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(平12.3.14裁決、裁決事例集No.59 415頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、揮発油税及び地方道路税に係る未納税移出の適用の可否を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別紙1のとおり。

(3)基礎事実

 以下の事実は、審査請求人(以下「請求人」という。)及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成7年12月から平成10年1月までの間の各月(以下「本件各月分」という。)において、有限会社H(以下「H社」という。)が管理する揮発油貯蔵施設「J製油所」(以下「J製油所」という。)へ別紙2の移出数量の揮発油を移出した(以下、この移出を「本件移出」という。)。
ロ 請求人は、本件移出については、揮発油税法第14条《未納税移出》第1項に規定する未納税移出を適用するとして、本件各月分の揮発油税及び地方道路税納税申告書(以下「納税申告書」という。)にH社の発行した揮発油税未納税移出揮発油移入証明書(以下「移入証明書」という。)を添付して、これを法定申告期限内にK税務署に提出した。
 なお、H社の発行した移入証明書の「移出の目的」欄には、「揮発油の規格を調整するため」と記載されている。
ハ 一方、当該揮発油を移入したH社は、平成6年10月21日にJ製油所を賃借し、平成7年1月10日にJ製油所を揮発油の製造場とする旨の揮発油税営業等開始申告書(以下「開始申告書」という。)をL税務署に提出している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件移出については、次のとおり揮発油税法第14条第1項に規定する未納税移出を適用できるから、原処分の全部を取り消すべきである。
イ 揮発油税法第14条第1項第1号及び同法施行令第5条《未納税移出をすることができる揮発油及び場所》第1号に規定する「揮発油の製造場」に当たるか否かについては、揮発油を移入した者における現実の揮発油の製造は要件とされておらず、揮発油を移入した者が同法第23条《製造の開廃等の申告》に規定する開始申告書を提出している者であれば足りる。
 また、揮発油税法第14条第1項に規定する未納税移出を適用するためには、同条第2項に規定する所定の手続要件を充足していれば足り、揮発油を移入した者が現実に揮発油の製造を行っているかどうかは問わない。
ロ 本件の場合、本件移出によりJ製油所に移出された揮発油を移入した者であるH社は、J製油所を揮発油の製造場とする旨の開始申告書を提出しているので、J製油所は上記の「揮発油の製造場」に該当し、揮発油を移出した者が揮発油を移入した者における揮発油の製造の有無を確認する義務を負うとする法令の規定もないところ、請求人は、本件移出について、H社が発行した移入証明書を添付して法定申告期限内に納税申告書を提出していることから、本件移出については、揮発油税法第14条第1項に規定する未納税移出を適用できるというべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 揮発油税法第14条第1項第1号及び同法施行令第5条第1号に規定する未納税移出は、揮発油を揮発油の製造場に移出する場合に適用できるとされているが、揮発油の移出先が「揮発油の製造場」に当たるか否かは、揮発油の移出先が開始申告書を提出しているか否かではなく、揮発油の移出先が現実に揮発油の製造を行っているか否かという点から判断されるべきものである。
 そうすると、H社は、平成7年12月以降J製油所において、現実に揮発油の製造を行っていないと認められることから、J製油所は上記の「揮発油の製造場」に該当しないこととなる。
ロ また、揮発油税法第14条第2項には、未納税移出の適用を完結させるための所定の手続が規定されているが、同条第1項に規定する未納税移出を適用するためには、同項各号に規定する未納税移出の適用要件を充足する必要がある。
 そこで、本件移出についてみると、揮発油税法第14条第2項に規定する所定の手続はなされているが、J製油所では、上記イのとおり現実に揮発油の製造が行われておらず、同条第1項に規定する未納税移出の適用要件を充足していることにはならないので、同項に規定する未納税移出を適用することはできない。
ハ 更正処分について
 本件各月分の更正処分は、請求人が申告した課税移出数量に、上記ロのとおり未納税移出として認められない本件移出の移出数量及び申告漏れ数量を加算し、欠減控除数量を控除した数量により正しく計算されている。
ニ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記ハのとおり本件各月分の更正処分はいずれも適法であり、また、これらの更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、いずれも国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項又は第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

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3 判断

 本件の争点は、揮発油税及び地方道路税に係る未納税移出の適用の可否にあるので、以下審理する。
 なお、地方道路税については、地方道路税法において揮発油税と同様の取扱いをすることとされているので、ここでは、揮発油税法の規定に基づき判断することとする。

