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(平11.2.8裁決、裁決事例集No.57 152頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成5年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した(以下、この申告を「本件申告」という。)。
 原処分庁は、これに対し、平成8年7月30日付で次表の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

 請求人は、これらの処分を不服として平成8年9月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成9年2月13日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年3月6日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人は、自己が所有していたMカントリークラブのゴルフ会員権(以下「Mカントリークラブの会員権」という。)及びNゴルフクラブのゴルフ会員権(以下、「Nゴルフクラブの会員権」といい、Mカントリークラブの会員権と併せて「本件各会員権」という。)を平成5年12月13日にP市R町2丁目5番9号所在のK株式会社(以下「K社」という。)に売却し(以下、請求人が本件各会員権の売却と主張する取引を「本件取引」という。)、これから生じた譲渡損失の金額を他の資産の譲渡から生じた利益金額(以下「他の譲渡益」という。)と通算して本件申告をした。
 これに対し、原処分庁は請求人の本件各会員権の取引は売買を仮装したものであり、本件各会員権の譲渡があったものとは認められないとして本件更正処分をした。
 しかしながら、次に述べるとおり、本件各会員権の取引は合法的になされており、かつ、不合理なものではないから、売買として認められるべきである。
(イ)本件取引及び本件各会員権の売買に介在したQ市S町1丁目15番3号所在のL株式会社(以下「L社」という。)から平成5年12月17日に本件各会員権を買い戻した取引(以下、「本件買戻し」といい、本件取引と併せて「本件各取引」という。)は、売買代金の授受を含め法律的に瑕疵なく行われ、会員権証書等の売買に必要な書類も同月13日売却先のK社に引き渡している。
(ロ)請求人は本件各会員権の売却を平成4年夏以降一貫して意図していたのであり、本件取引は当初から買戻しを第一目的に行ったものではなく、売却することを希望していたがK社が転売できなかったためやむを得ず買い戻したものである。
 本件各取引を行うことにより、税務上、譲渡損失が認められるというK社の担当者からの話を聞き、節税になればと思ってそれを行った。
(ハ)本件各取引の結果、所得税が軽減されることは請求人にとって経済的合理性を有するものであるから、合法的な方法によって支払税額の軽減を図ることは国民の権利として当然許容されるべきである。
(ニ)いわゆるクロス取引における売買損益の計上は、税務上も認められているところ、有価証券市場における売却取引の受渡日の翌日に同一銘柄の買付取引の受渡しを行うこと(以下「翌日買戻取引」という。)はこのクロス取引と同様のものであり、本件各取引も結果的にこれと同様の取引となったものである。
 有価証券市場において認められる翌日買戻取引が、ゴルフ会員権の売買において認められないということは考え難く、一般的にゴルフ会員権の売買における翌日買戻取引は不自然な取引ではないとみなされるべきである。
(ホ)以上のとおり、請求人の行った本件各取引は原処分庁のいうような仮装売買ではないことから、本件更正処分は違法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各取引は仮装売買ではなく、譲渡があったのか、なかったのかという解釈の相違に基づくものであり、また、本件各取引を行うことによって税務上譲渡損失が認められるというK社の担当者の話から、節税になればと思って行ったものであって、請求人には脱税の意思は全くなかったのであるから、本件賦課決定処分は違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A K社は、平成5年12月13日付で請求人あてに、本件各会員権の売買価額をそれぞれ20,000,000円及び2,500,000円、手数料をそれぞれ200,000円及び50,000円で買い受ける旨の計算書(以下「本件売却計算書」という。)を作成し、同日付で本件各会員権をL社あてに売却する(以下、この売却と本件各取引を併せて「本件一連の取引」という。)旨の売買価額をいずれも上記売買価額と同額とする計算書を作成している。
B L社は、平成5年12月17日付で請求人あてに本件各会員権を売却する旨の売買価額をいずれも上記Aの売買価額と同額で、手数料の額をそれぞれ200,000円及び50,000円とする会員権取引計算書(以下「本件買戻し計算書」という。)を作成している。
C K社は、平成5年12月16日に上記Aの売買価額の合計額から手数料の合計額を控除した残額である22,250,000円をX銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号××××××)へ振り込み、L社は、同月17日に上記Aの売買価額の合計額22,500,000円をK社名義の普通預金口座へ振り込み、請求人は、同日、上記Bの売買価額の合計額に手数料の合計額を加えた22,750,000円をY銀行××支店のL社名義の普通預金口座(口座番号××××××)へ振り込んだ。
