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(平11.11.4裁決、裁決事例集No.58 265頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、金属加工機製造業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)がF株式会社(以下「F社」という。)に支払った業務分担金が、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する課税仕入れに該当するか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成6年7月1日から平成7年6月30日までの課税期間及び平成7年7月1日から平成8年6月30日までの課税期間(以下、順次「平成7年課税期間」及び「平成8年課税期間」という。)の消費税並びに平成8年7月1日から平成9年6月30日までの課税期間(以下「平成9年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税について、申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 これに対し、原処分庁は、平成10年3月31日付で別表の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更生処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成10年5月28日に別表の「異議申立て」欄のとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年8月27日付で別表の「異議決定」欄のとおり棄却の異議決定をしたので、同年9月25日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成7年ないし平成9年の各課税期間に、F社に対して業務分担金を支払ったが、そのうち、原処分庁は、平成7年課税期間につき3,421,000円、平成8年課税期間につき7,828,000円及び、平成9年課税期間につき8,684,000円を、それぞれ課税仕入れに該当しないとした(以下、これらを併せて「本件業務分担金」という。)。

(イ)請求人は、F社との間で、平成5年4月14日及び平成7年8月10日、出向契約書と題する書面(以下「本件出向契約書」という。)を取り交わし、F社の従業員であるG(以下「G」という。)及びH(以下「H」といい、Gと併せて「本件従業員」という。)を請求人に出向させることのほか、本件従業員について、出向期間中請求人の業務に従事し、F社での業務は行わないこと、就業時間、休憩、休日及び特別休暇等、就業に関しては請求人の基準によること、賃金、一時金及び退職金等は、F社の基準によりF社が支払うこと、労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)については、請求人において付保し、健康保険、厚生年金保険及び雇用保険については、F社が継続して付保すること及び請求人は、出向期間中における賃金並びに費用について、F社の請求に基づき毎月支払う旨などを合意した。
(ロ)また、請求人は、F社との間で、平成5年4月16日及び平成7年8月16日、覚書と題する書面(以下「本件覚書」という。)を取り交わし、出向者とは、F社の従業員で同社の命令により、同社に在籍したまま請求人に常時駐在し、請求人の業務に専念する者をいい、本件従業員はこれに当たること、その取扱いについて、服務は請求人の定めによること、賃金はF社が直接支払うこと、労災保険は請求人が負担、付保し、災害補償手続も請求人が行うこと、作業服等の安全用具は請求人が無償貸与すること、通勤のための交通費はF社が支払い、出張旅費は請求人が支払うこと、請求人が就業管理を行い、勤務状況等賃金計算に必要な資料をF社に送付することを合意し、本件業務分担金について、所定月額、時間外手当及び深夜割増金を内容とし、請求人の各分担額については、所定月額は、月例基準賃金、通勤交通費補助、社会保険料事業主負担分、退職引当金、厚生費、一時金の一部負担額とし、時間外手当及び深夜割増金は、F社支給額の70パーセントとすること、所定月額はF社の定期昇給、ベースアップごとに改定し、請求人負担の労災保険料は含まないことなどを合意した(以下、上記(イ)の合意と併せて「本件契約」という。)。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ)本件従業員は、F社に在籍しながら請求人の業務のみに従事し、請求人の就業規則に従って勤務していること、本件従業員に係る労災保険の保険料は、請求人が全額負担しており、本件従業員が請求人の業務又は通勤途上の災害により負傷等したときの労災保険法の災害補償手続についても請求人が取り扱っていることなどからすれば、本件従業員は、F社との雇用関係を維持しながら、請求人とも雇用契約関係を有しているものといえる。
 そして、本件従業員の賃金は、F社の基準により、F社が直接支給しているが、請求人はF社の請求に基づき本件業務分担金を支払っており、その内容は、本件従業員の出向期間中の月例基準賃金、一時金、通勤交通費補助額、社会保険料事業主負担額、退職給与引当金、厚生費の一部負担金に時間外手当及び深夜割増金を含めた金額であるから、本件業務分担金は、F社が本件従業員に支払う給与及び一時金等の補てんに当たり、請求人が支出した給与負担金である。
