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(平11.7.1裁決、裁決事例集No.58 9頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、パチンコ業を営む法人である審査請求人(以下「請求人」という。)の従業員が行った隠ぺい又は仮装の行為が請求人の行為と同一視できるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯及びその内容

 請求人は、平成4年9月1日から平成5年8月31日まで、平成5年9月1日から平成6年8月31日まで、平成6年9月1日から平成7年8月31日まで及び平成7年9月1日から平成8年8月31日までの各事業年度(以下、順次「平成5年8月期」、「平成6年8月期」、「平成7年8月期」及び「平成8年8月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、平成5年8月期の法人税について、次表の「第一次修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成6年4月28日に提出した。
 また、請求人は、平成8年8月期の法人税について、次表の「第一次修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成9年6月17日に提出した。
 その後、請求人は、原処分庁所属の職員(以下「調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)を受け、本件各事業年度の法人税について、次表の「第二次修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を平成10年3月26日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成10年3月30日付で次表の「第二次修正申告等」欄の「重加算税の額」欄のとおり、本件各事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成10年5月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月27日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成10年9月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件調査において、次の事実が認められる。
(イ)E株式会社(以下「E社」という。)の代表取締役であるF(以下「F」という。)
は、平成2年6月ごろ、請求人の代表取締役のG(以下「G」という。)の父親である請求人の前代表取締役のH(平成10年1月26日死亡、以下「H」といい、Gと併せて「代表者ら」という。)から、請求人の営む遊技場である「K店」(以下「K店」という。)の前身の「L店」(以下「L店」という。)の経営の建て直しの依頼を受け、請求人の当時の負債総額102,968,328円の約90パーセントを占めるHからの借入金93,609,088円を引き継いで請求人の経営の建て直しに乗り出したものであること。
(ロ)Fの請求人に対する融資額は、平成3年8月31日現在で87,020,980円、また、E社の請求人に対する長期預け金は、同日現在で420,275,075円であり、請求人の負債総額697,220,269円の約73パーセントを占めていたこと。
 このような状態は、Fが「K店」との関係をやめるまで続いたことから、Fが自ら「K店」に係る運営資金を調達していたものと認められること。
(ハ)請求人の従業員であるM(以下「M」という。)は、E社の従業員であったが、平成2年12月ごろから請求人の従業員となり、「K店」のフロアー責任者として売上金等の管理を担当していたこと。
(ニ)Mは、請求人の平成5年8月期及び平成6年8月期に係る法人税の確定申告書の別表一の「経理責任者自署押印」欄に経理責任者として自署押印していること。
(ホ)Mは、Fの指示により、請求人の売上金の一部の金額を除外するとともに、除外した金額をF名義の預金口座に送金していること。
(へ)Fは、平成3年5月に「K店」を新装オープンさせ、平成2年8月期に226,418千円だった売上額を平成3年8月期には942,496千円に、平成4年8月期には2,222,085千円と大きく飛躍させていること。
ロ ところで、重加算税の賦課制度は、納税義務違反に対する行政制裁であり、その適用は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装行為を原因として過少申告が発生していれば足り、それ以上に申告に際して、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではなく、また、隠ぺい又は仮装の行為者は、納税者たる法人の代表者に限定されるものではないから、法人の代表者が従業員の行った隠ぺい又は仮装の行為を知らなかった場合であっても、当該法人の行為と同一視されている。
 Fは、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、Hから「L店」の経営の建て直しの依頼を受けるとともに、請求人に対し多額の融資をしており、また、Mは、上記イの(ハ)のとおり、「K店」のフロアー責任者として請求人の売上金等の管理を担当するとともに、上記イの(ニ)のとおり、請求人の法人税に係る確定申告書の「経理責任者自署押印」欄に経理責任者として自ら自署押印していることからすると、Fは実質経営者、Mは経理責任者であると認められる。