D これら一連の行為があった当時、Mカントリークラブの会員権の名義変更の手続は停止中であった。
E 請求人は、平成6年2月23日に本件申告の相談のために原処分庁を訪れた際、本件売却計算書を提示したが、本件買戻し計算書を提示したり、本件各会員権を買い戻したことを申し述べることもせずに申告相談を受けた上、本件取引に係る損失を16,150,000円と計算し、他の譲渡益と通算して譲渡所得の金額を計算して、確定申告書を作成し、これを原処分庁に提出している。
F K社のゴルフ事業部長であるT(以下「T部長」という。)は、本件各会員権の取引に係る調査担当者に対し、請求人から損失を計上するための取引をしたいと相談があったことから、第三者の業者を介在させた上で結果的に請求人が買戻しをした取引であり、第三者の業者を介在させたのは売買価額を適正とするためであって、従来からK社と取引のあった業者に依頼し買主になってもらったものである旨及び同様の取引が請求人との取引以外にも多数ある旨申述している。
 また、T部長は、本件各取引前に請求人から、本件各会員権を売ってすぐに買い取る取引をしたい、相場でやりたいから金額を教えてくれといわれており、今回、その意向に沿って本件各取引をした旨申述している。
G 請求人は、原処分庁の調査担当者に対し、〔1〕本件各会員権を売却後買い戻してもその譲渡損失が損益通算できると聞き、K社へ条件付で売却を依頼した旨及び〔2〕K社は本件各会員権を転売することができなかったため買い戻した旨申述している。
(ロ)以上の事実を基礎として判断すると、次のとおりであり、請求人の主張にはいずれも理由がない。
A 本件各会員権の取引を行う前の状態と取引を行った後の状態を比較してみれば、請求人は売買手数料相当額の出費を負担するのみであって、従前と同様本件各会員権を所有し「売買代金」に相当する金銭がわずか1日だけ請求人の手元にとどまったにすぎず、取引を行う前後の状況に何ら変わりがなく、請求人の行った本件各取引は、請求人が売買手数料と表示された出費を負担するのみで所得税の軽減以外には何らのメリットはない取引で、およそ経済的合理性のない不自然、かつ、不合理な取引であるところ、上記(イ)のF及びGのT部長及び請求人の申述を併せ考えると、請求人には本件各会員権を売却する意思がないにもかかわらず、売却した形式をとることによって本件各会員権の価格の下落による損失を売却損として表現し、所得税の軽減を図ったものと認めるのが相当であり、請求人が本件各会員権を譲渡したものとは到底認められないのであり、税金の還付を受けるために単に形式を整えたにすぎず、本件各取引の事実はなかったものと認めるのが相当である。
B 請求人は、有価証券市場において翌日買戻取引が税務上も認められているのにゴルフ会員権の売買においてこれが認められないのは不合理であり、一般的にゴルフ会員権の売買における翌日買戻取引は不自然な取引ではない旨主張するが、請求人が本件各会員権を譲渡した事実が認められないことは上記Aのとおりであるから、譲渡の事実があることを前提とする請求人の主張はその根拠がないのみならず、短期的な価格の変動による利益を求めて有価証券を譲渡し、これと同種の有価証券を買い戻す取引と異なり、ゴルフ会員権の価格が短期的には変動するものではなく、また、本件各会員権の取引は形式的には売主である請求人が譲渡した会員権そのものを買い戻すというものであって、これを同列に論じることは相当でないから、請求人の主張は失当というほかない。
C 以上の結果に基づいて、請求人の長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額を計算すると、それぞれ18,723,174円及び4,750,600円となるので、これらの金額と同額でした本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人は本件各会員権を譲渡した事実がないにもかかわらず、これを譲渡したかのように仮装し、その仮装したところに基づいて確定申告書を作成し、提出したものと認めるのが相当であるから、国税通則法第68条《重加算税》第1項の規定に基づき本件賦課決定処分を行ったことは適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件審査請求の争点は、本件各会員権の譲渡があったか否かであるので、以下審理する。
イ 原処分関係資料及び当審判所で調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)本件申告に係る確定申告書及び同申告書に添付された「ゴルフ会員権の譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面には、要旨次の内容が記載されている。また、当該申告書には本件売却計算書の写しが添付されている。
A 請求人は、平成5年12月13日に本件各会員権をK社に合計22,500,000円で売却した。
B 本件取引に係る本件各会員権の取得費38,500,000円と譲渡に要した費用250,000円の合計額38,750,000円と、譲渡価額22,500,000円との差額16,150,000円(計算の正当額は16,250,000円である。)が譲渡損失の金額となる。
