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(平12.1.21裁決、裁決事例集No.59 351頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、資本金の額が千万円で一般貨物自動車運送事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の基準期間のない課税期間における課税資産の譲渡等について、〔1〕消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の納税義務が生じるか否か、〔2〕仮に納税義務が生じるとして、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項に規定する控除の方法(以下「簡易課税」という。)を選択した場合において、基準期間のない課税期間を基準期間とみなして、その課税期間の課税売上高の金額によって簡易課税の適用の可否を判定することができるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年4月10日から平成10年2月28日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》に規定する控除の方法(以下「本則課税」という。)により仕入れに係る消費税額の計算を行い、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、本件課税期間における仕入れに係る消費税額の計算について簡易課税を適用すべきである等として、平成10年12月22日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成11年2月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年5月20日付で棄却の異議決定をしたので、同年6月24日に審査請求をし、原処分の取消しを求めた。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年4月10日に資本金の額を千万円として設立された法人である。
ロ 請求人は、消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第2項に規定する届出書及び同法第37条第1項に規定する届出書(以下「簡易課税制度選択届出書」という。)をいずれも平成9年11月7日に原処分庁に提出している。
ハ 上記ロの簡易課税制度選択届出書の「適用開始課税期間」欄には平成9年4月10日から平成10年2月28日までとの記載がある。

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2 主張

(1)請求人

イ 基準期間のない法人の消費税等の納税義務の存否
(イ)消費税法は、事業者を免税事業者と課税事業者に分類し、さらに、課税事業者の仕入れに係る消費税額の計算について、本則課税を適用する事業者と簡易課税を適用する事業者とに分類している。
 そして、これらの分類の基準を課税売上高によるものとしたため、原則として、その課税期間から2年間さかのぼって基準期間を設定したものである。
 したがって、消費税法の基本的構成は、基準期間の存在を前提とした課税期間であるから、基準期間のない法人に対して消費税等の納税義務を生じさせることはあり得ない。
(ロ)ところで、基準期間のない法人に対する消費税等の納税義務については、消費税法第12条の2《基準期間がない法人の納税義務の免除の特例》と同法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》に規定されている。
 しかしながら、消費税法第12条の2は、その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本又は出資の金額が千万円以上である法人(以下「新設法人」という。)については、当該新設法人の基準期間がない事業年度における課税資産の譲渡等について同法第9条第1項本文の規定を適用しない旨規定するのみであり、また、同項本文の規定は、単に基準期間の課税売上高が3千万円以下の事業者の納税義務を免除しているにすぎないから、同法第12条の2の規定が新設法人に対する消費税等の納税義務の法的根拠とはなり得ない。
 すなわち、立法者が消費税法第12条の2の規定の中で同法第9条第1項本文の規定を引用しているのは、同法第12条の2の「その事業年度の基準期間がない法人」を基準期間の課税売上高が零の法人と解釈することを予定したためと思われるが、新設法人の場合、基準期間の課税売上高は無であって零ではない。
 したがって、新設法人の基準期間の課税売上高を零とみなすためには、法律によってその旨を規定せざるを得ないのであって、そのような法律の規定を欠く現行消費税法の下では、新設法人に消費税等の納税義務が生じる余地はない。
ロ 新設法人における簡易課税の適用の可否
 上記イのとおり、消費税法は、基準期間の存在を前提とした課税期間を基本的構成としているので、新設法人については、本来納税義務は生じないのであるが、仮に、同法第12条の2の規定が租税政策上のやむを得ない緊急的立法措置であり、同条の規定により新設法人にも消費税等の納税義務が生じるとしても、新設法人が簡易課税を選択した場合には、基準期間のない課税期間をその新設法人の基準期間と類推しない限り、新設法人に消費税等の納税義務があるとすることは不可能である。
 そこで、請求人は、本件課税期間を基準期間と類推することにより、法的整合性を見いだし、本件課税期間の課税売上高が2億円を超えたことから、本件課税期間における仕入れに係る消費税額の計算について本則課税を適用したものである。

(2)原処分庁

イ 基準期間のない法人の消費税等の納税義務の存否
 消費税法第12条の2は、同法第9条第1項ただし書に規定する別段の定めとして、新設法人の消費税の納税義務を免除しない旨規定している。
 したがって、基準期間のない法人であっても、新設法人に該当する場合には消費税等の納税義務が生じることになる。
ロ 新設法人における簡易課税の適用の可否
 簡易課税の適用を受けることを選択した事業者については、その課税期間に係る基準期間の課税売上高が2億円を超える課税期間を除き、簡易課税を適用して計算した金額を仕入れに係る消費税額とみなすことになるから、新設法人が簡易課税の適用を受けることを選択した場合には、すべて簡易課税を適用して仕入れに係る消費税額を計算することになる。

