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(平12.3.31裁決、裁決事例集No.59 461頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、P税務署長が平成8年12月10日に担保物処分のためEほか2名が共有するP市Q町80番の宅地196.17平方メートル(以下「本件土地」という。)の差押処分をした後、同税務署長から徴収の引継ぎを受け、審査請求人Eほか3名(以下「請求人ら」という。)に対し、本件土地の見積価額(以下「本件公売見積価額」という。)を32,725,000円として、平成10年12月21日付の公売通知書(以下「本件公売通知書」という。)により、本件土地を公売に付することを通知し、平成11年2月2日にS国税局公売場において、入札の方法により公売を実施した。
 次いで、請求人らに対し、平成11年2月2日付の不動産等の最高価申込者の決定等通知書(以下「本件最高価申込者決定通知書」という。)により、最高価申込者の氏名、最高価入札価額35,080,008円などを通知し、同年2月9日付で売却決定をした(以下、公売公告から売却決定までの処分を「本件公売処分」という。)。
 その後、原処分庁は、請求人らを含む国税徴収法(以下「徴収法」という。)第131条《配当計算書》の規定に基づく関係人に対し、本件土地の売却代金(以下「本件換価代金」という。)を交付するため、平成11年2月10日付の配当計算書の謄本により、本件換価代金の交付期日を同年2月17日とすることを告知し、同年2月17日に本件換価代金を配当(以下「本件配当処分」という。)した。
 請求人らは、本件公売処分及び本件配当処分に不服があるとして、平成11年2月16日に国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項第2号ロの規定に基づき、異議申立てを経ることなく審査請求をした。
 なお、請求人らは、Eを総代として選任し、その旨を平成11年2月16日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人らの主張

イ 本件公売処分について
 本件公売処分は、次のとおり違法、不当である。
(イ)原処分庁は、本件公売処分に係る不服申立ては期限を徒過した不適法なものであるというが、原処分庁が請求人らに通知した本件公売通知書及び本件最高価申込者決定通知書に、行政不服審査法(以下「審査法」という。)第57条《審査庁等の教示》第1項の規定に基づき、不服申立ての期間等の教示をしなかったため、請求人らは、審査請求ができることを知らなかったものであるから、本件公売処分に係る審査請求は、適法である。
(ロ)本件公売見積価額は、F(総代Eの父、平成3年2月8日に死亡)が国土利用計画法の規定に基づき、平成元年12月22日にした土地売買等届出書に対して、P市長が平成2年1月12日付でした不勧告通知による通知書に記載された予定対価の額である326,370,000円とすべきであり、さらに譲歩しても、G(総代Eの母、平成8年3月23日に死亡)がFから本件土地を相続した際の本件土地の評価額である214,383,000円とすべきであるにもかかわらず、原処分庁は、本件土地を売却するに当たって、本件公売見積価額を32,725,000円と不当に安く算定したものである。
(ハ)原処分庁は、本件公売通知書の「公売条件その他」欄の3に「公売財産上の建物及び動産については、所有者と協議すること」と記載しているが、請求人らと売却決定の前に本件土地上に存する建物及び動産等についての処置方法を協議していない。
ロ 本件配当処分について
 本件配当処分は、配当計算書に記載された配当金額等については異議がないが、違法な本件公売処分に基づき、本件換価代金を配当したものであるから、違法である。

(2)原処分庁の主張

イ 本件公売処分について
 本件公売処分は、次のとおり適法である。
(イ)本件公売処分に係る審査請求は、徴収法第171条《滞納処分に関する不服申立て等の期限の特例》第2項により、換価財産の買受代金の納付の期限である平成11年2月9日まででなければすることができないことから、不服申立ての期間を経過した不適法なものである。
(ロ)本件公売通知書及び本件最高価申込者決定通知書は、単なる通知書であるから、いずれも審査法第57条第1項に規定する審査請求若しくは異議申立て又は他の法令に基づく不服申立てをすることができる処分を書面でする場合には該当せず、いずれの通知書にも不服申立ての期間等の教示をする必要はない。