C 上記Bにより算出した譲渡損失の金額を本件各会員権とは別の資産を譲渡したことにより生じた利益の金額19,723,174円と通算し、特別控除額を控除すると、当該利益の金額に係る所得金額は2,573,174円となり、この所得金額とその他の所得金額を基に申告納税額を算出すると、還付される税額は94,384円となる。
(ロ)T部長は、平成7年12月18日に原処分に係る調査の調査担当者に対し、要旨次のとおり申述している。
A 本件一連の取引は、請求人から損失を計上するための取引をしたいとの相談があったことから行ったものである。
B 本件一連の取引は、第三者の業者を介在させた上で請求人が買い戻す形とした。第三者の業者を介在させたのは、売買価額を適正なものとするためであった。
(ハ)K社が平成5年12月13日付で請求人にあてて発行した計算書には、請求人はK社に対して本件各会員権をそれぞれ20,000,000円及び2,500,000円で売却し、その手数料はそれぞれ200,000円及び50,000円とする旨記載されている。
(ニ)K社が平成5年12月13日付でL社にあてて発行した計算書には、L社はK社から、本件各会員権をそれぞれ20,000,000円及び2,500,000円で購入する旨記載されている。
(ホ)L社が平成5年12月17日付で請求人にあてて発行した会員権取引計算書には、L社は請求人に対して、本件各会員権をそれぞれ20,000,000円及び2,500,000円で売却し、その手数料はそれぞれ200,000円及び50,000円とする旨記載されている。
(ヘ)K社は、平成5年12月16日にX銀行○○支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号××××××)へ22,250,000円振り込んでいる。
(ト)請求人は、平成5年12月17日にY銀行××支店のL社名義の普通預金口座(口座番号××××××)へ22,750,000円振り込んでいる。
(チ)L社は、平成5年12月17日にZ銀行△△支店のK社名義の当座預金口座(口座番号××××××)へ43,000,000円振り込んでいる。
 また、K社は、平成5年12月17日にL社から入金した43,000,000円のうち22,500,000円を本件各会員権に係る分として経理処理している。
(リ)本件各取引が行われた当時、Mカントリークラブの会員権の名義変更の手続は停止中であった。
(ヌ)Nゴルフクラブの会員権は、本件各取引に伴う名義変更が行われていない。
ロ T部長及びK社の取締役営業部長W(以下、この2名を併せて「K社の担当者」という。)は、平成10年3月5日当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)請求人から、平成4年ころから再三にわたり、本件各会員権を売却したい旨の申し入れがあったが、買手がつかなかった。
(ロ)その後、平成5年11月末か12月上旬ころに、再度請求人から本件各会員権を売却したい旨の申し入れがあったので、当社がその当時の相場でいったん買い入れ、もし、それが転売できない場合は、同額で請求人に買い戻してもらうことによって、請求人の売却損は税務上認められて、節税対策になる旨を請求人に話したところ、請求人は、売却することが一番だが売却できず買い戻すことになっても節税になるのならそれでお願いするとの返事があったので本件各取引をした。
(ハ)本件各取引はゴルフ会員権の損出しを目的とする取引であるが、本件買戻しにおいて、L社を関与させたのは、税理士から、本件各会員権を直接K社から買い戻した場合その売却損は税務上認められない恐れがあるが、第三者を関与させて買戻しをすれば客観的なものになり、正当な取引になるので売却損は認められ、他の所得と損益通算することにより節税対策になるとのアドバイスを受けたためである。
 また、第三者を関与させれば公正な市場価格が形成されることになり、売却損は認められ節税対策になると思っていたので、この方法で多くの顧客に対して説明し、取引をしたが、本件各取引の場合はL社を第三者として介在させた。
(ニ)原処分に係る調査担当者に対し、請求人から損失を計上するための取引をしたいとの相談があったことから本件各取引を行った旨申述したが、その申述を行ったのは、その時の質問が請求人の取引についてのものではなく、担当した取引全体についてのものであったためであって、当方から請求人に対して損失を計上するための方法があると勧めたのが事実である。
(ホ)L社の社長に対し、本件各会員権の価格を示し、すぐ買い戻す約束になっているから、この値段で買って欲しい、L社としても手数料になる旨を話して依頼したところ、了承を得た。
(ヘ)本件取引の際に作成した書類及び請求人から受け取った書類は、本件取引の代金決済の翌日(平成5年12月17日)L社に持参して同社の社長に渡し、本件買戻し計算書を作成してもらうとともに、売買代金授受の手続を依頼したこと並びに同日、請求人が本件買戻しの代金及び手数料をL社の銀行口座に振り込んだことを確認の上、同社の社長からこれらの書類を受け取り請求人に返却した。
(ト)請求人に対し、本件買戻しの日付で買戻し代金及び手数料をL社の銀行口座に振り込むように指示し、振込金額、振込先の銀行名や口座番号等を連絡した。
