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(平11.8.27裁決、裁決事例集No.58 161頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、土木建築の設計施工業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が取得した社宅用建物の減価償却費の計算に当たり、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(平成10年大蔵省令第50号による改正前のもの。以下同じ。)の別表第一《機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表》(以下「別表一」という。)に規定される耐用年数(以下「法定耐用年数」という。)によるべきか(原処分庁)、それとも別途見積もった耐用年数によるべきか(請求人)を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯等

イ 請求人は、平成3年4月1日から平成4年3月31日までの事業年度以降、P市R町1丁目803番地64に所在する宅地に建設された社宅用建物(以下「本件建物」という。)の耐用年数を30年として減価償却費を計算し、法人税の確定申告書を提出していた。
ロ 請求人は、平成8年10月24日からG税務署所属の職員の調査(以下「本件調査」という。)を受け、本件建物の耐用年数を30年ではなく40年であるとして減価償却費を計算して、平成8年12月24日に平成5年4月1日から平成6年3月31日まで、平成6年4月1日から平成7年3月31日まで及び平成7年4月1日から平成8年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成6年3月期」、「平成7年3月期」及び「平成8年3月期」という。)の修正申告書を提出した。
ハ 次いで、請求人は、本件建物に適用すべき法定耐用年数60年は長すぎることから、請求人が別途見積もった耐用年数40年を適用すべきであるとして、平成9年1月28日にH国税局長に「耐用年数の短縮の承認申請書」を提出したところ、H国税局長は、平成9年9月9日付で却下処分をした。
ニ G税務署長は、本件調査に基づき本件建物の法定耐用年数は60年であるとして、平成7年3月期、平成8年3月期及び平成8年4月1日から平成9年3月31日までの事業年度(以下、「平成9年3月期」といい、平成7年3月期及び平成8年3月期を併せて「本件各事業年度」という。)の更正処分(以下「本件更正処分」という。)を平成10年1月26日に行った。
 なお、審査請求に至る経緯は、別表1のとおりである。
 おって、別表1の平成9年9月9日付のH国税局長がした処分と平成10年1月26日付のG税務署長がした処分とを併合審理をする。

(3)基礎事実

イ 請求人は、平成4年2月、本件建物を建築し事業の用に供した。
ロ 本件建物の構造様式等は、耐力壁が鉄筋コンクリート造であり、柱及び梁が無く壁面で荷重を支えている壁式構造である。
 また、屋根は瓦葺き、外壁はアクリル系塗料の吹き付け、窓はアルミサッシを使用し、床は板張又は畳敷で、室内の階段は木造である。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、以下の理由により、いずれも違法、不当であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 本件却下処分について
(イ)審理手続
 H国税局長は、本件建物に係る耐用年数の短縮の承認申請(以下「本件承認申請」という。)の却下処分(以下「本件却下処分」という。)に係る審理に当たり、本件建物を実地に調査すれば、これが60年も持つ建物ではないことが分かるはずであるにもかかわらず、これを行わなかった。
(ロ)本件建物の耐用年数
 本件建物は、次の理由により、別表一に掲げる「鉄筋コンクリート造のもの」に該当しないことから、別途耐用年数の見積りをせざるを得ず、H国税局長が行った本件却下処分は、違法、不当である。
A 本件建物の構造等
(A)本件建物は、不動産登記簿上「鉄筋コンクリート造、瓦葺、2階建、共同住宅」となっているが、いわゆる「総鉄筋」と言われるものではなく、鉄筋コンクリート造となっているのは、外壁及び内壁の一部だけであり、1階床全面、内壁の一部、階段等は木造であり、また、屋根も一般木造住宅と同じ瓦葺きであり、その構造様式は、鉄筋コンクリート造と木造との折衷様式となっている。
(B)本件建物は一般に「壁式構造」と呼ばれ、この製作方法は、柱・梁を使用せず、鉄筋コンクリートの壁を組み立てたものであり、鉄筋コンクリート造のものとは言え、構造体部分に旧来の木造住宅の製作方法も随所に採り入れた折衷方法であり、このような建物まで別表一において考慮しているとする明文の規定はなく、そして、壁式構造の建物自体が最近の製作方法であることを考慮すると、本件建物は、別表一に掲げる「鉄筋コンクリート造のもの」に該当しない。
B 本件建物の耐用年数の見積り
