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(平11.3.29裁決、裁決事例集No.57 395頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人Xほか2名(以下、「請求人ら」といい、請求人らを各別に「X」、「Y」及び「Z」という。)は、平成7年4月3日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したW(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)にかかる相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書(以下「本件申告書」という。)に次表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 Q税務署長は、これに対し、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成9年2月3日付で次表の「更正等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

 請求人らは、これらの処分を不服として、平成9年3月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月24日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年7月17日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Xを総代として選任し、その旨を平成9年7月24日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)株式の帰属
 原処分庁は、p市r町2丁目16番1△△ビル603号所在のR株式会社(以下「R社」という。)の請求人ら名義の株式26,367株(以下「本件株式」という。)は本件被相続人に帰属する財産であると認定しているが、次に述べるとおり、本件株式は請求人ら各名義人に帰属するものであり、相続財産ではない。
A 原処分庁は、請求人らの申述を基に本件株式は本件被相続人に帰属する財産であると認定しているが、請求人らはR社の株主であること及び増資があったことは認識しており、同社からの配当金を受け取ったことはあるが、増資の手続等はすべて本件被相続人に任せていたことから原処分庁の質問に対し的確な回答ができなかったものである。本件被相続人が、本件株式の配当金を一括して受領し、管理していたのは事実であるが、請求人らに帰属するR社の株式数は明らかであり、配当金の管理状況のみで本件株式が本件被相続人に帰属するとすることには納得できない。
 本件株式の帰属については、形式的な面からではなく、実質的な面から判断すべきである。
B 原処分庁は、Xに係るR社の増資払込資金がいずれも本件被相続人の管理する現金及び預金から支出されていることから、X名義の株式はすべて本件被相続人に帰属すると認定しているが、本件被相続人がXの増資払込資金を支出したのは、本件被相続人の管理する財産の中にXの株式の配当金収入、不動産収入及び給与収入からなる財産が含まれているためで、この行為は預り金の返済である。
C Xは、R社からの配当金については毎年所得税の確定申告をし、また、同社の株式の異動等については、同社の法人税の確定申告書において明確に記載され、その間、所轄税務署長の調査の結果を踏まえて今日に至ったものであり、これを無視した本件更正処分は著しく信義に反する行為である。
D 本件被相続人に対する所得税の更正処分は、平成5年分、平成6年分及び平成7年分(以下、併せて「各年分」という。)についてのみなされたものであり、平成4年分以前の年分は申告内容が適正であると判断されたものと解される。税務調査がすべて万全であるとは思わないし、更正も再更正もあり得ることである。しかし、税務調査の結果、本件株式は請求人ら名義人の株式であると認定され、かつ、各名義人は自己の株式として株主総会、税務上の手続等を平穏無事公然と行ってきたものである。一定の事実上の状態があり、これが法定の期間継続した場合は、真実の法律関係にかかわらずその継続した事実関係を認め法的安定性を持たせるのが時効の制度であるが、本件は国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》のほかその他の関係法令との問題が明らかにされていない。
E 親族相互間における同族会社の株式の異動は、正常な取引以外はすべてその都度贈与で処理すべきもので、名義人以外の株式として確定されるものではない。
 一般的に自己の資産である株式等は早く家族のものとしておきたいという行為はあるにしても、わざわざ家族の名前を借りてまで自己の財産を末永く保持する意思も必要もない。
 したがって、本件株式についても本件被相続人が請求人らの名義で所有する必要はなく、請求人らの名義になった時に贈与により請求人らが取得したものと判断すべきである。
(ロ)現金の多寡
 原処分庁は、本件相続開始日における本件被相続人の手持ち現金の算定に当たり、Xの配当金収入を本件被相続人に帰属するものと認定して、Xに帰属する現金の額を算定しているが、これは明らかな誤りである。
(ハ)定期預金の帰属
 原処分庁は、Y及びZ(以下「Yら」という。)が本件被相続人からg銀行m支店におけるY名義の定期預金(口座番号******)(以下「Y名義預金」という)及びZ名義の定期預金(口座番号******)(以下、「Z名義預金」といい、Y名義預金と併せて「本件各定期預金」という。)の預入資金の贈与を受け、その贈与に係る贈与税の申告をしているにもかかわらずそれを認めず、本件各定期預金は本件被相続人の財産であると認定したが、次に述べるとおり、本件各定期預金はYら各名義人に帰属するものであり、原処分庁の認定は誤りである。
A Yらは、本件各定期預金の通帳と印章の所在及びその預入理由を承知しており、通帳と印章を確認していたYらが本件各定期預金の金額を全く知らなかったことはあり得ない。
B 本件被相続人は、本件各定期預金と自己の財産とが混同視されるのを防ぐため、そのことをXに明示して通帳及び印章を同人に管理、保管させたもので、本件被相続人が自らそれらを管理、保管していたものでなく、請求人らはこれらの経過等を承知していた。
