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(平12.1.26裁決、裁決事例集No.59 407頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産賃貸業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が納付した「金銭消費貸借契約証書」と題する文書(以下「本件文書」という。)に係る印紙税につき、当該納付が過誤納に当たり、請求人が印紙税法第14条《過誤納の確認等》に規定する確認(以下「過誤納確認」という。)を受けることができるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本件文書に20,000円の印紙をはり付けて印紙税を納付した。
ロ その後、請求人は、印紙税法第14条第1項及び同法施行令第14条《過誤納の確認等》第1項の規定により、平成11年6月10日に印紙税過誤納確認申請書を原処分庁に提出した。
ハ これに対し、原処分庁は、平成11年8月3日付で印紙税の過誤納確認をしない旨の通知処分をした。
ニ 請求人は、この処分を不服として平成11年8月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月3日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして平成11年10月1日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 本件文書の記載内容が以下のとおりであることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ「金銭消費貸借契約証書」の表題が付されている。
ロ 本件文書の日付を記入すべき箇所は、記入されておらず、「平成」、「年」、「月」及び「日」の各文字の間がいずれも空白になっている。
ハ「債権者」欄には「全国信用金庫連合会殿」(以下、全国信用金庫連合会を「全信連」という。)、「債権者代理人兼保証受託者」欄には「代理店E信用金庫殿」と記載されており、また、「債務者」欄には請求人の署名押印がある。
ニ「口座振替用預金取引印」欄には請求人の押印がある。
ホ「連帯保証人」欄には、4名の署名押印がある。
ヘ「債務者は、後記約定を承認のうえ、次の借入要項のとおり金銭を借り入れ、確かに受領しました。」との文言が記載されており、「借入要項」の「借入金」欄には「金四阡五拾万円」と記載されている。
ト 本件文書に係る約定が21か条にわたり記載されており、また、本件文書に添付されている別紙「弁済方法および利息支払方法(元利均等割賦償還用)」には、「第1条の弁済方法および利息支払方法は次のとおりとします。」との文言の次に、〔1〕毎月の元利金返済額、〔2〕第1回返済日、〔3〕第2回以降返済日、〔4〕返済回数及び〔5〕初回返済額等が記載されている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 本件文書の日付等は未記入であり、また、本件文書に記載された借入れがその実行予定日前に中止となり、契約として成立していないことからすると、本件文書は印紙税法第3条《納税義務者》第1項に規定する課税文書(以下「課税文書」という。)に当たらず、これを相手方に交付しても印紙税の納税義務は生じない。
ロ 仮に本件文書が課税文書に当たるとしても、本件文書に係る契約内容が実行されなくなったことは、印紙税法基本通達(以下「基本通達」という。)第115条《確認及び充当の請求ができる過誤納金の範囲等》の(2)の「使用する見込みのなくなった場合」に当たる。
ハ したがって、本件文書に係る印紙税の納付は過誤納に当たるから、原処分庁は、本件文書に係る印紙税につき、過誤納確認をすべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件文書は、請求人が全信連に金銭の返還を約して金銭を受け取る契約の成立を証するために作成した消費貸借に関する契約書であり、また、一般的に金融機関が顧客に金銭を貸し付ける際に使用する契約書であるので、印紙税法別表第1の課税物件表(以下「課税物件表」という。)第1号の物件名欄3の「消費貸借に関する契約書」(以下「第1号の3文書」という。)に該当するのは明らかである。
ロ また、本件文書に係る印紙税の納税義務は、請求人が本件文書に署名押印の上これを相手方に交付した時に成立しているから、その後に本件文書に係る契約内容が実行されなくなったとしても、基本通達第115条の(2)に掲げる場合には該当しない。
ハ なお、本件文書は、40,500,000円の契約金額の記載のある第1号の3文書に該当するから、これに課される印紙税の額は20,000円となり、請求人が納付した印紙税の額は適正である。
ニ したがって、本件文書に係る印紙税につき過誤納確認をすべきであるとする請求人の主張には、理由がない。

