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(平11.1.25裁決、裁決事例集No.57 462頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人Fほか2名(以下「請求人ら」という。)は、平成7年2月15日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したEの共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税の申告書に、次表の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成9年6月30日付で次表の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び「賦課決定処分」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

 請求人らは、これらの処分を不服として、平成9年7月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月3日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年10月29日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成9年10月29日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分の手続
(イ)請求人らは、本件相続により取得した別表1の1ないし13の土地(以下「本件土地」という。)の譲渡に係る平成8年分の所得税の確定申告において税額計算を誤り、納付すべき税額を過大に申告したところ、原処分庁は、審査請求人Fに対する所得税の過誤納金3,489,000円、同Gに対する所得税の過誤納金3,135,600円及び同Hに対する所得税の過誤納金2,570,400円を還付せず、この過誤納金を収奪するために、平成9年5月12日に本件相続に係る相続税の調査(以下「本件調査」という。)を行った。
(ロ)請求人らは、原処分庁に対し平成9年6月17日及び同月26日の2回にわたり文書にて本件調査の理由を質問したが、原処分庁は調査理由を明らかにしなかった。
ロ 本件土地の価額
 原処分庁は、本件土地の価額を102,707,420円と主張しているが、土地の価額は、地価公示法第6条《標準地の価格等の公示》の規定により公示された価格(以下「公示価格」という。)水準の額の80パーセントの額とすべきであり、本件土地の価額は、次のとおり81,453,367円となるから原処分の額は過大である。
(イ)別表1の1ないし8の土地(以下「甲土地」という。)の価額は、次のとおり71,838,560円となる。
A 甲土地が所在する地域には、地価公示法第6条の規定により公示された標準地であるP市R町15番101山林(以下「本件公示地」という。)が所在し、平成7年1月1日時点の公示価格は1平方メートル当たり18,300円(以下「本件公示価格」という。)である。本件公示地は、主要地方道◎◎線沿いの区画区分された開発可能性のある利用価値の高い土地であるのに対し、甲土地は、利用できる道路の道幅も狭く開発行為が不能の土地である。
B 本件土地の公示価格水準の額を算出すると、次のとおり1平方メートル当たり8,200円となる。
(A)請求人らが甲土地を平成7年12月22日に売買した際の価額(以下「本件売買価額」という。)は、1平方メートル当たり約9,100円(1坪当たり30,000円)である。
(B)本件公示地の通常売買される価額は、売買実例を把握することができないので、本件公示価格の10パーセント増の額である20,100円(以下「推定売買価額」という。)と推定した。
(C)甲土地に係る公示価格水準の額は、本件売買価額(9,100円)が本件公示地の推定売買価額(20,100円)の45パーセントであることから、本件公示価格18,300円に45パーセントを乗じた額である8,200円と推計した。
C 以上のことから、甲土地の価額は、上記Bの(C)の公示価格水準の額8,200円の80パーセント相当額である1平方メートル当たり6,560円で算定すべきであり、とすると甲土地の総面積は10,951平方メートルであることから、その価額は、71,838,560円となる。
(ロ)別表1の9ないし13の土地(以下「乙土地」という。)の価額は、国税庁長官の定めた昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17「財産評価基本通達」(以下「評価基本通達」という。)に基づき算定すると原処分の額である9,614,807円となる。
