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(平11.4.23裁決、裁決事例集No.57 553頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、協同組合Gショッピングセンター(以下「滞納法人」という。)がその組合員である審査請求人(以下「請求人」という。)に対し行った賦課金の返還行為が、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する無償譲渡に該当するか否かについて争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、滞納法人の次表記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条の規定に基づいて、請求人に対し、平成10年1月8日付の納付通知書により7,316,975円を限度とする第二次納税義務の告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。

ロ 請求人は、この処分を不服として、平成10年2月18日に審査請求をした。

(3)基礎事実

イ 滞納法人は、滞納法人の組合員(以下「各組合員」という。)が負担した賦課金のうち、平成元年2月1日から平成2年1月31日までの事業年度(以下「平成2年1月期」という。)の賦課金の一部並びに平成2年2月1日から平成3年1月31日までの事業年度(以下「平成3年1月期」という。)及び平成3年2月1日から平成4年1月31日までの事業年度(以下「平成4年1月期」といい、平成2年1月期及び平成3年1月期と併せて「本件各事業年度」という。)の賦課金の全部を返還し、平成2年1月期及び平成3年1月期分として返還した金額を、平成4年1月期の所得の金額の計算上損金の額に算入し、平成4年1月期分として返還した金額を、平成4年1月期の所得の金額の計算上益金の額から減算して、法人税の確定申告を行ったところ、K税務署長(以下「課税処分庁」という。)は、滞納法人が各組合員に対して行った賦課金の返還は、各組合員に対する剰余金の分配であり、損金の額への算入及び益金の額から減算できないとして、滞納法人に対し、平成5年6月29日付の法人税の更正処分等(以下「本件課税処分」という。)を行った。
ロ 滞納法人は、本件課税処分を不服として、平成5年12月15日に審査請求を行ったことから、当審判所は、平成8年4月18日付で、返還された賦課金のうち平成4年1月期の空店舗均等割賦課金を除く賦課金(以下、これらの賦課金を「本件各賦課金」という。)の返還(以下、本件各賦課金の返還行為を「本件払戻し」といい、これに伴う払戻額を「本件払戻額」という。)は各組合員に対する配当であるとの裁決を行っている。

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2 主張

(1)請求人

 本件告知処分は、次の理由により違法であるからその全部の取消しを求める。
イ 本件払戻しの性格
 次の理由から、本件払戻しは、滞納法人の定款に基づく総会の決議を経た賦課金の返還であり、徴収法第39条の無償譲渡には該当しない。
(イ)滞納法人は、その運営資金として各組合員に賦課金を負担させる場合は、定款第16条に基づき総会で決議し、賦課金の徴収割合を基礎として徴収しており、賦課金の徴収や返還については、同条第2項に基づき総会で決定すべきものである。
(ロ)本件払戻しは、滞納法人の資産売却資金で債務等の返済を行い、なお、余剰金が生じたために、平成3年10月16日の臨時総会において、「定款第16条に基づく経費の賦課方法の変更の件」として、「平成3年1月期及び平成4年1月期の賦課金は、平成2年3月27日及び平成3年6月5日の総会で決議した賦課金の徴収の必要がないのでこれを取り消し、平成2年1月期の賦課金は、平成元年3月27日の総会で決議した賦課金を坪当たり8,250円、販売促進費を550円に改め、すでに徴収されたものについては返還する。」旨の定款に基づく決議を経た適法な賦課金の返還である。
(ハ)本件払戻額の払戻基準は、賦課金の徴収割合を基礎として行われており、本件払戻しは、賦課金の負担者としての立場に基づくものであり、出資預り金は資本準備金的性格を有していたとしても出資金ではないので、剰余金の分配の基準にはなり得ないものである。
(ニ)平成2年1月期及び平成3年1月期の本件払戻額について、滞納法人の定款第16条に、賦課金は当期中で確定し、確定した賦課金を返還してはならないという禁止規定はないので、定款第16条に基づく総会の返還決議は、その対象が年度を遡っても違法とはいえない。
ロ 本件払戻しと徴収法第39条の無償譲渡
 配当は商法上出捐された資本金の運用益を出資額に応じて配分するものであり、法人税法上は資本取引により支出されるものであるので対価を伴わない無償譲渡、すなわち「贈与」の性格をもつものではなく、無償譲渡には該当しない。
ハ 第二次納税義務の範囲
 仮に、無償譲渡に該当するとしても、次の理由から、本件告知処分はその一部を取り消すべきである。
(イ)徴収法第39条では、「これらの処分により受けた利益が現に存する限度において、第二次納税義務を負う。」旨規定されており、この「現に存する利益」は、納付通知書を発するときの現況によるものと思料されるところ、請求人は、請求人に係る本件払戻額を賦課金の返還金として受け入れた時点で雑収入として計上し、法人税、事業税、県民税及び市民税(以下「法人税等」という。)を負担しており、法人税等相当額は、請求人に係る本件払戻額を受益したことにより負担が生じ、受けた利益が喪失したものであるから、本件告知処分による納付すべき金額から控除すべきである。
(ロ)本件滞納国税には、課税処分庁が本件払戻額は所得税法第24条《配当所得》第1項に規定する剰余金の分配に該当するとして行った滞納法人に対する源泉所得税の納税告知処分に係る源泉所得税額(以下「本件源泉所得税額」という。)が含まれているが、源泉所得税は納税義務者の税の前払的性格を持つものであり、第二次納税義務者が前払された源泉所得税を精算する立場であるところから、当該税額を第二次納税義務者に負担させることに矛盾がある。
 したがって、本件源泉所得税額に相当する金額は、本件告知処分による納付すべき金額から控除すべきである。
 なお、各組合員のうち個人組合員については、課税処分庁が当該個人組合員に対し、本件払戻額を配当所得とする更正処分をしたことに伴い、還付すべき源泉所得税額を告知処分による納付すべき金額に充当されているにもかかわらず、法人組織である請求人の場合は、課税処分庁の更正処分が行われておらず、還付すべき源泉所得税額を本件告知処分に係る納付すべき金額に充当できないのは不公平であることから、本件源泉所得税額に相当する金額は、本件告知処分に係る納付すべき金額から控除すべきである。