(ロ)そして、消費税法基本通達5―5―10《出向先事業者が支出する給与負担金》は、事業者の使用人が他の事業者に出向した場合において、出向者に対する給与を出向元事業者が支給することとしているため、出向先事業者が自己の負担すべき給与に相当する金額を出向元事業者に支出したときは、当該給与負担金の額は、当該出向先事業者におけるその出向者に対する給与として取り扱う旨定めている。
(ハ)以上によれば、本件業務分担金は、消費税法第2条《定義》第1項第12号のかっこ書に規定する課税仕入れから除かれる給与等を対価とする役務の提供によるものに該当するので消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)の対象とはならない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 本件契約の実質は、請求人とF社の業務委託契約であり、請求人と本件従業員の間に雇用関係はなく、本件業務分担金は業務委託契約に基づく役務の提供の対価であって、給与等を対価とする役務の提供ではないから課税仕入れとして仕入税額控除は認められるべきである。
(イ)本件契約の締結は、消費税法が導入される以前からの慣行により継続していたものであり、出向契約という表題により出向と判断するのは誤りである。
 また、出向とは、出向先事業者と出向元事業者の間に仕事上の取引がある場合をいうのであって、請求人とF社の間には仕事上の取引はないから出向ではない。
(ロ)課税仕入れから除かれる給与等を対価とする役務の提供に該当するには、出向先事業者と出向者との間に雇用関係がある場合をいう。F社の人事担当者及び本件従業員に対して雇用関係の有無を確認したところ、請求人と本件従業員の間には雇用関係がない旨の回答を得ており、また、本件従業員は、F社のリストラ策により、請求人の業務に従事するようになったものであることからも、請求人と本件従業員とは雇用関係はない。
(ハ)そして、本件従業員は、健康診断をF社で受診し、懇親会等についてもF社で参加しており、請求人の業務等を無視し、請求人の業務のみに従事していない。また、本件従業員は、請求人からの休日出勤及び残業の申入れを拒否するなど請求人の就業規則にも従っていない。
(ニ)さらに、本件覚書によれば、本件業務分担金のうち所定月額は、F社における本件従業員の定期昇給及びベースアップの実施ごとに改定すると定められているが、本件契約締結以降一度も改定されたことがなく、時間外手当及び深夜割増金についてもF社から改定等の連絡を受けたことがないことからも、本件業務分担金は給与負担金ではない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件業務分担金が消費税法第2条第1項第12号のかっこ書に規定する給与等を対価とする役務の提供によるものであるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)F社は、平成5年4月16日付でGに対し、また、平成7年8月16日付でHに対し、それぞれ、総務部人事課付に配置転換し休職扱いとした上、請求人への出向を命じた。
(ロ)請求人の代表取締役であるJは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 平成8年2月ころ、F社の人事担当者との間で、電話で、「特に根拠はないが、請求人と本件従業員とは、雇用関係がない」旨確認した。
 また、本件従業員は、F社の従業員であって、請求人の従業員であるとの認識はない。
B 本件従業員は、請求人への出向期間中、請求人以外の業務に従事することはできず、勤務場所は、請求人の本社であり、勤務時間は請求人の他の従業員と同様に午前8時から午後4時40分までである。
C 本件従業員の業務内容は、旋盤加工であり、業務に対する指示は請求人の工場長及びリーダーが行っており、本件従業員には指示に対する諾否の自由はない。
 また、本件従業員には、業務に必要な機械及び器具の自己負担はない。
D 本件従業員に係る労災保険の保険料は請求人が負担しており、同保険の給付等の手続についても請求人が行っている。
E 本件業務分担金は、本件従業員の一定時間の労務に対する対価である。
(ハ)F社の経理部長であるK、人事部次長であるL及び人事部のM(以下「Kら」という。)は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 本件従業員に対する出向期間中の取扱いは、本件契約に基づいて実施されており、健康診断等をF社で実施するに当たり、出向先事業者での勤務に影響が生ずる場合には、事前に文書により請求人の了承を得ている。
B 当社の人事担当者が、請求人と本件従業員との間に雇用関係がない旨を確認したとは考えられない。
C 本件業務分担金の金額は、本件覚書により取り決めているところ、所定月額は、当社が見積もった本件従業員に係る月額労務費(賃金、通勤交通費補助額、社会保険料事業主負担額、退職給与引当金、厚生費及び一時金)の総額に基づいて請求人の負担額を決定しており、当該労務費の各項目の実費補てん額を決定するものではない。また、時間外手当及び深夜割増金は、請求人から送付された就業管理資料に基づき当社が本件従業員に支給した額の70パーセントを請求人に請求している。
