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(平12.1.31裁決、裁決事例集No.59 112頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の同族会社に対する建物の賃貸料収入が、同族会社が又貸しによって得た収入に比して余りに低額であるとして、所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認》の規定を適用して不動産所得の金額の計算をした原処分の適否が争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、会社役員であって、不動産貸付業を営む者であるが、平成6年分、平成7年分及び平成8年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、各年分の所得税について、別表1の「修正申告」欄のとおりの修正申告書を平成10年2月27日に提出した。
  原処分庁は、これに対し、平成10年3月2日付で別表1の「賦課決定処分〔1〕」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分をするとともに、同日付で同表の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び「賦課決定処分〔2〕」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成10年4月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月29日付で棄却の異議決定をした。
  請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分及び本件賦課決定処分に不服があるとして、平成10年8月31日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ P市Q町4丁目46番地に所在する株式会社E(以下「E社」という。)は、各年分に対応する期間中、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社であり、また、請求人は、E社が同号に規定する同族会社であることについての判定の基礎となった株主に該当する。
ロ 請求人は、昭和63年9月30日から現在に至るまでE社の代表取締役である。
ハ E社は、昭和53年12月15日に設立され、定款によれば次の事業を営むことを目的とするとしている。
(イ)不動産の所有及び賃貸
(ロ)店舗経営指導
(ハ)不動産管理及び不動産売買
(ニ)前各号に付帯する一切の業務
ニ 平成2年1月1日付で作成された、賃貸人を請求人、賃借人をE社とする建物賃貸借契約書(以下「本件契約書」といい、本件契約書に基づく契約を「本件契約」という。)によれば、賃貸物件(以下「本件建物」という。)、賃貸借期間及び賃料等は別表2のとおりである。
ホ E社は、本件建物を商業協同組合及び小売業者等(以下「店舗賃借人」という。)数十人に賃貸し(以下「本件又貸し」という。)、店舗賃借人との間の店舗賃貸借契約書(以下「店舗賃貸借契約書」という。)によれば、店舗賃借人の支払う賃借料(以下「本件又貸し料」という。)は1か月の定額とされ、さらに、本件又貸し料は経済事情の変動、諸物価、固定資産税等の均衡などを勘案した上、原則として、3年ごとの期限で値上げをするものとすると定められている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ E社の業務内容及び収入金額について
(イ)原処分庁は、以下に述べるとおり、E社の業務内容等に係る事実を誤認し、その誤認に基づいた判断で、所得税を不当に減少させていたとして本件更正処分を行った。
(ロ)原処分庁は、E社の収入金額(売上高)について、そのすべてが単に物理的な建物の賃貸に対するものとしているが、E社は、店舗賃借人にとって経済的付加価値を生ずる役務を提供している。
 この役務の提供は常時継続的に行っていることから一定金額を確保するために、その対価を本件又貸し料に含めた形で収受しているが、もしも、この対価を単発的に計算すると、金銭的にも多額となることからこの方法によっている。
 したがって、形式的には、この対価についての文言はないが、実質的にはE社が店舗賃借人から収受している金銭にはこの付加価値分も含まれている。
(ハ)そして、その付加価値を生ずる役務の提供とは、上記1の(3)のニの本件契約書の特約事項に規定する開業までの準備、支援及び経営に至るまでの教育、開業後の経営指導を行うことをいい、具体的には次のことを行っている。
A 開店時の資金繰りの相談。
  必要なものには連帯保証人の引受け。
B 地方公共団体の補助金獲得のために、店舗単位で商業協同組合を設立する必要があり、組合の創立から補助金申請までの一連の業務の遂行。
