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(平11.3.26裁決、裁決事例集No.57 381頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、鋳物金網製造業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が取得した鋳型造型機及びその附属機器等について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第42条の5《エネルギー需給構造改革推進設備等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除》に規定する特別償却の対象に鋳型造型機本体のみが該当するか、それともその附属機器等も含むのかを主たる争点とした事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり(以下、平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度を「平成8年3月期」といい、平成8年4月1日から平成9年3月31日までの事業年度を「平成9年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)。

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(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 措置法第42条の5第1項第5号の規定の適用を受ける減価償却資産には、通商産業省告示第145号(以下「通産省告示145」という。)の別表一の23(平成8年4月1日改正前のもの。以下「通産省告示145―1―23」という。)で「プレーン型高圧式鋳型造型機」が規定されていること。
ロ 平成8年5月20日付で日本鋳造機械工業会が発行した、整理番号*―*―**―****のエネルギー需給構造改革推進設備仕様等証明書(以下「エネルギー需給仕様等証明書」という。)では、請求人が取得した静圧造型機(型式×××―××、製造番号△―△△△△)(以下「本件造型機」という。)が、通産省告示145―1―23に規定する「プレーン型高圧式鋳型造型機」に該当することを証明していること。
ハ 請求人は、本件造型機を含む、別表2の機械・装置等(以下「鋳型製造設備」という。)を平成8年2月に361,952,173円で取得し、その鋳型製造設備のすべてが減価償却資産の耐用年数等に関する省令(以下「耐用年数省令」という。)の別表第二の214「連続式鋳造鋼片製造設備」に該当し、耐用年数が12年であるとして、普通償却限度額を計算し、31,670,815円を平成8年3月期の減価償却費として、損金の額に算入したこと。
 なお、請求人は、平成8年3月期には、法人税法施行令第59条(平成10年政令第10号による改正前のもの。以下同じ)《事業年度の中途で事業の用に供した減価償却資産の償却限度額の特例》第2項に規定する償却限度額の計算方法(以下、この規定に基づく償却限度額の計算方法の特例を「簡便償却」という。)を適用していること。
ニ 請求人は、鋳型製造設備のすべてが措置法第42条の5に規定する特別償却の対象となるものとして、当該設備の取得価額361,952,173円の100分の30に相当する金額108,585,651円を特別償却限度額として平成8年3月期の減価償却費として損金の額に算入したこと。
ホ 本件造型機の購入価額は、D株式会社の見積書の43,900,000円から最終精算において値引きを差し引いた後の36,437,000円であること。
ヘ 請求人は、鋳型製造設備について、普通償却限度額を計算し、38,796,748円を平成9年3月期の減価償却費として損金の額に算入している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 次の理由により、原処分の一部の取消しを求める。
 なお、原処分のその他の処分については争わない。
イ 更正処分について
(イ)減価償却費
A 平成8年3月期
 鋳型製造設備に係る平成8年3月期に損金の額に算入されるべき減価償却費の償却限度額は次のとおりである。
a 通産省告示145―1―23「プレーン型高圧式鋳型造型機」とは、本件造型機のみをさすのではなく、その機能を満足させるために必要な装置、機器及び取付け費用等を含めたものであり、その内訳及び取得価額は、別表3の「請求人主張額」欄のとおり105,116,000円であるから、措置法第42条の5の規定による特別償却額は、別表4の「請求人主張額」欄のとおり、31,534,800円となる。
b 請求人は、当初の申告において、生砂試験装置3,800,000円及び発光分光分析器7,000,000円を耐用年数省令の別表第二の214「連続式鋳造鋼片製造設備」に該当する資産として鋳型製造設備の取得価額に算入していたが、生砂試験装置及び発光分光分析器(以下、これらを併せて「試験・分析装置」という。)は、機械及び装置ではなく、耐用年数基本通達2―6―1に定める測定工具及び検査工具に該当し、耐用年数は5年であるので、普通償却限度額を再計算すると、別表4の「請求人主張額」欄のとおり、1,992,600円となる。
