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(平11.2.25裁決、裁決事例集No.57 239頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地建物の譲渡所得の申告について、原処分庁が調査した際の調査手続の違法性並びに租税特別措置法第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》の規定による課税の特例及び同法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》の規定による課税の特例の適用範囲の2点を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、別紙1に記載のQ市S町31番8、同31番9及び同31番12の各土地(以下併せて「本件土地」という。)並びに本件土地上の別紙2に記載の家屋番号31番8の1の建物(以下「本件甲建物」という。)、家屋番号31番8の2の建物(以下「本件乙建物」という。)及び附属建物(以下「本件丙建物」といい、これらの建物を併せて「本件建物」という。)を、請求人の父であるH(以下「被相続人」という。)の平成6年12月24日の死亡に伴い相続し、平成7年12月18日に相続登記をした上で、本件土地及び本件建物(以下「本件譲渡資産」という。)を平成7年12月26日にWに譲渡(以下「本件譲渡」という。)し、同日、その譲渡代金93,000,000円(以下「本件譲渡代金」という。)を受領した。
ロ 請求人の本件譲渡資産の所有期間は、平成7年1月1日現在で10年を超えている。
ハ 本件甲建物は、本件乙建物を建築するまでは、請求人の居宅として利用していた。
ニ 本件乙建物1階(別紙3)は、昭和50年8月2日の株式会社G(以下「G社」という。)の創立以来、平成6年7月15日にG社が倒産して営業を廃止するまで、その全部を被相続人がG社に賃貸し、G社は店舗・工場として利用していた。
 また、本件乙建物2階(別紙3)には、便所、浴室、食堂(台所)及び応接室のほか、和室、洋室併せて5部屋があり、その全部を請求人と請求人の家族が居住の用に利用してきた。
ホ 本件乙建物1階は、G社の倒産後も、他に賃貸した事実及び改装又は改築した事実はなく、店舗・工場として同一構造の状態となっており、G社の○○製造機械は工場内に放置してあるが、その他の機械及び備品等については請求人が処分している。
ヘ 本件乙建物には、2階に居宅専用の玄関があり、建物内部に昇降階段(以下「昇降階段」という。(別紙3のa))があるほか、1階外側には2階への取付階段(以下「取付階段」という。(別紙3のb))がある。
ト 請求人の家族構成は、G社の倒産前においては、請求人、請求人の妻J(以下「J」という。)、被相続人、請求人の長男M(以下「M」という。)及びMの妻N(以下「N」という。)の5人であったが、同社の倒産後においては、NはMと平成6年8月22日に離婚していること、Mは行方不明となっていること、被相続人が死亡したこと及び請求人の次男であるK(以下「K」という。)が平成6年7月1日から請求人と同居していることから、請求人、J及びKの3人である。
 したがって、本件譲渡時点における請求人の家族構成は、請求人、J及びKの3人である。
チ 請求人は、株式会社P銀行××支店(以下「P銀行」という。)から、G社が倒産した直後の平成6年8月2日付で、G社の保証債務20,415,000円の履行の催告を受け、平成7年12月26日に本件譲渡代金から当該保証債務のうち6,000,000円を弁済し、同日付で同行の当該保証債務の残額について保証人を免除されている。

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2 主張

(1)調査手続について

イ 請求人
 原処分は、次のとおり、調査手続に違法がある。
(イ)Y税理士(以下「関与税理士」という。)が、本件譲渡資産の全部について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第31条の3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》の規定による課税の特例及び同法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》の規定による課税の特例(以下併せて「本件特例」という。)を適用するとした所得税の確定申告書を提出しようとしたところ、原処分庁の統括官から「事前に調査しているので、資産の一部は居住用とは認められない。」旨の指摘を受けたことから、所得税の確定申告書を再作成して提出したが、原処分庁の統括官の指摘の内容によれば、事前調査を行っていることがうかがわれ、このことは違法である。