C 消費税の施行当時、店舗ごとに税理士による説明会、勉強会の実施。
D 経営コンサルタントによる経営指導。
E 経営不振店舗に対する経営指導及び店長の派遣。
F 家庭内紛争など一身上の心配、もめ事などの相談、解決のための助言・援助。
G 店舗の売出セールなどの企画、立案、実施の指揮。
(ニ)なお、店舗賃借人は、異議申立てに係る調査の担当職員(以下「異議担当職員」という。)に対して、店舗賃借人がE社から役務の提供を受けていない旨申し立てたが、これは、店舗賃借人が請求人に不利にならないようにと考えてのことで真実ではない。
ロ 所得税法第157条第1項の適用について
(イ)所得税法第157条第1項の法理は、経済的合理性を欠く行為によって生ずる異常な取引を対象にして、租税の公平を図ることにあるところ、E社は、上記イのとおり、E社が請求人から賃借した本件建物を店舗賃借人に物理的に賃貸しているにとどまらず、店舗賃借人が必要とする種々の役務を提供し、しかもその対価を安価で提供しているのであり、これらの行為は、「経済的合理性を欠く行為」ではなく、また「異常な取引」でもない。
(ロ)所得税法第157条第1項の適用の判断は、すべて税務署長の権限によるのであるから、当該規定が適用され処分の対象となる取引は、税務署長の否認行為がなければ是正の必要が生じないものであり、税務調査の段階で否認されなければ容認された事項と信じることは当然である。
 E社を設立後、原処分庁は、請求人の所得税について過去に二度の調査を行い、直近では平成6年1月に実施したが、その当時と実体的に全く変化がないにもかかわらず、その時には容認し何らの指導もしなかった事項について、一方的に否認したことは承服できないものである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ E社の業務内容及び収入金額について
(イ)請求人は、E社の収入金額(売上高)について、そのすべてが単に物理的な建物の賃貸に対するものではなく、店舗賃借人にとって経済的付加価値を生ずる役務の提供の対価も含まれている旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のニの本件契約書によれば、E社は、請求人が将来にわたって安定した賃貸料を確保できるよう、請求人の所有する建物について不動産管理業務を行っているにすぎないと認められる。
(ロ)そして、このことは、次の事実からも明らかである。
A 店舗賃貸借契約書においては、経済事情の変動、諸物価、固定資産税等の均衡などを勘案して本件又貸し料を定めるとしているのみで、そのほかに対価の授受についての定めはなく、また、審査請求の理由においても、「この対価についての文言は無い。」と認めていること。
B 請求人は、異議担当職員に対して、E社は店舗賃借人に対して経営指導の対価を請求していないと申述していること、また、店舗賃借人が異議担当職員に対して、E社から経営指導を受けたことはない旨申述していること。
ロ 所得税法第157条第1項の適用について
(イ)所得税法第157条第1項は、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主である居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、計算することができる旨規定している。
(ロ)E社が、建物所有者である請求人から本件建物の管理業務を受託し、賃借料を支払うとともに本件建物を第三者へ又貸しし本件又貸し料を得ているのであるから、実質的には本件又貸し料から賃借料を差し引いた差額は、建物所有者である請求人からE社への不動産管理の役務の提供の対価となっているとみることができる(以下、この差額を「本件管理料相当額」という。)。
 そこで、本件管理料相当額についてみると、別表3のとおりであり、比準同業者(一般の不動産管理会社に同規模同程度の賃貸建物の管理業務を委託している青色申告者。以下同じ。)と比較して極めて高額であって、このことは、請求人がE社の代表取締役であり、本件建物に係る賃貸料の金額についてし意的に定め得る立場にあるから成し得た行為又は計算である。
(ハ)したがって、その行為が各年分の請求人の所得税の負担を不当に減少させていたのであるから、本件建物の賃貸料収入については請求人に対して、上記(イ)で述べた所得税法第157条第1項の規定を適用して、比準同業者の平均管理料割合(比準同業者が不動産管理会社に支払った管理料の額の賃貸料の額に占める割合の平均値。以下同じ。)を基に適正管理料相当額(本件又貸し料の額に平均管理料割合を乗じて計算した額。以下同じ。)及び総収入金額に加算すべき金額を算定すると、別表4の「原処分庁主張額」欄のとおりとなる。
 そして、各年分の総所得金額は、別表5の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、本件更正処分の金額は、いずれもこの金額の範囲内で行われている。
