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(平11.2.26裁決、裁決事例集No.57 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、鉄工業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が平成7年7月1日から平成8年6月30日までの事業年度(以下「平成8年6月期」という。)に計上した製品売上代金の一部を平成8年7月1日から平成9年6月30日までの事業年度(以下「平成9年6月期」という。)に返還したことについて、平成8年6月期において更正の請求が認められるか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、K株式会社(以下「K社」という。)との間で同社が発行した平成7年7月31日付の外注工事注文書(品名及仕様欄に「***セイサク」、納期欄に「95―08―30」、金額欄に「51,301,000」と記載されている。)に基づき、製品を製作して納入する取引(以下「本件取引」という。)を行った。
ロ 請求人は、本件取引に係る取引金額51,301,000円を平成8年6月期の益金の額に算入した。
ハ 請求人は、納入した製品に係る受領金額が過大であったという理由で、K社から12,634,711円(消費税に相当する金額368,001円を含み、以下「本件返還金」という。)の支払を求められ、平成9年2月28日に同社の預金口座へ全額を振り込んで支払った。
ニ 請求人は、原処分庁に対し、製品売上高に計上した12,266,710円(本件返還金から消費税に相当する金額を差し引いたもの。)と上記ハの消費税に相当する金額368,001円のうち雑収入に計上した257,601円(請求人が消費税の確定申告書を提出するに当たり、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定を適用したことにより、消費税に相当する金額の一部が雑収入に計上されている。)の合計額12,524,311円(以下「本件金額」という。)を平成8年6月期の所得金額から減額すべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ホ 請求人は、次の書類を保存している。
(イ)K社が平成9年1月28日付で請求人に対して発行した外注工事注文書(品名及仕様欄に「***セイサク ハッチュウキンガク ヘンコウニヨルトリケシ」及び金額欄に「−51,301,000」と記載されている。)。
(ロ)K社が平成9年1月28日付で請求人に対して発行した外注工事注文書(品名及仕様欄に「***セイサク」及び金額欄に「39,034,290」と記載されている。)。
(ハ)平成9年2月13日付でK社が請求人にあてた「工事代金過払い精算の件」と題する書面(以下「過払い希算の書面」という。)。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取り消しを求める。
イ 請求人がK社に本件返還金を支払ったのは、納入した製品の重量計算に単純な誤りがあったことによるものであり、「契約の解除又は取消し」、「値引き」、「返品」等が行われた場合の取扱いを定めた法人税基本通達2―2―16《前期損益修正》(以下「本件通達」という。)には該当せず、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号に規定する「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」に該当するから、本件更正の請求には理由がある。
ロ 本件通達は、「継続企業の原則」に従い、収益又は費用、損失を発生時点の損益とする「期間対応の原則」を優先させたもので、会計上のいわゆる「費用収益対応の原則」を否定している不合理さはあるものの、以前は、本件通達が適用された場合の救済方法として、法人税法第81条《欠損金の繰戻しによる還付》に規定する欠損金の繰戻しによる還付の制度により課税関係の調整をすることができたため、極端な不合理はなかったと考えられるが、租税特別措置法第66条の14《欠損金の繰戻しによる還付の不適用》の規定により原則として欠損金の繰戻しによる還付の制度が適用されない現在にあっては、極めて不合理な判断基準といわざるを得ない。
ハ 仮に、本件返還金の支払が本件通達の要件に該当するとしても、本件返還金の支払は、通則法第23条第2項第3号及び国税通則法施行令(以下「通則法施行令」という。)第6条《更正の請求》第1項第2号に規定する「法定申告期限後に生じたやむを得ない理由」に該当するから、極めて不合理な判断基準である本件通達を適用すべきではなく、通則法第23条第1項の規定により本件更正の請求は認められるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人とK社の間において、平成8年6月期の末日までは本件取引に係る請求内容及び決済金額に瑕疵はなかったというべきであり、請求人はその後に同社が請求人に対して行った本件返還金の支払に関する申入れを受け入れて本件返還金を支払ったにすぎないというべきである。