(ロ)請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、所得税の修正申告書を提出したが、当該修正申告書は、次の事実のとおり、調査担当職員の強要等により提出したもので、このことは、質問検査権の範囲を逸脱した違法な調査に基づいたものであり、無効である。
A 請求人が原処分庁に出頭した際、関与税理士の立会いのないところで強引に説得されて、関与税理士の署名及び押印もないままに提出させられたこと。
B 調査の過程において、調査担当職員に対し、本件譲渡代金の一部については、保証債務の課税の特例に該当する旨を述べたが、全然聞き入れてもらえず、却ってMに贈与税が課税されると言われたこと。
 また、本件譲渡代金の一部について、Jの弟がMの保証債務を弁済していたので、調査担当職員に対し、請求人がMに代わってJの弟にこれを弁済したことについて述べたところ、調査担当職員から、請求人からJの弟に対する贈与となるが、修正申告書を提出すれば贈与税は課税しないと言われたこと。
C 一回目の修正申告のしょうようにおいては、本件甲建物はその用途を「その他の用」とされていたが、二回目の修正申告のしょうようにおいては、それが撤回されて「居住用とその他の用の併用」と変更され、調査担当職員から「当初の調査額より税金を安くしたので修正申告をした方が得ですよ」と言われたことから、修正申告書を提出したこと。
(ハ)調査担当職員が上記(ロ)のCのとおり「当初の調査額より税金を安くしたので修正申告をした方が得ですよ」と言ったことは、行政手続法にも反する。
ロ 原処分庁
 質問検査権の範囲を逸脱した違法な調査等をした事実はなく、また、請求人に対し、長時間にわたり調査内容の説明はしているが、修正申告の強要をした事実はなく、本件調査は適法である。

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(2)更正処分について

イ 請求人
 原処分は、本件譲渡資産を居住用とその他の用とに区分したが、次の理由により、その全部を居住用とすべきであるから、原処分の全部の取消しを求める。
(イ)本件乙建物1階は、G社が倒産したことにより、店舗・工場として使用しなくなり、空家同然となったので、G社が所有していたショーケースや備品等を整理して、車庫、倉庫、物置、物干し場、台所及び犬小屋(別紙3)として有効に居住用に利用することとし、被相続人及び請求人の生活の拠点としていた。
 したがって、本件乙建物1階は本件乙建物2階と一体として、能動的に、かつ、現実に居住の用に供していたものである。
 また、被相続人から本件譲渡資産の全部を請求人が相続した後においても、譲渡時点までは請求人が居住の用に供していた。
(ロ)請求人は、本件乙建物1階を本件甲建物と同じように生活用資産の物置として利用していたところ、原処分庁は、本件甲建物を居住用資産と認めておきながら、本件乙建物1階を居住用資産には該当しないとしたことは整合性がなく、原処分の認定は恣意的である。
 また、原処分庁は、物置としては本件甲建物を主とし、本件乙建物1階は一時的な利用と認定しているが、本件甲建物は、雨漏りのする廃屋でガラクタしか置けない状況である。
 したがって、本件乙建物1階は、通常の生活用資産の物置として第一次的に利用していた。
(ハ)請求人は、本件乙建物の1階部分を自家用自動車の駐車場、生活用資産の倉庫として2階と一体として居住用家屋として利用していたものであり、本件乙建物の1階は2階を支えており、物理的に1階あっての2階である。
 ところで、「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱について」(平成3年12月18日付課資3―2、課所4―6の国税庁長官通達をいい、以下「措置法通達」という。)31の3―12《居住用家屋の敷地の判定》では、「社会通念に従い、当該土地等が当該家屋と一体として利用されている土地等であったかどうかにより判定する」旨定めている。
 さらに、平成2年12月20日付国税庁資産税課情報「居住用財産の譲渡所得の特別控除等に関する事例集(平成2年版)」(以下「国税庁資産税課情報」という。)では、「居住用家屋の敷地の一部を家庭用菜園として利用していた場合であっても、その部分が社会通念上居住用家屋の敷地と認められる場合には、その部分について居住用財産を譲渡した場合の課税の特例を受けることができる」という取扱いもある。