C 本件被相続人は、本件各定期預金の通帳及び印章のいずれも管理しておらず、自己のものとは明確に区分しており、Yらに対する本件各定期預金の預入資金の贈与に係る贈与税の申告及び納税に関与したと認められる本件被相続人が、自己のために本件各定期預金を運用(財産を利殖その他の目的で働かせ用いること。)したと考える余地はない。
D 以上のとおり、本件各定期預金は、本件被相続人が一元的に管理、運用、支配したとは認められず、同人に帰属する財産ではない。
(ニ)本件更正処分は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対する請求人らの申述とその聴取書に基因するものであると思われるが、請求人らに対する聴取書の内容は、不明確、不自然であり、事実認定に足るものではない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)株式の帰属
 本件株式は、次に掲げる理由により本件被相続人に帰属する財産であり、相続財産である。
A 原処分庁の調査によれば、本件株式については、次の事実が認められる。
(A)R社の商業登記簿謄本によれば、R社は昭和36年6月12日に発行済株式の総数2,000株、資本の額1,000,000円として設立され、その後、次表のとおり増資を行い、本件相続開始日では、発行済株式の総数100,000株、資本の額50,000,000円となっている。

(B)本件株式の数量の推移は、次表のとおりである。

(C)昭和50年4月26日から平成元年8月3日までの間の増資の際に、XがR社に提出した株式申込証に押印されている印影に係る印章は、本件被相続人が所持し使用している印章と同一のものである。
(D)平成元年7月14日付のR社の取締役会の議事録によれば、同社は1株当たりの発行価額を500円、発行する新株の数を50,000株、払込期日を平成元年8月2日とする新株発行に関する決議を行っており、この増資により本件被相続人及び請求人らが引き受けた株式は、次表のとおりである。

(E)平成元年8月2日に、g銀行m支店の本件被相続人名義の普通預金(口座番号******)(以下「本件被相続人名義預金」という。)から19,750,000円が引き出され、これが同日、同支店の株式払込保管口に入金されたR社の増資払込資金の一部に充当されている。
(F)Xは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
a R社の設立には一切関与していないし、設立時の資金調達にも携わっていない。
b R社の増資は2回くらいあったとは思うが、その際、郵便物等による案内はなく、直接自ら新株の引受けを申し込んだことはない。
c 自ら新株払込資金を用意したことはなく、本件被相続人に任せていた。
d R社からの配当金は、平成6年5月ころ一度受け取ったことがあるだけで、その時以外に受け取ったことはない。
e X名義のR社の株式が、いつ20,000株から24,367株になったかは覚えていない。
(G)Y及びZは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
a R社の株主になっていると本件被相続人から聞いたことはあるが、株式の数量は記憶にない。
b R社の株式の贈与を受けたり、購入したことはない。
c R社からの配当金を受け取ったことはない。
d 平成元年8月1日付でR社に提出された株式申込証に使用されている印章は、本件被相続人が亡くなった後、Xから受け取ったものであり、それ以前に使用したことはない。
(H)R社の取締役であるS(以下「S」という。)は、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
a R社の増資額、新株の割当数、新株の引受者は、本件被相続人と協議して決定した。
b 平成元年8月の増資の際、R社に提出された本件被相続人及び請求人らの株式申込証は、その用紙を本件被相続人が受け取った後、本件被相続人からR社に記名押印後の株式申込証が提出された。
 また、それより前のXの株式申込証は、本件被相続人の株式申込証の用紙とともに本件被相続人が受け取った後、本件被相続人から記名押印後の株式申込証が提出された。
c 平成元年8月の増資の際の本件被相続人及び請求人らの増資払込金は、本件被相続人の依頼に基づき、本件被相続人名義預金から19,750,000円を払い戻して調達した。
 また、それより前のXの増資払込金は、本件被相続人の払込金とともに本件被相続人から現金で受領している。
d R社からの配当金は現金の入った封筒で支給され、Xの配当金も本件被相続人が同人分の配当金とともに受領している。
e 平成2年3月にX名義のR社の株式が4,367株増加したのは、同社の持株会の発足の際に従業員株主の持株数の均一化を併せて行ったことに伴い余剰株が発生したため、本件被相続人の指示により、その株式を本件被相続人及びXに割り当てたためである。
B 上記Aの各事実によれば、本件株式の取得の原資はいずれも本件被相続人が負担しているものと認められ、その取得の際に使用された印章の使用状況及び管理状況、配当金の受領状況等からみて、本件株式は本件被相続人が一元的に管理、運用、支配していた財産であると認めるのが相当であり、本件被相続人に帰属する財産であるから、請求人らに帰属する財産とは認められない。
 なお、請求人らは増資払込手続等の形式的な面からではなく、実質的な面から本件株式の帰属を判断すべきである旨主張するが、上記のとおり、原処分庁は、本件株式に係る増資申込手続だけでなく本件株式の管理状況、配当金の受領状況等に基づいて本件株式が本件被相続人に帰属する財産であると判断したものであるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
C 請求人らは、本件被相続人が管理していた財産の中にXの資金が含まれていた旨主張するが、請求人らが主張するXの資金とは、X名義のR社の株式に係る配当金収入を原資とするものであると思料されるところ、上記Bのとおり、本件株式はそのすべてが本件被相続人に帰属するものであり、本件株式について支払われた配当金は本件被相続人に帰属する配当金と認めるのが相当であるから、Xの資金とは認められず、他にXの資金が本件被相続人の管理していた財産の中に含まれていたとする事実は認められないから、請求人らの主張には理由がない。
D 請求人らは、Xが、過去20年にわたりR社の同人名義に係る株式の配当金を自己のものとして申告し、その間、Q税務署長の調査を経て今日に至ったものであるにもかかわらず、これらを一切無視した本件更正処分は著しく信義に反する行為である旨主張する。
