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(平11.6.14裁決、裁決事例集No.57 111頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社員であるが、平成7年分の所得税について、青色申告書以外の確定申告書(以下「本件申告書」という。)に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これを法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年12月19日付で次表の「原処分」欄記載のとおり、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

 請求人は、これらの処分を不服として、平成10年2月17日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月23日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成10年7月21日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、更正処分についてはその一部の取消し、重加算税の賦課決定処分については全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)総合長期譲渡所得の金額
 請求人は、平成元年5月に購入し所有していたJゴルフクラブ(以下「Jゴルフクラブ」という。)のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)を平成7年12月26日に株式会社K(以下「K社」という。)に譲渡(以下「本件譲渡」という。)し、その後、本件会員権を平成8年6月7日に同社から購入(以下、「本件購入」といい、本件譲渡と併せて「本件取引」という。)したが、本件取引は、次のとおり、正常な経済行為によるものであり、仮装した取引ではない。
 したがって、請求人は、本件譲渡に当たり、代金の決済を正常に行っており、また、本件取引の価格も通常価格であり否認されるものではない。
A 請求人は、本件譲渡に当たり、本件会員権及び同会員権の名義書換え(以下「本件名義書換え」という。)に必要な書類(以下、これらを併せて「本件必要書類」という。)を、すべてK社に交付しており、このことは請求人が本件会員権を譲渡するという完全な意思表示である。
B K社が本件会員権を買取り後、同業者にその情報を流さなかったとしても、それは請求人の関知するところではない。
 また、本件名義書換えをしなかったのは、K社が本件会員権を転売していなかったので、その必要がなかっただけである。
C 請求人は、本件譲渡後も、本件会員権の利用可能なゴルフ場でプレーをしたことはあるが、一般的にゴルフ場は会員以外でも利用できるものである。
 また、請求人が本件譲渡後、Jゴルフクラブのコースを会員料金でプレーしたとしても、本件名義書換え手続が完了するまでは会員として取り扱われることは当然である。
D 請求人は、本件購入に当たり、取引名義を「M」としたが、これはかねてよりP国に興味を持っており、将来、知識を生かして独立した際に使用したいと思っていた名称を使用したもので、取得した事実を仮装したものではない。
E 原処分庁は、本件譲渡に当たり、あたかも買戻し特約があったかのように推定しているが、そのような事実はない。
(ロ)不動産所得の金額
A 原処分庁は、請求人が請求人の父S(以下「S」という。)に支払った土地の賃借料(以下「本件地代」という。)360,000円について、同人は請求人と同居している親族であるから、所得税法第56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》の規定により、本件地代は、不動産所得の金額の計算上、必要経費として認められない旨主張するが、Sは、所得を有し生活費も毎月定額を負担しており、請求人と生計を一にしていないから、本件地代は必要経費として認められるべきである。
B また、不動産所得の金額の計算上、生計を一にする親族に支払った対価の額を必要経費に算入しないとする所得税法第56条の規定は、日本国憲法第14条の規定に違反する。
(ハ)その他
 不動産所得のうち、本件地代以外の必要経費及び利子所得に係る更正処分については、争わない。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イの(イ)のとおり、総合長期譲渡所得に係る更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)総合長期譲渡所得の金額
A 原処分調査及び異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)によれば、次の事実が認められる。
(A)K社は、平成7年12月26日付で、請求人あてに本件会員権の売買価格を7,000,000円とする旨の本件譲渡に係るゴルフ会員権取引計算書(以下「本件第一売買計算書」という。)を作成していること。
(B)K社は、平成8年6月7日付で、Nあてに本件会員権の売買価格を7,100,000円とする旨の本件購入に係るゴルフ会員権取引計算書(以下「本件第二売買計算書」という。)を作成していること。
(C)上記(B)のNは、「M」と推測されるが、実在する法人又は個人の名称ではないこと。
(D)本件会員権は、本件取引に際して本件名義書換えが行われていないこと。
(E)請求人は、本件譲渡から本件購入までの間、5回にわたってJゴルフクラブのコースで本件会員権により会員料金でプレーしたこと。
 なお、請求人は、原処分調査の際、本件譲渡後から本件購入の間、会員としてJゴルフクラブのコースでプレーをしていない旨を申述し、異議調査の際には、そのような申述をしたことはない旨申述している。