 したがって、本件乙建物の1階部分は、居住用家屋とは別個の独立した構築物と認められる大庭園とか自家用プールとか自家用ゴルフ練習場等には該当しないので、本件乙建物を居住用と非居住用に区分する必要はなく、本件譲渡資産の全部を居住用とすべきである。
(ニ)原処分庁が本件譲渡資産について、居住用と非居住用の区分を判断をするためには、第三者に引渡しする前の利用度の現況をきっちりと把握するべきであるにもかかわらず、第三者に引渡した後をみて判断しているが、このことは重大な誤りである。
(ホ)仮に、本件乙建物1階が、すべて居住の用に供していないと判断した原処分庁の立場に立ったとしても、次のとおり、原処分庁の事実関係の判断には誤りがある。
A 本件乙建物の床面積は、建築基準法に基づく建築確認申請書の設計図の面積で計算するべきである。
 したがって、本件乙建物1階の床面積は184.26平方メートルである。
B 本件乙建物2階の床面積は、取付階段を利用して本件乙建物1階屋上の庭やテラスとなっている部分を通って2階の玄関に入る設計となっていることから、この通路部分は居住用の面積に含めるべきである。
 したがって、本件乙建物2階の床面積は、本件乙建物1階と同面積の184.26平方メートルである。
C 居住用部分の利用面積は、本件乙建物2階には、本件乙建物1階のひさし状となっている出っ張り部分の面積14.00平方メートルがあること及び取付階段の面積5.4平方メートルがあり、いずれも居住用専用であるが、本件乙建物の床面積には含まれていないので、これらを上記Bの本件乙建物2階の床面積に含めた203.66平方メートルとすべきである。
D 以上のことから、本件建物の総床面積は、本件乙建物1階184.26平方メートル、本件乙建物2階203.66平方メートル及び本件丙建物1.8平方メートルの合計389.72平方メートルとなる。
 したがって、本件建物のうち、居住の用に供している部分の割合は52パーセント(203.66平方メートル÷389.72平方メートル=約52%)となる。
E 本件土地の居住の用に供している面積は、本件甲建物の敷地101.25平方メートル(別紙1の敷地A)並びに本件乙建物及び本件丙建物の敷地335.34平方メートル(別紙1の敷地B)に上記Dの居住用割合52パーセントを乗じた174.38平方メートルとの合計275.63平方メートルとなる。
 したがって、本件土地のうち、居住の用に供している部分の割合は63パーセント(275.63平方メートル÷436.59平方メートル=約63%)となる。
F 以上のとおり、本件建物の居住の用に供していた部分の割合は52パーセント及び本件土地の居住の用に供していた部分の割合は63パーセントとなり、原処分庁が計算した居住の用に供していた部分の割合は、それぞれ48パーセント及び60パーセントであるから、原処分庁の計算には誤りがある。
(ヘ)また、請求人は、本件乙建物の償却費相当額の計算において、耐用年数を「譲渡内容のお尋ね回答書」に記載例のある鉄筋コンクリート造60年とし、減価償却率(定額法)を居住用0.012、非居住用0.017として計算していたところ、調査担当職員は、居住用60年0.012、非居住用(店舗用)47年0.022として計算しているが、関与税理士は当該記載例と同じ計数により計算したものであるから、申告額を認めるべきである。
 さらに、本件乙建物1階の償却費相当額の計算においては、工場、店舗及び事務所の別に耐用年数を適用すべきである。
ロ 原処分庁
 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却する
との裁決を求める。
(イ)本件乙建物の利用状況を確認したところ、2階はその構造から居住の用に供していたものと認められる。一方、1階の店舗部分はタイル敷きで内部も店舗そのものであり、工場部分はコンクリート敷きで機械を撤去した跡がうかがわれることから、店舗兼工場として使用することを目的に建築されたものであると認められる。
(ロ)本件甲建物は、本件乙建物を新築した後も生活用資産等を置いて利用してきており、居住の用に供していたものと認められるが、本件乙建物1階の状況は、上記1の(3)のホのとおりであり、仮に、生活用資産等を置いて利用していたとしても、その利用は一時的な利用であり、居住の用に供していたものとは認められない。
 したがって、本件甲建物と本件乙建物1階については利用状況が異なり、本件乙建物1階は本件特例の適用ができない。
(ハ)請求人は、措置法通達31の3―12及び国税庁資産税課情報を引用しているが、いずれも居住の用に供している「敷地」の判定についての考え方を示したものであり、本件についてはこれに該当しない。
(ニ)本件譲渡資産の利用区分については、本件調査の際に、譲渡先から譲渡した建物の鍵を一時借用して、請求人とともに本件譲渡資産を実地に確認し、その場で請求人から本件譲渡以前の利用状況を聞いた上で総合して判断したものである。