 ところで、信義則の適用につき慎重であるべき租税法律関係の特質を考慮すれば、様々な状況下で行われる税務職員の見解の表示のすべてが信頼の対象となる公的見解の表示となるものでないことはいうまでもなく、納税者はもともと自己の責任と判断の下に行動すべきものであることからすれば、信頼の対象となる公的見解の表示であるというためには少なくとも、税務署長その他の責任ある立場にある者の正式の見解の表示であることが必要であるというべきであると解されているところ、本件においては公的見解が表示されたものとは認め難く、請求人らの主張には理由がない。
E 請求人らは、本件被相続人に係る所得税の更正処分が各年分についてのみ行われたことから、平成4年分以前の本件被相続人の所得税の申告内容は是認されたものと解されるとし、平成4年以前に支払われたR社からの配当金は、請求人らに帰属するものである旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、国税通則法第70条第1項第1号の規定により法定申告期限から3年を経過した日以後においては更正ができないことから、当該期間内である各年分の本件被相続人に係る所得税について更正を行ったものであり、同人に係る平成4年分以前の申告内容を是認したものではない。
F 請求人らは、親族相互間における同族会社の株式の異動は、正常な取引以外についてはすべてその都度贈与として処理されるべきものであり、相続開始時に名義人以外の株式として確定されるものではなく、本件株式は、名義人である請求人らが贈与により取得したものと判断すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人らが何をもって親族相互間における同族会社の株式の異動は、正常な取引以外についてはすべてその都度贈与として処理されるべきものである旨主張するのかはつまびらかではないが、贈与の有無を判定するに当たっては、民法第549条が「贈与ハ当事者ノ一方カ自己ノ財産ヲ無償ニテ相手方ニ与フル意思ヲ表示シ相手方カ受諾ヲ為スニ因リテ其効力ヲ生ス」と規定しているので、一般的には、当事者の意思の有無によることとなるが、書面によらない贈与は、その履行が終わるまでは当事者はいつでも自由に取り消すことができることから、贈与財産の実質的な支配状況など具体的な事実関係に基づいて贈与の有無を判断すべきである。
 そうすると、上記Bのとおり、本件株式は、本件被相続人が一元的に管理、運用、支配していたことは明らかであり、本件被相続人から請求人らに贈与があったものとみることは到底できず、請求人らの主張には理由がない。
(ロ)現金の多寡
A 原処分庁の調査によれば、本件相続開始日において本件被相続人が所持していた現金に関して、次の事実が認められる。
(A)平成7年8月30日に、g銀行n支店のX名義の普通預金(口座番号******)(以下「X名義預金」という。)に現金79,553,000円が入金されている。
(B)本件申告書には、本件被相続人の所持していた現金は23,000,000円と記載されている。
 また、本件申告書には、g銀行m支店、g銀行n支店及びh信用金庫k支店のX名義の普通預金、定期預金及び定期積金が相続財産として記載されている。
(C)請求人らは、調査担当職員に対し、次のとおり申述している。
a 平成7年5月頃、自宅に保管されていた本件被相続人の旅行かばんを確認したところ、多額の現金が保管されていた。
b 上記(A)の普通預金に入金された現金は、上記aの現金と本件被相続人の葬儀の際に集まった香典の残りである。
(D)Xは、調査担当職員に対し、次のとおり申述している。
a 本件被相続人から毎月2,000,000円ぐらいを受け取り、生活費として使った残りをg銀行n支店とh信用金庫k支店の本件被相続人名義及びX名義の定期積金にしていた。
b X名義の預金を相続財産として申告したのは、Xの預金も本件被相続人から受け取った生活費の残りから積み立てていたので、本件被相続人の預金なのかX固有の預金なのか区別できなかったため、X名義の預金も本件被相続人の預金として申告した。
(E)請求人らの関与税理士であるT(以下「T税理士」という。)が原処分庁に提出したメモ及びT税理士の申立てによれば、T税理士は、本件相続開始日現在で本件被相続人の所持していた現金が本件被相続人とXの双方の収入から蓄積されたと考え、本件被相続人に帰属する金額を、要旨次のとおり算出して、23,000,000円と申告している。
a 現金残額 79,000,000円
b aの金額のうちXに帰属する金額(〔1〕―〔2〕) 48,054,879円
〔1〕Xの昭和52年から平成7年3月までの収入金額の合計額 102,456,575円
〔2〕〔1〕に対応するXの所得税、住民税及びローン支払額 54,401,696円
c 香典の残額 7,646,000円
d 本件被相続人に帰属する金額(a―b―c) 23,000,000円
(F)また、T税理士が原処分庁に提出したメモには、Xの昭和52年から平成2年までの所得は、配当所得だけである旨記載されている。
B 上記Aの各事実によれば、請求人らは、X名義の預金が本件被相続人とXのいずれに帰属するものか区別がつかなかったため、X名義の預金を本件被相続人に帰属する財産として申告する一方で、自宅に保管されていた現金の一部はXの収入から発生した財産であるとし、自宅に保管されていた現金の額から当該財産の額を控除し本件被相続人に帰属する現金の額を決定したものと認められる。
 しかしながら、上記(イ)のBで述べたとおり、X名義のR社の株式は、本件被相続人に帰属する財産と認められることから、その配当金収入も本件被相続人に帰属する収入と認められ、Xの収入から蓄積された現金の額を算定するに当たり、X名義のR社の株式の配当金収入を原資として蓄積されたものを含めることは相当ではない。
 したがって、本件被相続人に帰属すると認められる現金の額を算出するに当たっては、Xの収入からX名義のR社の株式に係る配当金収入を除いてXの蓄積可能な現金の額を算定するのが合理的と認められることから、この方法により本件被相続人に帰属すると認められる現金の額を算出すると、次のとおり、35,768,441円となる。
(A)相続開始後にX名義の普通預金口座に入金された金額 79,553,000円
(B)(A)のうちXに帰属すると認められる金額(〔1〕―〔2〕) 36,138,559円
〔1〕Xの平成3年から本件相続開始日までの収入金額の合計額