(ハ)本件土地の売却に当たっては、不動産鑑定士の評価額を基礎に、公売の特殊性による自然の減価を考慮して本件公売見積価額を決定したものである。
(ニ)本件公売処分は、公売を現況有姿で行うことから、本件土地に存する建物及び動産について、原処分庁には処分権限がないため、本件公売通知書の「公売条件その他」欄の3に、本件土地に存する建物及び動産について、買受希望者と所有者とが協議する旨を記載したものであり、原処分庁が、請求人らと本件土地に存する建物及び動産の処置方法について協議することを知らせたものではない。
ロ 本件配当処分について
 本件配当処分は、適法な本件公売処分に基づく本件換価代金を、徴収法第129条《配当の原則》第1項に基づき配当したものであるから、適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件公売処分及び本件配当処分が適法か否かにあるので、以下審理する。
(1)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件審査請求は、平成11年2月16日にされた。
ロ 原処分庁が請求人らに送付した本件公売通知書及び本件最高価申込者決定通知書には、不服申立ての期間等の教示に関する記載はなかった。
ハ Fは、P市長に対し、平成元年12月22日の土地売買等届出書(以下「第○○号」という。)に、本件土地に関する所有権の移転をする契約の締結について、予定対価の額を326,370,000円とする旨記載して提出し、これを受けて、P市長は、平成2年1月12日付の不勧告通知書に、国土利用計画法第23条の規定に基づき、平成元年12月22日付け第○○号をもって届出のあった土地売買等の契約について、同法第24条第1項の規定に基づく勧告をしないこととした旨記載し通知した。
ニ 平成3年2月8日における本件土地の相続税評価額は、214,383,000円であった。
ホ 原処分庁は、本件公売処分に係る本件土地の評価額を、平成9年1月23日に株式会社T鑑定所に所属する不動産鑑定士による鑑定評価額64,930,000円を基に、未登記建物が存するため使用貸借権として20パーセントを減額した上、その残額を基に、近隣地域は空き地が多く見受けられること、人の流れがほとんどなく店舗用地になじまないこと等を勘案し、市場性減価として20パーセントを減額し、さらに、その残額を基に、公売の特殊性として10パーセントを減額して、第1回見積価額を37,401,000円と評定して公売に付したが、第1回目の公売(平成10年9月3日)及び第2回目の公売(平成10年11月4日)とも入札者がなく、公売は不成立となったため、本件土地は極めて市場性の劣る物件と判断し、当初20パーセントとしていた市場性減価を30パーセントとして減額し、第2回見積価額(本件公売見積価額)を32,725,000円と評定した。
ヘ 本件公売通知書には、公売財産の表示欄は別紙のとおりと表記し、別紙の「公売条件その他」欄の3に「公売財産地上の建物及び動産については、所有者と協議すること。」と記載されていた。
(2)徴収法第171条は、滞納処分に関する不服申立て等の期限の特例を規定しているところ、同条第1項第3号は、不動産等についての公売公告から売却決定までの処分については、換価財産の買受代金の納付の期限までと規定し、同条第2項において、同条第1項の規定は通則法第75条第1項第2号ロの規定による審査請求についても準用する旨規定している。
(3)審査法第57条第1項は、行政庁は審査請求若しくは異議申立て又は他の法令に基づく不服申立てをすることができる処分を書面でする場合には、処分の相手方に対し、当該処分につき不服申立てをすることができる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間を教示しなければならない旨規定している。
 この規定にいう不服申立てをすることができる処分とは、国民の権利義務につき行政庁が公権力の行使としてする行為をいい、それによって国民の法律上の権利義務その他法律上の地位に直接何らかの影響を及ぼすものをいうと解されている。
(4)徴収法第104条《最高価申込者の決定》第1項は、徴収職員は、見積価額以上の入札者等のうち最高の価額による入札者等を最高価申込者として定めなければならないと規定し、同法第113条《不動産等の売却決定》第1項は、最高価申込者に対して売却決定を行うと規定するとともに、同法第114条《買受申込み等の取消し》においては、換価財産について最高価申込者等の決定又は売却決定をした場合において、滞納処分の続行の停止があったときは、その停止している間は、その最高価申込者等又は買受人は、その入札等又は買受けを取り消すことができると規定している。
