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(平12.4.26裁決、裁決事例集No.59 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続財産である小作権を、被相続人の長男が一人で相続したとして地主に譲渡した上、当該譲渡代金の全部が自己に帰属するとして譲渡所得の確定申告をしたところ、当該申告後に、他の相続人に対し相続持分相当額の金員の支払を命じる判決が確定したことから税額が減少するとしてされた更正の請求が、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号の規定に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 審査請求人E(以下「請求人」という。)は、平成10年4月6日に死亡したF(以下「F」という。)の相続人のうちの一人である。
 Fは、平成2年分の所得税について、別表の「確定申告」欄のとおり、法定申告期限までに申告した。
 次いで、Fは、Y税務署の職員の調査を受け別表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を提出した。
 その後、請求人は、平成10年8月11日に別表の「更正の請求」欄のとおりとする更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、これに対し、平成10年11月26日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、本件通知処分を不服として、平成11年1月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年4月12日付で棄却の異議決定をしたので、同年5月12日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ G(賃貸人。昭和63年2月3日死亡。)は、昭和25年12月1日、別紙物件目録記載の土地につきFの父H(賃借人。昭和59年1月21日死亡。以下「亡H」という。)との間で、賃貸借期間3年、小作料年額2,887円5銭として農地賃貸借契約を締結した。
 その後、当該賃貸借契約は更新され、亡Hは継続して当該土地を耕作していた(以下、この賃借権を「本件小作権」という。)。
ロ 亡Hの相続人は、次の8名であった。
(イ)長男のF
(ロ)長女のI
(ハ)二女のJ
(ニ)二男のK
(ホ)三男の亡Lの相続人である同人の妻のM、その長女のN及び長男のO
(ヘ)三女のP
ハ Fは、平成2年1月8日に本件小作権に係る前記農地賃貸借契約を合意解約し、離作補償金として260,000,000円(以下「本件補償金」という。)を全額受領した。
ニ 本件小作権及び本件補償金に係る訴訟等の経緯は、次のとおりである。
(イ)平成2年5月30日、Y家庭裁判所に対し、M、N及びO(M以下3名を「Mら」という。)は、Fを相手として、本件小作権について遺産分割の調停を申し立てたが、不成立となった。
(ロ)Y地方裁判所に対し、平成2年8月23日に、Mらは、Gの相続人であるQほか2名(以下「Gの相続人ら」という。)を相手として農地賃借権存在確認等請求訴訟を、平成3年10月25日に、K、I、P及びJ(K以下4名を「Kら」という。)は、Gの相続人ら及びFを相手として農地賃借権確認請求訴訟を、平成4年3月10日に、Mらは、Fを相手として農地賃借権共有確認請求訴訟をそれぞれ提起したところ、同裁判所は、これらを併合し、平成7年2月28日に、本件小作権は合意解約によって終了したものというべきであるから、本件小作権が有効に存在することを前提とする請求は理由がないとしてMら及びKらの請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。
 その後、上記訴訟は、X高等裁判所において平成8年1月30日にMら及びKらの控訴を棄却する旨の判決により確定した(以下「本件判決1」という。)。
(ハ)次いで、平成7年4月4日Mらは、Y地方裁判所に対し、Fを相手として、本件補償金に係る不当利得返還請求訴訟を提起したところ、平成7年12月12日に、同裁判所は、本件小作権は相続人8名の準共有財産であり、Fは、遺産分割未了の当時、本件小作権が相続財産の一部であって、相続人全員の準共有に属することを知っていたものと認められるため、Fが自らの共有持分を超えて取得した本件補償金は、悪意の不当利得になるとして、Fに対し、Mに31,200,000円、N及びOにいずれも10,400,000円を支払うこと並びにそれぞれに対する平成2年1月9日から支払済に至るまで年5分の割合による金員を支払うことを命じる判決を言い渡した。
 その後、上記訴訟は、平成8年11月20日にX高等裁判所においてFの控訴を棄却する旨の判決を経て、平成10年6月12日に最高裁判所において同人の上告を棄却する旨の判決により確定した(以下「本件判決2」という。)。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 本件判決1は、FがF以外の前記基礎事実のロの(ロ)ないし(ヘ)の相続人ら(以下「他の相続人ら」という。)の同意なしに単独で本件小作権を合意解約したことは明らかであるものの、Gの相続人らは、Fが単独で本件小作権を亡Hから承継し合意解約する権限を有していたと信じ、かつ、そのように信じていたことに合理的理由があるから、合意解約の効力を認めるとしている。
ロ 本件判決2は、Fは、本件小作権が相続財産の一部であり遺産分割未了の当時にあっては相続人全員の準共有に属することを知っていたものと認め、Fに本件補償金の不当利得について悪意があった旨を認定し、Fに対し、本件補償金のうちMらの相続持分に相当する金員の支払を命じたものである。
