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(平12.6.30裁決、裁決事例集No.59 178頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がアメリカ合衆国(以下「米国」という。)に本店を有する100%子会社から優先株式の償還による金員の支払を受ける際に、米国においてその金員を配当として10%の税率により源泉徴収された税が法人税法第69条《外国税額の控除》第1項に規定する外国法人税に当たるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成5年4月1日から平成6年3月31日まで及び平成6年4月1日から平成7年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成6年3月期」及び「平成7年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1及び別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ E税務署長は、これに対し、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成6年3月期の法人税について、平成7年7月31日付で別表1の「平成7年7月31日付更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ その後、E税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、本件各事業年度の法人税について、平成8年6月28日付で別表1及び別表2の「平成8年6月28日付更正処分等」欄のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ さらに、E税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、本件各事業年度の法人税について、平成9年6月30日付で別表1及び別表2の「平成9年6月30日付更正処分等」欄のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、上記ニの処分を不服として、平成9年8月29日に審査請求をした。
ヘ なお、請求人は、平成10年1月1日に本店所在地をP県Q市R町二丁目6番1号から肩書地に移動した。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件各事業年度において、米国に本店を有するF Corporation(以下「F社」という。)の発行済株式を100%所有している。
ロ 請求人は、F社が平成4年3月以前に発行した優先株式16,000株を全部引き受けている。
 なお、優先株式の一株当たりの額面価格は1,000米国ドル(以下、米国ドルを単に「ドル」という。)であり、この額面価格により引き受けている。
ハ F社は、上記ロの優先株式16,000株のうち、平成6年3月期において1,000株を、平成7年3月期において2,100株を償還しており(以下、この償還した優先株式を「本件優先株式」という。)、その償還価格はいずれも額面価格と同額である。
 なお、F社の事業年度は、請求人と同様の4月1日から翌年3月31日までである。
ニ F社は、請求人に本件優先株式の償還による金員(以下「本件償還金」という。)を支払う際に、本件償還金が米国の内国歳入法(以下「内国歳入法」という。)第301条及び第316条の規定により配当とされ、10%の税率により源泉徴収をし(以下、源泉徴収した税額を「本件源泉税額」という。)、納付している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 法人税法第69条は、内国法人が各事業年度において外国法人税を納付することとなる場合には、控除限度額を限度として当該事業年度の法人税の額から控除することができる(以下、この税額控除を「外国税額控除」という。)旨、また、同法施行令第141条《外国法人税の範囲》は、外国税額控除の対象となる外国法人税とは、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税をいう旨規定しており、この「法人の所得」とは、我が国の税法における所得の概念に合致するものでなければならないというものではなく、当該外国の税法における所得に該当するものであれば足りると解すべきである。
 換言すれば、外国において、当該外国の税法上の所得を課税標準として課された税であれば、それがたとえ我が国の税法からみて所得に該当しないものに対して課された税であっても、法人税法弟69条に規定する外国法人税に該当するというべきである。
ロ そして、本件償還金は、内国歳入法の規定により、その全額が配当として本件源泉税額が徴収されたのであるから、上記イに述べたとおり、法人税法施行令第141条に規定する「法人の所得」に該当し、さらに、本件源泉税額は法人税法第69条第1項に規定する「外国法人税」に該当するので、外国税額控除の適用が認められるべきである。
ハ また、本件償還金については、本件各事業年度においては国際的な二重課税の状態は生じていないが、次に述べるとおり、将来において二重課税が生じ、我が国と米国の税制の違いから納税者に対して不当な税負担を強いる結果をもたらす可能性があるから、本件源泉税額について外国税額控除の適用が認められるべきである。
(イ)本件の場合のように、F社が優先株式について償還を行った場合に、米国においては、会計上減資の処理を行ったとしても、税務上の未分配利益がある限り、当該未分配利益を原資として行ったものとみなされるため、将来において、会計上は未分配利益が存在するが税務上は未分配利益が存在しないという事態が起こり得る。
(ロ)そして、税務上の未分配利益が存在しない状況下において、F社が、会計上の未分配利益の額の範囲内において、請求人に対して配当を行った場合には、当該優先株式の償還に相当する金員は内国歳入法上配当として取り扱われないから、源泉徴収がされないことになる。
