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(平10.8.25裁決、裁決事例集No.56 427頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、株式会社F(以下「滞納者」という。)の別表1に記載する滞納国税を徴収するため、滞納者が所有するP市R町78番地所在の家屋番号78番の建物(以下「本件建物」という。)に係る家賃の支払請求権(以下「本件賃料請求権」という。)のうち、別表2に記載するものについて平成9年9月29日及び同年10月1日付で差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
 審査請求人(以下「請求人」という。)は、本件差押処分を不服として平成9年12月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成10年2月18日付で棄却の異議決定をしたので、同月27日に審査請求をした。

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、平成9年5月1日に滞納者との間で本件建物の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、これに伴い、同月22日に賃借権の設定登記(以下「本件登記」という。)がされた。
 本件建物には、すでに滞納者と9名の賃借人(以下「賃借人ら」という。)の間で交わされた各部屋の賃貸借契約(以下「賃借人らとの賃貸借契約」という。)が存在するため、滞納者は、請求人と賃借人らの三者間で平成9年5月1日に合意契約(以下「本件合意契約」という。)を締結し、その契約書(以下「本件合意契約書」という。)を作成した。
 滞納者は、本件賃貸借契約及び本件合意契約により、請求人に本件建物を賃貸する地位を譲渡したのであるから、これら契約を締結した平成9年5月1日をもって本件賃料請求権は、請求人に帰属している。
ロ 仮に、本件建物の賃貸人たる地位の譲渡がないとしても、請求人は、本件合意契約により、平成9年5月1日から平成12月4月30日までの3年間の本件賃料請求権を滞納者から譲り受けているのであるから、当該契約による指名債権の譲渡(以下「本件債権譲渡」という。)は、適法にされている。
 このことは、賃借人らが本件債権譲渡に合意のうえ、平成9年6月分からの賃料を請求人の銀行口座に振り込んでいることからも明らかである。
ハ 以上のことから、本件差押処分時における本件賃料請求権は滞納者に帰属しておらず、原処分庁は、すでに消滅した債権を差し押さえたのであって目的物たる財産権を欠いた本件差押処分は違法である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法にされているから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件合意契約は、本件賃料請求権の譲渡を目的とした契約であり、当該契約により、本件建物の賃貸人たる地位の譲渡があったとは認められない。
ロ 本件合意契約は、上記イのとおり本件賃料請求権の譲渡を目的とした契約であり、請求人が当該譲渡を理由として第三者たる国に対抗するためには、民法第467条第2項の規定により、賃借人らに対する譲渡通知又は賃借人らの承諾が確定日付のある証書をもってされなければならないところ、本件債権譲渡においては、これらのことがされておらず、請求人は、単に本件合意契約書があること及び賃借人らから、平成9年6月分からの賃料の振込みがあることをもって債権を譲り受けたと主張しているものであり、請求人の主張には理由がない。
ハ したがって、本件債権譲渡は、民法第467条第2項に規定する第三者対抗要件を具備していないものであるから、本件債権譲渡の効力を第三者である国に対して主張できない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件賃料請求権が滞納者に帰属するか否かにあるので、以下審理する。
(1)請求人提出資料、原処分関係資料、請求人の答述及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 滞納者は、平成9年5月1日付で、本件建物を請求人に平成12年4月30日までの3年間賃貸する旨の本件賃貸借契約を締結し、これに伴い、平成9年5月22日に本件登記をした。
ロ 滞納者は、平成9年5月1日付で、賃借人らとの賃貸借契約に係る平成12年4月30日までの3年間の賃料すべてを請求人に移譲する旨の本件合意契約を締結した。
 また、本件合意契約書の別紙として同意書が添付されており、当該同意書には、本件建物の部屋番号ごとの契約者名、家賃及び共益費の額が記載され、契約者名欄には、賃借人らの押印がされている。
ハ S銀行W支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号×××××××)には、平成9年5月30日以降、賃借人らから本件建物の各部屋の家賃及び共益費等と認められる金員が振り込まれている。
ニ 請求人は、請求人の滞納者に対する平成9年4月現在の貸金約30,000,000円について、(a)滞納者がこれを返済しなかったので、その貸金を回収するために同年5月1日に本件合意契約及び本件賃貸借契約を締結したこと、(b)このときの計算では、賃借人らが滞納者に支払う家賃の合計が月に900,000円、年間約10,000,000円であったので、3年でおおむね貸金の全部を回収できる予定であったことを当審判所に対し答述している。
(2)本件建物の賃貸人たる地位の譲渡があったとするには、その地位にある者が受ける権利及び負担する義務のすべてについて譲渡する旨の契約がなければならないところ、請求人は、滞納者との間に本件建物について本件賃貸借契約が存するものの、各部屋の賃借人らとの間には賃貸借契約は締結していない上、滞納者から本件賃料請求権の譲渡を受けるなど、賃貸人の地位の譲渡とは矛盾することをしていることからすれば、本件賃貸借契約は本件賃料債権を得るための単なる形式的な契約と認められ、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、かえって、上記(1)の認定事実によれば、請求人の滞納者に対する貸金を3年間で回収するため、本件合意契約により本件賃料請求権を譲渡したものと認められるから、当該契約をもって賃貸人たる地位の譲渡があったとは認められない。
(3)上記(1)及び(2)の事実に基づいて、以下検討する。
イ ところで、民法第467条第2項は、債権譲渡における債務者以外の第三者に対する対抗要件として、確定日付のある証書による債務者への通知又は債務者の承諾を要求している。
ロ これを本件債権譲渡についてみると、差押権者である国に対抗するためには、賃借人らへの通知又は賃借人らの承諾が確定日付のある証書をもってされていなければならないところ、請求人が賃貸人らの承諾があったとする本件合意契約書には確定日付が附されていないから、本件債権譲渡は第三者対抗要件を具備していないものである。
 なお、前記(1)のハのとおり、賃借人らが賃料を請求人の銀行口座に振り込んでいるが、当該振込開始日をもって、民法第467条第2項に規定する確定日付とは認められない。
ハ 以上のとおり、本件債権譲渡は、第三者である国に対抗することができないのであるから、本件差押処分時における本件賃料請求権は、滞納者に帰属するとしてされた本件差押処分は適法である。
(4)本件差押処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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