 53,001,900円
〔2〕〔1〕に対応する所得税及び住民税 16,863,341円
(C)香典の残額 7,646,000円
(D)本件被相続人に帰属する金額((A)―(B)―(C)) 35,768,441円
(ハ)本件各定期預金の帰属
A 原処分庁の調査によれば、本件各定期預金について、次の事実が認められる。
(A)Y及びZは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
a 本件各定期預金の預入手続は、本件被相続人が行っており、本件被相続人がYら名義の預金を積み立てていることは聞いていたが、いくらなのかは知らなかった。
b 本件被相続人から本件各定期預金の通帳と印章を見せてもらったことはあるが、使うことはないので、通帳の中は確認せずにそのまま本件被相続人に戻している。
c 本件各定期預金に関して自ら贈与税の申告書を作成したり、贈与税を納付したことはない。
d 本件各定期預金の通帳と印章は、本件被相続人が亡くなった後に母Xから受け取った。
e 本件各定期預金の預入設定日は知らない。
(B)Xは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
a 本件各定期預金の預入手続は本件被相続人が行っている。
b 預入当初から本件各定期預金の通帳と印章は、本件被相続人から預かっていた。
c 本件各定期預金の通帳と一緒に預かった印章は、他のことには使っていない。
(C)本件申告書には、本件各定期預金の内6,000,000円ずつをYらが本件相続開始日前3年以内に本件被相続人から贈与により取得した財産として、本件相続税の純資産価額にそれぞれ加算する旨記載されている。
(D)本件各定期預金は、通帳式の自動継続定期預金であり、期日が到来すると自動的に継続書換されている。
(E)本件各定期預金は、預入日、預入期間及び預入金額が同一である。
(F)本件各定期預金について、中途換金や利息を元本に繰り入れる場合を除き元本の増加の事実がない。
B 上記Aの各事実によれば、本件各定期預金はいずれも本件被相続人が積み立てたもので、本件被相続人の生存中は、Xが本件被相続人から本件各定期預金の通帳と印章を預かり、保管していたにすぎず、本件各定期預金に係る贈与税の申告及び納税もそれぞれの名義人が行った事実がないことから、本件各定期預金は本件被相続人が管理、運用、支配していた預金と認めるのが相当である。
C 請求人らは、Yらの両名が本件各定期預金の設定に関し贈与税の申告及び納税を行っている旨主張するが、上記Aの(A)のとおり、Yらは、本件各定期預金に関して自ら贈与税の申告書の作成や納税をしたことがない旨申述しており、請求人らの主張は事実に反し失当である。
 かえって、Yらが本件被相続人から両名名義の預金を積み立てていることは聞いていたが、金額は知らなかった旨申述していることからすれば、本件各定期預金について、それぞれの名義人に対する贈与がなかったことは明らかである。
D 請求人らは、本件被相続人がYらに贈与した本件各定期預金の通帳及び印章を、本件被相続人の指示に基づきXが預かっていたものである旨主張するが、Zは既に婚姻し本件被相続人及びXとは生計を別にしており、また、両名は成年に達しているにもかかわらず、本件各定期預金の通帳及び印章をXが長期間にわたって預かっていること自体、本件各定期預金の贈与が履行されていないことの証左にほかならず、請求人らの主張は失当である。
E また、請求人らは、本件各定期預金を本件被相続人が管理、運用、支配していたとする原処分庁の主張に対し、本件被相続人は本件各定期預金の運用等を一切行っておらず、どのような具体的事実に基づいてそのような主張を原処分庁がするのか理解できない旨主張する。
 しかしながら、上記Aの(A)、(B)及び(D)のとおり、本件各定期預金は、本件被相続人が決定した自動継続定期預金という方法で運用され、本件被相続人の生存中は同人が決定した方法に基づき継続して運用されていたものであり、本件各定期預金の預入日及び預入金額すら承知していないYらが本件各定期預金を運用していたとは到底認められない。
 そうすると、本件各定期預金はいずれも本件被相続人が積み立てたものであること、本件被相続人の生存中は、Xが本件被相続人から本件各定期預金の通帳と印章を預かり保管していたこと、そして、本件各定期預金に係る贈与税の申告及び納税も本件各定期預金の各名義人が行った事実がないことを併せ考えると、本件各定期預金は本件被相続人が一元的に管理、運用、支配していたものと認められ、本件各定期預金はいずれも本件被相続人に帰属する財産と認めるのが相当である。
 したがって、本件各定期預金は、本件被相続人に帰属する財産と認めるのが相当であり、それぞれの名義人に対する贈与はなかったものと認められることから、本件各定期預金を相続財産に算入し、Yらが本件相続開始日前3年以内に本件被相続人から贈与により取得したとして、本件相続税の課税価格に加算して申告しているYら名義の預金それぞれ6,000,000円は、本件相続税の課税価格に加算される贈与財産から除外すべきである。
F ところで、原処分庁は、本件被相続人の各年分の所得税の確定申告の内容に誤りがあるとして、各年分の所得税について平成9年1月31日付で更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行っていることから、これらの処分により増加した本件被相続人の各年分の所得税本税、平成5年分及び平成6年分の所得税に係る過少申告加算税及び延滞税並びに平成6年度及び平成7年度の住民税を、本件被相続人の相続財産から控除すべき債務に加算すべきである。
(ニ)以上のとおり、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、次表のとおりとなるから、この金額と同額でなされた本件更正処分は適法である。

ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、請求人らの場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」には該当しないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件株式及び本件各定期預金が相続財産であるか否か並びに相続財産中の現金の多寡であるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 本件株式の帰属