c 連続式鋳造鋼片製造設備に該当する部分の取得価額は、鋳型製造設備の取得価額361,952,173円から上記bの試験・分析装置10,800,000円を除くと、351,152,173円となるから、普通償却限度額は、別表4の「請求人主張額」欄のとおり、30,725,815円となる。
 以上により、鋳型製造設備に係る減価償却費の償却限度額は、別表4の「請求人主張額」欄のとおり、64,253,215円となり、当該金額を減価償却費として損金の額に算入すべきであるから、更正処分は違法である。
B 平成9年3月期
 上記Aにより、平成9年3月期の鋳型製造設備に係る減価償却費の償却限度額は、別表5の「請求人主張額」欄のとおり、53,805,952円となり、当該金額を減価償却費として損金の額に算入すべきであるから、更正処分は違法である。
(ロ)租税公課
 原処分庁は、Q市S町102―309の土地(以下「本件土地」という。)に係る固定資産税(平成8年3月期74,900円、平成9年3月期76,700円)は請求人の代表取締役であるTが名義人であり、同人が個人的に負担すべきものとして、いずれも損金算入することを認めなかった。
 しかしながら、本件土地は、請求人が取得し請求人の資産として計上しているものであるから、固定資産税の損金算入を認めなかった更正処分は違法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 平成8年3月期及び平成9年3月期の更正処分のうち、上記イに係る更正処分は違法であるから、これに伴う過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。
 (2)原処分庁の主張
 次の理由により、原処分は適法であるので、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
 平成8年3月期の鋳型製造設備の償却限度額は、次のとおりである。
(イ)措置法第42条の5の適用を受ける減価償却資産は通産省告示145で指定されているが、例えば、同告示の別表一の24「せん断機」は、特別償却の対象として、せん断機本体以外に、これと同時に設置する専用の集積装置を含むと規定され、附属機器等を含む場合には、その対象となる範囲が明確に指定されている。
(ロ)これに対し、通産省告示145―1―23「プレーン型高圧式鋳型造型機」には、本体以外の附属機器等が含まれる旨の規定がなく、その造型機本体のみが特別償却の対象であることは明らかである。
(ハ)そうすると、上記1の(3)のロのとおり、本件造型機のみが特別償却の対象となる。
(ニ)法人税法施行令第54条第1項第1号において、購入した減価償却資産の取得価額は「当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税)その他当該資産の購入のため要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額」と「当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額」との合計額と規定されている。
 この規定により、特別償却の対象となる本件造型機の取得価額は、別表3の「原処分庁主張額」欄のとおり、43,200,335円となる。
 そうすると、特別償却限度額は、別表4の「原処分庁主張額」欄のとおり、12,960,100円となり、償却超過による損金不算入額95,625,551円は、更正処分の損金不算入額を上回るから、更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イで述べたように、更正処分は適法であり、また国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので同条第1項の規定に基づき過少申告加算税の賦課決定処分をしたことは適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 請求人が取得した本件造型機及びその附属機器等について、措置法第42条の5に規定する特別償却の対象に本件造型機本体のみが該当するか、それともその附属機器等も含むか否かに争いがあるので、以下、審理する。
イ 特別償却限度額
(イ)当審判所の調査したところによれば、上記1の(3)イ及びロのとおり、本件造型機は、通産省告示145―1―23に該当する「プレーン型高圧式鋳型造型機」であると認められる。
 通産省告示145では、別表一において、いわゆる中小企業者用エネルギー有効利用等設備の特別償却の対象となる機械その他の減価償却資産について規定しているが、この規定は、特に、エネルギー需給構造の改革を推進するためのものであり、その対象となる資産の範囲は、限定的に列挙されている。
 したがって、附属機器等が対象となる場合には、その機械又は装置と同時に設置することを条件として、明示的に対象となる旨を規定しており、その旨の規定がない場合には、機械又は装置のみに限定され、附属機器等については、特別償却の対象とならないと解される。
 そうすると、請求人が別表3で主張する装置・機器等のうち〔2〕ないし〔10〕については、通産省告示145―1―23に附属機器等として指定されていないことから、措置法第42条の5に規定する特別償却の対象とはならない。