 以上のとおり、本件土地の価額は、上記(イ)の甲土地の額71,838,560円と上記(ロ)の乙土地の額9,614,807円を合計した額81,453,367円となり、請求人らが不動産仲介業者等から聞いた本件土地の価額は、約100,000,000円であり、その80パーセント相当額は80,000,000円となることからも、請求人らの算定した81,453,367円は適正である。
ハ 本件賦課決定処分
 上記イ及びロのとおり、本件更正処分は違法であるからその全部を取り消すべきであり、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分の手続
(イ)本件調査は、相続税法第60条《当該職員の質問検査権》第1項に規定する質問検査権に基づいて行われたものであり、本件調査の担当職員(以下「調査担当職員」という。)が質問検査権を行使したのは、請求人らの相続税額を確認するために必要であると判断したからであり、し意、主観に基づくものではなく、本件調査の手続に何ら違法、不当な点はない。
 また、国税通則法第57条《充当》には、同一の納税者に還付金等と納付すべき税額とが存在している場合、当該還付金等を納付すべき税額に充当しなければならない旨が規定されており、本件調査は過誤納金を収奪するための行為であるとする請求人らの主張には理由がない。
(ロ)税務調査に当たり、納税者に対して調査理由を具体的に開示しなければならない旨を定めた法令の規定はないので、調査担当職員が請求人らに対して調査理由を具体的に開示することなく調査を行っても、何ら違法ではない。
ロ 本件土地の価額
(イ)相続財産の価額は、相続税法第22条《評価の原則》の規定により、財産の取得の時における時価によるとされ、時価とは、評価基本通達において、課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は同通達に基づき算定した価額によると定めている。さらに各国税局では土地等の価額について評価基本通達に基づき財産評価基準書(以下「評価基準書」という。)を定め、納税者の便宜及び課税の公平の観点からなるべく簡易かつ的確に価額を算定できるようしている。
 評価基準書から算定される相続財産の価額(以下「評価基準額」という。)は、毎暦年1月1日を評価時点として、公示価格水準の額の80パーセント程度の水準により評定しているが、この水準は、評価基準額がその年の12月31日までの1年間適用されることを想定して、その間の地価の変動にも耐え得るよう評価上の安全性等にも考慮したものである。したがって、評価対象とした土地等の価額が不動産鑑定評価等により適正に把握できた場合は、地価変動等のしんしゃくを行う必要性はないことから、80パーセントを乗ずる理由はないこととなる。
(ロ)本件土地の評価に関して、次の事実が認められる。
A 審査請求人であるFは、異議審理庁に対して次のとおり申述している。
(A)本件土地の価額算定に関しては、不動産鑑定士に鑑定評価の依頼あるいは意見を求めていないこと。
(B)本件土地の譲渡理由は、相続税を納付するためであり、請求人らからの売り申込みであること。
(C)請求人らの本件土地の売買希望価額は、当初130,000,000円程度であったこと。
B 請求人らが本件土地を売買する際に買主との間で取り交わした売買契約書には、次の事項が記載されている。
(A)平成7年12月22日付の不動産売買契約書には、売主を請求人ら、買主をQ市S町二丁目7番6号のJ株式会社とし、売買物件を別表1の1ないし12の土地として、売買代金を105,179,100円とすること。
(B)平成8年2月29日付の不動産売買契約書には、売主及び買主を上記(A)と同様とし、売買物件は別表1の13の土地として、売買代金を10,191,000円とすること。
C 本件土地は、近傍の土地に比して、利用価値が著しく低下しているとは認められないこと。
D 上記(イ)のとおり、評価基準額は、1年間の地価変動にも耐え得るよう評価上の安全性等を総合勘案して公示価格水準の額の80パーセント程度としていることから、平成7年1月1日の評価時点から本件相続開始日までの地価変動率を、本件公示地の平成7年1月1日時点の公示価格18,300円から平成8年1月1日時点の公示価格18,200円までの変動率を月数あん分することによって求めたところ、この1年間の地価変動は、0.55パーセントの下落が認められること。
 したがって、平成7年1月1日から同年2月15日までの地価変動は、上記0.55パーセントを12月で除し、2月を乗じた割合である0.09パーセントの下落であることが認められること。
(ハ)以上により、本件土地の価額は、〔1〕評価基本通達に基づいて算定されることには合理性があり、〔2〕本件公示地の平成7年1月1日から本件相続開始日である同年2月15日までの地価変動の下落率は、20パーセントを超えていないこと、また、〔3〕請求人らが譲渡した本件土地の売買価額115,370,100円は、売り申込みであることから一般に通常の時価を下回るものであるが、本件土地の価額102,707,420円は、この売買価額を更に下回っていることからしても本件土地の価額は相当である。