(ニ)なお、請求人は、原処分庁が請求人の所得税について過去に二度の調査を行い、直近では平成6年1月に実施したが、その当時と実体的に全く変化がないにもかかわらず、その時には容認し何らの指導もしなかった事項について、一方的に否認したことは承服できない旨主張するが、税務調査は、納税者の申告内容のすべてを対象に行われ、そのすべてについて法律に適合することを確認し、あるいは法律に適合しない申告内容を是正することを目的としているから、申告が是正されずに課税されない状態が継続していたとしても、法律に適合した正しい課税処分をなすに何らの障害となるものではない。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件契約に基づく行為又は計算が、所得税法第157条の規定に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)本件又貸し料の金額は、平成6年分が123,408,488円、平成7年分が125,264,003円、平成8年分が119,257,710円である。
(ロ)請求人の本件建物に係る本件管理料相当額の本件又貸し料に占める割合(以下「本件管理料相当額割合」という。)は、別表3のとおりである。
(ハ)店舗賃貸借契約書によれば、本件又貸し料に関する取決め以外の金銭の授受に関する取決めはなく、また、本件又貸し料に経済的付加価値を生ずる役務の提供の対価を含むという契約事項は記載されていない。
(ニ)請求人は、異議担当職員に対して、E社は本件又貸し料とコンサルタント料を区分しておらず、また、経営指導の内容が分かる明細書又は請求書等の作成はしていないし、店舗賃借人に対しコンサルタント料を別途請求したこともない旨申述している。
(ホ)店舗賃借人のうち5名は、異議担当職員の質問に対し、要旨次のとおり申述している。
A E社から、取扱商品を増やしたらどうかとか店舗内全体の配置・清潔面について指導を受けたことはあるが、それは、オーナーとして当然やるべきことであり経営指導とは認識していない。
B 接客態度、商品陳列方法等については、請求人が店舗に来た時に相談することもあるが、経営方針については自分で勉強している。
C 税務関係については、自分の依頼した税理士にやってもらっている。
D E社への支払は、本件又貸し料のみであり経営指導料、相談料は入っていない。
(ヘ)請求人は、店舗賃借人のうち5名からの陳述書を当審判所に提出しているが、その陳述書には、E社の店舗で業務を営んだことによるメリット等として、次のことがあらかじめ印刷されており、該当する項目に各店舗賃借人の押印若しくはサインがなされている。
A 開店時等の資金繰りの相談、必要とあれば会社で保証人を引き受ける。
B 店舗単位で協同組合の設立を推進し、開店・改装時に地方公共団体からの補助金交付申請に尽力し、テナントの利益に貢献。
C 消費税発足当時、店舗毎に税理士による勉強会を開催。
D 経営コンサルタントによる、経営の勉強会の開催。
E 経営不振テナントに対する経営指導。
F 家庭内紛争を始め、一身上の揉めごとの相談、解決の為の助言・援助。
G 店舗毎の売り出し行事等の企画立案。
H その他、上記以外で申し述べたいこと。
I 私が会社に対して支払う賃借料には、以上の事柄に対する所謂コンサルタント料的な付加価値の報酬を含んでいると思っています。従って、他の貸店舗に比べて賃借料が高額であることも理解しています。
(ト)上記(ホ)の異議担当職員に対する申述をし、上記(ヘ)の陳述書を作成した店舗賃借人の1名は、当審判所の質問に対し、要旨次のとおり答述している。
A 異議担当職員の質問に答えた内容に間違いはない。
B 賃借料以外にコンサルタント料、顧問料などを支払ったことはない。
C 接客態度については、特に厳しく指導されるがオーナーとしてのアドバイスだと思っている。
D 上記(ヘ)の陳述書は、請求人から陳情に使うので協力してほしいと頼まれ、日ごろお世話になっている大家であることから、印鑑を押さなくてはいけないと考えて押印した。
E オーナーと店子の関係もあり、陳述書の内容について十分に検討せず押印したもので、他の者も同じだと思う。
ロ E社の業務内容及び収入金額について
 請求人は、本件又貸し料には単に物理的な建物の賃貸による対価だけではなく、店舗賃借人にとって経済的付加価値を生ずる役務の提供の対価も含まれている旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ハ)のとおり、店舗賃貸借契約書に本件又貸し料に関する取決め以外の金銭の授受に関する取決めはなく、また、本件又貸し料に経済的付加価値を生ずる役務の提供の対価を含むという契約事項はないので、本件又貸し料に経済的付加価値を生ずる役務の提供の対価が含まれているとは認められない。