(ホ)「譲渡内容のお尋ね回答書」の記載例は、一般的なものについて例示したものであり、建物の耐用年数及び減価償却率については、譲渡物件により個々に判断して適用するものである。
(ヘ)措置法第31条の3第2項に規定する「その居住の用に供している家屋」に該当するかどうかは、措置法通達31の3−2において、その者及び配偶者等の日常生活の状況のほか、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判断することとされている。
 さらに、本件乙建物のように居宅兼店舗等の併用家屋は、仮に、廃業等によりその店舗部分が本来の用途に供されなくなったとしても、その部分が直ちに「居住の用に供している家屋」となるものではなく、その供されなくなった後の当該部分の構造、設備及びその実際の利用状況などから、その譲渡した者が現に起居のために使用しているか否かにより判断するものである。
 したがって、本件乙建物1階は、現実に居住の用に供し得る状況にもなかったことからすると、生活用資産の倉庫(物置)として家財道具等を置いてあったとしても、「居住の用に供していた家屋」に該当するとは認められない。
(ト)本件譲渡資産の面積の区分は、登記簿上の面積を基に計算すべきであり、本件乙建物の床面積は、1階は179.55平方メートルで非居住用と認められ、2階は165.51平方メートルで居住用と認めらる。
 したがって、居住用部分の割合は48パーセントとなる。
 さらに、平成7年12月26日付の売買契約書の物件表示の床面積も登記簿上の床面積と同じである。
(チ)本件土地の居住用部分の割合は、次のとおりとなる。
A 本件土地の面積436.59平方メートルのうち、本件甲建物の敷地に相当する面積101.25平方メートルは居住用と認められる。
B 本件土地の面積436.59平方メートルから本件甲建物の敷地の面積101.25平方メートルを差し引いた335.34平方メートルについては、上記(ト)の居住用部分の割合を乗じて計算した160.97平方メートル(335.34平方メートル×48%=約160.97平方メートル)が居住用部分と認められる。
C したがって、本件土地のうち居住用部分の面積は、262.22平方メートル(101.25平方メートル+160.97平方メートル=262.22平方メートル)となり、その割合は60パーセント(262.22平方メートル÷436.59平方メートル=約60%)となる。
(リ)売買価額の総額のうち、居住用及び非居住用それぞれの譲渡価額を計算すると、次のとおりとなる。
A 本件建物の譲渡価額は、請求人が建物の未償却相当額を譲渡価額として修正申告で計算している額を採用して、居住用5,675,363円及び非居住用4,660,069円の合計額10,335,432円とした。
B 本件土地の譲渡価額は、次のとおりとなる。
売買価格の総額 本件建物の譲渡価額 上記(チ)の面積割合 本件土地の譲渡価額
(93,000,000円−10,335,432円)×60%=49,598,741円(居住用)
(93,000,000円−10,335,432円)×40%=33,065,827円(非居住用)
C したがって、本件譲渡資産の譲渡価額は、次のとおりとなる。
本件建物の譲渡価額 本件土地の譲渡価額 本件譲渡資産の譲渡価額
5,675,363円+49,598,741円=55,274,104円(居住用)
4,660,069円+33,065,827円=37,725,896円(非居住用)
(ヌ)保証債務の履行のために支出した金額6,000,000円は、上記(リ)のCの居住用及び非居住用の本件譲渡資産の譲渡価額の比により按分する。
(ル)本件譲渡資産の取得費の額は、次のとおりとなる。
A 本件甲建物は、建築されてから相当年数経過しているため、取得費の額はないものとする。
 したがって、本件建物の取得費の額は、上記(リ)のAの譲渡価額の金額を取得費の額とする。
B 本件土地の取得費の額は、措置法第31条の4第1項に規定する概算取得費を適用して計算する。
(オ)本件譲渡資産の譲渡費用の額は、次のとおりとなる。
A 機械解体等に要した費用1,500,000円は、非居住用の譲渡費用とする。
B 印紙購入代金60,000円は、上記(リ)のCの居住用及び非居住用の本件譲渡資産の譲渡価額の比により按分する。
(ワ)よって、本件譲渡資産に係る分離長期譲渡所得の金額は、上記(リ)ないし(オ)に基づいて計算すると、次表のとおりである。

(カ)以上により、請求人の平成7年分の所得税額を計算すると、次表のとおりとなる。