(イ)請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A R社の商業登記簿謄本には、同社は昭和36年6月12日に発行済株式数2,000株、資本の額1,000,000円で設立され、その後、次表のとおり増資し、本件相続開始日現在では、発行済株式の総数は100,000株、資本の額は50,000,000円と記載されている。

B 本件株式の株式数の推移は次表のとおりである。

C 昭和50年4月26日から平成元年8月3日までの間の増資の際に申込人X及び同本件被相続人名でR社に提出された各株式申込証に押印されている印影は、同一の印章によるものと認められる。
D 平成元年7月14日付のR社の取締役会の議事録によれば、同社は1株当たりの発行価額を500円、発行する新株の数を50,000株、払込期日を同年8月2日とする新株発行に関する決議を行っており、この増資による本件被相続人名義及び請求人ら名義による引受株式数等は、次表のとおりである。

E 平成元年8月2日に、本件被相続人名義預金から19,750,000円が引き出されている。
F g銀行m支店が平成元年8月3日付で発行した「株式払込金保管証明書」には、R社の新株発行に係る株式払込金の保管金額は同月2日現在25,000,000円と記載されている。
G 平成元年8月1日付のR社の申込人Yに係る株式申込証に押印されている印影とY名義預金の口座の印鑑票に押印されている印影は、同一の印章によるものと認められる。
H 平成元年8月1日付のR社の申込人Zに係る株式申込証に押印されている印影とZ名義預金の口座の印鑑票に押印されている印影は、同一の印章によるものと認められる。
I Xは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A)R社の設立には一切関与していないし、設立時の資金調達にも携わっていない。
(B)R社の増資は2回位あったと思うが、その際、郵便物等による案内はなく、自ら直接新株の引き受けを申し込んだことはない。
(C)自ら新株払込資金を用意したことはなく、本件被相続人に任せていた。
(D)R社からの配当金は、平成6年5月ころに一度だけ受け取ったことがあるが、それ以外に受け取ったことはない。
(E)X名義のR社の株式が、いつ20,000株から24,367株になったかは覚えていない。
J Yは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A)R社の株主になっていると本件被相続人から聞いたことはあるが、株式の数量は記憶にない。
(B)R社の株式の贈与を受けたり、購入したりしたことはない。
(C)R社からの配当金を受け取ったことはない。
(D)Y名義預金の口座の印章は、本件被相続人が亡くなった後にXから受け取ったものであり、それ以前に自分が使用したことはない。
K Zは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A)R社の株主となっていると本件被相続人から聞いたことはあるが、株式の数量は記憶にない。
(B)R社の株式の贈与を受けたり、購入したりしたことはない。
(C)R社からの配当金を受け取ったことはない。
(D)Z名義預金の口座の印章は、本件被相続人が亡くなった後にXから受け取ったものであり、それ以前に自分が使用したことはない。
L Sは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A)R社の増資額、新株の割当数及び新株の割当先は、本件被相続人と協議して決定していた。
(B)平成元年8月の増資の際に提出された本件被相続人及び請求人らの株式申込証は、本件被相続人がその用紙を受け取り、その後記名押印されたものが本件被相続人から提出された。
 また、それより前のXの株式申込証は、本件被相続人のものと一緒にその用紙を本件被相続人が受け取り、その後記名押印されたものが本件被相続人から提出された。
(C)平成元年8月に本件被相続人の依頼に基づき、本件被相続人及び請求人らの増資払込金の資金として本件被相続人名義預金から19,750,000円を払い戻し、それに他の申込人の増資払込金を加えた合計25,000,000円で増資払込手続をした。
 また、それより前のXの増資払込金は、本件被相続人のそれとともに本件被相続人から現金で受領していた。
(D)R社からの配当金は現金の入った封筒で支給され、Xの配当金も本件被相続人が同人分の配当金とともに受領していた。
(E)平成2年3月にX名義の株式が4,367株増加したのは、社員持株会の発足の際に従業員株主の持株数の均一化を併せて行ったことに伴い余剰株が発生したことから、本件被相続人の指示により、本件被相続人に2,200株及びXに4,367株を割り当てたためである。
M Sは、R社の株式等に関して当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(A)Xの株式申込証に押印のある印影は、確認することのできた昭和50年の増資以降すべて本件被相続人の株式申込証に押印されているものと同一である。
(B)本件被相続人の株式申込証に押印されている印影に係る印章は、本件被相続人が所有し常時携帯していたものである。
(C)本件被相続人とXの配当金は、それぞれ別の封筒に入れて本件被相続人に一括して渡していた。Xの配当金受領書に押印してある印影は、毎回、本件被相続人のそれに押印されている印影と同一のものである。
(D)Yらの配当金も、一括して本件被相続人に渡し、Yらの配当金受領書はXの分と一括して本件被相続人から受け取っていた。
(E)X名義の株式は、設立当初から存在したものであり、昭和44年分の当該株式に係る配当所得の申告について、Q税務署長から資産合算になる旨の指導を受けて修正申告して以来、毎年X名義で申告してきた。また、増資の都度、P税務署長に法人税の申告をしているが何の指示もなく、平成元年の株式の異動については、Q税務署長から「お尋ね」という形で照会があり、それに回答しているのに何の指導もなかった。
N T税理士が原処分庁に提出したメモには、Xの昭和52年から平成2年までの所得は、配当所得だけである旨記載されている。
O 請求人らが当審判所に提出したX名義のR社の株券の写しをみると、昭和47年から昭和56年までの間に合計で3,687株発行されている。