ハ 上記イ及びロの事実によると次のとおりである。
(イ)本件判決1は、合意解約がFとGの相続人らとの間で有効に成立し、かつ、本件小作権が有効に存続することを前提とする他の相続人らの請求を棄却しているのであるから、他の相続人らが合意解約の当事者であると判示したものではない。
(ロ)本件判決2は、Mらの各自の相続持分に相当する金員の返還を求める請求により、当該金員をFに支払うよう命じたにすぎず、Fの売買の事実や本件補償金の額等を変更する判決ではない。
ニ したがって、本件判決2は、通則法第23条第2項第1号に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えの判決に該当しない。

(2)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件判決1は、次のとおり判示した。
(イ)本件小作権は、F及び他の相続人らの準共有に属するものである。
(ロ)他の相続人らが、Fに対し、合意解約について制限のない代理権を与えていたとは認められない。
(ハ)Gの相続人らは、Fが単独で本件小作権を亡Hから承継し合意解約する権限を有していたと信じ、かつ、そのように信じていたことにつき、合理的な理由があると認められる。
(ニ)Gの相続人らは、Fの代理権を信じたものではないが、その信頼を保護すべき点では代理人の代理権限を信頼した場合と異なるところはないというべきであるから民法第110条の類推適用により、合意解約の効力を認めるのが相当である。
ロ 本件判決2は、次のとおり判示した。
(イ)本件小作権は、F及び他の相続人らの準共有に属するものである。
(ロ)Mらの請求は、相続回復請求権である。
(ハ)Fは、Mらに対し、本件補償金のうちMらの相続持分に相当する金員を支払わなければならない。
ハ 原処分庁は、次のとおり上記イ及びロの事実を誤認している。
(イ)原処分庁は、本件判決1により本件小作権の合意解約は、FとGの相続人らとの間で有効に成立している旨主張する。
 しかしながら、本件判決1は、民法第110条の類推適用により、Gの相続人らとの合意解約を有効としているが、同条の類推適用により「其責ニ任ズ」るのはF及び他の相続人らであり、すなわち、合意解約が準共有者であるF及び他の相続人らとGの相続人らとの間で有効に成立しているとするものである。
(ロ)原処分庁はさらに、本件判決2によるFのMらに対する金員の支払は、あたかも単独相続の後に他の共同相続人に対して代償を支払う、いわゆる代償分割の方法と同様である旨主張する。
 しかしながら、本件判決2は、本件小作権がF及び他の相続人らの準共有に属すること及びMらの請求は相続回復請求権であると判示していることから、本件補償金がF及び他の相続人らの各自の相続持分にしたがって取得されるべきであるにもかかわらず、Fがこれを独占してMらの相続持分を侵害していたというべきものである。
ニ したがって、本件判決2により本件補償金のうちMらに支払うこととなった金員は、Fの譲渡所得の収入金額から除外されるのが相当であり、当該判決により課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実が異なることとなったのであるから、通則法第23条第2項第1号の規定に該当し本件更正の請求は認められるべきである。

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3 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件判決1における事実認定は、要旨次のとおりである。
(イ)亡Hの遺産であるY市A町3丁目(以下「A町」という。)の宅地(各二分の一の割合でFと共有)及び同所所在の建物(亡Hの単独所有)については、亡Hの死亡後、遺産分割協議がされないまま、F一家が居住していたが、その居宅の裏にマンションが建つことになり、その居宅を取り壊し敷地をマンション建設業者に貸す代わりにその居宅を新築してくれる話が出たことから、Fは昭和61年夏ころ、他の相続人らに対し、A町の宅地及び建物について他の相続財産とは別に自己の単独相続を認めてほしいと申し入れた。
 その際、Fは、本件小作権を解約するときには必ず他の相続人らに相談し、そのときに受け取る本件補償金は全員に分配するなどと約束した。そこで、他の相続人らは、A町の宅地及び建物についてFが単独で相続することに合意した。
(ロ)なお、Kは、A町の宅地及び建物の相続登記に当たり、自己の印鑑登録証明書に「A町の宅地の相続以外に使用しない」旨を記載してFに渡していたが、Fが、これでは使えないので差し替えてほしいと要求してきたため、Kは、昭和61年12月1日、Fに「Kの印鑑証明書は、A町の土地の相続登記手続のために使用し、それ以外の目的で使用しない。」旨の念書を書かせた上、新たな印鑑登録証明書を渡した。
(ハ)Fは、平成2年1月8日に本件小作権に係る合意解約書及びA町の宅地を単独で相続登記するために整えた上記(ロ)の印鑑登録証明書等の書類の写しを添えてY市農業委員会に提出し、同委員会は、同年2月14日、農地法第20条第6項に規定する通知を発した。
(ニ)平成2年5月ころ、Mは、本件小作権が合意解約されたらしいと聞いたためY市農業委員会で調べたところ、合意解約の事実が判明し、Kらに知らせるとともに、同月22日、同委員会に対し、Mらは、本件小作権はMらとFが共同相続したものであり、Fが単独でした合意解約は無効であるから、賃借権は継続している旨の措置をとるよう要求した。
 さらに、平成2年5月30日、Y家庭裁判所に対し、本件小作権に係る遺産分割調停の申立てをしたが不成立となり、前記、各訴訟の提起に至った。
ロ Fは、平成2年8月23日に提起された農地賃借権存在確認等請求訴訟に補助参加するとともに、当該訴訟において、平成3年9月3日及び平成3年11月19日に、要旨次のとおり証言した。