(ハ)一方、請求人においては、上記(ロ)の金員は我が国の税法上配当に該当することから受領した事業年度において収益に計上することになるが、当該金員について課された税がないから、請求人は当該金員を受領した事業年度において外国税額控除の適用を受けることができない。そうすると、本件優先株式の償還時において本件償還金に対して課された本件源泉税額について、償還時の事業年度において外国税額控除の適用を認めない取扱いは、将来において国際的な二重課税を生じさせることを意味するのである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件償還金は、我が国においては減資に伴う資本金の払戻しに該当し、当該払戻しに伴い受領した金員は本件優先株式の帳簿価額と同額であるから、法人税法第24条《配当等の額とみなす金額》の適用はなく、請求人の収益に計上する必要もない。したがって、請求人の収益に計上されない本件償還金に対して課された本件源泉税額は、同法第69条第1項に規定する「外国の法令により課される法人税に相当する税」に該当するとはいえないから、外国税額控除の対象にはならない。
ロ 内国法人が海外の事業活動や投資等を通じて得た所得に対して、我が国において法人税が課されるのは当然であるが、源泉地国においても税が課される場合がある。その場合には、国際的二重課税が生じることになり、それをそのまま放置すると内国法人の海外における経済活動に支障を来たし国際的な競争力の低下につながりかねない。
 そのため、法人税法第69条及び同法施行令第142条《控除限度額の計算》において、法人が外国の法令により納付することとなる法人税に相当する税について、法人の各事業年度の法人税の額に所得の金額のうちに国外所得金額の占める割合を乗じて計算した金額を限度として、これを各事業年度の法人税の額から控除することにより国際的二重課税を排除することとしている。
 本件償還金に対しては、米国においては所得に当たるとして本件源泉税額が課されたが、請求人は、我が国においてはこれを所得として益金の額に算入しておらず、したがって、本件においては国際的な二重課税は生じていないのであるから、前述の外国税額控除制度の趣旨にかんがみ同制度が適用される余地はない。

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3 判断

(1)本件各更正処分について

 本件の争点は、本件源泉税額が法人税法第69条に規定する「外国法人税」に当たるか否かであるので、以下審理する。
イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、F社発行の優先株式を引き受けた際に、総勘定元帳の資産勘定である関係会社株式勘定に優先株式の1株当たりの額面価格(円換算額)に引受株数を乗じて計算した金額を計上している。
(ロ)請求人は、F社から本件償還金を受領した本件各事業年度において、総勘定元帳の資産勘定である関係会社株式勘定から優先株式の1株当たりの償還価格である額面価格(円換算額)に償還株数を乗じて計算した金額を減少させる経理処理を行っている。
(ハ)請求人がE税務署長に提出した本件各事業年度の法人税の確定申告書の添付資料である「子会社株式」の明細書の「Fアメリカ」(F社のことである。)の「期中減少」欄には、平成6年3月期にあっては株数1,000株及び金額146,575,000円、平成7年3月期にあっては株数2,100株及び金額301,017,500円の記載がある。
(ニ)請求人が当審判所に提出したF社が米国の内国歳入庁に提出した申告書の写しの「Balance Sheets」の「Capital stock」(資本金勘定)欄には、1993年4月1日から1994年3月31日までの事業年度の期首にあっては26,000,000ドル及び期末にあっては25,000,000ドル、1994年4月1日から1995年3月31日までの事業年度の期首にあっては25,000,000ドル及び期末にあっては22,900,000ドルの記載がある。
ロ 本件償還金の内国歳入法上の取扱い
(イ)内国歳入法弟301条及び第316条は、法人が株主に対して現金その他の資産の分配をする場合において、その分配の額が当該法人の税務上の当期未分配利益の額又は1913年3月1日から直前事業年度までに累積された税務上の留保未分配利益の額の範囲内であるときは、当該分配金は配当として取り扱い、当該株主の総所得に算入する旨規定している。
(ロ)一方、内国歳入法第302条及び同条関連の米国の財務省規則等において、株式の償還に伴い会社から株主へ支払われる金銭等の資産については一定の要件に該当すれば、配当として取り扱われず、株式と資産の交換(譲渡)として取り扱われ、当該資産の額が株式の取得原価を超える部分を除き総所得に算入されず、課税対象とならない旨規定している。
 しかし、本件償還金は、この一定の要件を満たしておらず、上記(イ)の規定により配当として取り扱われたものである。
(ハ)そして、内国歳入法第1441条及び第1442条は、外国法人に対して総所得に算入される利子、配当、給与等を支払う場合には、30%の税率により源泉徴収する旨規定しているが、本件償還金の場合には、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約第12条(2)の(b)の規定により、10%の税率により源泉徴収されたものである。
ハ 法人税法等における外国税額控除の規定
(イ)法人税法第69条第1項は「内国法人が各事業年度において外国法人税(外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)を納付することとなる場合には、当該事業年度の所得の金額につき第66条第1項から第3項まで(各事業年度の所得に対する法人税の税率)の規定を適用して計算した金額のうち、当該事業年度の所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(以下この条において「控除限度額」という。)を限度として、その外国法人税の額(その所得に対する負担が高率な部分として政令で定める金額を除く。以下この条において「控除対象外国法人税の額」という。)を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する」と規定している。
(ロ)また、法人税法施行令第141条第1項は「法第69条第1項(外国税額の控除)に規定する外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものは、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税(以下この款において「外国法人税」という。)とする」と規定し、同条第2項注書は「外国又はその地方公共団体により課される次に掲げる税は、外国法人税に含まれるものとする」と規定し、同項第3号は「法人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、「法人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金領その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの」と規定している。この場合の「所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの」としては、利子、配当、使用料等がその典型的なものと解される。
