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(平12.4.19裁決、裁決事例集No.59 344頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項に規定する連帯納付義務が課されるか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、昭和59年5月25日に死亡したEの共同相続人の一人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税について、他の共同相続人であるF(昭和60年8月10日死亡。以下「亡F」という。)と共に申告書を提出した。
ロ その後、亡Fの納税義務を承継したG(以下「滞納者」という。)が別表記載の本件相続に係る国税(以下「本件滞納国税」という。)を納付しなかったので、原処分庁は、請求人に対し、相続税法第34条第1項に規定する連帯納付義務があるとして、平成10年12月22日付で国税通則法(以下「通則法」という。)第37条《督促》第1項の規定に基づき督促状を送付(以下「本件督促処分」という。)した。
ハ 請求人は、本件督促処分を不服として、平成11年2月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年10月13日に棄却の異議決定をしたので、同年11月15日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人及び亡Fは、本件相続に係る課税価格を○○○○○円及び納付すべき税額を131,847,200円として、昭和59年11月27日に相続税の申告書を提出した。
ロ 原処分庁は、担当職員の調査に基づき、本件相続に係る課税価格を434,166,000円及び納付すべき税額を204,423,800円として、昭和60年12月6日付で相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 その後、本件相続に係る処分及び税額等の異動はない。
ハ 滞納者は、平成6年12月16日の最高裁判所の判決により、亡Fの相続人としての地位が確定した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、本来の納税義務者である滞納者に対する納付能力の調査を行っておらず、また、滞納者が遠隔地に居住していることを理由に本人と接触をはかることなく、代理人の弁護士との電話連絡を主とした交渉に止まっている。
 この程度の交渉では、原処分庁が十分な滞納処分を行ったとはいえず、誠実な職務遂行をしたとはいえない。
ロ 原処分庁が、本件滞納国税の負担を請求人に一方的に求めることは、租税負担の公平性を阻害するものである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 相続税法第34条第1項に定める連帯納付責任は、相続税の徴収の確保を図るため、相互に相続人に課した特別な責任であって、各相続人固有の相続税の納付義務の確定という事実に基づき、法律上当然に生じるものであるから、格別の確定手続を要することなく連帯納付責任を負うものに対して徴収手続を行うことができる。
ロ 各相続人は、当該相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯して納付する義務を負い、同時または順次にすべての相続人に対して滞納処分ができ、他の共同相続人の資力等は抗弁の対象とはならない。
ハ したがって、本来の納税義務者に対する滞納処分の行使の有無は、本件督促処分に何ら影響を与えるものではない。

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3 判断

(1)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ 原処分庁は、平成9年1月14日付で滞納者に対し、通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》の規定に基づき、同人が亡Fの本件相続における納付すべき国税を承継する旨の通知をした。
ロ 滞納者は、本件督促処分が行われた平成10年12月22日現在において、本件滞納国税を納付していない。

(2)連帯納付義務について

イ 相続税法第34条第1項は、同一の被相続人から相続又は遺贈に因り財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈に因り取得した財産に係る相続税について、当該相続又は遺贈に因り受けた利益の価額に相当する金額を限度として、互いに連帯納付の責に任ずる旨規定している。
 この連帯納付義務は、相続人が2人以上いる場合、各相続人に対して、自ら負担すべき固有の相続税の納税義務のほかに、他の相続人の相続税の納税義務についても連帯して納付する責任を負担させているもので、相続税の徴収の確保を図るため、相互に各相続人に課した特別な責任であり、その義務履行の前提条件をなす連帯納付義務の確定という事実に照応して法律上当然に生じるものであるから、各相続人の固有の相続税の納税義務が確定すれば、国税の徴収に当たる所轄庁は、格別の確定手続を要することなく、直ちに連帯納付義務者に対して徴収手続を行うことができ、本来の納税義務についての履行責任を連帯納付義務者に補充的に負わせるものではないと解されている。
 また、通則法第37条第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、原処分庁は、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定しており、他の相続人が固有の相続税を完納しない場合にも、連帯納付義務者に対して、国税の徴収手続として督促状によりその納付を督促することとなる。
ロ これを本件についてみると、本件相続における相続人である請求人及び亡Fの固有の納税義務は確定しており、かつ、亡Fの納税義務は、滞納者が承継していることが認められる。
 そして、滞納者が本件滞納税額を納付していない以上、請求人は、本件相続により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、連帯納付責任を負うことは明らかである。
ハ 請求人は、原処分庁が滞納者に対する滞納処分を十分に行っておらず、誠実な職務を遂行したものとはいえないこと及び本件滞納国税の負担を請求人に一方的に求め、租税負担の公平性を阻害していることから、本件督促処分は不当である旨主張する。
 しかしながら、連帯納付義務は、前記イで述べたとおり、格別の確定手続を要することなく、その履行を求めて徴収手続が行うことができるものであり、また、国税徴収法第32条《第二次納税義務の通則》に規定する第二次納税義務のように、本来の納税義務者に対する滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足が生ずると認められる場合に限って、当該滞納国税の納税義務を負担するという補充的な性格を持つものではない。
 したがって、原処分庁が請求人に対し本件滞納国税に係る連帯納付義務の履行を求め徴収手続を進めたとしても、これが本来の納税者である滞納者に徴収手続を尽くした後でなければできないというものではない。
 なお、当審判所の調査によっても、原処分庁の徴収手続にこれを不当とする理由は見当たらない。
ニ 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、原処分庁が通則法第37条第1項の規定に基づき行った本件督促処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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