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(平12.1.20裁決、裁決事例集No.59 401頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、台帳価格のない分筆地の所有権移転登記に係る登録免許税の課税標準は、当該土地の分筆前の土地の台帳価格ではなく、請求人が一体利用を予定している隣接地の台帳価格を基礎として算出すべきであるとして、還付通知をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年3月13日、P市R区130番11の宅地167.12平方メートル(以下「本件土地」という。)に係る所有権移転登記(以下「本件登記」という。)の申請に当たり、登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)に登録免許税の課税標準の額を54,678,000円及び登録免許税の額を2,733,900円と記載し、その税額に相当する金額の収入印紙をちょう付の上、これをP地方法務局に提出することにより登録免許税を納付した。
 原処分庁は、上記の申請を適正なものとして、平成8年3月13日付で本件登記を了している。
ロ その後、請求人は、平成10年7月15日、原処分庁に対し、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》の規定に基づき還付通知請求書に課税標準の額を14,479,000円及び登録免許税の額を723,900円と記載し、先に納付した税額との差額2,010,000円につき請求人の納税地の所轄税務署長に還付通知をすべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をしたところ、原処分庁は、同年8月31日付で還付通知をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 そこで、請求人は、本件通知処分を不服として平成10年9月17日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件土地は、平成8年1月16日付でP市R区130番2の宅地619.43平方メートル(以下「本件分筆前の土地」という。)から分筆された土地であるが、本件登記の申請の日には、P市R区役所が備え付けている地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に規定する固定資産課税台帳に登録された価格(以下「台帳価格」という。)がない土地であった。
 そのため、本件登記に係る登録免許税の課税標準たる本件土地の価額(以下、この価額を単に「本件土地の価額」という。)を算出するに当たり、本件分筆前の土地が、租税特別措置法施行令(平成8年政令第83号による改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第44条の6《不動産登記に係る不動産価額の特例》第1項に規定する登記に係る不動産に類似する不動産(以下「類似地」という。)であるとして、本件分筆前の土地の台帳価格を基礎として、本件土地の価額を54,678,000円と算出した。
ロ しかしながら、本件土地は道路に接していない袋地で、本件土地のみを敷地とする建物の建築は不可能であるのに対し、本件分筆前の土地は幅員6メートルの道路に接しているなど、これらの土地の状況は大きく異なっている。
 また、平成7年分の路線価図(財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達)14に定める路線価を示した地図をいう。)によれば、本件分筆前の土地の正面路線価は1平方メートル当たり780,000円であるのに対し、幅員3.2メートルの道路に接している本件土地の隣接地(本件土地の北側にある請求人所有のP市R区124番12の宅地195.76平方メートル。以下「本件隣接地」という。)の正面路線価は1平方メートル当たり255,000円にすぎないのであるから、袋地である本件土地と本件分筆前の土地とでは、その価値に著しい差がある。
 実際、平成9年1月1日に付された本件土地の台帳価格を基礎として、本件土地の価額を算出すると8,961,910円となり、本件分筆前の土地の台帳価格を基礎として算出した本件土地の価額54,678,000円と大きな開差が生じているのであり、いずれの点からも、本件分筆前の土地が、本件土地の類似地であるとはいえない。
 そして、請求人が本件土地を取得したのは、分筆前から本件土地を倉庫の敷地として利用し、本件隣接地も二階建てアパートの敷地として利用していたことから、これらの二つの土地を一体として利用するためであり、このことからすると、本件土地の類似地は本件隣接地とすべきである。
 これによれば、本件隣接地の平成7年12月31日現在の台帳価格は42,401,616円で1平方メートル当たり216,600円であるから、本件土地の価額は、この216,600円に本件土地の面積167.12平方メートルを乗じた金額に100分の40を乗じた金額である14,479,000円(ただし、1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額)となり、登録免許税の額は723,900円となる。