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(2)原処分庁

 本件告知処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件払戻しの性格
 本件払戻しは、滞納法人からの請求人に対する剰余金の分配(配当)であり、徴収法第39条の無償譲渡に該当する。
ロ 本件払戻しと徴収法第39条の無償譲渡
(イ)商法上「配当」とは、会社が事業活動によって得た利益のうちから株主総会等の議決を経て株主等に対しその持株数に応じて分配するものをいうが、税法上における「利益の配当」とは、会社が確定した決算において利益又は剰余金の処分により配当又は分配したものだけではなく、株主等に対し、その株主たる地位に基づいて供与した経済的利益も含まれる。
 また、税法上は、商法上違法な配当と目されるものや、株主等に対する会社財産の無償あるいは低額の譲渡についてもその経済的利益の実質を捉えて課税客体としているのであって、株主等が会社から無償又は著しく低い額の対価によって会社財産を取得した場合には、その行為の結果に基づく経済的利益が所得税法上配当所得を構成する一方、その行為が徴収法第39条の無償譲渡等に該当する場合がある。
(ロ)滞納法人は、経営状況が悪く、組合員も脱退するような状況にあって、その所有する財産を譲渡し、その譲渡代金で負債の返済及び当面の活動資金を確保し、賦課金の返還との名目で剰余金を各組合員に分配している。
(ハ)この行為が徴収法第39条の無償譲渡に当たることから、請求人が実際に受領した剰余金の分配額(経済的利益)をとらえて第二次納税義務を負わせたものである。
ハ 第二次納税義務の範囲
 次の理由から、請求人の主張には理由がない。
(イ)本件払戻額は、金銭であり、徴収法第39条でいう「受けた利益が現に存する限度」
は、受けた金銭の額から受益財産の取得に直接要した費用等一定の要件に該当する金額は控除すべきであるが、請求人が主張する法人税等はこれに該当しない。
(ロ)本件告知処分により納付すべき金額は、請求人が現実に受領した本件払戻額を基に算定しており、また、「充当」は、課税上生じた還付金を国税通則法第57条《充当》の規定により所要の処理をしたのであり、本件告知処分に係る限度額の算定に何ら影響を与えるものではない。

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3 判断

 本件払戻しが、徴収法第39条に規定する無償譲渡に当たるか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)本件払戻しの性格