ニ 法人税法第69条に規定する外国法人税の意義について
(イ)ところで、法人税法第69条第1項に規定する「外国の法令により課される法人税に相当する税」すなわち外国法人税とは、外国の法令により課される税であって、我が国の法人税に相当する税でなければならないというものであり、この「法人税に相当する税」については、その規定振りから、我が国の法人税と「全く等しい税」である必要はなく「相当する税」であれば足りると解するのが相当である。
 すなわち、外国の法令に基づいて外国又はその地方公共団体により課される税であることから、その外国の法令は千差万別であり、我が国の法人税と全く等しい税制が存在するとは考えられず、また、外国の法令に基づいて外国又はその地方公共団体により課された税について我が国の法人税に合致する部分に限り認めるということは現実的ではないという考えから、我が国の「法人税に相当する税」という表現を用いたものと解される。
(ロ)そこで、我が国の法人税についてみると、法人税の基本法である法人税法の第21条《各事業年度の所得に対する法人税の課税標準》の規定からも明らかなように、法人税は法人の利潤あるいは利益、いわゆる「所得」を課税標準として課される税である。また、同法施行令第141条第1項において「法人税に相当する税で政令で定めるものは、・・法人の所得を課税標準として課される税」と規定していることからも明らかなように、「法人税に相当する税」であるためには、法人の所得を課税標準として課されている税であることが最低限必要な要件であって、これは外国税額控除に関する規定が同一所得に対して国際的二重課税を排除することを目的としていることからしても当然のことである。したがって、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により課された税であっても、およそ法人の所得を課税標準としていない税については、「法人税に相当する税」に当たらないと解される。
(ハ)この点について、請求人は、外国において、当該外国の税法上の所得を課税標準として課された税であれば、法人税法第69条第1項に規定する「外国法人税」に該当する旨主張するが、上記(イ)及び(ロ)に述べたとおりであるから、我が国の法人税法の文言等に照らし失当というほかはない。
ホ 本件源泉税額が外国法人税に当たるか否かについて
 上記1の(3)の基礎事実及び上記イの認定事実を上記ハ及びニに照らして判断すれば、次のとおりである。
(イ)本件優先株式の償還に関する請求人の会計処理は、上記イの(イ)から(ハ)までのとおり、本件各事業年度の資産勘定である関係会社株式勘定を減少させる処理を行っており、また、請求人が当審判所に提出したF社の申告書によると、上記イの(ニ)のとおり、F社の期末資本金の額が本件償還金に相当する額だけ減少していることからも明らかなように、本件優先株式の償還は我が国においても米国においても企業会計上は減資そのものであり、この減資に伴い本件優先株式に係る払込金額と同額の金員を、F社が出資者である請求人に対して払い戻したものと認めるのが相当である。
(ロ)そうすると、払込金額と同額である本件償還金は、およそ「所得」とは認められないことから、法人税法施行令第141条に規定する「所得」には該当せず、したがって、本件償還金に課された本件源泉税額を、法人の所得を課税標準として課された税であるとみることはできない。
 また、本件償還金は所得でないことから、法人税法施行令第141条第2項第3号の「所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの」にも当たらないこととなる。
 したがって、本件償還金に課された本件源泉税額は、法人税法第69条第1項に規定する「外国法人税」には当たらないと判断するのが相当である。
(ハ)なお、本件償還金は、本件各事業年度において収益に計上されていないのであるから国際的二重課税の状態は生じておらず、また、本件源泉税額は、本件各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されている。
ヘ 将来的な二重課税について
(イ)請求人は、本件源泉税額が法人税法第69条第1項に規定する外国法人税に当たらないとすると、本件償還金については本件各事業年度において国際的な二重課税の状態は生じていないが、将来、F社が税務上の未分配利益がない時期に会計上の未分配利益の額の範囲内で請求人に本来の配当を支払った場合には、内国歳入法上配当として取り扱われないので源泉課税は行われないことになる一方、請求人は、当該配当を収益に計上することになるため、この時期において国際的な二重課税が生じることになり、このことは、我が国と米国の税制の違いにより納税者に対して不当な税負担を強いる結果をもたらす可能性があるから、本件源泉税額について外国税額控除の適用が認められるべきである旨主張する。
(ロ)しかしながら、F社が、将来、税務上の未分配利益がない時期に会計上の未分配利益の額の範囲内において請求人に配当を行うかどうかは、F社の業績、F社の配当に関する請求人の方針等によって左右されるものであり、確定的にかかる配当が行われるとは限らない。したがって、請求人主張の国際的二重課税の発生は可能性にとどまるものである。
 また、将来、仮に請求人主張のような配当が行われ、異時的に国際的二重課税の状態が生じる結果となったとしても、それは我が国と米国の税制の違いによって生じるものにすぎない。いずれにしても本件源泉税額は、上記ホのとおり、我が国の現行法令上、外国税額控除の対象となる外国法人税に該当せず、本件各事業年度において外国税額控除の適用が認められる余地はないものであるから、請求人の主張には理由がない。
ト 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件償還金を課税標準として課された本件源泉税額は外国税額控除の対象とならないとした本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件各更正処分は適法であるから、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。したがって、同条第1項の規定に基づいてした本件各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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