(ニ)請求人らは、本件土地の価額は本件公示価格から推定した額8,200円に80パーセントを乗じた額を基として算定すべきである旨主張するが、上記(イ)のとおり、評価の対象となる財産の価額が明らかな場合には、この価額に80パーセントを乗ずる必要性はなく、さらに、上記(ロ)のAのとおり、請求人らの譲渡は、一般に通常の時価を下回る額と推定される売り申込みであり、この売買価額から公示価格水準の額を推定し、この価額に80パーセントを乗じて本件土地の価額を求める請求人らの評価方法には、何ら合理的な算定根拠は認められない。
(ホ)本件土地の価額は、評価基準書に基づき算定したところ、別表1のとおり102,707,420円(甲土地91,659,870円、乙土地11,047,550円)となる。
 なお、本件土地のうち、別表1の9及び10の土地(以下「K原野」という。)の価額、同11及び12の土地(以下「L水路」という。)の価額については、現況が甲土地と同様な山林と認められることから甲土地の価額に比準して算定することとなり、これらの土地については、甲土地の1平方メートル当たりの固定資産税評価額である27円に評価倍率310倍を乗じて算定することとなる。
ハ 本件土地以外の取得財産の価額
(イ)別表2の1ないし4の土地(以下「M宅地等」という。)の価額は、評価基準書に基づき算定すると、同表のとおり30,195,211円となる。
 なお、別表2の2の土地について請求人らは、租税特別措置法第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》第1項の規定を適用して課税価格を算定しているが、この土地は、同項に規定されている適用要件を満たしていないから、同項の規定を適用して課税価格を算定することはできない。
(ロ)その他の土地の価額については、請求人らの申告額のとおり35,912,720円となる。
(ハ)P市T町96番8に所在する木造瓦葺2階建総床面積183.54平方メートルの居宅(家屋番号96番8。以下「本件家屋」という。)の価額は、評価基準書に基づき算定すると、3,311,391円(固定資産税評価額13,245,567円×倍率1.0倍×持分4分の1)となる。
ニ 相続税の課税価格
(イ)取得財産の価額の合計額は、上記ロの(ホ)の本件土地の価額102,707,420円、上記ハの(イ)のM宅地等の価額30,195,211円、同(ロ)のその他の土地の価額35,912,720円、同(ハ)の本件家屋の価額3,311,391円を合計した額172,126,742円となる。
(ロ)債務及び葬式費用の合計額は、請求人らの申告額のとおり2,806,843円である。
(ハ)請求人らの課税価格を計算すると、別表3のとおりであり、本件更正処分に係る課税価格の額はいずれもこの価格の額の範囲内であるから、本件更正処分は適法である。
ホ 本件賦課決定処分
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件更正処分に係る手続の違法性の存否及び本件土地の価額の多寡にあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分の手続

イ 請求人らは、本件調査は平成8年分の譲渡所得に係る所得税の過誤納金を収奪するため行ったものであり、違法である旨主張する。
(イ)そこで、当審判所が原処分関係資料を基に調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人らは、平成8年分の所得税の確定申告において本件土地の譲渡に係る譲渡所得の税額計算を租税特別措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》を適用して計算すべきところ、当該譲渡所得の金額を所得税法第22条《課税標準》に掲げる総所得金額に含め、同法第89条《税率》に規定する税率を適用して計算したため、所得税の額を過大に申告したこと。
B 調査担当職員は、平成9年5月8日に請求人らに対し事前通知を行い、同年5月12日に本件調査に着手し、本件土地の譲渡に係る譲渡所得についても調査を行い、所得税の額を過大に申告している事実を確認していること。
 その際、調査担当職員は、請求人らからの平成8年分の所得税の更正の請求書を提出したい旨の申出に対し、本件調査により相続税額等に増減が生じた場合、相続財産である譲渡物件の取得費に加算される相続税額(租税特別措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》)や譲渡所得の金額に増減が生ずることとなり、所得税の額にも増減が生ずるから本件調査が終了したところで更正の請求書を提出した方が、所得税の額の変更は1回で済む旨説明したところ、請求人らは了承したこと。
C 原処分庁は、本件更正処分とともに平成8年分の所得税について、平成9年6月30日に「譲渡所得の計算上取得費に加算される相続税額の増加」と「確定申告の税額計算誤り」を理由とした税額が減少する更正処分を行い、審査請求人Fに対する過誤納金3,799,400円、同Gに対する過誤納金3,797,800円、同Hに対する過誤納金3,169,800円の額を本件更正処分に係る相続税の額等に充当したこと。