(ロ)上記(イ)の各事実によれば、〔1〕XはR社の設立資金や新株引受の払込資金を用意したこともないこと、〔2〕Yらは同社の株式を取得したことはないとしていること、〔3〕平成元年8月の増資払込資金は請求人ら名義に係る分を含め本件被相続人が一括して負担していること、〔4〕同社の新株引受の際に提出された申込人Xに係る株式申込証に押印されている印影は、毎回同じで、かつ、本件被相続人のそれと同一のものであり、その印影に係る印章は、本件被相続人が普段所持し使用していたものであること及び〔5〕本件被相続人は平成元年にYらが同社の株式名義人となった後も配当金を従前と同様に本件株式の分と併せ一括して受け取っていたこと、また、配当金受領書は本件株式の分を含め本件被相続人が一括してSに交付していたことが認められる。以上のことから、本件被相続人が本件株式の取得資金のすべてを負担し、本件株式の新株引受の手続も行い、本件株式の配当金収入も得ていたと推認され、本件株式は本件被相続人に帰属する株式と認めるのが相当である。
(ハ)ところで、請求人らは、本件株式が各名義人に帰属する株式であることを証する書類としてX名義のR社の株券の写しを提出しているが、この提出書類だけではX名義の株券が存在したことが認められるに過ぎず、このことをもって本件株式が請求人ら各名義人に帰属する株式であるとは認めることができない。
 また、請求人らは形式的な面からではなく、実質的な面から本件株式の帰属を判断すべき旨主張するが、上記(ロ)のとおり、R社の設立資金及び増資払込資金の負担並びに株式申込手続及び配当金の受領状況等実質的な面に基づくと、本件株式は本件被相続人に帰属すると判断されるから、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
 さらに、請求人らは、本件被相続人が管理していた財産の中にXの資金が含まれており、この資金からXの増資払込金を支出しており、これは預り金の返済である旨主張する。
 しかしながら、Xの不動産収入は平成3年以降及び給与収入は平成5年以降生ずるのであり平成2年までに取得された本件株式の取得資金たり得ないから、請求人のいうXの資金はR社のX名義の株式に係る配当金収入からなるものをいうと解されるところ、上記(ロ)のとおり、本件株式は本件被相続人に帰属するものであり、本件株式に係る配当金収入は本件被相続人に帰属すると認めるのが相当であるから、本件被相続人が管理していた財産の中にXの資金が含まれていたとは認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ニ)請求人らは、XがR社からの配当金について毎年所得税の確定申告をし、また、同社の株式の異動については同社の法人税の申告書において明確にされ、その間、所轄税務署長の調査を経て今日に至ったものであるにもかかわらず、これらを一切無視した本件更正処分は著しく信義に反する行為である旨主張する。
 ところで、租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせ、納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきものである。
 そして、上記の特別の事情の存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に、その表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるか、また、納税者が税務官庁のその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて、納税者の責めに帰すべき事由がないかどうか、という点の考慮は不可欠のものであるといわねばならない。
 これを本件についてみると、Sの答述並びに本件被相続人及びXの昭和44年分の所得税の確定申告書及び修正申告書の写しから、Xが昭和44年のR社からの配当金収入について配当所得の確定申告をし、その後その配当所得について資産合算課税の対象になるとして修正申告をしたことは推認できるが、Xの配当所得が資産合算課税の対象となることは特別の調査を要せず本件被相続人及びXの確定申告書のみから明らかになるものであって、当該修正申告書の提出がX名義の同社の株式がXに帰属するとの所轄税務署長の調査結果に基づいてなされたものとは認められないこと、また、同社の株式の異動が毎期同社の法人税の申告書に記載され、それについて所轄税務署長の是正の指導がなかったとしても、具体的にX名義の同社の株式の帰属について調査がなされ、その調査によれば当該株式はXに帰属するとの結果が所轄税務署長から示されたわけではないことからすれば、原処分庁又は所轄税務署長が請求人らに対して、信頼の対象となるべき公的見解を表示したこととはならないから、請求人に納税者間の平等、課税の公平という要請を犠牲にしてもなお本件更正処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を確保しなければ正義に反するといえるような特別の事情があるとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ホ)請求人らは、本件株式に係る配当金は本件被相続人に帰属するとする所得税の更正処分が各年分についてのみ行われたことから、平成4年分以前の本件被相続人の所得税の申告内容は適正であったと判断されたと解されるので、平成4年以前に支払われた本件株式に係る配当金は請求人ら各名義人に帰属し、本件株式も請求人らに帰属するものである旨主張する。
 しかしながら、Q税務署長が、調査担当職員の調査に基づき、本件被相続人に対する所得税の更正処分を各年分について行ったのは、国税通則法第70条第1項第1号の規定により、更正処分は法定申告期限から3年を経過した日以後においてできないことから、各年分に限定してそれを行ったものと認められ、平成4年分以前の申告内容が正しいと判断したものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ヘ)請求人らは、親族相互間における同族会社の株式の異動は、正常な取引以外についてはすべてその都度贈与として処理されるべきものであり、相続開始時に名義人以外の株式として確定されるものではなく、本件株式は、本件被相続人が請求人らの名義で所有する必要はなく、請求人らの名義になった時に贈与があったものと判断すべきである旨主張する。
 ところで、贈与とは、当事者の一方が自己の財産を無償で与える意思表示をし、相手方が受諾することによって成立する契約であることから、当事者における贈与の意思の有無を贈与財産の実質的な支配状況など具体的な事実関係に基づいて判断することになると解される。