 したがって、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額及び納付すべき税額は、それぞれ本件更正処分と同額になるので、本件更正処分は適法である。

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3 判断

(1)調査手続の違法性について争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)関与税理士は、所得税の確定申告書の提出前に原処分庁に赴き、事案の概要と申告方法について相談しているが、この際に、原処分庁では、関与税理士の説明の内容から、建物のすべてが居住用であるとは認められないと判断し、居住用と居住用以外に区分して計算するように指導している事実はあるが、請求人の所得税の確定申告書提出前に、本件建物の利用状況について事前調査をした事実はない。
(ロ)修正申告書の提出に至る経緯は、次のとおりである。
A 関与税理士は、請求人に対し、原処分庁の調査内容を説明したところ、請求人から「原処分庁に誤解されている部分があり、納得できないので、自分一人で原処分庁に行って説明をしてくる」と言われ、修正申告書提出の際に立会いができなかった旨を当審判所に対し答述している。
B 請求人は、調査担当職員に対し、G社の倒産に係る債務の弁済がある旨を説明しているが、保証の事実及び保証債務の履行の事実を裏付ける関係書類等の提示及び説明をしていない。
 また、関与税理士は、当審判所に対し、請求人から本件譲渡代金の使途について具体的な説明を聞いていない旨を答述している。
C 調査担当職員は、請求人に対し、請求人が道義的責任からMの借金を返済した場合には、請求人からMに対し資金を贈与したことになる旨の発言をした事実は認められるが、贈与税を課税する旨を言った事実はない。
 また、調査担当職員は、Jの弟がMの保証債務を弁済しているので、請求人がMに代わってJの弟に弁済した場合には、請求人からJの弟に対し資金を贈与したことになる旨の発言をした事実は認められるが、修正申告書を提出すれば贈与税を課税しない旨を言った事実はない。
D 関与税理士は、当審判所に対し、本件甲建物について、その用途が「その他の用」から「居住用」に変更になったことは、自分が請求人から聴取した利用区分について原処分庁に説明し、その合理性が認められたことによる結果である旨を答述している。
ロ 本件調査の適法性
(イ)原処分庁が行った所得税の確定申告書提出前の指導は、適用法令等の説明及び適正申告を促すための指導と認められ、納税者に対して何らの強制力はなく、あくまでも納税者に対するサービスの一環として行われたものであり、いわゆる税務調査には当たらない。
(ロ)調査担当職員は、修正申告のしょうように当たって、請求人に対し、税法及び通達で解釈した検討結果を説明したものであり、上記イの(ロ)のDによれば、利用区分の変更をしたことは、修正申告を促す目的で行ったものとは認められない。
 また、調査担当職員は、当初の調査額より税金を安くしたので修正申告をした方が得である旨の発言をした事実も認められず、請求人は、調査担当職員の調査結果の説明を納得した上で修正申告書に署名及び押印をして提出したものと認められる。
(ハ)また、調査担当職員は、上記(ロ)のとおり、当初の調査額より税金を安くしたので修正申告をした方が得である旨を発言した事実は認められないから、行政手続法に反したとは認められない。
(ニ)以上のとおり、調査手続に違法は認められない。
(2)本件特例の適用範囲について争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
(イ)請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地には、従来からG社の駐車場として2台以上の駐車スペースがあること、また、本件乙建物2階に小面積ながら倉庫があり、更に、生活用資産を置いて利用していた本件甲建物がある。
B 本件譲渡資産の相続による所有権移転登記は、本件譲渡の8日前の平成7年12月18日に行われている。
C 請求人は、本件譲渡代金から6,000,000円をP銀行の保証債務の履行に充てている。
D 請求人は、平成7年夏頃から本件譲渡資産の売り申込みをしている。
(ロ)関与税理士は、当審判所に対し、遺産分割協議書の作成を依頼されたのは平成7年7月3日である旨答述している。
(ハ)請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
A G社が倒産し、G社の債務があったので財産を処分して精算しなければならなかったために本件譲渡をしたものである。
B 本件譲渡資産を他に賃貸する意思もなかった。