 また、請求人は、経済的付加価値を生ずる役務の提供の対価が含まれている証拠資料として上記イの(ヘ)の陳述書を当審判所に提出しているが、この陳述書は、定型化されたものであって抽象的で具体性に欠け、店舗賃借人の異議担当職員及び当審判所に対する申述又は答述の内容と大きく異なる部分があり、十分に検討せず押印した旨の答述もあるので、当該陳述書は、本件又貸し料に経済的付加価値を生ずる役務の提供の対価が含まれていることを裏付けるための証拠資料として認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 所得税法第157条第1項の適用について
(イ)所得税法第157条の規定の趣旨は、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと特殊な関係にある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず税務署長の認めるところにより、その居住者の所得金額及び納付すべき税額を計算することができるとされている。
 すなわち、同族会社の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その私法上許された形式を濫用し、異常な取引形式を選択した場合において、それが所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には、税務署長は、いわゆる実質課税の原則及び租税負担公平の原則の見地からこれを通常あるべき行為又は計算に引き直し、納付すべき税額を算定しようとするものである。
 そして、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて算出された税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して算定された税額とのかい離によって判断すべきものと解するのが相当である。
(ロ)そこで、当審判所が、本件契約に基づく行為又は計算が請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっているか否かについて検討したところ、次のとおりである。
A 本件管理料相当額について
 本件管理料相当額については、確定申告の本件管理料相当額割合が、別表3のとおり平成6年分46.77%、平成7年分47.56%、平成8年分44.91%であり、後記Cの比準同業者の平均管理料割合をはるかに超える異常なものと認められるところ、請求人がE社との間で締結した本件契約は、請求人とE社が同族会社とその株主かつ代表取締役という関係にあるがゆえに可能な行為又は計算であり、純経済人として、不合理、不自然なものといわざるを得ない。
B 比準同業者の平均管理料割合との比較について
 原処分庁は、各年分の請求人の不動産所得の金額の計算上総収入金額に加算すべき金額及び所得税額を算定するに当たり、〔1〕適正管理料相当額が、通常であれば支払われるであろう標準的かつ適正な管理料の額であるとし、〔2〕本件管理料相当額から、適正管理料相当額を控除し、〔3〕当該残余の額を請求人の不動産所得の金額の計算上総収入金額に加算すべき金額として、その加算された総収入金額を基に算定した所得税額と請求人が申告した所得税額とを比較していることが認められるところ、所得税法第157条第1項に規定する「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」か否かの判断を、本件契約に係る行為又は計算に基づいて算出された請求人の税額と、比準同業者の支払った管理料の額に基づく平均管理料割合を適用して算定された請求人の税額とのかい離を求める方法によったことは、上記(イ)に照らして合理的であり、かつ、比準同業者の選定も後記Cのとおり合理的であると認められる。
C 比準同業者について
 原処分庁は、比準同業者4件の平均管理料割合を、別表4の「原処分庁主張額」欄のとおり、平成6年分8.98%、平成7年分9.03%、平成8年分8.21%と認定しているので、当審判所が調査したところ、当該比準同業者の選定の基準を次のとおりとしていることが認められる。
(A)貸店舗を含む賃貸建物を有し不動産業を営む個人である者。
(B)同族会社以外の不動産管理会社に管理を委託している者。
(C)一定の地域内に物件を有する者。
(D)収支計算により所得税青色申告決算書(不動産用)を提出している者。
(E)対象年分における賃貸料収入が請求人のそれの0.5倍以上2倍以下の範囲にある者。
 以上の基準により、抽出された比準同業者のうちに、比準同業者として相当でない者1件が含まれていたので、これを除くと、請求人のその事業の内容等と実質的にも類似している者と認められ、その抽出基準は合理的である。
D 平均管理料割合及び適正管理料相当額について