(チ)本件各取引当時、本件各会員権は買手がつかない状況にあり、K社は買い受けた後L社を経由して請求人に買い戻してもらう考えであったので、L社以外の業者等に本件各会員権を転売するための活動はしなかった。
ハ 上記イ及びロの事実を基に判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件各取引は売買代金の授受を含め法律的に瑕疵なく行われ、当該取引に必要な書類の引渡しも行われており、売買であるから、本件取引は譲渡に当たる旨主張するので、以下検討する。
A 上記イの(ハ)から(ホ)のとおり、本件一連の取引の計算書は、平成5年12月13日にK社から請求人に及びL社からK社にあてて発行され、また、平成5年12月17日にL社から請求人にあてて発行されている。
B 上記イの(ヘ)から(チ)のとおり、本件一連の取引の売買代金の支払は、平成5年12月16日にK社から請求人に、また、平成5年12月17日に請求人からL社に及びL社からK社に対してなされている。
C 上記イの(ハ)から(チ)のとおり、本件一連の取引における売買代金はすべて同額となっている。
D 上記イの(ハ)及び(ホ)から(ト)のとおり、本件各取引において請求人が支払った手数料は、合計で500,000円である。
E 上記イの(リ)及び(ヌ)のとおり、本件一連の取引があった当時、Mカントリークラブの会員権の名義変更の手続は停止中であったこと、また、Nゴルフクラブの会員権は、本件一連の取引による名義変更が行われていない。
F 上記イの(ハ)から(チ)及び上記ロの(ヘ)のとおり、K社及びL社は、本件一連の取引の計算書の発行、同取引の売買代金の決済及びゴルフ会員権証書等同取引の履行に必要な書類の受渡しを行い、請求人から同取引に伴う手数料を受領している。
G 上記ロの(ハ)及び(ホ)から(チ)のとおり、本件一連の取引は本件各会員権を他に転売するのではなく、損失を発生させることを目的とした請求人の買戻しを予定した取引である。
H 以上のとおり、〔1〕請求人は本件取引の約定を行うとともに本件売却計算書が発行された日のわずか4日後に本件買戻しの約定を行い、〔2〕本件取引の売買代金を受け取った翌日に本件買戻しに係る売買代金を支払っているが、〔3〕それらの代金の額は同額であり、〔4〕当該代金は2日の間にK社から請求人及びL社を経てK社に還流しており、〔5〕本件一連の取引に伴う本件各会員権の名義変更ができず、あるいは、それを行っておらず、〔6〕請求人が手数料を負担したことを除けば本件一連の取引の前後の状況に変わりがなく、〔7〕本件一連の取引は本件各会員権の譲渡損失を作り出すことを目的としたものと認められる。
 そうすると、請求人は本件売却計算書の発行を受けるために、一方、K社及びL社は請求人から手数料収入を得るために本件一連の取引を行ったとみるほかはなく、本件取引については請求人には確定的に本件各会員権をK社に移転するという、また、K社には本件各会員権を取得し、その代金を支払うという意思表示があったと認めることはできず、本件一連の取引は本件各会員権の売買という形式を作り出すためのものであったと認めるのが相当である。
 また、請求人がいうように本件各取引の売買代金及び当該取引に必要な書類の授受が行われているとしても、本件一連の取引に係る売買代金は予定された約定に従って2日間という短期間のうちにK社に還流しており、それが請求人の口座を一時通過したに過ぎず、結果として収入されていないこと、また、売買代金の授受に加え、本件各取引に必要な書類の引渡しが行われているとしても、そのことによって形式的な売買と認定されることを防ぐ行動に出たもの、あるいは、売買代金の還流が完了するまでの担保とするためになされたものというべきであって本件各取引が実体のない取引ということに変わりはない。
 したがって、本件一連の取引は形式的な取引であって、実体の伴わないものであり、真に売買があったと認めることができないので、本件取引は所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する資産の譲渡があったことにはならない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、所得税の軽減を目的として本件各取引を行うことには経済的合理性があり、当然に許容されるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件取引が売買の形式を整えただけの資産の譲渡としての実体を伴っていないものであることは上記(イ)で認定したとおりであり、請求人がいうように経済的合理性をもって本件各会員権の売買があったということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、いわゆるクロス取引においては売買損益の計上が認められているところ、本件各取引はクロス取引と同様のものであるから、ゴルフ会員権の売買においてもこれが認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張は本件各取引がクロス取引と同様のものであるとの前提に立ったものと解されるところ、〔1〕本件各取引は証券取引所といった公開された市場を通じて行われたものではないこと、〔2〕本件各会員権は証券取引所に上場されているような有価証券ではないこと及び〔3〕本件各取引において受渡しされたとする本件各会員権のゴルフ会員権証書は同一のものであり、そのことは取引当事者間で取引当初より定められていたことの点において本件各取引はクロス取引と異なっており、請求人の主張はその前提を欠くものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ニ)以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件取引については、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡があったとは認められないので、本件取引に係る譲渡損失はないこととなる。