 そうすると、法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第4項は、当該事業年度の収益の額及び費用、損失の額については、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきである旨規定しており、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準からすると、本件取引に関して生じた本件金額に相当する損失は、請求人がK社に対して本件返還金を支払うことが確定した平成9年6月期に計上されるべきものである。
 したがって、本件金額に相当する損失が生じたことは、通則法第23条第1項に規定する「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」には該当しないから、本件更正の請求には理由がない。
ロ 本件通達は、法人税法上又は企業会計上の取扱いを念のため定めたものであり、それらの基本的な考え方は同一のものであるから、不合理な判断基準ということはできない。
ハ また、通則法第23条第2項は、同条第1項の規定により更正の請求ができる場合に、特定の事由について更正の請求期限(法定申告期限から1年)の特例を定めたものであるから、本件返還金の支払が同条第2項第3号及び通則法施行令第6条第1項第2号に規定する「法定申告期限後に生じたやむを得ない理由」に該当するとしても、当然に通則法第23条第1項各号のいずれかの事由に該当しなければならない。本件について、法人税法等の規定ないしは解釈に従って判断すると、上記イのとおり、本件金額に相当する損失は平成9年6月期において損金に計上されるべきものであり、本件金額に相当する損失が生じたことは、通則法第23条第1項各号のいずれの事由にも該当しないから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)本件更正の請求の適否について

イ 当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。(イ)請求人の前代表取締役S(以下「S」という。)は、原処分に係る調査担当者に対し、次の内容の申述をしている。
A 本件取引に係る月々の請求書は、K社から送付された「外注工事(工事外注・施設工事)出来高検収依頼兼竣工届」(以下「本件出来高検収依頼」という。)に基づいて作成していた。
B 本件取引に係る代金の精算の話は平成9年1月ころK社から出たもので、平成8年6月期の決算の際には分からなかった。
(ロ)請求人の代表取締役T(以下「T」という。)は、当審判所に対し、次の内容の答述をしている。
A 本件取引に係る取引金額51,301,000円は、当初の設計図面により決定された概略重量に単価を乗じて計算した金額である。
 なお、このことは、請求人及びK社双方で確認されており、請求人は上記取引金額で決算を行っていた。
B 本件取引は「工場車上渡し」という条件であったので、請求人の工場において製品を車に載せた時点で引渡しが完了することになっており、製品の納入は、平成8年6月に完了した。
C 本件取引は「N外注」と呼ばれる注文形式で、途中の設計変更により製品の重量が変わることがあるために製品の据付けを行わないと最終的な重量は分からないが、概略重量と正確な重量との差が概略重量の5パーセント以内であれば代金の精算をしないことになっていた。
D 本件取引の場合、概略重量と正確な重量との差が5パーセントを超えたために代金の精算をすることとなったが、本件返還金の金額が確定したのは平成8年6月期ではなく、製品の据付けが終了した平成9年6月期になってからである。
(ハ)請求人がK社に対して発行した本件取引に係る請求書(6枚)に記載された金額の合計は、同社から月々送付された本件出来高検収依頼(7枚)に記載された金額の合計と一致している。
(ニ)過払い精算の書面は、K社が本件返還金を平成9年2月28日までに同社の預金口座へ振り込むよう記載して請求人あてに送付したもので、請求人は、当該書面に「H9年2月25日 K社資材部W様2月28日下記金額振込みます」と請求人が本件返還金を同社に支払う旨を追加記入し、請求人名のゴム印及び社印を押印して同社に返送している。
ロ 請求人は、K社に本件返還金を支払ったのは、納入した製品の重量計算に単純な誤りがあったことによるものであり、本件通達には該当せず通則法第23条第1項第1号に規定する「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」に該当するから、本件更正の請求には理由がある旨主張する。