(A)法定耐用年数算定の基礎となっている「固定資産の耐用年数の算定方式(昭和26年大蔵省主税局)」(以下「耐用年数の算定方式」という。)では、「建物の耐用年数は、まず、構造体の耐用年数を取り上げねばならない。構造体から考えると、鉄骨鉄筋コンクリート建物は鉄筋コンクリート建物より長命のように見られるが、鉄骨鉄筋コンクリート建物であっても鉄骨に重点を置くものと鉄筋に重点を置くものとの2通りがあって建造後いずれに重点を置いて建造したか判定でき難いものも生ずるので双方同じと考えるものとする。」と説明している。
 つまり、〔1〕建物の耐用年数はその構造体の耐用年数に重点を置いて算定すべきものであること、〔2〕鉄骨鉄筋コンクリート建物は、鉄筋コンクリート建物より長命と見られること。ただし、その判定が困難であることから同じ範ちゅうとして取り扱っていることが認められる。
 しかし、構造体が本件建物のように鉄筋コンクリート造と木造との折衷様式になっているものにまで、別表一における「鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のもの」の耐用年数を適用することには無理がある。けだし、鉄筋コンクリート造建物は鉄骨鉄筋コンクリート造建物より短命と明記されているにもかかわらずコンクリート造建物すべてに同一耐用年数を適用することには疑念が生じざるを得ない。不動産登記簿上の構造にとらわれることなく、建物の実体に即して判断すべきは自明の理であり、本件建物のように構造体を一義的に「鉄筋コンクリート造のもの」と決めつけることができない建物の場合には、別途、耐用年数の見積りが必要である。
(B)また、請求人は、本件承認申請に際し補足説明資料として、別表2の「本件建物の耐用年数の見積り」、別表2の付表1の「本件建物の建築価額」、同表の付表2の「本件建物の建築価額のあん分」及び別表3の「鉄筋コンクリート造建物の耐用年数の算定方式」を提出しているところであるが、本件建物の建築価額に占める構造体の工事費の割合は、別表2の「一万円当たりの構成金額」欄からすると23%であり、また、「鉄筋コンクリート造建物の耐用年数の算定方式」に示されているその割合は、別表3の「一万円当たりの構成金額」欄からすると71%である。これらを比較すると、倍以上の差があり、本件建物の耐用年数は、耐用年数の長い鉄筋コンクリートの金額割合が低いために、法定耐用年数に比して著しく短いと言える。
 このように、本件建物の耐用年数は鉄筋コンクリートに重点を置くものではなく、木造部分に重点を置くべきである。
 なお、別表3の「鉄筋コンクリート造建物の耐用年数の算定方式」は、「耐用年数の算定方式」の第3《建物》の付表2に記載されている鉄骨鉄筋コンクリート追及び鉄筋コンクリート造建物の耐用年数の算定方式を根拠にした。
(C)H国税局長は、「本件建物のような壁式鉄筋コンクリート造の建物が建築基準法等の要求する技術的な基準にも合致しているものであることから、力学的な安全性、耐久性が確保されており、従来の鉄筋コンクリート造の建物に比し、その耐用年数が著しく短くなるとは認められない」旨主張するが、建築基準法等の要求する技術的な基準は、その立法趣旨が税法あるいは会計理論とは異なるものであり、力学的な安全性、耐久性は、法定耐用年数の決定において、考慮されていないはずである。
(D)そうすると、本件建物の耐用年数は、別途見積もらざるを得ず、その見積りは、別表2の「見積耐用年数」欄のとおり、35年となるが、算定過程における防水、床、外装、窓、構造体及びその他に適用している耐用年数(以下「見込耐用年数」という。)及び建築価額の誤差を考慮すると、本件建物の耐用年数は、40年とするのが相当である。
 なお、本件建物の耐用年数を見積もるに当たり、「耐用年数の算定方式」(別表3の「鉄筋コンクリート造建物の耐用年数の算定方式」)に従う限りし意性は排除される。
(E)請求人は、別表2のとおり、本件建物の耐用年数を見積もっているにもかかわらず、H国税局長はこれを示していない。
ロ 本件更正処分について
 本件更正処分は、次の理由により、違法、不当である。
(イ)本件建物の耐用年数は、上記イの(ロ)のとおり、40年とすべきである。
(ロ)G税務署長は、本件更正処分に係る調査を平成8年10月24日から同月25日まで実施しているが、請求人がこの調査に基づき本件建物の耐用年数を30年としていたのを40年として減価償却費を計算し直し、平成6年3月期、平成7年3月期及び平成8年3月期の法人税の修正申告書を提出したところ、平成6年3月期の修正申告では本件建物の耐用年数40年を是認しておきながら、本件更正処分ではこれを60年としており、G税務署長の主張は、首尾一貫していない。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、以下の理由により、いずれも適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件却下処分について
(イ)審理手続