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(2)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 登録免許税法第10条《不動産の価額》第1項は、不動産登記の場合における登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額による旨規定し、この不動産の価額について、租税特別措置法(平成8年法律第17号による改正前のものをいう。)第84条の3《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、土地に関する登記に限り、台帳価格を基礎として政令で定める価額に100分の40を乗じて計算した金額とする旨を、さらに、措置法施行令第44条の6は、上記政令で定める価額は、台帳価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日において台帳価格のある類似地の当該台帳価格を基礎として、当該登記に係る登記官が認定した価額とする旨を規定している。
ロ 本件土地は台帳価格のない土地であるから、上記イによれば、類似地の台帳価格を基礎として登記官が認定した価額に100分の40を乗じて計算した金額が本件土地の価額となるが、本件土地のような分筆地については、「不動産登記の登録免許税課税標準価格の認定基準について」(昭和51年10月19日1登1第527号P地方法務局長通達)の定めにより、その分筆前の土地を類似地として認定することが著しく不合理である旨の疎明があるなどの特別の事情のない限り、その面積割合をもって算定する取扱いとなっている。
 そして、このような取扱いは、次の(イ)から(ハ)までのとおり合理的なものといえる。
(イ)分筆地の類似地をいかに選定するかについては、〔1〕分筆の方法(形、面積の大小、地形、位置等)、〔2〕分筆地に至る道路の存否、状況(私道・公道の別、幅員等)及び〔3〕分筆地と関係する近傍の土地の権利関係(所有権、地役権)の存否等が分筆地の価額に影響を及ぼすこと。
(ロ)分筆前の土地以外の土地を類似地として認定すると、類似地の存否等の事情によって登録免許税の額の算定に差が生じ、公平な課税が保たれないこと。
(ハ)原処分庁の事務処理能力には限界があり、土地の価格形成要因を事件ごとに調査し、比較衡量することは事実上不可能であること。
ハ 本件の場合は、本件分筆前の土地を類似地として認定することが著しく不合理であるなどの特別の事情はなかったことから、本件分筆前の土地を類似地として認定し、当該土地の台帳価格を分筆後の地積によりあん分する方法で本件土地の価額を認定したものである。
ニ 以上によれば、本件土地の価額は54,678,000円、登録免許税の額は2,733,900円となり、登録免許税法第31条第1項第3号に規定する「過大に登録免許税を納付して登記を受けたとき」に該当しないので、還付通知をすべき理由はないとして本件通知処分をしたことは正当である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件通知処分の適否であり、この点について検討したところ、次のとおりである。
(1)登録免許税法第31条第2項は、登記を受けた者は、当該登記の申請書に記載した登録免許税の課税標準又は税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、登録免許税の過誤納があるときは、当該登記を受けた日から1年を経過する日までに、その旨を登記機関に申し出て、同条第1項の通知をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
(2)そこで本件についてみると、次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもこれを認めることができる。
イ 請求人は、平成8年3月13日に本件登記申請書をP地方法務局に提出し、同日付で本件登記がなされた。
ロ 請求人は、P地方法務局に対し、平成10年7月15日に本件還付通知請求をした。
(3)上記(2)の事実によれば、本件還付通知請求は、上記(1)の還付通知請求をすることができる期間を徒過してなされたこととなり、この点については、請求人も、平成9年7月15日に原処分庁に対し「嘆願書」と題する書面を提出する際に、当該書面に「既に登録免許税法第31条に基づく更正の請求期限は過ぎておりますが、次の事情を勘案していただき、下記の計算に基づき算出された登録免許税の金額2,010,000円を還付していただくことをお認め願いたく嘆願する次第です」と記載してこれを自認しているところである。
 したがって、仮に、請求人が主張するように本件隣接地を類似地として本件土地の価額を算出することが相当であり、本件分筆前の土地を類似地とすべきであるとの原処分庁の主張に理由がない場合であっても、本件還付通知請求には理由がないといわざるを得ないのであるから、本件通知処分は、結論において正当といえる。

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