 請求人は、滞納法人からの請求人に対する賦課金の返還である旨主張するので、以下検討する。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)滞納法人は、昭和56年5月19日に設立された中小企業等協同組合法(以下「協同組合法」という。)第3条《種類》第1項に規定する事業協同組合であり、定款において次のことを定めている(ただし、抜粋である。)。
第7条 組合は、〔1〕組合員のために必要な共同店舗の設置及び管理、〔2〕組合員及び一般公衆の利便を図るための駐車場の設置及び管理並びに〔3〕組合員の取扱品の共同売出し及び共同宣伝等に関する事業を行う。
第15条 組合は、組合の行う事業について使用料又は手数料を徴収することができ、その額は、規約で定める額を限度として理事会で定める。
第16条 組合は、組合が行う事業の費用(使用料又は手数料をもって充てるべきものを除く。)に充てるため、組合員に経費を賦課することができ、その経費の額、徴収の時期及び方法その他必要な事項は総会において定める。
第56条 利益剰余金の配当は、総会の決議を経て、事業年度末における組合員の出資額若しくは組合員がその事業年度において組合の事業を利用した分量に応じてし、又は事業年度末における組合員の出資額及び組合員がその事業年度において組合の事業を利用した分量に応じてするものとし、事業年度末における組合員の出資額に応じてする配当は、年1割を超えないものとする。
(ロ)滞納法人は、前記(イ)の定款第16条の定めに基づき、別表1ないし3のとおり、本件各賦課金を共益費用、店舗賦課金及び空店舗均等割賦課金に区分して算出している。
(ハ)滞納法人は、平成3年9月23日の臨時総会で、滞納法人が所有するP市R町717番地8ほか4筆684.2平方メートルの土地並びに同所所在の鉄筋コンクリート造陸屋根3階建2,001.32平方メートルの建物及び付属備品等(以下「本件建物等」という。)を株式会社Sに譲渡することを決議し、同年10月16日に378,000,000円で譲渡する旨の契約を同社との間で締結し、本件建物等を譲渡した。
(ニ)滞納法人は、平成3年10月16日に臨時総会を開催し、本件建物等の譲渡に伴い、〔1〕平成2年3月27日及び平成3年6月5日の総会で決議した賦課金については、徴収する必要がなくなったので取り消し、全額返還するとともに、〔2〕平成元年3月27日の総会で決議した賦課金については、賦課基準1坪当たり15,000円を8,250円に減額することとし、既に徴収した賦課金との差額を返還する旨の決議をしている。
(ホ)請求人の本件払戻額は、別表1ないし3の〔10〕「払戻額」欄の金額の合計額7,442,600円から平成4年1月期の空店舗均等割賦課金125,625円を控除した、7,316,975円である。
ロ 原処分関係資料、本件課税処分に係る調査事績及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)滞納法人は、事業の運営に関する費用について、前記イの(イ)のとおり、定款第16条に基づき、各組合員に賦課する賦課金をもって充てることとしており、当該賦課金を賦課するに当たっては、各組合員から店舗の使用料名目としての対価は徴収していないものの、〔1〕各事業年度の当初収支予算、借入金返済に要する金額及び長期の収支計画等を総合判断し、総会において議決し、〔2〕本件建物等の取得のための借入金の返済額を本件各賦課金の算定の基礎としている事実が認められ、〔3〕当該賦課金のうち、共益費用及び店舗賦課金は、各組合員の店舗の面積に応じて算出されていること、〔4〕1階の店舗と2階の店舗とでは売上げに影響があること等を考慮して算定するに当たって格差を設けていること及び〔5〕組合員でないW銀行に対する賃貸料は、各組合員から徴収することとしている共益費用及び店舗賦課金と同様の算定根拠に基づいて算定されていることからすると、本件各賦課金は、滞納法人所有の店舗を使用させることの対価(使用料)であると認められる。