 納税者から提出された減価償却資産の耐用年数の短縮の承認申請書を審査するに当たり、その減価償却資産を実地に調査しなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、本件却下処分に係る審理は、法人税法施行令第57条《耐用年数の短縮》第3項の規定により適法に行われている。
 なお、本件承認申請に係る審査過程においては、本件建物の所在地において請求人関係者から本件建物について説明を受けており、また、原処分庁において請求人関係者と面談し事実関係を聴取するなどして、審理は十分に尽くしている。
(ロ)本件建物の耐用年数
A 本件建物の構造等
 耐用年数の判定に当たり、建物を構造様式により区分する場合において、どの構造様式に属するかは、一般的にその主要柱、耐力壁又は梁等その主要部分により判定することになるが、本件建物は、その構造の主要部分である耐力壁が鉄筋コンクリート造であり、そして、木造建物の製作方法は主に内部造作に採り入れられたもので、建物の構造体を構成するものとは認められないことから、本件建物の構造様式は、鉄筋コンクリート造と木造との折衷様式ではなく、「鉄筋コンクリート造のもの」と判定するのが相当である。
B 本件建物の耐用年数の見積り
(A)減価償却とは、資産の種類に応じて投下された費用について、その減耗額を見積もり、その使用期間にわたって正しく費用配分する手続であり、これを適正に行うためには、耐用年数、取得金額等が合理的なものでなくてはならない。
 しかし、これらすべてを個々の企業の決定にゆだねることとした場合、個々の企業においては、そのための資料がなく、技術的にも困難であり、かえってし意的になりやすく、課税の公平の点からも好ましくないことから、現行法においては、これら減価償却費の計算に関する基本的事項について法定し、更にできるだけこれを細分して個々の資産に適合するよう配慮し、それにより算出される償却限度内おいて、損金算入を認めている。
 なお、法人税法施行令第48条《減価償却資産の償却の方法》第1項に規定される定額法又は定率法により償却費の計算を行う場合に適用する耐用年数等は、別表一に規定されている。
 したがって、減価償却費の計算に当たっては、法定耐用年数を適用することで著しく実態とかい離する場合を除き、法定耐用年数を適用すべきである。
(B)本件建物のような壁式工法は、経済性を目的としたものであり、おのずと建築価額全体に占める鉄筋コンクリート工事価額の割合は低下するものと考えられる。加えて鉄筋コンクリート工事価額以外の内部造作等に投下する資本が相対的に増加すれば、その割合は低下することから、価額割合が低いとの理由で耐用年数を見積もることは妥当性に欠ける。
(C)また、本件建物のような壁式鉄筋コンクリート造の建物は、建築基準法等の要求する技術的な基準にも合致しているものであることから、力学的な安全性・耐久性が確保されている。
 なお、本件却下処分は、本件建物が建築基準法等の要求する技術的な基準に合致していることのみを基として行ったものではない。
(D)請求人の本件承認申請に係る説明において、本件建物の耐用年数の見積り計算のうち建築価額のあん分については工事の内容により資産ごとに区分しているが、請求人の主張する別表2の「本件建物の耐用年数の見積り」と「耐用年数の算定方式」(別表3の「鉄筋コンクリート造建物の耐用年数の算定方式」)とでは、コンクリート工事中基礎型枠及び型枠工事を「構造体」でなく「その他」に区分していること、サッシ等に係る鋼製建具工事を「窓」ではなく「その他」に区分していること、床材を除く木工事、金属工事、木製建具工事、内装工事及び雑工事をすべて「その他」に区分している等の相違が見られる。
 また、見込耐用年数についても別表2と別表3とでは、「床」について、本仕上げでないため鉄筋コンクリート造の床30年と木造の建具20年の平均値を適用していること、「窓」について、スチールサッシ30年を参考にアルミサッシについて20年を適用していること、「その他」について、木造のその他50年を適用していること等の相違が見られる。
 さらに、請求人は、算定過程における建物価額のあん分及び見込耐用年数の誤差を考慮し、本件建物の見積耐用年数を35年から40年に切り上げていること等の各事実関係から、請求人が算定した使用可能期間には合理的な理由がなく、本件建物の使用可能期間が法定耐用年数に比較して著しく短いとは認められない。
(ハ)以上のとおり、本件却下処分は適法である。
ロ 本件更正処分について
(イ)本件却下処分は、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、適法であることから、請求人は、法人税法施行令第57条第1項に規定される納税地の所轄国税局長の承認を受けていないこととなり、本件建物の減価償却費の計算に当たっては、法定耐用年数を適用することになる。
(ロ)平成6年3月期については、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》の規定に該当することとなるので、更正処分ができなかったのであり、G税務署長の主張が首尾一貫していない旨の請求人の主張には理由がない。
(ハ)以上のとおり、本件更正処分は適法である。