ハ ところで、通則法第23条第1項の規定は国税一般についての更正の請求の手続を包括的に規定したものであるから、同項各号に掲げる事由に該当し、法定申告期限から1年以内に提出されたものであれば、当該更正の請求は手続上適法になされたものということができるが、課税標準等又は税額等が過大であるという更正すべき実体的要件が満たされているか否かは、個々の税法の規定するところによるものと解されている。
ニ また、法人税法第22条第4項は、当該事業年度の益金の額に算入すべき収益の額並びに損金の額に算入すべき費用及び損失の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきである旨規定しているところ、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準として定着している企業会計原則の第2の1(損益計算書の本質)は、すべての費用及び収益はその支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理しなければならない旨定め、さらに、同原則の第2の6(特別損益)は、前期以前の損益に対する修正項目を前期損益修正損益として特別損益に計上すべき旨定めていることから、企業会計原則は、法人の収益、費用及び損失について発生主義(いわゆる権利確定主義)を建前としているということができる。
 そうすると、法人の所得金額の計算につき、法人税法第22条第4項は法人の収益の額及び費用、損失の額についていわゆる権利確定主義を採っており、当期において生じた損失は当期に生じた収益と対応させ、当期において経理処理すべきものであって、その発生事由が既往の事業年度の益金に対応するものであっても、当該事業年度にさかのぼって損金として処理はしないというのが一般に公正妥当と認められる会計処理の基準であるということができる。
ホ これを本件についてみると、上記イの(イ)のSの申述及び上記イの(ロ)のTの答述並びに上記イの(ハ)の事実からすると、請求人は、〔1〕平成8年6月までに製品の納入を完了しており、また、〔2〕K社から月々送付された本件出来高検収依頼に基づいて請求書を作成しているが、平成8年6月期の末日までは本件取引に係る請求内容に誤りはなかったことが認められる。
 また、請求人は、納入した製品の重量計算に単純な誤りがあった旨主張するのみで、何らその主張を裏付ける証拠資料を当審判所に提出しないから、当審判所としてはその事実を確認することができない。
 さらに、上記イの(イ)のSの申述及び上記イの(ニ)の事実からすると、K社から請求人に本件返還金に関する話があったのは、平成9年1月ころであり、請求人は、同社に対し、本件返還金を支払う旨を同年2月25日に回答していることから、同日に本件返還金を支払うことが確定したと認めるのが相当である。
 したがって、本件金額に相当する損失は平成9年6月期の損金の額に算入すべきものであり、平成8年6月期の経理処理及び納税義務には何ら影響を及ぼさないこととなるから、本件更正の請求は、通則法第23条第1項に規定する課税標準等又は税額等が過大であるという更正すべき実体的要件を欠くものといわざるを得ず、本件更正の請求には理由がないとした原処分は適法である。
ヘ また、請求人は、本件通達は原則として繰戻し還付の制度が適用されない現在にあっては、極めて不合理な判断基準である旨主張する。
 しかしながら、本件通達は、上記ニで述べた法人税法及び一般に公正妥当と認められる会計処理の基準の考え方を表したものであり、現在、法人税法第81条に規定する欠損金の繰戻しによる還付の制度の適用は停止されているものの、同法第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》に規定する欠損金の繰越しの制度は残されており、これにより課税関係の調整は可能であるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト さらに、請求人は、仮に本件返還金の支払が本件通達の要件に該当するとしても、本件返還金の支払は、通則法第23条第2項第3号及び通則法施行令第6条第1項第2号に規定する「法定申告期限後に生じたやむを得ない理由」に該当するから、極めて不合理な判断基準である本件通達を適用すべきではなく、通則法第23条第1項の規定により、本件更正の請求は認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、仮に、本件返還金の支払が通則法第23条第2項第3号及び通則法施行令第6条第1項第2号に規定する「法定申告期限後に生じたやむを得ない理由」に該当するとしても、上記ハのとおり、通則法第23条第1項に規定する課税標準等又は税額等が過大であるという更正すべき実体的要件が満たされているかどうかは、法人税法の規定に従って判断するものとされ、また、上記ホのとおり、本件更正の請求は、同項に規定する更正の請求の要件を欠き、本件更正の請求には理由がないのであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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