C 本件甲建物は、本件乙建物を建築する前の居宅であったこと及び本件乙建物に転居した後においても取壊しせずに現存し、父母が使用していたタンス等を保管していた。
D 本件甲建物は、建築後100年以上経過している。
(ニ)請求人は、当審判所に対し、建物の構造、設備の状況証拠として、本件譲渡資産を引渡し(平成8年3月3日転居)した後の平成8年11月20日頃に本件譲渡資産の一部を撮影した写真を提出している。
ロ 居住用部分の算定について
(イ)本件乙建物2階は、上記1の(3)のニ、ホ及びトによれば、家族構成からみても一般家庭の居宅としての広さ及び設備を十分備えた構造となっており、G社の倒産後に本件乙建物1階を居住の用に供さなければならないという特段の事情は認められず、また、本件乙建物1階部分を家族が起居するために改装した事実は認められない。
(ロ)請求人は、G社の倒産後の本件乙建物1階を生活の拠点としていた旨主張する。
 しかしながら、〔1〕本件乙建物2階には台所があるにもかかわらず、その機能のない店舗工場を台所として使用することは考えにくいこと、〔2〕物干し場として利用していたとする場所は、北西に面し、G社の倒産前は原料倉庫であったり、隣接して本件甲建物及び本件丙建物があることからみて、日照がほとんどない場所と認められ、物干し場として利用することは考えられないことから、請求人及びその家族が生活の拠点として使用していたものとは認められない。
(ハ)請求人は、上記イの(ロ)のとおり、少なくとも関与税理士に対する遺産分割協議書の作成を依頼した平成7年7月3日以前においては、本件譲渡資産を相続することは確定していないと推認され、また、上記1の(3)のチのとおり、P銀行からG社の債務の弁済を迫られている状況にある中で、上記イの(ハ)のAとおり、本件譲渡資産を相続すれば債務の弁済をしなければならず、他方、相続登記をしなければ本件譲渡資産を譲渡することができないとの間にあって、本件譲渡資産を相続すると同時に本件譲渡をする必要があったものと認められる。
 このことからすれば、請求人は、相続後に本件乙建物1階を居住用資産として利用する必然性は認められない。
 そうすると、請求人は、本件乙建物2階を居住の用に供していながら、債務整理のために譲渡せざるを得ない本件譲渡資産のうちの本件乙建物1階をあえて居住用として利用する必要性は認められず、例え、生活用資産を保管していたとしても、それはあくまでも一時的なものであり、居住用と認めることはできない。
(ニ)本件甲建物は、上記イの(ハ)のCのとおり、父母が使用していたタンス等を保管して使用しており、一方、本件乙建物1階は、上記(ハ)のとおり、G社の倒産によって空家となった部分を一時的に生活用資産の保管場所としていたものであるから、本件甲建物と本件乙建物1階の利用状況は相違している。
 また、請求人は、本件甲建物を撮影した写真を基に雨漏りのする廃屋でガラクタしか置けない状況であることから、通常の生活用資産は本件乙建物1階が第一次的な物置である旨主張するが、当該写真は、上記イの(ニ)のとおり、既に第三者に引渡した後に撮影した写真で、現況が相違しており、かつ、利用状況の判断ができないことから、この写真を基にしての請求人の主張は採用することはできない。
(ホ)本件乙建物は、上記1の(3)のニのとおり、1階部分と2階部分の使用状況が異なることから、居住用と非居住用の併用とみるのが相当であり、その敷地の利用区分についても、当該建物の使用割合に応じて区分するのが合理的である。
(ヘ)請求人は、原処分庁が譲渡資産の居住用と非居住用の区分の判断をするためには、第三者に引渡しする前の利用度の現況をきっちりと把握するべきであるにもかかわらず、第三者に引渡した後をみて判断を下すことは重大な誤りである旨主張する。
 しかしながら、調査担当者は、本件調査の際に、本件譲渡資産が現存していることから、本件譲渡資産の現況と利用状況を確認するために、請求人と一緒に譲渡先から本件建物の鍵を一時借用して実地に確認し、その場で請求人から本件譲渡以前の本件建物の利用状況を聞いた上で利用区分を判断しており、原処分庁の判断は相当と認められる。
(ト)請求人は、本件乙建物の償却費相当額の計算において、申告額を認めるべきである旨主張するが、「譲渡内容のお尋ね回答書」の記載例は、一般的なものについて例示したものであり、譲渡資産の償却費相当額の計算においては、譲渡物件個々について耐用年数を判断するべきものと認められる。
 そこで、本件乙建物は、2以上の用途に共用されている資産であるから、「耐用年数の適用等に関する取扱通達」の制定について(昭和45年5月25日付直法4―25、直審(法)38の国税庁長官通達)1―1―1《2以上の用途に共用されている資産の耐用年数》を適用して判断することとなる。