(F)K社は、本件譲渡に関し、ゴルフ会員権譲渡通知書を作成しているが、これをJゴルフクラブに送付していないこと。
(G)ゴルフ会員権取引業者は、同業者間で購入したゴルフ会員権の情報交換を行うことが一般的であるが、K社は、本件会員権について、このようなことを行っていないこと。
(H)K社の営業部長心得であるT(以下「T」という。)は、原処分の調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、請求人とは古くからの友人であり、本件取引は私が担当した旨、請求人から、本件譲渡の際に、会社設立資金が必要なため本件会員権を譲渡するが、会社設立後資金に余裕ができたら同会員権を買い戻したい旨の話があった旨及び本件購入の売買価格は、本件譲渡の売買価格に金利相当分100,000円を上乗せした金額であるが、その金額は本件購入の時の本件会員権の相場より安かった旨それぞれ申述していること。
B 上記Aの各事実を基に判断すると、次のとおりである。
 本件取引を行う前と行った後の状態を比較してみれば、請求人は、本件譲渡から本件購入までの間、本件会員権の所有者たる地位を利用して5回にわたってJゴルフクラブのコースでプレーし、また、本件会員権そのものを買い戻し、本件名義書換えが行われていないことから、請求人は、本件譲渡の売買価格と本件購入の売買価格との差額100,000円を負担してまで本件取引を行ったのであるが、その経済的効果は、請求人が自己の所得税を軽減する以外何らのメリットはないものと認められる。
 さらに、請求人は、上記Aの(H)のとおり、当初から本件会員権を買い戻す意思を示したこと及び本件購入の売買価格は本件譲渡の売買価格に金利相当額100,000円を上乗せした金額であり、K社にはほとんどメリットのない取引であることなど本件取引は不自然な取引であると認められる。
 そうすると、本件取引は、実態のない売買を売買があったかのように仮装したものと認められる。
C 請求人は、上記(1)のイの(イ)のとおり主張するが、上記Bのとおり、本件取引は、実態のない売買を売買があったかのように仮装したものと認められ、請求人は、本件会員権の価格の下落による損失を譲渡損失として自己の所得税の軽減を図ったものと認められ、請求人が本件会員権を譲渡した事実は認められないことから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)不動産所得の金額
A 総収入金額
 総収入金額は、本件申告書記載の金額と同額である。
B 必要経費
(A)本件地代
 所得税法第56条は、居住者と生計を一にする親族がその居住者の営む不動産所得を生ずべき事業に従事したこと等の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定している。
 そうすると、本件地代の支払先であるSは請求人の父であり、また、請求人とSは、外見上一棟と認められる同一の家屋に居住し、同一の住所で同一の電話番号を登録しており、生計を一にしていると認められるから、本件地代は、所得税法第56条の規定により不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入することができない。
 なお、所得税法第56条の規定は、もともと個人事業は家族ぐるみの協力と家族の財産を共同管理して成り立つものであり、それについて個々の対価を支払う慣行もなく、かつ、仮に対価の支払があっても税務執行上相当する対価の認定は難しく、所得分割のし意性を排除する趣旨に基づくものと解され、その規定は立法目的及び内容において合理性を有している。
(B)その他の必要経費
 その他の必要経費は、請求人が本件申告書に添付した収支内訳書に記載されている本件地代を除く必要経費の合計額から、W信販株式会社に対する借入金利息720,000円、請求人の長男に支払った清掃費61,800円及び支払内容の不明な雑費89,821円を減算し、減価償却費の過少計算額46,836円を加算した金額1,821,571円である。
C 不動産所得の金額
 不動産所得の金額は、上記Aの金額から同Bの金額を減算し、次のとおり算定した。
 総収入金額 必要経費の金額 不動産所得の金額
 1,748,800円−1,821,571円=△72,771円
(ハ)利子所得の金額
 本件申告書に記載されている利子所得の金額50,945円は、租税特別措置法第3条《利子所得の分離課税等》第1項の規定により源泉分離課税となり確定申告の対象にならないので、利子所得の金額は零円である。
(ニ)還付金の額に相当する税額
 請求人の還付金の額に相当する税額は、次表「〔11〕」欄記載のとおり、48,500円となるので、この金額と同額でした更正処分は適法である。

 上表の内容は、次のとおりである。
A「〔2〕」欄及び「〔3〕」欄は、上記(ロ)及び(ハ)で述べた金額である。
B「〔4〕」欄は、本件申告書記載の金額と同額である。
C「〔5〕」欄は、上記(イ)のとおり、本件会員権の譲渡があったとは認められないので、その損失の金額はない。
D「〔6〕」欄は、本件申告書記載の金額と同額である。
E「〔8〕」欄は、所得税法第89条《税率》の規定に従い算定した金額である。
F「〔9〕」欄は、平成7年分所得税の特別減税のための臨時措置法第4条《特別減税の額》の規定に従い算定した金額である。
G「〔10〕」欄は、本件申告書に添付されている平成7年分給与所得の源泉徴収票記載の金額と同額である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、上記イの(イ)のとおり、本件会員権を譲渡した事実がないにもかかわらず、これを譲渡したかのように仮装し、その仮装したところに基づいて本件申告書を作成し、提出したものと認められるので、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件審査請求の争点は、本件会員権の譲渡があったか否か及び不動産所得の金額の計算上、本件地代が必要経費に該当するか否かにあるので、以下審理する。
