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(平11.11.9裁決、裁決事例集No.58 71頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、個人年金保険契約の解約に伴い支払われた解約返戻金及び配当金を他の年金保険契約の保険料に充てた場合、その解約返戻金及び配当金は、一時所得の金額の計算上、一時所得に係る総収入金額に算入されるべきか否かを主たる争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成元年9月6日にJ生命保険相互会社との間で、同人を被保険者及び保険金受取人として個人年金保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
 なお、本件保険契約に基づき請求人が支払った保険料(以下「本件保険料」という。)の総額は8,000,000円である。
ロ 請求人は、平成9年5月27日に本件保険契約を解約し、同年5月29日に解約返戻金11,989,285円及び配当金26,327円(以下、解約返戻金と併せて「本件解約返戻金」という。)の支払を受けた。
ハ 請求人は、平成9年分の所得税の確定申告書に、本件解約返戻金に係る一時所得の金額を計上せず次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに提出した。
 これに対し、原処分庁は、本件解約返戻金は一時所得に該当するとして平成10年9月9日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成10年9月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年12月4日付でこれを棄却する旨の異議決定をしたので、同年12月8日に審査請求をし、原処分全部の取消しを求めた。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件解約返戻金は、K生命破綻の報道に接し生命保険会社の個人年金では払込み元金の保証もなくなる事態を知った請求人が、老後の生活資金の自己防衛と将来の万一の場合を考え、より安全な郵便局の年金保険へ契約替えするために本件保険契約を解約した結果生じたものにすぎないから、これが所得を構成するとは考えられない。
ロ 本件解約返戻金は、上記イのとおり、経済不安による契約替えにより生じたものであり、かつ、老後の生活資金であるから、個人が住宅等の買換えをした場合に課税の優遇措置があるのと同様に、課税の繰延べがされるべきである。
ハ 本件保険料の支払は退職金(財産)を充てたものであり、本件解約返戻金が課税されると、その財産につき、退職金受領時点、保険切替時点及び年金受領時点の計3回にわたり課税されることとなるから、納得できない。

(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法に行われているので、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 所得税法第36条《収入金額》第1項は、総収入金額について「別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする」と規定しており、同項にいう収入すべき金額とは、法律上収入すべき権利の確定した金額をいうものと解される。
 これを本件についてみると、請求人は、平成9年5月27日に本件保険契約を解約していることから、同日において収入すべき権利が確定しているので、本件解約返戻金は、同日の属する平成9年分の一時所得の金額の計算上、一時所得に係る総収入金額に算入されることになる。
ロ 請求人は、住宅の買換え同様、年金の場合も契約替えを認め、課税の繰延べがあってしかるべきである旨主張するが、立法論はともかくとして、現行の所得税法等にはそのような規定はなく、これを認めることはできない。
ハ また、請求人は、請求人の同一の財産に何回も課税されることは納得できない旨主張するが、請求人が支払った本件保険料の総額は、一時所得の金額の計算上、一時所得に係る総収入金額から控除されており、本件更正処分においては、本件保険契約に係る利得のみが課税対象となっているのであるから、請求人の同一の財産が何回も課税されることにはならない。
ニ 総所得金額
(イ)一時所得の金額
 本件解約返戻金の額12,015,612円から、収入を得るために支出した金額、すなわち本件保険料の総額8,000,000円及び所得税法第34条《一時所得》第3項に規定する特別控除額500,000円を控除した3,515,612円が一時所得の金額となる。
(ロ)雑所得の金額
 雑所得の金額は、請求人が確定申告書に記載した金額である。
 したがって、請求人の平成9年分の総所得金額は、雑所得の金額1,891,200円に、一時所得の金額3,515,612円の2分の1の金額を加えた3,649,006円となり、これは本件更正処分の額と同額となるから、本件更正処分に違法はない。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 関係法令
(イ)所得税法第34条第1項は、一時所得について、〔1〕利子所得、〔2〕配当所得、〔3〕不助産所得、〔4〕事業所得、〔5〕給与所得、〔6〕退職所得、〔7〕山林所得及び〔8〕譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定している。