 原処分庁は、比準同業者の平均管理料割合の算定に当たって、その算定の基礎に更新料、礼金等の臨時的、一時的収入を含めたところで計算している事実が認められるが、比準同業者の平均管理料割合を用いて適正管理料相当額を算定するに当たり、その算定の基礎に臨時的、一時的収入を含めることは推定精度の維持上相当ではなく、平均的な管理料割合及び適正管理料のいずれの計算においても更新料等の臨時的、一時的収入及び共益費等を除いて計算するのが相当と認められる。
 そこで、上記Cの比準同業者として相当でない者1件を除くとともに当審判所が平均管理料割合を再計算したところ、各年分の比準同業者の平均管理料割合は、別表4の「平均管理料割合」の「審判所認定額」欄のとおり平成6年分9.66%、平成7年分9.78%、平成8年分8.88%となり、適正管理料相当額は、同表の「適正管理料相当額」の「審判所認定額」欄のとおり平成6年分11,921,260円、平成7年分12,250,819円、平成8年分10,590,085円となるから、本件管理料相当額は、適正管理料相当額に比し著しく過大であることが認められるので、本件管理料相当額から適正管理料相当額を控除した金額を総収入金額に加算すべき金額として算定すると、同表の「総収入金額に加算すべき金額」の「審判所認定額」欄のとおり、平成6年分45,793,828円、平成7年分47,319,784円、平成8年分42,974,225円となる。
E 総所得金額について
 以上の結果、請求人の各年分の不動産所得の金額は、別表5の「不動産所得の金額」の「審判所認定額」欄のとおり平成6年分63,645,040円、平成7年分66,466,517円、平成8年分61,931,440円となり、不動産所得以外の所得金額については請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められないので、総所得金額は同表の「総所得金額」の「審判所認定額」欄のとおり、平成6年分76,107,328円、平成7年分80,726,517円、平成8年分76,433,940円となる。
F 税額のかい離について
 上記Eの総所得金額に基づき算出した請求人の納付すべき所得税額と、請求人の各年分の確定申告書に記載した所得税額とを比較検討したところ、別表6のとおりとなり、双方の所得税額には著しいかい離があり、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっていることが認められる。
G 過去の調査について
 請求人は、所有する本件建物の貸付状況について、過去の所得税の調査時と何ら変化がなく、また、前回容認された事項について、今回の所得税の調査で一方的に否認されたことは承服できない旨主張するが、当時の調査を担当した職員が当時の管理料相当額についてその適否を指摘しなかったとしても、当時の調査を担当した職員が当時の管理料相当額を正当と認めたとする事実は認められず、また、原処分庁が過去の調査の際に所得税法第157条の規定に係る更正処分をしなかったことと、各年分において同条の規定が適用されるか否かは全くの別問題であるので、過去に管理料相当額についての適否を指摘しなかったことをもって、本件更正処分を違法ということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
H 本件更正処分の適法性について
 請求人の各年分の総所得金額は、上記Eのとおりとなり、平成7年分及び平成8年分については、更正処分に係る総所得金額を上回るから平成7年分及び平成8年分の更正処分は適法であるが、平成6年分については、更正処分に係る総所得金額に満たないから、平成6年分の更正処分はその一部を取り消すべきである。

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(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、平成7年分及び平成8年分の過少申告加算税の賦課決定処分については、平成7年分及び平成8年分の更正処分が適法であり、かつ、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた平成7年分及び平成8年分の過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。
 しかし、平成6年分の過少申告加算税の賦課決定処分については、その基礎となる更正処分がその一部を取り消されることに伴い、その基礎となる税額は20,900,000円となり、その税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき計算すると過少申告加算税の額は2,820,000円となる。この金額は平成6年分の賦課決定処分に係る過少申告加算税の額に満たないので、平成6年分の過少申告加算税の賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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