(ロ)相続税法第60条第1項に規定する「調査について必要があるとき」とは、権限ある税務官庁の担当職員が客観的にみて調査の必要性があると判断した場合を指すものと解される。
(ハ)そうすると、〔1〕本件調査は、調査担当職員が請求人らの申告状況、相続財産の内容等諸般の事情にかんがみ相続税に関し客観的に調査の必要性があると判断し、質問検査権を行使したことが認められ、過誤納金を収奪するために行ったものではないこと、〔2〕調査担当職員は、事務の煩雑化を回避するため、請求人らの了解を得て、更正の請求の手続を本件調査の終了後行うよう指導したものであること、及び〔3〕原処分庁が、国税通則法第57条の規定により過誤納金を同一納税者の納付すべき税額に充当したことは適法であることから、本件調査を格別不相当とする事由は認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ロ 請求人らは、本件調査に当たり、原処分庁に対して調査理由の開示を求めたにもかかわらず、原処分庁は調査理由を明らかにしなかった旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
(イ)税務職員が調査に際し納税者に対して調査理由を具体的に開示することは法律上の要件とはされておらず、また、質問検査権に基づいて行う税務調査は、適正な租税負担の実現のために行うものであるから、申告がない場合又は過少申告の疑いが存する場合だけでなく、そのような疑いが明らかでない場合でも、申告の真実性、正確性を確認するために行い得ると解するのが相当である。
(ロ)当審判所の調査によれば、調査担当職員は本件調査に当たり、申告内容の確認のための調査である旨を請求人らに告げていることが認められ、それ以上の具体的な調査理由の開示がなかったとしても、本件調査が違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。

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(2)本件土地の価額

イ 請求人らは、土地の価額は公示価格水準の額の80パーセントの額により算定すべきである旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
(イ)相続税法第22条は、相続財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の相続による取得の時における時価による旨を規定しており、この時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解されている。
 相続税の課税対象となる財産は多種多様であり、その的確な評価が必ずしも容易でないことから、課税庁は評価通達を定め、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的な評価方法を明らかにし、これによって課税庁内部の取扱いを統一し、課税の公平を保つとともに、これを公開することによって納税者の申告・納税の便に供していることが認められる。
 しかしながら、通達は上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって、それ自体は納税者を拘束するものではなく、国民は通達に示されている行政庁の解釈に当然に従わなければならないものでないことはいうまでもない。
(ロ)ところで、評価基本通達に基づく評価基準額は、売買実例価額の収集等技術的な理由から1年間適用されており、毎年1月1日を評価時点として、公示価格、売買実例価額及び不動産鑑定士等の精通者意見価格等を基に、公示価格水準の額の80パーセント程度の水準により評価されている。
 このことは、評価基準額が1年間適用されることから、その間の地価変動にも耐え得るものであることの必要性など評価上の安全性等を考慮して取り入れられているものと認められる。
(ハ)請求人らは、本件公示価格から推定した本件土地の公示価格水準の額に80パーセントを乗じた額により本件土地の価額を算定すべきである旨主張するが、上記(ロ)のとおり、公示価格水準の額に80パーセントを乗ずることは、課税庁内部の時価の評価に関する取扱いを統一するに当たり、評価上の安全性等を考慮して取り入れられているのであって、課税庁が実務上少なくともこれを乗じた額を下回ることは通常ないであろうと認めるところにより、課税処分等をするための計算過程上の一要素にすぎないものである。
 一方、請求人らの主張する本件公示価格から推定した本件土地の価額(1平方メートル当たり8,200円)は、公示価格との均衡を考慮しつつ、本件土地の特殊性をしんしゃくした上で求めた価額であるとするなら、これに80パーセントを乗ずる理由はなく、また、そうしなければ課税の公平の原則に反するともいえないから、請求人らの主張は採用できない。