(1)「揮発油の製造」について

イ 未納税移出の制度の概要等について
(イ)揮発油税法第3条《納税義務者》第1項には、「揮発油の製造者は、その製造場から移出した揮発油につき、揮発油税を納める義務がある。」と規定されている。これは、揮発油が製造場から移出される時は、既に消費の段階に入り、揮発油税の転嫁が可能な状態に到達したと推測されるからであると解される。
 しかし、製造場から移出された揮発油であっても、他の揮発油の製造者において、当該揮発油が他の揮発油の原料として、又は揮発油の規格を調整するために使用されるなど、直ちに消費の段階に入らない場合がある。
 これらの場合に、こうした段階で課税することは一般消費税の本旨にそぐわないことから、これを回避するため、製造場からの移出時に課税する方法の例外として、未納税移出の制度が設けられ、一定の条件を充足することを前提に揮発油税を免除することとしている。
(ロ)そして、揮発油税法第14条第1項第1号及び同法施行令第5条第1号には、未納税移出の目的として、それぞれ「揮発油の原料とするため」、「揮発油の規格を調整するため」と規定され、さらに、未納税移出に係る揮発油を移入する者及び移入する場所として、いずれも「揮発油の製造者」及び「揮発油の製造場」と規定されている。
(ハ)ところで、「揮発油の製造」とは、原油、揮発油その他の物に積極的操作を加えて揮発油を造り出す行為をいうと解される。
 また、「積極的操作」とは、蒸留、分解、改質若しくは脱硫をする等の精製操作、揮発油若しくは揮発油以外の物、規格を異にする2種以上の揮発油若しくは2種以上の単一の炭化水素を混和する等のブレンド操作又はこれらの操作を組み合わせた操作をいうと解される。
(ニ)したがって、上記(イ)ないし(ハ)からすると、揮発油税法第14条第1項第1号及び同法施行令第5条第1号にいう「揮発油の製造者」とは、現実に揮発油の製造を行っている者であり、「揮発油の製造場」とは、現実に揮発油の製造を行っている場所であると解するのが相当である。
 すなわち、揮発油税法第23条に規定する開始申告書を提出している者に対して揮発油を移出しても、その者が移入した場所において現実に揮発油の製造を行っていなければ、当該移出に同法第14条第1項に規定する未納税移出を適用することはできない。
ロ H社のJ製油所における業務内容について
(イ)請求人から揮発油を移入しているH社の代表取締役であるPは、原処分庁所属の調査を担当した職員に対し、要旨次のとおり申述している。
A 開始申告書は、平成7年1月10日付で税務署に提出したが、製造する揮発油の種類は、輸入ミックスシンナーとナフサをブレンドする合成揮発油であるとして申告した。
B 当初は、請求人から移入した輸入ミックスシンナーとナフサを2本のタンクでブレンドしていたが、平成7年11月の途中からはブレンドしていない。
 その後は、請求人から移入したナフサと平成9年の初めから取引を開始したナフサHIに色粉を入れるだけで、他の油種等を入れることなく移出していた。
 なお、輸入ミックスシンナーは請求人から平成7年11月7日まで移入していた。
C ナフサについては、請求人からQ株式会社のタンクローリーで移入し、色粉を投入した後に地下タンクに荷降ろしし、その後、ほぼ全量をR株式会社へ課税移出していた。
D ナフサHIについては、請求人が製造した揮発油であり、ほぼ毎日タンクローリー1車分を移入し、その後、タンクローリーに色粉を投入して、地下タンクに荷降ろしすることなく、Q株式会社S油槽所へ課税移出していた。
(ロ)上記(イ)のPの申述によれば、H社のJ製油所では、少なくとも平成7年12月以降において、請求人から未納税移入したナフサ及びナフサHIへの色粉の投入の業務のみを行っていたと認められ、これに反する証拠はない。
ハ 本件移出について
(イ)ところで、「揮発油の製造」とは、上記イの(ハ)のとおり、原油、揮発油その他の物に積極的操作を加えて揮発油を造り出す行為をいうから、J製油所で行われていた「色粉の投入」のみでは「揮発油の製造」には当たらないというべきである。
(ロ)そうすると、H社はJ製油所において平成7年12月以降、現実に揮発油の製造を行っていなかったことになるから、H社及びJ製油所は、揮発油税法第14条第1項第1号及び同法施行令第5条第1号に規定する「揮発油の製造者」及び「揮発油の製造場」には当たらない。
 したがって、本件移出については、揮発油税法第14条第1項に規定する未納税移出を適用することはできない。
(ハ)なお、請求人は、揮発油を移出した者が揮発油を移入した者における揮発油の製造の有無を確認する義務を負うとする法令の規定がないので、揮発油を移入した者であるH社がJ製油所を揮発油の製造場とする旨の開始申告書を提出していることのみをもって、J製油所は、「揮発油の製造場」に該当する旨主張するが、揮発油を移出した者が揮発油を移入した者の揮発油の製造の有無を確認する義務を負う旨の法令の規定が存しないとしても、揮発油の製造場からの移出が揮発油税法第14条第1項に規定する要件に該当するかどうかの判断は、揮発油を未納税移出しようとする者の責任において行われるべきものであるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

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(2)手続要件について

 請求人は、揮発油税法第14条第2項に規定する手続要件さえ具備していれば、いかなる場合でも、未納税移出に係る揮発油税の免除が受けられる旨主張するが、同項では、同条第1項に規定する未納税移出の適用要件を充足して移出した揮発油について、揮発油税の免除を受けるための申告手続が規定されているものであり、同項に規定する未納税移出を適用するためには、同項各号に規定する未納税移出の適用要件を充足する必要があるというべきであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)更正処分について

イ 以上のとおり、本件移出については揮発油税法第14条第1項に規定する未納税移出を適用することができないから、その適用を認めないとして行われた更正処分は適法である。
ロ また、本件各月分の更正処分については、請求人が申告した課税移出数量に、上記イのとおり未納税移出として認められないJ製油所へ移出した数量及び申告漏れ数量を加算し、欠減控除数量を控除した数量により正しく計算されており、不相当な点は認められない。

(4)過少申告加算税の賦課決定処分について

イ 上記(1)のハの(ハ)のとおり、未納税移出の適用要件に該当するかどうかの判断は、揮発油を未納税移出しようとする者の責任において行われるべきものであることからすれば、請求人がH社が作成した移入証明書の内容を信じて申告をしたとしても、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められない。
ロ したがって、上記(3)のとおり本件各月分の更正処分はいずれも適法であり、また、これらの更正処分により増加した納付すべさ税額の計算の基礎となった事実には、上記イのとおり、いずれも国税通則法第65条第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、更正処分により新たに納付すべきこととなった税額を計算の基礎として、同条第1項又は第2項の規定に基づいて行われた過少申告加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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