 そして、Mは、上記イの(ホ)のとおり、Fの指示により売上金の一部の金額を除外していたものであり、F及びMの行ったこれらの不正行為は請求人の行為と同一視されるものである。
ハ 以上のとおり、請求人は、売上金の一部の金額を除外して記載した会計帳簿に基づき、本件各事業年度の法人税の課税標準等を過少に申告していたものであり、この請求人の行為は、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定するその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときに該当すると認められるので、同項の規定に基づき行った本件賦課決定処分はいずれも適法である。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当、違法であるから、いずれもその一部を取り消すべきである。
イ 重加算税の賦課は、隠ぺい又は仮装の行為があった場合の行政上の秩序罰であり、この隠ぺい又は仮装の行為を従業員が行った場合にも納税者本人の行為と同一視される考え方は、過去の裁決事例からも知られているところである。
 この過去の裁決事例は、あくまでも重加算税の制度の主眼が、隠ぺい又は仮装したところに基づく過少申告又は無申告による納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度の秩序を維持し、その基盤を擁護しようとする考え方から、従業員の行った隠ぺい又は仮装の行為も納税者本人の行為と同一視しているものである。
 原処分庁は、Fを実質経営者及びMを経理責任者であると認定し、F及びMが売上金の部の金額を除外した行為は、請求人の行為と同一視されるとして本件賦課決定処分をしたが、次に述べるとおり不当、違法である。
(イ)請求人が売上金の一部の金額を会計帳簿に計上しなかった原因は、Mがコンピュータで管理している「K店」の売上金について、コンピュータ会社の従業員と共謀して売上データを改ざんし、売上金の一部の金額を除外したことによるものである。
 Mは、売上除外した金額を着服して社外に持ち出しており、Mのこの行為は、犯罪行為となるものであり、しかも、Mが社外に持ち出した売上金は、請求人において殆ど回収の見込みがないものである。
 このように売上金の除外の原因がMの着服という犯罪行為によるものであることを考慮すれば、これを請求人の行為と同一視することは妥当ではなく、申告納税制度の秩序の維持は過少申告加算税の賦課で十分であり、本件賦課決定処分は不当である。
(ロ)また、原処分庁は、Fを実質経営者、Mを経理責任者であると認定しているが、事実を誤認している。
 パチンコ業界においては、一般的にフロアーの管理、出玉率の調整及び売上金の保管等はフロアー責任者が行っているが、経営の意思決定まで任せているものではなく、請求人においても、Mはフロアー責任者にすぎず、資金の運用、設備更新の時期等の決定、経理の重要事項のは握は代表者らが行っていたものである。
ロ 以上のとおり、請求人が売上金の一部の金額を会計帳簿に計上しなかった原因は、Mが売上金の一部の金額を着服した犯罪行為によるもので、請求人には、売上金を隠ペいした行為がないから、本件賦課決定処分は過少申告加算税を超える部分をいずれも取り消すべきである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人の従業員が行った隠ぺい又は仮装の行為が請求人の行為と同一視できるか否かにあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 商業登記簿謄本によれば、請求人の代表取締役を平成5年3月8日にHからGに変更していること。
 また、「役員に関する事項」欄にはFの氏名の記載がないこと。
ロ Gは、医師でありP市において内科診療所を営んでいること。
ハ Mは、請求人が平成3年5月にオープンした「K店」のフロアーの責任者として、売上金等の管理を担当していたこと。
ニ 請求人の給与台帳によれば、Mの請求人への在職期間は、平成2年12月から平成7年9月までの間であること。
 また、当該給与台帳にはFに関する記載がないこと。
ホ 請求人が提出した法人税の確定申告書及び同申告書に添付されている各種内訳書には、次のとおり記載していること。
(イ)平成3年9月1日から平成4年8月31日までの事業年度(以下「平成4年8月期」という。)に係る確定申告書の別表一の「代表者自署押印」欄にはH、「経理責任者自署押印」欄にはMの氏名を記載し、それぞれ押印している。
(ロ)平成5年8月期及び平成6年8月期に係る確定申告書の別表一の「代表者自署押印」欄にはG、「経理責任者自署押印」欄にはMの氏名を記載し、それぞれ押印している。
(ハ)平成2年9月1日から平成3年8月31日までの事業年度(以下「平成3年8月期」という。)の借入金及び支払利子の内訳書には、Fからの借入金87,020,980円と記載している。
 また、仮受金(前受金・預り金)の内訳書には、E社からの長期預り金420,275,075円と記載している。
ヘ 請求人が平成6年4月28日に提出した平成4年8月期及び平成5年8月期の各事業年度に係る法人税の修正申告書の別表一の「代表者自署押印」欄にはG、「経理責任者自署押印」欄にはMの氏名を記載し、それぞれ押印していること。
ト 平成元年9月1日から平成2年8月31日までの事業年度(以下「平成2年8月期」という。)、平成3年8月期、平成4年8月期及び本件各事業年度に係る損益計算書には、売上金額として次表のとおり記載していること。