イ 総合長期譲渡所得の金額
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A K社は、平成7年12月26日付で、同社を買主として、請求人あてに本件会員権の売買価格を7,000,000円、取引手数料をなしとする旨の本件譲渡に係る本件第一売買計算書を作成していること。
B K社は、平成8年6月7日付で、Nあてに本件会員権の売買価格を7,100,000円、取引手数料をなしとする旨の本件購入に係る本件第二売買計算書を作成していること。
 なお、上記の「N」は、「M」の誤りと認められる。
C 請求人は、平成8年6月7日、本件購入に当たり、買主名を「M代表X(請求人名)」として、売買代金7,100,000円をQ銀行R支店のK社名義の普通預金口座(口座番号******)に振り込んだこと。
 また、「M」と称する法人又は個人は実在しないこと。
D 本件会員権は、本件取引に際して、本件名義書換えが行われず、請求人名義のままであったこと。
E 請求人は、本件譲渡から本件購入までの間、5回にわたってJゴルフクラブ○○コースで本件会員権により会員料金でプレーしたこと。
F K社は、本件会員権について、他の同業者に対し、売買情報を提供しなかったこと。
G Tは、調査担当職員に対し、請求人とは古くからの友人であり、本件取引は私が担当した旨、請求人から、本件譲渡の際に、会社設立資金が必要なため本件会員権を譲渡するが、会社設立後資金に余裕ができたら同会員権を買い戻したい旨の話があった旨及び本件購入の売買価格7,100,000円は、本件譲渡の売買価格7,000,000円に金利相当額100,000円を上乗せした金額であり、当時の本件会員権の相場7,600,000円より安かった旨それぞれ申述していること。
H Tは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
(A)当社は、本件取引に当たり、請求人から取引手数料を受領していない。
(B)ゴルフ会員権を販売する場合、通常は取引のあった日に他の同業者に対しその情報を提供するが、本件会員権については、そのようなことをしていない。
(C)請求人は、本件譲渡の際に、会社設立資金が必要なため本件会員権を譲渡するが、会社設立後資金に余裕ができたら同会員権を買い戻したい旨話をしていたので、当社は、上記(B)のことをしなかったものである。
(D)本件会員権は、平成8年6月当時、7,500,000円から7,600,000円が相場の価格であった。
(ロ)上記(イ)の事実を基に判断すると、次のとおりである。
 請求人は、本件取引は正常な経済行為によるものであり、本件譲渡について、仮装、隠ぺいは行っていない旨主張するが、上記(イ)のとおり、請求人は、本件取引に当たり、取引手数料を負担していないこと、本件譲渡の際に、K社に対し、本件会員権の買い戻しの意思表示をしていること、本件譲渡から本件購入までの間、本件会員権によりJゴルフクラブ○○コースでプレーしたこと及び本件購入に当たり、「M」という実在しない名称を使用したこと、K社は、約5か月の間本件会員権の売買情報を同業者に提供せず、同会員権を販売しなかったこと及び本件会員権を相場の価格で第三者に販売すれば相当額の利益を得られたにもかかわらず、請求人に対する本件購入の価格は当時の相場と比較して低額であったこと並びに本件取引に伴う名義変更を行っていないことからみて、同取引は、極めて不自然かつ不合理な取引であると認められる。
 そうすると、請求人は、本件第一売買計算書の発行を受けるために、一方、K社は、請求人から金利相当額と称する100,000円を得るために、本件取引を行ったとみるほかなく、本件譲渡については、請求人には確定的に本件会員権をK社に移転するという意思表示、また、同社には同会員権を取得し、その代金を支払うという意思表示があったと認めることはできず、本件取引は、本件会員権の売買という形式を作り出すためのものであったと認めるのが相当である。
 また、請求人が主張するように本件取引の売買代金及び本件必要書類の授受が行われているとしても、本件取引に係る売買代金は約5か月のうちにK社に還流しており、それが請求人の口座を一時通過したに過ぎず、結果として収入とされていないこと、また、売買代金の授受に加え、本件必要書類の引渡しが行われているとしても、そのことによって形式的な売買と認定されることを防ぐ行動に出たもの、あるいは、売買代金の還流が完了するまでの担保とするためにされたものというべきであって本件取引が実態のない取引ということに変わりはない。
 したがって、本件取引は形式的な取引であって実態の伴わないものであり、真に売買があったと認めることができないので、本件譲渡は所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する資産の譲渡があったことにはならないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 不動産所得の金額
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人とSは、同一の住所に居住していること。
B 請求人は、当審判所に対して、次のとおり答述していること。
(A)Sとは、食事を共にしている。
(B)Sは、食費を負担している。
(C)建物は、別々にあったものを改築し、一つの建物として使用している。
 なお、建物は、構造上区分されておらず、玄関は一か所であるが、店舗から出入りすることもできる。
(ロ)請求人は、Sが所得を有し生活費も毎月定額を負担しており、同人と生計を一にしていないから、本件地代は、不動産所得の金額の計算上、必要経費として認められるべきである旨主張する。
A ところで、所得税法第56条は、居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定している。