(ロ)滞納法人は、店舗拡張計画が行き詰まり、賦課金の負担が各組合員の事業経営を圧迫し経営状況も芳しくなかったため、臨時総会に諮り本件建物等の譲渡を決定した。
(ハ)滞納法人は、前記イの(ハ)により譲渡した本件建物等の譲渡代金から本件建物等の取得資金に充てた借入金、賃借人からの預り敷金及び各組合員からの出資預り金等の返済を行い、更に、譲渡後の滞納法人の事業運営に必要と見込まれる金額を差し引いた残余の金額を本件払戻しの原資とした。
ハ ところで、協同組合法第13条《使用料及び手数料》は、組合は、定款の定めるところにより、使用料及び手数料を徴収することができる旨規定し、同法第12条《経費の賦課》は、事業協同組合等が、その経費を組合員に賦課する場合には、定款に定めるところによらなければならない旨規定しており、その趣旨は、賦課金の額が恣意的に決定されないよう組合員の負担方法を明確にする点にあると解される。
 一方、協同組合法第5条《基準及び原則》第1項第4号は、「組合の剰余金の配当は、主として組合事業の利用分量に応じてするものとし、出資額に応じて配当をするときは、その限度が定められていること。」と規定しており、これは、剰余金の配当につき、事業利用分量配当を主位的なものと位置付け、出資配当は副次的なものと位置付けていると解するのが相当である。
 そうすると、協同組合法は、組合が組合員から徴収した手数料及び経費の額が結果的に多過ぎ、余剰が生じたような場合等組合と組合員との間の取引によって生じた剰余金を組合員に還元するに当たっては、まず、組合の事業の利用分量に応じて行われること(この場合には、同法第9条《事業利用分量配当の課税の特例》により、法人税法の定めるところに従い、当該組合の同法に規定する各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されること。)を期待し、そうでなければ、一定限度の下に、出資額に応じて行われることを期待しているというべきである。
ニ また、法人税法は、組合員に対しその者が当該事業年度中に取り扱った物の数量、価額その他その協同組合等の事業を利用した分量に応じて分配する金額を当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することとしている(法人税法第61条《協同組合等の事業分量配当等の損金算入》第1項第1号)。
 そして、法人税法上、事業利用分量配当として損金の額に算入することができる配当は、事業利用分量配当が組合員に対する一種の売上割戻し又は値引きの性格を有するものであることからすると、その剰余金が組合と組合員との取引により生じた剰余金からなる部分の配当に限られ、固定資産の処分等による剰余金や組合事業であっても組合員の利用がないと認められる事業(自営事業)から生じた剰余金の分配は、事業利用分量配当には該当せず、組合員に対する配当に該当するものと認められる。
ホ 前記イ及びロの事実をハ及びニに照らし判断すると、次のとおりである。
(イ)本件各賦課金
 本件各賦課金の算定に当たっては、前記ロの(イ)のとおり、滞納法人が本件各事業年度における滞納法人の事業の運営に必要な経費、借入金返済額及び前期繰越金等を総合的に判断し、長期収支計画を踏まえて算定していることからみて、各事業年度の収支が相償うことを目途として賦課金が徴収されていたことが認められることから、請求人が主張するような既に徴収した賦課金そのものを各組合員に払い戻すことは、本来協同組合法の予定していないところといわざるを得ず、請求人の主張を採用することはできない。
(ロ)本件払戻しの性格
 本件払戻額の原資は、請求人も主張しているとおり、滞納法人が組合員以外の者に対してした本件建物等の譲渡による利益の一部をもって充てられていることから、本件払戻しは、前記ニに照らすと、事業利用分量配当にも該当せず、請求人に対する配当に該当すると認められる。
 したがって、賦課金の返還である旨の請求人の主張には理由がない。