 したがって、本件乙建物1階は、G社が○○の製造販売のために使用していたもので、同1階の床面積179.55平方メートルに占める工場並びに原料倉庫の使用面積は121.05平方メートルと推認されることからその使用割合は67パーセント(121.05平方メートル÷179.55平方メートル=約67%)となる。
 以上のことから、本件乙建物に適用する耐用年数は、〔1〕種類が建物、〔2〕構造が鉄筋コンクリート造、〔3〕細目が2階については、住宅用の60年(定額法、償却率0.017)を適用し、1階については、工場用その他のもの45年(定額法、償却率0.023)を適用するのが合理的であると認められる。
(チ)請求人は、本件乙建物の床面積は、建築基準法に基づく建築確認申請書の設計図の面積で計算するべきである旨主張するが、別紙2のとおり登記法に基づいて実測の上登記されていることから、登記簿上の床面積によることが合理的であると認められる。
 したがって、〔1〕1階の屋上部分は、建物の床面積には入らないこと。〔2〕2階のひさし状の出っ張り部分は、2階の床面積に算入されていること。〔3〕2階の玄関に通ずる取付階段7.78平方メートルは、登記簿上の床面積には算入されていないが、回階段は建物の構造からみて同2階への出入口として取り付けられた構築物であるから、本件乙建物の床面積に加算するのが合理的であること及び〔4〕内部の2階に通ずる昇降階段は、1階の床面積に算入されている。
 そうすると、本件乙建物の床面積は、1階が179.55平方メートル、2階が165.51平方メートル及び取付階段が7.78平方メートルの合計352.84平方メートルとするのが相当である。
(リ)本件建物の本件特例に該当する面積及び割合は、次のとおりとなる。
A 本件甲建物は、生活用資産の物置として使用してきたことから、床面積53.71平方メートルは居住用と認められる。
B 本件乙建物は、2階の床面積165.51平方メートル及び2階の玄関に通じる取付階段の面積7.78平方メートルは居住用専用とし、内部の昇降階段の面積3.64平方メートルは、居住用と非居住用の併用と認められる。
C 本件丙建物は、本件乙建物の附属建物であり、本件乙建物1階には便所がないことから、G社が営業している時は本件乙建物1階と一体として利用されていたものと認められるが、G社の倒産後においては、本件乙建物2階に居住用専用の便所があり、その立地状況等から判断すると、居住用及び非居住用のいずれにも利用されていないものと推認される。
 したがって、本件丙建物の床面積4.50平方メートルは、居住用と非居住用の併用と認めることが合理的であると認められる。
 そうすると、本件建物の居住用に供している床面積は227.00平方メートルで、8.14平方メートルが併用となり、非居住用の床面積は、本件乙建物1階の床面積179.55平方メートルから内部の昇降階段の面積3.64平方メートルを差し引いた175.91平方メートルとなり、本件建物の総床面積は411.05平方メートルとなる。
 したがって、本件建物の居住の用に供している部分の面積は、措置法通達31の3―7《店舗兼住宅等の居住部分の判定》の(1)の算式により計算すると、次のとおり、231.59平方メートルとなり、その割合は56パーセントとなる。
227.00平方メートル+8.14平方メートル×227.00平方メートル÷227.00平方メートル+175.91平方メートル=231.59平方メートル
231.59平方メートル÷411.05平方メートル=56%
(ヌ)本件土地は、本件甲建物と本件乙建物と接近し、ほとんど入り組んだ状態で境界等もなく、両建物を一体として利用されていると認められることから、本件甲建物の敷地と本件乙建物の敷地を区分すべきではないと認められる。
 したがって、本件土地の本件特例に該当する面積は、措置法通達31の3―7《店舗兼住宅等の居住部分の判定》の(2)の算式により計算すると、次のとおり245.98平方メートルとなり、その割合は56パーセントとなる。
0+436.59平方メートル×231.59平方メートル÷411.05平方メートル=245.98平方メートル 245.98平方メートル÷436.59平方メートル=約56%
ハ 分離長期譲渡所得の金額
分離長期譲渡所得の金額を計算すると、次のとおりとなる。
(イ)譲渡価額
売買価額の総額のうち、居住用及び非居住用それぞれの譲渡価額を計算すると、次のとおりとなる。
A 本件建物の譲渡価額は、建物を居住用及び非居住用部分の面積で按分し、それぞれの未償却相当額を計算して譲渡価額とした。
 なお、本件建物の取得価額は、後記(ハ)のA及びBのとおり、本件甲建物は零円とし、本件乙建物及び本件丙建物は坪当たり160,000円として計算した。
(A)建物の取得価額