ハ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分はいずれも適法であり、これらの処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件各事業年度の過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれも適法である。

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3 判断

(1)本件却下処分について

イ 審理手続
 法人税法施行令第57条第3項には、耐用年数の短縮の承認申請書の提出があった場合には、遅滞なく、これを審査し、その申請に係る減価償却資産の使用可能期間を認め、若しくはその使用可能期間を定めて承認をし、又はその申請を却下する旨規定されている。
 そして、ここに規定される審査とは、証拠資料の収集、証拠の評価、要件事実の認定、税法その他の法令の解釈を経て、本件却下処分に至るまでの思考、判断を含む包括的な概念であると解される。
 これを本件についてみると、H国税局の所属職員は、本件建物の建設に係る工事見積書及び設計図等の検討、本件建物の外観調査等を行っていることが認められ、本件却下処分に係る審理は適法に行われている。
 また、仮に、本件建物の実地調査がなかったとしても、本件却下処分が違法となるものではない。
ロ 本件建物の耐用年数
(イ)本件建物の構造等
A 減価償却費を計算するに当たり、適用する耐用年数は、本来、企業の自主的な判断による合理的な基準に基づき、資産の実態に即して算定されるべきものであるが、建物の建造様式は種々雑多であって、その耐用年数を的確に算定することは非常に難しく、企業の自主的算定が困難であること及び仮に企業の自主的算定によることとした場合には、企業の業態、規模、経営方針等により千差万別となり、また、し意的になりやすいこと等から、法人税法では、課税の公平の点から耐用年数を含む減価償却要素が法定されている。
B 法人税法第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》では、減価償却資産につきその償却費として所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その償却費として損金経理をした金額のうち、法人が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額とする旨規定され、法定耐用年数により償却することとされている。
 そして、建物について別表一では、構造様式により〔1〕鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造のもの、〔2〕れんが造、石造又はブロック造のもの、〔3〕金属造のもの、〔4〕木造又は合成樹脂造のもの、〔5〕木骨モルタル造のもの及び〔6〕簡易建物とに区分がされ、それぞれの用途及び使用状況ごとに法定耐用年数が規定されている。
C 法定耐用年数は、原則として通常考えられる維持補修を加える場合において、その固定資産の本来の用途用法により現に通常予定される効果を挙げることができる年数、すなわち通常の効用持続年数によると解され、通常予定される効果と通常考えられる維持補修とを基本的観念としている。
 そして、通常予定される効果の期間測定に当たっては、固定資産の素材、構造などから導き出される一定の性能期間が、客観的基準を表明するものとして、普遍性をもち、比較衡量の適性をもち、かつ、経験的に推計的に相当高度の確率をもった結果を求めるものとして最も適当であるとしている。
 また、通常考えられる維持補修は、固定資産の形状、構造などの同一性を維持しながらそこに加えられる維持補修であり、かつ、通常の効果が低下しないようにその平常性を維持確保する程度のものであるとして、骨格的存在とも考えられる構成部分(構造体)の取替えは通常考えられる維持補修に入らないとしている。
 このように、通常予定される効果の期間測定及び通常考えられる維持補修の解釈に当たっては、建物では構造体を中核としている。
D これを本件についてみると、〔1〕税法上、建物の法定耐用年数の算定において、その構造体が中核となっているので、構造様式の判定においても、その構造体に着目して判定するのが相当であること、〔2〕社会通念上、建物の構造様式は主要構造部により判定することとされていることからすれば、本件建物は、屋根を含め内部造作には、木造が主体となって構成されていることが認められるものの、主要構造体である耐力壁が鉄筋コンクリートで造られていることから、別表一に掲げられている「鉄筋コンクリート造のもの」に該当するというべきである。
(ロ)本件建物の耐用年数の見積り
A 建物の法定耐用年数は、建物を構造上、防水、床、外装、窓及び構造体その他に区分して、それぞれについて一般的な材質を使用した場合における個別耐用年数を算定した上で、これらを総合して耐用年数を算定し、これに一般的な陳腐化、現況下の技術及び素材の材質による一般的な調整を加えて算定されており、合理的なものである。
