慮した相続税(贈与税を含む。)課税上のしんしゃくであると解されるから、本件のように実質的に租税負担の公平に反するような行為に該当するものまでも、評価通達による評価差額に対する法人税等相当額の控除を行うことは適当でないと解される。
C 上記A及びBのことから、原処分庁が本件出資の価額の算定に当たり、評価差額に対する法人税等相当額を控除しなかったことは相当と認められ、これに基づいて算定した本件出資の売買時の第一会社及び第二会社の出資1口当たりの価額は別表1及び別表2に記載したとおりとなり、本件出資の価額は、次のとおり1,461,724,158円となる。
(1口当たりの価額)  (口数)
 914,721円 × 1,598口=1,461,724,158円
 そして、上記のとおり、本件出資の時価は1,461,724,158円が相当であると認められるところ、請求人がYから本件出資を795,450,842円で譲り受けたことは、相続税法第7条に規定する、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合に該当することとなるので、請求人は、本件出資の時価と当該譲渡価額との差額666,237,316円をYから贈与により取得したものとみなされる。
 そうすると、請求人の贈与税の課税価格は、別表3の「(4)」欄のとおり665,673,000円となり、納付すべき税額は、同表の「(9)」欄のとおり458,036,100円となるから、これらの金額の範囲内でされた本件決定処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件決定処分は適法であり、請求人の場合、国税通則法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づき無申告加算税を賦課したことは適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする事由は認められない。

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