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3 判断

(1)本件決定処分について

 本件は、基準期間のない法人の消費税等の納税義務の存否及び新設法人における簡易課税の適用の可否について争いがあるので、以下審理する。
イ 消費税法等の規定
(イ)消費税法第5条《納税義務者》第1項は、「事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある」と規定し、同法第9条第1項は、「その課税期間に係る基準期間における課税売上高が3千万円以下である者については、第5条第1項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない」と規定しているが、同法第12条の2は、同法第9条第1項の別段の定めとして、その事業年度の基準期間がない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本又は出資の金額が千万円以上である法人については、その法人の基準期間がない事業年度における課税資産の譲渡等については、同項本文の規定は適用しない旨規定している。
(ロ)そして、消費税法第37条第1項は、事業者(同法第9条第1項本文の規定により消費税の納税義務が免除される事業者を除く。)が、所轄税務署長にその基準期間における課税売上高が2億円以下である課税期間について、簡易課税制度選択届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間については、簡易課税を適用して計算した金額を仕入れに係る消費税額とみなす旨規定している。
(ハ)また、地方税法は、同法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》第1項において、譲渡割(地方消費税)の賦課徴収は、当分の間、国が消費税の賦課徴収の例により、消費税の賦課徴収と併せて行うものとする旨規定している。
ロ 基準期間のない法人の消費税等の納税義務の存否
(イ)請求人は、消費税法の基本的構成が基準期間の存在を前提とした課税期間であることから、基準期間のない法人に対して消費税等の納税義務を生じさせることはあり得ない旨主張する。
(ロ)しかしながら、基準期間のない法人についての消費税法等の規定は上記イのとおりであり、その課税期間に係る基準期間がない法人であっても、課税資産の譲渡等を行っている限り、消費税法第5条第1項の規定により本来消費税等の納税義務が生じるのであり、同法第9条第1項本文の規定により例外的にその納税義務が免除されることになるとしても、同法第12条の2の規定により、基準期間のない法人のうち、当該事業年度開始の日における資本又は出資の金額が千万円以上である法人(新設法人)については、消費税等の納税義務が免除されないことになる。
 そうすると、請求人は、本件課税期間に係る基準期間がない法人であるが、上記1の(3)のイのとおり、本件課税期間(事業年度)の開始の日に資本金の額を千万円として設立された法人であるから、本件課税期間における課税資産の譲渡等について、消費税等の納税義務が生じることになる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 新設法人における簡易課税の適用の可否
(イ)請求人は、上記2の(1)のイの主張が認められないとしても、新設法人が簡易課税を選択した場合には、基準期間のない課税期間を基準期間とみなして、その課税期間の課税売上高の金額によって簡易課税の適用の可否を判定すべきである旨主張する。
(ロ)ところで、消費税法第37条第1項の規定は、上記イの(ロ)のとおりであり、同項は、事業者が簡易課税制度選択届出書を提出した場合の簡易課税の適用開始課税期間について、原則として当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間とし、当該提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には当該課税期間とする旨規定している。
 そして、消費税法第37条第1項に規定する「当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合」の「事業を開始した日の属する課税期間」には、新設法人の事業を開始した日の属する課税期間も含まれるから、新設法人が簡易課税制度選択届出書を提出し、簡易課税の適用を受けることができるのは明らかである。
 また、簡易課税制度選択届出書を提出した事業者の課税期間であっても、簡易課税を適用しないで本則課税を適用しなければならないのは、その課税期間に係る基準期間の課税売上高が2億円を超える場合のその課税期間であるところ、新設法人については、その基準期間の課税売上高が2億円を超える場合に該当しないことは明らかである。
 そうすると、新設法人が事業を開始した日の属する課税期間内に簡易課税制度選択届出書を提出し、当該課税期間から簡易課税の適用を受けることを選択した場合には、当該課税期間から簡易課税を適用して仕入れに係る消費税額を計算しなければならない。
 請求人は、上記1の(3)のロ及びハのとおり、事業を開始した日の属する本件課税期間内に簡易課税制度選択届出書を提出し、簡易課税の適用開始課税期間を本件課税期間としていることから、基準期間のない本件課税期間においては、簡易課税を適用することになり、本則課税を適用する余地がないことは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 本件更正処分の適法性
 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、本件課税期間における仕入れに係る消費税額の計算について簡易課税を適用して行われた本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のニのとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

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