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(2)本件払戻しと徴収法第39条の無償譲渡

 請求人は、配当は「贈与」の性格を持つものではないことから無償譲渡には該当しない旨主張するので、以下検討する。
イ ところで、商法上「配当」とは、法人が株主等に対し、事業活動によって得た利益等のうち、株主総会等の決議を経て株主等に対しその持株数に応じ分配するものをいうものであり、投資に対する対価たる性質を有するものであるが、税法上における「利益の配当」とは、法人が確定した決算について利益又は剰余金の処分により配当又は分配したものだけではなく、法人がその株主等に対し株主たる地位に基づいて供与した経済的利益が含まれると解されている。したがって、税法上の「配当」の概念には、商法上の本来の意味における「配当」つまり投資の直接の対価としての性質を有するものと、そのような対価性のない経済的利益の供与、すなわち贈与としての性質を有するものが含まれていると解するのが相当である。
 また、商法上違法な配当と目されるものや、株主に対する会社資産の無償譲渡等は、その名目のいかんにかかわらず、税法上はその経済的利益の供与の実質をとらえ、これを「利益の配当」として課税所得の計算を行うこととされており、この場合の「利益の配当」は、株主等の投資に対する対価としての商法上の本来の意味の「配当」ではなく、法人がその株主等に対し株主たる地位に基づいて供与した経済的利益、すなわち贈与としての性質を有する「利益の配当」を意味するものと解すべきである。
 さらに、徴収法第39条によれば、無償譲渡とは、滞納者がその財産につき行った無償による譲渡である旨規定され、この「無償譲渡」とは、民法上の贈与等を指すものと解されるところから、課税庁が「利益の配当」として法人及びその株主等に対し課税した場合であっても、それが法人のその株主等に対する会社資産の無償譲渡に当たる場合には、同一の資産の譲渡が、一方では徴収法第39条の無償譲渡に該当し、他方では「利益の配当」として課税所得の計算の対象に該当することになんら矛盾はないというべきである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ロ 次に、本件払戻しが徴収法第39条の無償譲渡に該当するか否かについてみると、次のとおりである。
(イ)前記(1)で認定したとおり、本件払戻しは、本件建物等の譲渡による利益の一部をもって充てられた請求人に対する剰余金の分配、すなわち配当であると認められるところ、滞納法人は、協同組合の剰余金の配当について規定した協同組合法第5条の規定に基づき、定款第56条において利益剰余金の配当に関し規定しているが、本件払戻しは、同条の規定に基づき分配されたものとは認められない。
(ロ)そうすると、本件建物等の譲渡による利益剰余金を分配するに当たり、滞納法人の定款の定めに基づかず、賦課金の返還の名目で請求人に分配した滞納法人の行為は、滞納法人からの請求人に対する贈与であると認められる。
 したがって、本件払戻しは、無償譲渡に該当する。

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(3)第二次納税義務の範囲

 請求人は、仮に本件払戻しが無償譲渡に該当するとしても、請求人の負担した法人税等を控除すべきである旨主張するので、以下検討する。
イ 法人税等
 ところで、徴収法第39条によれば、「無償譲渡により受けた利益が現に存する限度(無償譲渡の時に滞納者の親族その他の特殊関係者であるときは、無償譲渡により受けた利益の限度)において、第二次納税義務を負う」旨規定されており、請求人は滞納法人の特殊関係者には該当しないことから、第二次納税義務の範囲は、無償譲渡により受けた利益が、告知処分の通知書を発するときに現存する限度額であると認められるところ、その算定に当たり受けた利益の額から控除すべき費用等は、その無償譲渡の受益の時において、その存否及び数額が法律上客観的に確定しているものであることを要すると解されており、請求人が主張する法人税等は、当該財産の取得による所得のみならず、その年中に生じた他の所得及び損失等との関連において課税標準及び税額が異動するものであって、受益の時においてはその納税義務の存否及び数額を法律上客観的に確定することができないものであるから、受けた利益の現存する限度額の算定に当たり控除すべき費用等には該当しないこととなり、請求人の主張には理由がない。
ロ 源泉所得税
 ところで、源泉徴収制度は、源泉徴収の対象となる金銭等について、その支払者がその支払の際に当該金銭等を課税標準として計算した所定の所得税を天引き徴収し、国に納付する制度であり、また、源泉徴収された所得税の額は、金銭等の受領者がその年中に生じた他の所得及び損失等との関連において算出した課税標準を基に計算した税額から精算することになる。そうすると、請求人が主張する源泉所得税についても、前記イの法人税等と同様に、受益の時においてはその納税義務の存否及び数額を法律上客観的に確定することができないものであるから、受けた利益の現存する限度額の算定に当たり控除すべき費用等には該当しないこととなり、請求人の主張には理由がない。
 なお、個人組合員については、本件払戻額を配当所得とする更正処分が行われ、還付すべき税額を当該組合員に対する告知処分による納付すべき金額に充当されているが、請求人については、更正処分が行われていないので納付すべき金額に充当できないのは不公平であることから、本件源泉所得税に相当する金額を本件告知処分による納付すべき金額から控除すべきである旨の請求人の主張には法的根拠がなく採用することができない。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、徴収法第39条の規定に基づき、前記(1)のイの(ホ)の本件払戻額の範囲内である7,316,975円を限度として、請求人に第二次納税義務を負わせた原処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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