(ロ)そして、所得税法施行令第183条《生命保険契約等に基づく年金に係る雑所得の金額の計算上控除する保険料等》第2項では、生命保険契約等に基づく一時金の支払を受ける居住者のその支払を受ける年分の当該一時金に係る一時所得の金額の計算について、当該一時金の支払の基礎となる生命保険契約等に基づき分配を受ける剰余金又は割戻しを受ける割戻金の額で、当該一時金とともに又は当該一時金の支払を受けた後に支払を受けるものは、その年分の一時所得に係る総収入金額に算入し、当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額は、その年分の一時所得の金額の計算上、支出した金額に算入する旨規定している。
(ハ)さらに、所得税法第36条第1項は、各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額について、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする旨規定しているところ、同項にいう収入すべき金額とは、法律上収入すべき権利の確定した金額をいうものと解されている。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
 本件解約返戻金は、所得税法施行令第183条第2項に規定する生命保険契約等に基づく一時金及び当該契約に基づき分配を受ける剰余金に該当することが明らかであり、上記イの(ハ)により、請求人の場合、本件保険契約を解約した日が収入すべき権利が確定した日となるから、平成9年分の所得税の一時所得の金額の計算上その年分の一時所得に係る総収入金額に算入され、本件保険料の総額は、一時所得の金額の計算上、収入を得るために支出した金額に算入される。
 そうすると、一時所得の金額は、本件解約返戻金の額12,015,612円から、収入を得るために支出した本件保険料の総額8,000,000円及び所得税法第34条第3項に規定する特別控除額500,000円を控除した3,515,612円となる。
ハ 請求人は、本件解約返戻金は生命保険会社の年金保険契約を解約し、郵便局の年金保険へ契約替えしたために生じたものにすぎないから、これが所得を構成するとは考えられない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、上記1の(2)のロのとおり、平成9年5月27日に本件保険契約を解約しており、同日においてJ生命保険相互会社から本件解約返戻金の支払を受けるべき権利が確定し、同年5月29日に本件解約返戻金の額12,015,612円を受領しているものであるから、請求人の主張するとおり、当該金員を郵便局の年金保険の原資として払い込んだとしても、本件保険料の総額8,000,000円を上回る本件解約返戻金の額12,015,612円を受領している以上所得が実現したことには変わりがなく、請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、個人が住宅等の買換えをする場合には税の優遇措置があるから、本件解約返戻金についても、これと同様に課税の繰延べをすべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法には、本件解約返戻金に対して課税の繰延べを認める旨の規定はないので、請求人の主張は法律上の根拠をもたない独自の見解であり、認めることはできない。
 なお、本件解約返戻金に対して課税の繰延べを認めるべきである旨の請求人の主張は、結局は法令自体が不合理であるとの主張に帰着するものと考えられるが、原処分庁が行った処分の基となった法令自体の合理性を判断することは、当審判所の権限に属さないものであり、審理の限りではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ホ また、請求人は、本件解約返戻金が課税されることにより、請求人の退職金(財産)が退職金受領時点、保険切替時点及び将来の年金受領時点の計3回課税されることになる旨主張するが、上記ロのとおり、一時所得の金額の計算に当たっては、本件解約返戻金の額12,015,612円から収入を得るために支出した本件保険料の総額8,000,000円を控除した額、すなわち本件保険契約に係る利得4,015,612円を課税の対象としているのであって、本件解約返戻金全額を課税の対象としているのではないから、請求人の主張には理由がない。
へ 総所得金額について
(イ)一時所得の金額
 上記ロのとおり、平成9年分の一時所得の金額は、3,515,612円である。
(ロ)雑所得の金額
 原処分庁は、平成9年分の雑所得の金額を請求人が確定申告書に記載した金額であるとしているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定額は相当と認められる。
 以上の結果、請求人の平成9年分の総所得金額は、所得税法第22条《課税標準》第2項第2号の規定により次表のとおりとなり、本件更正処分の金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件更正処分は、上記(1)のとおり適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づく本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由はない。

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