チ Mは、調査担当職員に対し、次のとおり申述していること。
(イ)Fは「K店」の経営を任された経緯について、「E社の発行済株式の100パーセントを所有するSから『私の妹で請求人の監査役であるTの夫のGがQ市で経営しているパチンコ店の「L店」の経営を建て直してくれ』と言われた」旨話していた。
(ロ)自分は、E社の従業員であったが、平成2年12月ごろから請求人の従業員となり、フロアー責任者として請求人を退職するまでの間「L店」及び「K店」のコンピュータの操作、台の入替え、売上、景品の管理、従業員の採用及び給与計算等の一切を任されていた。
 また、「K店」に係る設備資金及び運転資金は、Fからの送金により行ってきた。
(ハ)Gは、医師でP市において内科診療所を営んでいると聞いており、パチンコ業については全くの素人である。また、Gは、Q市に年に1ないし2回程度来ていただけである。

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(2)本件賦課決定処分について

イ 通則法第68条第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定している。
 当該規定による重加算税制度の趣旨は、納税者が過少申告したことについて、隠ぺい又は仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な納税の実現を確保しようとするものである。
 そして、この場合における事実の隠ぺいとは、売上除外、証拠書類の破棄等課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠匿することをいい、事実の仮装とは、架空仕入、架空経費の計上若しくは他人名義の利用等存在しない課税要件事実が存在するかのように見せかけることをいうものと解されている。
ロ また、隠ぺい又は仮装の行為者は、納税義務者たる法人の代表者に限定されるものではなく、その役員又は従業員等で経営に参画していると認められる者が隠ぺい又は仮装をし、かつ、代表者がそれに基づき過少申告した場合は、当該法人の代表者が納税申告をするに当たり、隠ぺい又は仮装行為を知っていたか否かによって左右されるものではなく、当該法人の行為と同一視されると解されている。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、売上金の一部の金額を会計帳簿に計上しなかった原因は、Mの着服という犯罪行為により発生したものであるので、これを請求人の行為と同一視することは妥当ではない旨主張する。
 しかしながら、Mは、上記(1)のハのとおり、「K店」のフロアー責任者として、売上金等の管理を担当していたことが認められ、また、上記2の(2)のイの(イ)において請求人も自認するとおり、Mがコンピュータで管理している「K店」の売上金について、コンピュータ会社の従業員と共謀して売上データを改ざんし、請求人の売上金の一部の金額を除外したものと認められる。
 また、Mは、上記(1)のハ及びニのとおり、平成2年12月から「K店」のフロアー責任者として請求人の売上金等の管理を担当し、さらに、上記(1)のトのとおり、「K店」の売上金の増収を図るとともに、上記(1)のホの(イ)及び(ロ)並びにヘのとおり、請求人の確定申告書及び修正申告書の別表一の「経理責任者自署押印」欄に氏名を記載し押印して提出していることが認められる。
 そして、上記(1)のチの(ロ)及び(ハ)のMの調査担当職員に対する申述によれば、Mは、平成2年12月から請求人を退職した平成7年9月までの間、請求人のフロアー責任者として、「K店」のコンピュータの操作、台の入替え、景品の管理、従業員の採用及び給与の計算等の一切を任されていたこと並びにGは、医師でパチンコ業については全くの素人であり、しかも、Q市には年に1ないし2回程度しか来ていないこと、また、Gは、上記(1)のロのとおり、P市において内科診療所を営んでいることを併せ考えると、Mは、請求人の「K店」の経営について任せられていたものと判断するのが相当である。
 以上のことから、Mは、経理責任者等として請求人の経営に参画していたものと認めるのが相当であり、このような地位にあったMが売上金等の管理を担当し、故意に売上金の一部の金額を除外したものである以上、それが同人の私的利益を図るために行われたものであり、また、それを代表者が知らなかったとしても、Mが行った売上金の一部の金額を除外した行為は、請求人の行為と同一視すべきものと認めるのが相当である。
 そうすると、請求人がMの行った売上金の一部の金額を除外して記載した会計帳簿に基づき、本件各事業年度の法人税の課税標準等を過少に申告したものと認められ、この請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいしたところにより、納税申告書を提出していたときに該当するから、原処分庁が納税義務者たる請求人に本件賦課決定処分したことは相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、Mが社外に持ち出し売上金は、請求人において殆ど回収の見込みがないものである旨主張する。
 しかしながら、請求人が着服されたとする売上金の回収に係る法人税の課税関係については、重加算税の賦課要件とは別途に検討すべきことであるから、仮に、Mにより着服され売上金が回収できなかったとしても、原処分に影響を与えるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、原処分庁が通則法第68条第1項の規定に基づいて行った本件各事業年度の法人税に係る本件賦課決定処分はいずれも適法である。
ニ なお、請求人は、原処分庁がFを実質経営者と認定したことは事実誤認である旨主張する。
 確かに、Fは、上記(1)のホの(ハ)のとおり、請求人に対し多額の融資をしていること、また、E社も請求人に対し多額の融資をしていることが認められるものの、上記(1)のイのとおり、請求人の株主、役員等とは認められず、上記(1)のニのとおり、請求人の従業員とも認められないことから、原処分庁がFを実質経営者と認定したことは相当ではない。
 しかしながら、上記(イ)で判断したとおり、重加算税の賦課要件は具備していることから、このことをもって本件賦課決定処分に何ら影響を与えるものではないと判断するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由が認められない。

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