 したがって、請求人の総所得金額及び分離譲渡所得の金額並びに納付すべき税額は、本件更正処分の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

 本件更正処分において譲渡がなかったとされた本件取引について、請求人に仮装の行為があるか否かについて争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。
イ 国税通則法第68条第1項は、同法第65条《過少申告加算税》の規定に該当する場合(同条第5項の規定の適用がある場合を除く。)において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代え重加算税を課す旨規定している。
 この制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の制裁措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正な履行を確保して、申告納税制度の秩序を維持することにある。そして、加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して課する刑事罰とは異なり、納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課す行政上の制裁措置である。
 このような制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足りると解される。
ロ そこで、上記(1)のイの事実及び同ハの(イ)で認定した事実等を上記イに照らして判断すると次のとおりである。
(イ)〔1〕本件取引については、請求人には本件各会員権を売却する意思があったとは認められないこと、〔2〕本件取引は請求人が損失を計上する目的で行ったこと、〔3〕本件取引は本件各会員権の売買を装うために行われ、それに沿った本件売却計算書が発行されたこと、〔4〕請求人は同計算書に基づいて譲渡損失を算出し、その譲渡損失を他の譲渡益と通算した確定申告書を作成していること、〔5〕請求人は同申告書に本件売却計算書を添付して提出していることの各事実等が認められ、請求人のこれらの行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき、納税申告書を提出していたとき」に該当すると認めるのが相当である。
(ロ)請求人は、本件各取引は仮装売買ではなく、譲渡があったのか、なかったのかという解釈の相違に基づくものであり、また、本件各取引を行うことによって、税務上譲渡損失が認められるというK社の担当者の話から、節税になればと思ってそれを行ったものであって、請求人には脱税の意思は全くなかったのであるから、本件賦課決定処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、〔1〕本件取引は本件各会員権の売買があったかのように装うために行われたと認められること、〔2〕上記(1)のイの(ロ)のとおり、本件各取引は請求人が損失を計上するためにK社に持ち掛けたものと認められること、〔3〕請求人は本件取引により実質的な損失が生じていないことを十分認識しているにもかかわらず、その損失が生じたとして本件申告をしているのであり、このことは所得を過少(損失を過大)に申告することによって、本来納付すべき税額を免れようとしたものであるとみるほかはないことから、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、上記〔2〕に関し、K社の担当者は上記(1)のロの(ニ)のとおり、原処分に係る調査担当者に対し、請求人から損失を計上するための取引をしたいとの相談があったことから本件各取引を行った旨申述したが、その申述を行ったのは、その時の質問が請求人の取引についてのものではなく、K社の担当者が担当した取引全体についてのものであったためであって、同担当者から請求人に対して損失を計上するための方法があると勧めたのが事実であると当審判所に対し答述している。しかしながら、原処分に係る調査担当者は、本件各取引を特定してK社の担当者からの申述を得ており、この点に関する同担当者の答述は信用することができず、上記〔2〕のとおりとみるのが相当である。
(ハ)よって、原処分庁が、国税通則法第68条第1項の規定を適用して本件賦課決定処分をしたことは適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出れた証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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