 しかしながら、法定耐用年数は、あくまで細密な個別性を捨象して普遍的に総括していることから、取得の態様、構成、材質、製作方法等が通常の場合と著しく異なるときは、その緩和策として耐用年数の短縮の道が開かれている。
 そして、法人税法施行令第57条第1項第1号には、当該資産の材質又は製作方法がこれと種類及び構造を同じくする他の減価償却資産の通常の材質又は製作方法と著しく異なることにより、その使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短い場合において、国税局長の承認を受けたときは、その承認に係る使用可能期間をもって別表一で規定する法定耐用年数とみなす旨規定されている。
 ただし、法定耐用年数は、上記のとおり合理的に算定されていること、また、納税者には、課税の公平の点から、減価償却費の計算に当たり法定耐用年数によることが要請されていることから、建物の耐用年数の短縮の承認を得るには、科学的な実験の結果又は過去の経験に基づく資料により、その個別的、特殊的条件等を反映した使用可能期間を算定した上で、この使用可能期間が法定耐用年数に比して著しく短いことを明らかにしなければならない。
B これを本件についてみると、次のとおりである。
(A)請求人が、本件建物の耐用年数の短縮を主張するのであれば、その個別的、特殊的条件を反映させるために、科学的な実験の結果又は過去の経験に基づく資料により見込耐用年数を算定すべきであるところ、請求人は、このような算定をせず、個別性、特殊性を捨象した「耐用年数の算定方式」(別表3の「鉄筋コンクリート造建物の耐用年数の算定方式」)における普遍的な見込耐用年数を適用している。
 また、請求人は、別表2の「見込耐用年数」欄のとおり、「床」の見込耐用年数を25年とし、「窓」の見込耐用年数を20年と、「その他」の見込耐用年数を50年としているが、少なくともこれらの見込耐用年数の算定根拠について合理性は認められない。
(B)さらに、建築価額のあん分に当たっては、本件建物に投下された費用を「防水」、「床」、「外装」、「窓」及び「構造体その他」に区分しなければならないところ、請求人は、例えば、仮設工事費の中には鉄筋足場費用、外部足場費用、屋根足場費用等「防水」又は「構造体」にも区分されるべきものが含まれているにもかかわらず、別表2の付表1及び2のとおり、そのすべてを「その他」に区分しているなど、単に各建築工事費をそれぞれに区分しているだけで、請求人のこの区分は正確性を欠いていることが認められる。
 そうすると、本件承認申請は、法人税法施行令第57条第1項第1号に規定される要件を充たしていないことになり、また、他にこれらの認定を覆す証拠もないことから、本件建物の耐用年数は、法定耐用年数を適用すべきである。
ハ 以上のとおり、本件却下処分は適法であり、請求人のこの点に関する主張には理由がない。

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(2)本件更正処分について

イ 本件建物に別表一に規定する耐用年数を適用した場合にその耐用年数が60年であることについては、請求人及び原処分庁双方に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 ところで、法人税法施行令第57条第1項は、所轄国税局長に耐用年数の短縮の承認を受けたときは、当該資産のその承認を受けた日の属する事業年度以降の各事業年度の償却限度額の計算については、その承認にかかる使用可能期間をもって大蔵省令で定める耐用年数とみなす旨規定している。
 これを本件更正処分についてみると、請求人は、平成9年1月28日に「耐用年数の短縮の承認申請書」をH国税局長に提出していることが認められるが、同局長は、平成9年9月9日付で本件却下処分を行っていることから、少なくとも平成9年3月期末までは、所轄国税局長の耐用年数の短縮の承認を受けていないこととなる。
 そうすると、法人税法施行令第57条第1項の規定は適用できないこととなり、本件建物の耐用年数は法定耐用年数である60年とすべきである。
 また、本件建物に係る減価償却費の計算は正当になされている。
ロ 当審判所の調査によれば、G税務署長は、平成6年3月期については国税通則法第70条の規定により、更正処分をすることができない期間に該当することから、この事業年度を除き本件各事業年度について、更正処分をしていることが認められ、本件更正処分に違法、不当な点はない。
 また、請求人は、このことで不利益を被るものではない。
ハ 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(3)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は、いずれも適法であり、また、これらの処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件各年分の過少申告加算税の賦課決定処分は、いずれも適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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