 そこで、本件株式について、贈与の有無を判断すると、上記(ロ)で認定したとおり、本件株式は本件被相続人がそのすべてを実質的に支配していたと認められること及び請求人らが本件株式の名義人となった時に本件被相続人から贈与を受けたと認められる証拠もないから、本件被相続人から請求人らに本件株式の贈与があったものと認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ロ 現金の多寡
(イ)本件被相続人の香典の残額が7,646,000円であることについては、請求人ら及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもこれを不相当とする事実は認められない。
(ロ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件相続開始日後の平成7年8月30日に、X名義預金の口座に現金79,553,000円が入金されている。
B Xは、調査担当職員に対し、上記Aの普通預金に入金された現金は、平成7年5月頃に自宅に保管されていた本件被相続人の旅行かばんの中から発見された現金と本件被相続人の葬儀の際に集まった香典の残りである旨申述している。
C T税理士が原処分庁に提出したメモには、Xについて昭和52年から平成2年までは配当金収入のみが記載され、平成3年以降は配当金収入とは別の収入も記載されている。
D Xの平成3年分から平成6年分までの所得税の確定申告書には、配当所得以外の所得の収入金額は次表のとおりと記載されている。

E Xの平成7年1月1日から本件相続開始日までの収入金額は、不動産所得及び給与所得に係るもののみであり、それらの収入金額の合計額は5,148,114円である。
F T税理士が原処分庁に提出したメモ及びT税理士の申立てによれば、T税理士は、本件相続開始日現在で本件被相続人が所持していた現金は本件被相続人とXの双方の収入から蓄積されたと考え、本件被相続人に帰属する金額を、要旨次のとおり23,000,000円と算出している。
 そして、この金額が本件被相続人の手持ち現金の額として本件申告書に記載されている。
(A)現金残額 79,000,000円
(B)(A)の金額のうちXに帰属する金額(〔1〕―〔2〕) 48,054,879円
〔1〕Xの昭和52年から平成7年3月までの収入金額の合計額 102,456,575円
〔2〕〔1〕に対応するXの所得税、住民税及びローン支払額 54,401,696円
(C)香典の残額 7,646,000円
(D)本件被相続人に帰属する金額((A)―(B)―(C)) 23,000,000円
G 請求人ら及び原処分庁は、本件相続開始日現在における本件被相続人の手持ち現金の額の計算に当たって、本件相続開始日における現金残額からXに帰属する現金の額を控除した残額を本件被相続人に帰属する現金の額としている。そして、Xに帰属する現金の額の算出については、請求人らはXの各種所得の収入金額からその所得に対する所得税及び地方税の額とローン支払額との合計額を控除した金額としているが、一方、原処分庁はそのローン支払額は控除しないものとしている。
 なお、請求人らの採用しているXの所得税と住民税の合計額は37,278,476円となっている。
(ハ)上記(イ)及び(ロ)の事実を基に判断すると、次のとおりである。
 請求人らは、本件被相続人の手持ち現金の算定に当たって、X名義のR社の株式に係る配当金収入を本件被相続人に帰属するものと認定して、Xに帰属する金額を算定したことは、明らかな誤りである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、本件株式にっいては、そのすべてが本件被相続人に帰属するものと認められるから、その配当金収入も本件被相続人に帰属するので、本件被相続人の手持ち現金の算定に当たり、X名義の株式に係る配当金収入を同人に帰属する収入金額としなかったことは、相当と認められる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ニ)ところで、Xに帰属する現金の算定方法として、上記(ロ)のGのとおり、請求人ら及び原処分庁双方とも同様な算定方法を採用しているが、その算定方法を不相当とする理由はないところ、原処分庁はXに帰属する現金を算定するに際して、Xの各種所得の収入金額から控除する所得税及び住民税の額を同人名義の株式に係る配当金収入が同人に帰属しないものとして算定した16,863,341円としているが、本件相続開始日における当該所得税及び住民税の額は、同人がその時点において支出している額によるべきであって、その後に異動した額に影響されるべきではない。
 したがって、当該所得税及び住民税の額は、原処分庁が採用している額ではなく、請求人らが採用している額とするのが相当であるから、これに基づいて本件相続開始日における本件被相続人に帰属する現金の額を算定すると、次のとおり56,183,576円となる。
 なお、請求人らはXに帰属する現金を算定するに際して、各種所得に対する所得税及び住民税の額のほかローン支払額17,123,220円をその計算の基礎としているが、当該ローン支払額の基となる借入金の債務者は本件被相続人であるので、当該ローン支払額をXに帰属する現金の算定の基礎に含めないのが相当と認められる。
A 現金残額(上記(ロ)のAの金額) 79,553,000円
B Aの金額のうちXに帰属する金額(〔1〕―〔2〕) 15,723,424円
〔1〕Xの平成3年から本件相続開始日までの収入金額(上記(ロ)のDとEの合計額) 53,001,900円
〔2〕上記(ロ)のFの(B)の〔2〕の額から上記ローンの額を控除した金額(上記(ロ)のGのなお書の金額) 37,278,476円
C 本件被相続人の葬儀に係る香典の残額(上記(イ)の金額) 7,646,000円
D 本件被相続人に帰属する金額(A―B―C) 56,183,576円
ハ 本件各定期預金の帰属
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A Y名義預金及びZ名義預金のそれぞれの元本の新規預入状況は別表1のとおりである。
B 贈与者を本件被相続人、受贈者をYら、贈与財産を現金とする別表2のとおりの贈与税の期限内申告がなされている。