349.56平方メートル×160,000円÷3.30578平方メートル=16,918,731円
(B)居住用部分の譲渡価額
a 居住用部分の面積
165.51平方メートル+8.14平方メートル×165.51平方メートル÷349.56平方メートル−8.14平方メートル=169.42平方メートル
b 取得価額
160,000円×169.42平方メートル÷3.30578平方メートル=8,199,941円
c 償却費相当額(耐用年数60年×1.5=90年、償却率0.012)
8,199,941円×0.9×0.012×24年=2,125,425円
d 譲渡価額(未償却残高)
8,199,941円−2,125,425円=6,074,516円
(C)非居住用部分の譲渡価額
a 非居住用部分の面積
349.56平方メートル−169.42平方メートル=180.14平方メートル
b 取得価額
16,918,731円−8,199,941円=8,718,790円
c 償却費相当額(耐用年数45年、償却率0.023)
8,718,790円×0.9×0.023×289月÷12=4,346,535円
d 譲渡価額(未償却残高)
8,718,790円−4,346,535円=4,372,255円
B 本件土地の譲渡価額は、売買価額の総額から建物の譲渡価額を差し引いた残高を、上記ロの(ヌ)の割合で居住用及び非居住用部分を按分して、次のとおり計算した。
(A)居住用部分
(93,000,000円−10,446,771円)×56%=46,229,808円
(B)非居住用部分
(93,000,000円−10,446,771円)×44%=36,323,421円
C したがって、本件譲渡資産の居住用及び非居住用部分の譲渡価額は、次のとおりとなる。
(A)居住用部分
6,074,516円+46,229,808円=52,304,324円
(B)非居住用部分
4,372,255円+36,323,421円=40,695,676円
(ロ)保証債務の額
 保証債務の履行のために支出した金額6,000,000円は、上記(イ)のCの居住用及び非居住用の本件譲渡資産の譲渡価額の比により計算すると、次のとおりとなる。
A 居住用部分
6,000,000円×52,304,324円÷93,000,000円=3,374,473円
B 非居住用部分
6,000,000円×40,695,676円÷93,000,000円=2,625,527円
(ハ)取得費の額
A 本件甲建物は、上記(2)のイの(ハ)のDとおり、建築されてから相当年数経過しているため、取得費の額はないものとする。
B 本件乙建物及び本件丙建物は、取得価額が不明であることから、請求人が確定申告で計算した坪当たり160,000円が建物の経過年数等から判断して相当であると認められることから、これを採用して計算した未償却残高を取得費の額とするのが合理的である。
 したがって、本件乙建物及び本件丙建物の取得費の額は、上記(イ)のAの(B)及び(C)のとおり、居住用部分が6,074,516円で非居住用部分が4,372,255円となる。
C 本件土地の取得費の額は、当該土地の取得が昭和25年6月で、かつ、取得価額が不明であることから、措置法第31条の4第1項《長期譲渡所得の概算取得費控除》に規定する概算取得費を適用して計算すると、次のとおりとなる。
(A)居住用部分
46,229,808円×5%=2,311,490円
(B)非居住用部分
36,323,421円×5%=1,816,171円
(ニ)譲渡費用
 本件譲渡資産の譲渡費用の額は、次のとおりとなる。
A 機械解体等に要した費用1,500,000円は、非居住用の譲渡費用とする。
B 印紙購入代金60,000円は、上記(イ)のCの居住用及び非居住用の本件譲渡資産の譲渡価額の比により計算すると、次のとおりとなる。
(A)居住用部分
60,000円×52,304,324円÷93,000,000円=33,745円
(B)非居住用部分
60,000円×40,695,676円÷93,000,000円=26,255円
(ホ)よって、本件譲渡資産に係る分離長期譲渡所得の金額は、上記(イ)ないし(ニ)に基づいて計算すると、次表のとおりである。

ニ 以上により、請求人の平成7年分の分離長期譲渡所得金額及び納付すべき税額は、次表のとおりとなる。

 以上の結果、分離長期譲渡所得金額39,865,568円は更正処分に係る金額39,971,339円に満たないが、納付すべき税額8,180,500円は更正処分に係る金額7,755,900円を上回るから、原処分が行った更正処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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