ロ 請求人らは、甲土地の価額は1平方メートル当たり6,560円(総額71,838,560円)で算定すべきであり、原処分の1平方メートル当たり8,370円(総額91,659,870円)は過大である旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
(イ)当審判所が甲土地等について、原処分関係資料を基に調査したところ、次のとおりである。
A 原処分は甲土地の価額を1平方メートル当たり8,370円(総額91,659,870円)で算定していること。
B 本件公示地の平成7年1月1日時点の公示価格は18,300円、平成8年1月1日時点の公示価格は18,200円、及び平成9年1月1日時点の公示価格は18,200円であること。
C 甲土地の近隣に土地の利用状況、環境等の客観的価値に作用する要因が類似すると認められる国土利用計画法施行令第9条《基準地の標準価格》第1項の規定により選定された画地であるP市R町57番23(基準地番号「××(△)―○○」。以下「本件基準地」という。)が所在し、同条第5項の規定により公表された価格(以下「標準価格」という。)について、平成6年7月1日時点の1平方メートル当たりの標準価格は14,600円、平成7年7月1日時点の1平方メートル当たりの標準価格は14,500円、及び平成8年7月1日時点の1平方メートル当たりの標準価格は14,400円であること。
D 請求人らは、J株式会社との間で平成7年12月22日に別表1の1ないし12の土地(合計面積11,590平方メートル)を売買代金105,179,100円(1平方メートル当たり9,075円)で、平成8年2月29日に同表の13の土地(面積1,123平方メートル)を売買代金10,191,000円(1平方メートル当たり9,075円)で売買していること。
 この売買の経緯について、取引を仲介したZ株式会社の担当者は、次のとおり答述している。
(A)本件土地の価額は、地元の不動産業者によれば、1坪当たり30,000円ないし35,000円であること。
(B)請求人らの本件土地の売買希望価額は、1坪当たり35,000円であったことから、これに基づき総額134,600,000円でチラシ広告をしたが、買手が見付からなかったこと。
(C)その後、J株式会社から1坪当たり30,000円(1平方メートル当たり9,075円)でとの申出があり、請求人らは相続税の納付資金が早急に入り用であったことから、この価額で売買が成立したものであること。
(ロ)請求人らは、上記(イ)のDのとおり、甲土地等(本件土地)を1平方メートル当たり9,075円で売買していることから、この価額に上記(イ)のB及びCから算出した地価変動率を乗じて、甲土地の本件相続開始日の価額を算定するとその価額は9,122円(9,075円÷(1−0.0052))となる。
 なお、平成7年2月16日から同年12月22日の地価変動率は、次のとおり0.52パーセントの下落であることが認められる。
A 公示価格に基づく地価変動率
 平成7年1月1日及び平成8年1月1日時点の本件公示地の公示価格に基づき、平成7年2月16日から同年12月22日までの地価変動率を推定すると、0.46パーセント({(18,200円−18,300円)÷18,300円}×(310日÷365日)×100=約マイナス0.46)の下落であることが認められる。
B 標準価格からの地価変動率
(A)平成6年7月1日及び平成7年7月1日時点の本件基準地の標準価格に基づき、平成7年2月16日から同年7月1日までの地価変動率を推定すると、0.25パーセント({(14,500円−14,600円)÷14,600円}×(136日÷365日)×100=約マイナス0.25)の下落であることが認められる。
(B)平成7年7月1日及び平成8年7月1日時点の本件基準地の標準価格に基づき、平成7年7月2日から同年12月22日までの地価変動率を推定すると、0.33パーセント({(14,400円−14,500円)÷14,500円}×(174日÷366日)×100=約マイナス0.33)の下落であることが認められる。
(C)そうすると、平成7年2月16日から同年12月22日までの地価変動率は、上記(A)の0.25パーセントと上記(B)の0.33パーセントを合計した0.58パーセントの下落であることが認められる。
C 上記Aの下落率0.46パーセントと上記Bの(C)の下落率0.58パーセントを単純に平均した下落率は、0.52パーセントとなり、この数値が甲土地の平成7年2月16日から同年12月22日までの地価変動率と認められる。
(ハ)請求人らが平成7年12月22日に売買した本件土地の価額は、上記(イ)のDのとおり通常売買される価額か、又は、それを下回る価額であることが認められ、この価額から推計した本件相続開始日の価額(1平方メートル当たり9,122円)は、甲土地の原処分の価額(1平方メートル当たり8,370円)を上回るものであることから、原処分の価額が過大であるとは認められない。