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3 判断

 本件文書に係る印紙税の納付が過誤納に当たるか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料、請求人提示資料及び参考人であるE信用金庫の渉外担当職員(以下「渉外員」という。)の答述並びに当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 渉外員は、平成11年3月ごろ、請求人に対し、他の金融機関からの借入金の借換えを提案したところ、請求人から借換えの申出を受けたこと。
ロ その後、この融資案件は、E信用金庫の部内の手続を経て、平成11年4月末ごろ、同信用金庫本店からの承認が得られたこと。
ハ 渉外員は、平成11年5月6日、請求人宅へ臨場し、融資実行のために用意した本件文書の用紙に記載された約定について請求人の承認を得た上、請求人及び連帯保証人4名に署名押印をしてもらい、本件文書の交付を受けるとともに、連帯保証人に対し保証の意思の確認を行ったこと。
ニ 渉外員は、請求人宅へ臨場した際、印紙代として現金20,000円を請求人から預かり、翌日、郵便局で印紙を購入して本件文書にはり付け、E信用金庫の融資役が本件文書と印紙の彩紋とにかけ、支店印の印影で印紙を消していること。
ホ 渉外員は、平成11年5月7日、全信連へ提出する同日付の請求人の借入申込書を、本件文書と共にE信用金庫本店へ提出したこと。
ヘ 渉外員は、平成11年5月17日、請求人から担保物件の登記済権利証5通を預かったこと。
ト 平成11年5月21日、請求人から渉外員に対し、他の金融機関からより有利な条件で借換えが可能となったのでE信用金庫からの借入れを中止する旨の連絡があり、同月24日に予定されていた本件文書に係る融資は実行されなかったこと。
チ 渉外員は、平成11年5月25日又は同月26日ごろ、本件文書を請求人に返却したこと。
リ 渉外員は、平成11年6月2日、上記への登記済権利証を返却したこと。

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(2)納税義務の成立について

イ 印紙税法第3条第1項は、課税文書の作成者はその作成した課税文書につき印紙税を納める義務がある旨規定しており、また、国税通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第2項第11号は、印紙税の納税義務は課税文書の作成の時に成立する旨規定している。
 そして、ここでいう「課税文書」とは、課税物件表の課税物件欄に掲げる文書により証されるべき事項(以下「課税事項」という。)が記載され、かつ、当事者間において課税事項を証明する目的で作成された文書のうち、印紙税法第5条《非課税文書》の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書をいい、「課税文書の作成」とは、単なる課税文書の調製造為をいうのではなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これをその文書の目的に従って行使することをいうものと解すべきである。
 また、「契約書」とは、契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約(その予約を含む。)の成立を証すべき文書等をいい、また、契約の当事者の一方のみが作成する文書又は契約の当事者の全部若しくは一部の署名を欠く文書で、当事者間の了解又は商慣習に基づき契約の成立等を証することとされているものを含むとされている(課税物件表の適用に関する通則5)。
ロ ところで、原処分関係資料及び渉外員の答述並びに当審判所の調査したところによれば、E信用金庫は全信連代理融資に際し、一般に、その融資の実行のため、事前に融資案件についての部内審査を行い、融資の可否を決定した上で、債務者及び保証人の署名押印のある定型の金銭消費貸借契約証書を徴求し、債務者にこれを差し入れさせるという取引の実態が認められる。
 本件の場合、このような取引実態を勘案した上で、上記1の(3)の基礎事実及び上記(1)の認定事実を上記イに照らして判断すれば、本件文書に係る契約を成立させることについてはあらかじめ当事者間に意思表示の合致があり、これを証明する目的で本件文書が作成されたことは客観的に明らかであるから、本件文書は第1号の3文書に該当すると認められる。
 また、本件文書が印紙税法第5条に規定する非課税文書に該当しないことは明らかである。
ハ そして、本件文書に係る印紙税の納税義務の成立時期、すなわち本件文書の作成の時は、請求人が本件文書に署名押印をしてこれをE信用金庫に差し入れた平成11年5月6日であると認められるから、同日以降に本件文書に係る契約内容が実行されなくなったことによってこの納税義務が左右されるものではない。

(3)納付すべき税額について

 本件文書は、上記1の(3)のへのとおり、40,500,000円の契約金額の記載のある第1号の3文書に該当し、これに課される印紙税の額は20,000円であり既に納付された本件文書に係る印紙税の額と同一であるから、本件文書に係る印紙税の納付額は相当である。

(4)過誤納確認を受けることができるか否かについて

 請求人は、本件文書が基本通達第115条の(2)の「使用する見込みがなくなった場合」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり、本件文書に係る契約を成立させることについてはあらかじめ当事者間に意思表示の合致があり、請求人はこれを証する目的で本件文書に署名押印をした上、これをE信用金庫に差し入れることにより行使しているのであるから、本件文書が基本通達第115条の(2)に過誤納確認ができる場合として掲げられている「損傷、汚染、書損その他の理由により使用する見込みのなくなった場合」に該当するとする請求人の主張には、理由がない。
(5)以上のとおり、請求人の本件文書に係る印紙税の納税義務は成立しており、また、納付された印紙税の額は適正であって、過誤納の事実は存しないのであるから、過誤納の確認をしない旨通知した原処分は相当である。
(6)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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