C Y及びZは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A)本件各定期預金は、本件被相続人が毎年2,000,000円ずつYら名義で預入することにより作成されたものである。
(B)本件被相続人から平成4年の秋ころに本件各定期預金の通帳と印章を渡されたが、同人に持っていてもらう方がよいと考えて預入金額を確認することもなく、それらを同人に戻した。
 その後、平成6年11月に本件被相続人が入院していた病院で同人から本件各定期預金の通帳を受け取ったが、当該預金を引き出す予定がなかったので、当該印章はその時には受け取らなかった。当該印章は、本件被相続人が亡くなった後にXから受け取った。
(C)本件各定期預金に関して自ら贈与税の申告をしたり、贈与税を納付したりしたことはないが、本件被相続人から贈与税の申告をしておいてくれるということは聞いて了解していた。
D Xは、調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(A)本件各定期預金の預入手続は、本件被相続人が行っていた。
(B)本件各定期預金の預入当初からその通帳と印章は、本件被相続人から預かっていた。
E 原処分庁は、上記BのYらに係る贈与税の申告のうち平成4年分から平成6年分について、平成9年1月31日付で課税価格及び納付すべき税額の全額を減額する更正処分を行っている。
(ロ)上記(イ)の各事実によれば、〔1〕本件被相続人はYらに本件各定期預金の預入資金を贈与する意思があったと推認されること、〔2〕当該預入資金にほぼ見合う贈与税の申告と納税がなされていること、〔3〕Yらは毎年の預入及び贈与税の申告について少なからず承知していたこと、〔4〕Yらは本件被相続人に本件各定期預金の通帳と印章の管理を委任したと受け取られなくもないこと、〔5〕Yらは本件相続開始日前に本件被相続人から本件各定期預金の通帳を受け取ったと推認されることからすれば、本件各定期預金の預入資金の贈与がなかったとまではいえない。
 したがって、本件各定期預金が本件被相続人に帰属するという原処分庁の主張には理由がない。
(ハ)原処分庁は、本件各定期預金は本件被相続人が管理、運用、支配していたものと認められるから本件被相続人に帰属する旨主張する。
 しかしながら、Xが本件被相続人から本件各定期預金の通帳及び印章を預かっていたことは認められるものの、〔1〕Yらはそのこと及び本件各定期預金の預入理由を承知していたこと、〔2〕本件被相続人は本件各定期預金は既にYらに贈与したものであるとの認識であったと推認されること、〔3〕本件各定期預金の管理、運用を本件被相続人に委任していたと受け取られなくもないこと並びに〔4〕Yらは本件相続開始日前に本件被相続人から本件各定期預金の通帳を受け取っていたと推認されることからすれば、本件各定期預金を本件被相続人が管理、運用、支配していたとまでは認めることはできないといわねばならない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ニ)以上のとおり、本件被相続人からYらに対する本件各定期預金の預入資金の贈与についてはこれを否定することはできないものと認められるから、当該預入資金のうちYらが本件相続開始前3年以内に本件被相続人から贈与により取得したこととなる価額は本件相続税のYらの課税価格に加算すべきである。
 そうすると、Yらの課税価格に加算すべき価額は、上記(イ)のA及びDの(A)のことから、本件申告書に記載されているそれぞれ6,000,000円ではなく、それぞれ6,400,000円(別表1の平成4年7月9日から平成6年5月9日までの元本預入額の合計額)と認められる。なお、上記(イ)のEのことから、控除すべき贈与税額はないこととなる。
ニ 次に、請求人らは、本件更正処分は請求人らの申述とその聴取書に基因するものであると思われるが、請求人らに対する聴取書の内容は、不明確、不自然であり、事実認定に足るものではない旨主張する。
 しかしながら、本件更正処分が請求人らの調査担当職員に対する申述をその一因としてなされていることは原処分庁の主張及び当審判所の調査からもうかがえるところ、調査担当職員は必要と認められる事項について請求人らに対し個別、具体的に、かつ、詳細に質問してその申述を得ており、請求人らの申述内容が格別真実と異なっているとの証拠もない以上、当該申述を証拠から排除すべき理由はない。
 なお、本件更正処分の基となった事実認定は、当該申述のみによったものではなく、それ以外の証拠をも基に行われていると認められる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ホ ところで、Q税務署長は、調査担当職員の調査に基づき、本件被相続人の各年分の所得税の確定申告の内容に誤りがあるとして、各年分の所得税について平成9年1月31日付で更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行っており、これらの処分により増加した本件被相続人の各年分の所得税本税、平成5年分及び平成6年分の所得税に係る過少申告加算税及び延滞税並びに平成6年度及び平成7年度の住民税の合計額19,707,200円は本件被相続人の財産から控除すべき債務に加算すべきものと認められる。
ヘ 以上の結果、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表3のとおりとなり、Xのこれらの金額は本件更正処分の金額を下回るから、Xに対する本件更正処分はその一部を取り消すべきであり、また、Yらのこれらの金額は本件更正処分の金額を上回るから、Yらに対する本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

イ Xに対する本件更正処分は、上記(1)のヘのとおりその一部を取り消されることに伴い、Xの過少申告加算税の基礎となる税額は150,000円となるが、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて過少申告加算税額の額を算定すると15,000円となり、この金額は本件賦課決定処分の額に満たないので、本件賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。
ロ Yらに対する本件更正処分は、上記(1)のヘのとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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