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(平10.11.6裁決、裁決事例集No.56 443頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、平成10年3月6日付の公売通知書(以下「本件通知書」という。)により、審査請求人(以下「請求人」という。)ほか17名が所有するN市P町713番1ないし713番4所在の宅地4筆計199.23平方メートル(以下、「713番1の土地」などといい、これらを併せて「本件土地」という。)を公売財産として、公売することを通知した。
 請求人は、本件土地の見積価額を75,811,000円(以下「本件見積価額」という。)とする本件通知書により通知された公売処分(以下「本件公売処分」という。)に不服があるとして、平成10年3月26日に審査請求をした。
 その後、原処分庁は、平成10年4月8日にC国税局公売場において、入札の方法により、最高価申込者を決定し、公売保証金の納付及び入札等終了の告知等の手続をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件公売処分は、次の理由により、安価な見積価額でされた違法なものである。
イ 本件土地は現在売却依頼中であるが、平成10年7月30日現在の売出価額は240,000,000円であり、当該価額は、地元不動産業界の相場であるから、適正な見積価額である。
ロ 本件見積価額によれば、本件土地の3.3平方メートル当たりの単価は、約1,250,000円であり、平成9年12月に売却された本件土地の隣接地であるP町704番ないし712番1所在の土地(以下「本件隣接地」という。)の3.3平方メートル当たりの単価が10,000,000円であることから、本件見積価額は、本件隣接地との位置関係及び建築条件に対する法的規制を考慮しても安価である。
ハ 平成2年に作成し、売買契約直前に不調となった際の本件土地に係る土地売買等届出書(以下「土地売買届出書」という。)では、予定対価の額は1,795,062,000円であること及び平成3年8月30日付の日本不動産鑑定協会に所属するE株式会社作成の物件調査表(以下「E社調査表」という。)によれば、本件土地の価格は約900,000,000円であることから、本件見積価額は、地価下落を考慮しても安価である。

(2)原処分庁の主張

 本件見積価額は、次の理由により適正かつ妥当に算出されたものであるから、本件公売処分は適法である。
イ 本件見積価額は、価格時点を平成9年12月1日とした不動産鑑定士作成の鑑定評価84,234,000円(以下「本件鑑定評価額」という。)を基礎とした適正な価額である。
 これは、本件土地のうち、713番2及び713番4の土地には借地権が付着していること及び713番3及び713番4の土地には、地下鉄敷設に伴い、N市を地上権者とする地上権設定登記があり、木造以外の建築物を建てる場合は、N市の同意が必要な上、荷重は1平方メートル当たり10トン以下とする制限が定められており、具体的には、ビルであれば5階建程度に制限されることなどを大きな減価対象要因として評価したものである。
 なお、本件見積価額においては、公売の特殊性として10パーセントの控除をしている。
ロ 請求人は、平成10年7月30日現在の売出価額は240,000,000円であること及び平成9年12月の本件隣接地の3.3平方メートル当たりの単価が10,000,000円であることから、本件見積価額は安価であると主張するが、土地取引における売買価額は、位置、形状、環境及び法的条件等のほか当事者間の売買事情によって金額が決定されるものであり、一つの取引事例をもって本件見積価額が著しく低いと主張することは、当を得ないものである。
ハ S県知事が本件土地と同所在地であるP町1312番1に対し判定した平成2年から平成9年までの間における基準地価額の下落率は、82.02パーセントであり、国土庁が本件土地近隣の標準地としたN市Q町1506番及び同区R町3―18に係る平成9年から平成10年までの1年間における地価公示価額の下落率は、それぞれ12.34パーセント、4.43パーセントである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件見積価額の適否にあるので、以下審理する。
(1)国税徴収法第98条《見積価額の決定》は、「税務署長は、公売財産の見積価額を決定しなければならない。この場合において、必要と認めるときは、鑑定人にその評価を委託し、その評価額を参考とすることができる。」旨規定しており、その趣旨は、公売価額を適正なものとし、特に著しく低廉となることを防止して最低公売価額を保障するために設定するものであり、また、その方法は、公売財産の客観的時価を基準として、公売の特殊性を考慮することとされている。