 よって、装置・機器等のうち特別償却の対象となるのは、本件造型機のみである。
(ロ)本件造型機の取得価額は、法人税法施行令第54条第1項第1号の規定により、本件造型機の購入の代価、その他購入のために要した費用と同資産を事業の用に供するために直接要した費用(以下「設置費用等」という。)の合計額となる。
A 原処分庁は、本件造型機に係る設置費用等は、鋳型製造設備全体の設置費用等のうち、別表3の「原処分庁主張額」欄のとおり、6,763,335円である旨主張する。
B しかしながら、設置費用等の中に含まれる社内総組は、本件造型機を含む一部の装置・機器等にのみ係るものであり、鋳型製造設備全体に係るものでないことから、その計算をすると、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、9,043,935円となる。
(ハ)そうすると、措置法第42条の5に規定する、特別償却の対象となる減価償却資産の取得価額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり45,480,935円となり、平成8年3月期の特別償却限度額は、別表4の「審判所認定額」欄のとおり、13,644,280円となる。
ロ 普通償却限度額
(イ)請求人は、鋳型製造設備のうち試験・分析装置は、機械及び装置ではなく、耐用年数基本通達2―6―1に掲げる測定工具及び検査工具に該当する旨主張し、原処分庁は、これに対して何ら主張をしなかった。
 当審判所の調査したところによれば、試験・分析装置は、生産工程において、品質管理をするために、成分の数値を測る試験機器類として使用するもので、耐用年数省令の別表第一の器具及び備品の試験又は測定機器に該当し、その耐用年数は5年であると認められる。
(ロ)そうすると、連続式鋳造鋼片製造設備に該当する部分の取得価額は、上記(イ)の試験・分析装置の取得価額を除いた351,152,173円となるから、当該設備の平成8年3月期の普通償却限度額は、別表4の「審判所認定額」欄のとおり、30,725,815円となり、平成9年3月期の普通償却限度額は、別表5の「審判所認定額」欄のとおり、53,686,863円となる。
(ハ)また、試験・分析装置の平成8年3月期の普通償却限度額は、別表4の「審判所認定額」欄のとおり、1,992,600円となり、平成9年3月期の普通償却限度額は、別表5の「審判所認定額」欄のとおり、3,249,930円となる。
ハ 償却超過額
 上記イ及びロにより、平成8年3月期の償却超過額は、別表4の「審判所認定額」欄のとおり、93,893,771円となる。
ニ 租税公課
 請求人は、本件土地は、請求人が取得し請求人の資産として計上しているものであるから、固定資産税の損金算入を認めなかった更正処分は違法である旨主張し、原処分庁は、これに対して何ら主張をしなかった。
 当審判所の調査したところによれば、本件土地の名義は、請求人の代表取締役Tであるが、請求人の所有資産として貸借対照表に計上されており、請求人の資産と認められるから、本件土地にかかる固定資産税、平成8年3月期74,900円、平成9年3月期76,700円を損金の額に算入する。
ホ 事業税の損金算入額
 平成8年3月期の所得金額が増加したことから、それに伴う事業税5,112,400円を平成9年3月期の損金の額に算入する。
ヘ 繰越欠損金
 平成8年3月期の所得金額は、上記イないしホによって増加し、翌期へ繰り越す欠損金はないから、欠損金の当期控除額48,827,181円については、平成9年3月期の損金の額に算入することはできない。
ト 本件各事業年度の所得金額等
 以上のことから、請求人の本件各事業年度の所得金額は、平成8年3月期が45,229,800円、平成9年3月期が32,134,575円となる。
 また、請求人の平成8年3月期の課税留保金額は、7,529,000円となる。
チ 本件各事業年度の法人税の納付すべき税額
 請求人の本件各事業年度の法人税の納付すべき税額は、平成8年3月期が15,806,600円、平成9年3月期が11,040,700円となる。
 そうすると、本件各事業年度の法人税の納付すべき税額は、いずれも更正処分の金額を下回ることとなるから、本件各事業年度の更正処分はその一部を取り消すべきである。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件各事業年度の更正処分の一部が取り消されることに伴い、その基礎となる税額は、平成8年3月期が15,800,000円、平成9年3月期が8,750,000円となる。
 なお、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、本件各事業年度の過少申告加算税の額は、国税通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づいて算出すると、平成8年3月期は2,312,500円、平成9年3月期は1,128,000円となり、この額は、賦課決定処分の額を下回るから、本件各事業年度の過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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