ハ 請求人らは、本件公示地の通常売買される価額を本件公示価格の110パーセントと推定しているが、具体的な説明はなく何ら根拠のない請求人ら独自の算定方法であると認められ、請求人らの評価方法には合理性はなく、また、本件土地の価額は、評価基本通達によらないで算定することが相当と認められるような特別な事情はないことから、評価基本通達に基づき画一的に評価するとともに、評価基準書の評価倍率表を適用して算定するのが相当である。
ニ 乙土地の価額
 乙土地の価額について審理したところ、次のとおりである。
(イ)当審判所が本件土地について、原処分関係資料を基に調査したところ、次の事実が認められる。
A K原野は、甲土地に隣接する土地であり、現況は甲土地と同様な山林であること。
B L水路は、甲土地に隣接する土地で、現況は甲土地と同様な山林であり、用水路等に使用されている事実は認められないこと。
 なお、P市役所の土地課税台帳によれば、昭和53年から本人申出に基づき用悪水路の扱いとなっていること。
C 別表1の13の土地(以下「N畑」という。)は、甲土地に隣接する土地であり、現況は甲土地と同様な山林であること。
 なお、請求人らは、平成7年12月28日にP市農業委員会に対し、現況が農地又は採草放牧地でない旨の「現況証明願」を提出しており、それによれば、昭和43年ごろから水源もなく、農耕の不耕作地となり、現況は山林となっている旨記載されていること。
 また、N畑の登記簿謄本では、昭和43年月日不詳とし平成8年1月30日の受付で地目を山林に変更していること。
D W国税局長が定めた平成7年分の評価基準書の評価倍率表によれば、本件土地の所在するP市R町の山林の評価倍率は310倍であること。
(ロ)一般に土地を評価する場合には、その土地を宅地、田、山林、原野、牧場、池沼、鉱泉地及び雑種地の地目別に区分して、その価額を算定することが合理的であるとされ、この場合の地目は登記簿等に記載された地目にかかわらず、その土地の課税時期の現況により判定すると解されている。
(ハ)請求人らは、L水路の価額をY用水の土地(昭和36年前後に地上権設定契約を締結した地中埋没管用水)の評価に準じて、相続税法第23条《地上権及び永小作権の評価》に規定する地上権の額(地上権が設定されていない場合の時価の100分の90の価額)を控除し算定しているが、上記(イ)のBのとおり水路あるいは地中埋没管の存在する事実は認められず、現況は山林であることから、L水路の価額は、山林として評価基本通達を適用し算定したところ別表4のとおり929,070円(同表の11と12の合計額)となる。
(ニ)原処分庁は、N畑を畑として価額を算定しているが、上記(イ)のCのとおり現況は山林であることから、N畑の価額は、山林として評価基本通達を適用し算定したところ別表4のとおり9,399,510円となる。
 なお、原処分庁は、別表1の9の土地について、地積を259平方メートルとしているが、当該土地の登記簿謄本に記載された地積は257平方メートルであり、地積を259平方メートルとする証拠はないことから、当該土地の地積は、257平方メートルと認められる。
 したがって、別表1の9の土地の価額は、別表4のとおり2,151,090円となる。

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(3)取得財産の価額の合計額

 請求人らが本件相続により取得した財産のうち、本件土地以外の財産の価額については請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所において原処分関係資料を検討したところによっても相当と認められるので、本件相続に係る取得財産の価額は、本件土地の額106,407,810円、その他の土地の額66,107,931円及び本件家屋の額3,311,391円となり、その合計額は175,827,132円となる。

(4)債務及び葬式費用の合計額

 本件相続により取得した財産の価額から控除する債務及び葬式費用の合計額2,806,843円については、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所において原処分関係資料を検討したところによっても、相当と認められる。

(5)請求人らの相続税の課税価格

 以上の結果、請求人らの課税価格の額は別表5のとおりとなり、これらの額は、いずれも本件更正処分に係る課税価格の額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(6)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)ないし(5)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。
(7)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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