(イ)本件小作権を解約した3、4月後にI、J及びPに対し、本件補償金のうち、いくらかは分けると言ったが折り合いがつかなかった。
(ロ)Y市農業委員会に呼ばれ、小作契約の解約について他の相続人の了解を得ていないということを注意された際、いずれ、兄弟と話し合って丸く治めるつもりであると説明した。なお、話し合うということは、いくらかは分けてやるということである。
(2)ところで、通則法第23条第1項は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、更正をすべき旨の請求ができる旨規定し、また、同条第2項第1号は、同条第1項の規定にかかわらず、その申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときは、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができる旨規定している。
 この通則法第23条第2項第1号の規定は、法定申告期限から1年を経過した後に、納税者において、申告時には予測し得なかったような事態が後発的に生じたことにより課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に変更を来し既に申告した税額が減少する場合に、同条第1項の規定を適用して期限徒過を理由に更正の請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果となることから、例外的に更正の請求を認めることにより納税者の保護を拡充する趣旨の下に規定されたものと解される。
 そうすると、通則法第23条第1項に規定する期限徒過後に、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えに対する判決により、当該事実が申告と異なることとなった場合、納税者において、申告当時に、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に変更を来すことを予測し得えた場合においては、同条第2項第1号に規定する判決には当たらないと解すべきである。
(3)これを本件についてみると、本件判決2は、本件小作権は亡Hの相続財産の一部であり、それが譲渡された当時にあっては、Fが他の相続人らとの準共有に属することを知っていたものと認められるから、Fに本件補償金につき不当利得があったとして、Fに対して、本件補償金のうちMらの相続持分に相当する金員の支払を命じたものであるところ、Fは、本件補償金の全額が自己に帰属するとして、この譲渡所得に係る確定申告をしていたのであるから、当該申告の課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実が変更されたといえる。
(4)しかしながら、前記(1)の認定事実を前記(2)に照らして総合的に判断すると、Fは、昭和61年に亡Hの相続財産であるA町の宅地及び建物を単独相続するに当たり、未分割の相続財産である本件小作権を将来解約する場合には、これに係る本件補償金を相続人全員に分配することを他の相続人らに約束し、さらに本件補償金を受領した当時においては、これを他の相続人らに分配する意思があったにもかかわらず、それを誠実に履行しなかったために、他の相続人らから本件小作権に係る遺産分割の調停の申立て及び各訴訟が平成2年5月30日から順次提起され、前記のとおり本件判決2が確定して、本件補償金のうちMらの相続持分に相当する金員を支払ったものであると認められる。
 そうすると、本件補償金に係る譲渡所得の確定申告時である平成3年3月の時点において、Fは、本件補償金は他の相続人らにも分配しなければならないことをすでに認識していたこと及び本件小作権に係る訴訟が係争中であったことなどからみると、Fは、本件補償金のうち、自己の相続持分に相当する金額のみが自己に帰属するものであることを十分に認識していた上、仮に、本件補償金の全額が自己に帰属するものとしてこれに係る譲渡所得の確定申告をすれば、後日、当該申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に変更を来すことを確定申告時には十分に予測し得たものと認められるから、本件判決2は、通則法第23条第2項第1号に規定する判決には当たらないといわざるを得ない。
 したがって、本件判決2を理由として本件更正の請求はできないから、本件通知処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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別紙

物件目録
1 所在Y市B町3丁目
 地番2531番
 地目
 地積813.00平方メートル
2 所在同所
 地番2532番
 地目
 地積396.00平方メートル
3 所在同所
 地番2549番
 地目
 地積512.00平方メートル
4 所在同所
 地番2550番
 地目
 地積479.00平方メートル
5 所在同所
 地番2551番
 地目
 地積499.00平方メートル
6 所在同所
 地番2564番1
 地目
 地積406.00平方メートル
7 所在同所
 地番2567番
 地目
 地積1,404.00平方メートル
 (うち1,292.00平方メートル)
8 所在同所
 地番2569番
 地目
 地積241.00平方メートル
 (うち105.00平方メートル)
9 所在同所
 地番2570番
 地目
 地積552.00平方メートル
10所在同所
 地番2523番1
 地目宅地(現況田)
 地積168.00平方メートル
 (登記簿面積 136.85平方メートル)

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