 ところで、公売財産の客観的時価とは、これと同種類、同等又は類似の財産の最近における売買実例若しくは取引相場又はその財産の再調達原価及び収益環元価額等に基づき算定されるものであり、また、公売の特殊性の要因とは、(a)換金を目的とした強制売却であること、(b)換価する財産や公売の日時及び場所が一方的に決定されること及び(c)売主は瑕疵担保責任を負わず、買主は原則として解約等ができないことなどであり、これら公売の特殊性により、公売財産の見積価額は客観的時価を相当に下回るのが通例である。
 ただし、見積価額が客観的時価と比較して低廉で、ひいては公売価額が客観的時価より著しく低廉であるときは、その見積価額の決定及びそれに基づく公売処分も違法となると解されている。そして、公売価額が客観的時価より著しく低廉であると認定する基準については、公売処分の具体的事情が個々の場合により相当異なり、しかも、基準となる時価も多少幅があることから、一律に決めることは難しいが、実務上、公売財産の評価事務を適正に実施するため、国税庁長官通達「公売財産評価事務提要」は、その調整限度を客観的時価のおおむね30パーセント程度の範囲内と定めており、その割合は、当審判所においても、公売の特殊性を考慮した見積価額決定の趣旨からみて、相当であると認められる。
(2)本件について、上記(1)に照らし判断すると次のとおりである。
イ 本件見積価額の決定に当たって、原処分庁がその基礎とした本件鑑定評価額は、不動産鑑定基準により本件土地の地域要因及び指定容積率から中層ビルが標準的使用であるとし、(a)本件土地の近隣地域における中層ビルの敷地としての標準画地に対する本件土地の間口、奥行及び地積に係る個別格差率の相乗積を採用して算定していること、(b)地下鉄敷設に伴い昭和62年4月17日に登記された地上権の設定地には、使用収益上の制限や制約が課せられることから、地上権設定による阻害率を適用して算定していること及び(c)713番2及び713番4の土地には、同地の賃借人所有の鉄骨造スレート葺2階建倉庫が存し、その敷地利用権は借地権であり、当該土地については、借地権の付着する土地(底地)の評価として、収益方式及び借地権相応分控除方式により算出した底地価格の平均値で底地価格を算定していること等から、それぞれの減価要因を考慮したものである。
 そして、本件鑑定評価額は、本件土地の近隣地域の4件の取引事例に基づく比準価格を試算し、その価格に市場動向や対象地の収益性の調整率を乗じて計算した標準画地価格から、上記の個別格差、地上権及び借地権等の減価要因となる金額を控除して算出しており、その過程についても、不合理な点は認められないことから、客観的時価として適正であると認められる。
 また、本件見積価額は、公売の特殊性の趣旨等を考慮して、本件鑑定評価額から10パーセントを控除した価額であり、その控除割合は、前記(1)のとおり30パーセントの範囲内であることから適正であると認められる。
ロ 請求人は、平成10年7月30日現在の売出価額240,000,000円は、適正な見積価額である旨主張するが、当該売出価額は、未だ本件土地の売買が成立していない段階のものであること並びに請求人は、当審判所に対して、(a)不動産鑑定士等の専門家による評価額ではないこと、(b)参考とした本件土地の近隣土地の取引情報については確証がないこと及び(c)滞納国税及び不動産売却に係る各種税金等並びに賃借人に対する立退料等の合計額と同額になることを考慮したものと答述していること等を考慮すれば、当該売出価額は、請求人の希望価額に過ぎないと解され、適正な時価を反映しているとは考えられない。
 また、請求人は、平成9年12月の本件隣接地の3.3平方メートル当たりの取引価格は10,000,000円である旨主張するが、これを認めるに足りる証拠がない上、同地は、本件土地に対して立地条件、地積数量及び減価要因となる地下鉄敷設に伴う地上権設定登記がない等の個別要因が異なるものである。
 したがって、いずれも適正な見積価額の算定上、客観的時価として採用することはできない。
ハ 次に、請求人は、本件土地に係る平成2年作成の土地売買届出書に係る予定対価の額及び平成3年のE社調査表の評価額は、それぞれ1,795,062,000円及び約900,000,000円である旨主張するが、当該予定対価の額は、当該届出書の「土地に存する工作物等」及び「移転又は設定に係る土地に関する権利の内容」欄には該当なしと記載されていること並びに当該調査表の評価額は、賃借権に係る建物の表記がなく、個別要因の格差率や地上権の阻害率に対する計算根拠が明記されていないことなどから、いずれの価額も適正な見積価額の算定上、客観的時価として採用することはできず、本件土地の地価下落率を判断するまでもなく、請求人の主張には理由がない。
ニ 以上のとおり、本件見積価額は、客観的時価に基づき算定された適正な価額と認められるから、本件公売処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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