(ニ)F社が請求人に対し発行した本件業務分担金の請求書によれば、F社は、その月の労働可能日数に応じた1日当たりの所定月額に欠勤実日数を乗じた金額を所定月額から減額して金額を算定し請求している。
ロ ところで、消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れにつき、同法第2条第1項第12号は、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第28条第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいう旨規定している。
 この課税仕入れの範囲から除かれる給与等を対価とする役務の提供とは、俸給、給料、賃金、歳費、賞与及びこれらの性質を有する給与を対価として、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき労務を提供することをいうと解される。
 そして、雇用関係の有無については、〔1〕仕事の依頼、業務従事の指示等に対して諾否の自由があるか否か、業務の内容及び遂行方法に対して具体的な指揮命令を受けるか否か、勤務場所及び勤務時間が指定されているか否か等の労務提供の形態、〔2〕報酬が時間給を基礎とするなど労働者間の較差が少なく、欠勤に伴い応分の報酬が控除され、あるいは、いわゆる残業をした場合には通常の報酬以外に別の手当が支給されるなど一定時間の労務の提供に対する対価であるか等の報酬の労務対償性及び〔3〕材料、生産器具等生産手段を役務提供者が負担するか否か等を総合勘案して判断すべきである。
 また、この点に関して、消費税法基本通達5―5―10は、事業者の使用人が他の事業者に出向した場合において、その出向した使用人に対する給与を出向元事業者が支給することとしているため、出向先事業者が自己の負担すべき給与に相当する金額を出向元事業者に支出したときは、当該給与負担金の額は、当該出向先事業者におけるその出向者に対する給与として取り扱う旨定めているが、これは、労務提供の対価としての給与支払の実質に着目したものであり、当審判所においても合理的な取扱いと認められる。
 なお、ここでいう出向とは、ある事業者(出向元事業者)に雇用される使用人(出向労働者)が、出向元事業者との雇用関係を存続させたままで他の事業者(出向先事業者)との間においても雇用関係に基づき業務に従事する勤務形態をいう。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)前記基礎事実及びイの各事実によれば、〔1〕本件従業員は、請求人の事業所において請求人の工場長等の指揮命令の下に旋盤加工の業務に従事し、業務に必要な機械及び器具の自己負担はなく、勤務時間についても他の請求人の従業員と同様に定められているなど請求人に対してその指揮監督の下に労務を提供していること、〔2〕本件従業員は、請求人への出向期間中、請求人以外の業務に従事することはできず、また、請求人は、本件従業員を請求人の労働者として労災保険に加入し、同保険の給付手続についても請求人が行っていること、〔3〕本件業務分担金のうち所定月額は、本件従業員の欠勤日数に応じて減額され、所定就業時間外の勤務に係る時間外手当等は所定月額とは別に加算されていることなどからして、請求人が負担する本件業務分担金は、本件従業員の一定時間の労務提供の対価であり、この点は請求人も自認していることが認められ、これらを総合すると、本件従業員は、F社に在籍しながら請求人に出向し、請求人の指揮命令に服して、非独立的に労務、役務を提供しているといえるから、出向先である請求人との関係においても雇用関係があると認めるのが相当である。前記「請求人の主張」のイの(ハ)の主張は、仮にその事実が認められるとしても以上の認定を何ら左右するものではない。
 そして、前記基礎事実及び前記Kらの答述によれば、本件業務分担金のうち所定月額は、本件従業員に係る月額労務費の一部負担額で、その総額に基づき決定されたものであり、各項目の実費を補てんするものではないこと、また、本件業務分担金の時間外手当及び深夜割増金も、F社が請求人から送付された就業管理資料に基づき計算されるもので、本件従業員に給与として支給した金額の一部であることが認められるから、本件業務分担金の内容は、その全額が請求人と本件従業員の雇用関係に基づく労務の対価として支出されたもので、前記通達にいう出向先事業者が負担すべき給与負担金に当たると認められる。
(ロ)なお、請求人は、出向の意義や本件従業員との関係についてるる主張し、本件業務分担金はF社との業務委託契約の締結に基づく役務提供の対価であり、本件従業員との間には雇用関係はなく、給与負担金ではない旨主張するが、出向の意義についての主張は独自の見解であり、また、請求人と本件従業員との関係については、前記認定のとおりであるから、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
ニ したがって、原処分庁が請求人と本件従業員は雇用関係があり、本件業務分担金は請求人における本件従業員に対する給与に相当し、消費税法第2条第1項第12号のかっこ書きに規定する給与等を対価とする役務の提供によるものに該当するから、仕入税額控除の対象にならないとして行った本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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