 そして、所得税法にいう生計を一にするとは、同一の生活共同体に属して、日常生活の資を共通していることをいうところ、親族が同一の家屋内に起居している場合にあっては、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる特段の事情があるときを除き、これらの親族は生計を一にするものと推認される。この場合において、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認めるためには、少なくとも家事上の共通経費について実費の精算が行われ、また、家事上の支出に関して親族間における債権債務の発生及び決済の状況が明らかにされていることが必要であるというべきである。
B そこで、これを本件についてみると、次のとおりである。
(A)請求人は、上記(イ)のとおり、Sと同一の家屋内に起居し食事を共にするなど日常の生活を共にしていることからすれば、請求人とSが明らかに互いに独立した生活を営んでいるとは認めらない。
(B)また、同一の生活共同体の中に所得を有している者が複数いれば、それらの者によって生活費若しくは食費相当額の負担が行われることが一般的であるところ、Sが生活費の定額若しくは食費を負担していたとしても、それは、同一の生活共同体に属して、日常の生活の資を共通するために負担しているものとみるのが相当であり、そのことのみをもって、家事上の共通経費について実費の精算が行われているとするには不十分であるから、請求人とSが明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる特段の事情は認められない。
(C)さらに、請求人は、当審判所に対し、上記(B)に関する資料を提出しないことから、当審判所は、その検討ができず、また、本件全資料及び当審判所の調査によっても、請求人とSとの間で家事上の共通経費について実費の精算が行われていること並びに家事上の支出に関して親族間における債権債務の発生及び決済の状況が明らかであることを認めるに足りる証拠はない。
(D)そうすると、請求人とSは生計を一にしているとみるのが相当であるから、本件地代は、所得税法第56条の規定により不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されないことになる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)なお、請求人は、所得税法第56条の規定は、日本国憲法第14条に違反する旨主張するが、その判断は当審判所の権限に属さないことであり、審理の限りではない。
ハ 利子所得の金額
 利子所得の金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
ニ 総所得金額及び還付金の額に相当する税額
 以上審理したところによれば、総所得金額及び還付金の額に相当する税額は、いずれも更正処分の金額と同額となるから、更正処分は適法である。

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(2)重加算税の賦課決定処分について

 更正処分において譲渡がなかったとされた本件譲渡について、請求人に仮装の行為があったか否かにについて争いがあるので、以下審理する。
イ 通則法第68条第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定している。
 そして、ここでいう事実を隠ぺいするとは、課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠匿しあるいは故意に脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解されている。
 また、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の制裁措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持するところにある。
 したがって、加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科する刑事罰とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課する行政上の制裁措置である。
 このような制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでをも必要とするものではないと解されている。
ロ ところで、上記(1)のイの(ロ)のとおり、本件譲渡は本件会員権の売買を装うために行われ、それに沿った本件第一売買計算書が発行されたこと及び本件譲渡については、請求人には本件会員権を譲渡する意思があったとは認められず、また、請求人は、本件会員権の価格の下落による損失を他の所得の金額から控除することにより自己の所得税の軽減を図るため、本件譲渡が形式的な取引であって実態の伴わないものであるにもかかわらず、これを売買があったかのごとく仮装し、これに基づき還付金の額に相当する税額を過大に記載した内容虚偽の本件申告書を提出し、不正に所得税の還付を受けたものと認められる。
 そうすると、請求人の上記の行為は、上記イで述べた通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課の要件を満たすものと認められる。
ハ 以上審理したところによれば、原処分庁が通則法第68条第1項の規定に基づき、仮装の事実に係る部分の税額を計算の基礎として、重加算税の賦課決定処分をしたことは適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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