 これらの規定によれば、法は、公売処分のうち、公売手続と売却決定手続とを区別し、それぞれの手続の最終段階の行為として、最高価申込者の決定と売却決定とを並列的に位置づけているものと解されるから、公売手続において、買受け適格のある申込者として最高価申込者を決定し、売却決定手続において、最高価申込者の決定を受けた者のみが売却決定を受け得ることができると解するのが相当である。
(5)徴収法第106条《入札又は競り売りの終了の告知等》第1項は、徴収職員は、最高価申込者を定めたときは、直ちにその氏名及び価額を呼び上げた後、入札又は競り売りの終了を告知しなければならない旨規定している。
 この規定によれば、最高価申込者の決定及びその通知は、この処分の相手方である買受け適格のある申込者が公売の場所にいることが通常であり、遅滞なくその氏名及び価額を呼び上げて告知をすれば、この処分は直ちに確定しその効力が発生するものであるから、改めて書面で通知する必要はないと解されている。
 また、徴収法第106条第2項は、前項の場合において、不動産等を公売した場合には、税務署長は、最高価申込者等の氏名、その価額並びに売却決定をする日時及び場所を滞納者等に通知するとともに、公告しなければならない旨規定しているところ、これは不動産の場合は、一般に公売財産の価額が大きく、一旦権利移転がされると現状回復が困難であることから、あらかじめ滞納者等に最高価申込者の決定がされたという事実を知らせることにより、売却決定の安定化を配慮したものと解される。
(6)これを、本件についてみると、次のとおりである。
イ 本件公売処分について
(イ)徴収法第171条第1項第3号及び同条第2項により準用される通則法第75条第1項第2号による本件公売処分に係る審査請求は、前記(2)で述べたとおり、換価財産の買受代金の納付の期限である平成11年2月9日午後3時まででなければすることができないところ、前記(1)のイのとおり、平成11年2月16日にされているから、当該申立ての期間を経過した不適法なものである。
(ロ)しかし、請求人らは、本件公売処分に係る不服申立てが期限を徒過したものであるとしても、原処分庁がした本件公売通知書及び本件最高価申込者決定通知書に、審査法第57条第1項の規定に基づく不服申立ての期間等の教示をしなかったから、本件公売処分に係る審査請求は適法である旨主張し、前記(1)のロのとおり、原処分庁が請求人らに送付した本件公売通知書及び本件最高価申込者決定通知書には、不服申立ての期間等の教示に関する記載はなかったことが認められるので、以下検討する。
A 公売通知は、税務署長が公売公告をした場合において、滞納者に対して最後の納付の機会を与えるため、公売の日時、場所、公売保証金の金額、買受代金の納付の期限等、公告すべき事項等を通知するものにすぎず、それ自体として納税者の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼすものではないから、行政処分には当たらないと認められる。したがって、前記(3)で述べたとおり、本件公売通知書は、審査法第57条第1項に定める教示をする必要がないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 最高価申込者の決定は、前記(4)で述べたとおり、公売手続の最終段階の行為として、買受け適格のある申込者に対し、本件土地の売却決定を受ける法的地位を付与するものであり、納税者の権利義務その他法律上の地位に影響を及ぼすものであるから、不服申立ての対象となる処分であると解されるが、その決定の通知の趣旨は、前記(5)で述べたとおりであり、最高価申込者の決定処分自体は公売の場所で終了し、かつ出席している関係人に口頭で告知されているのであって、滞納者等に対する通知は、納税者に対し、原処分庁が買受け適格のある申込者に最高価申込者の決定をしたという事実行為を通知したものにすぎず、審査法第57条第1項に規定する行政処分を書面ですることが要求されている場合に当たらないから、本件最高価申込者決定通知書には、教示の必要はなく、この点に関する請求人の主張にも理由がない。
(ハ)ところで、請求人らは、原処分庁が本件土地を売却するに当たって、本件公売見積価額を不当に安く算定したと主張する。
 しかしながら、前記(1)のハ及びニのとおり、請求人らが本件土地の公売見積価額として主張する326,370,000円は、P市長が、平成元年12月当時の本件土地の売買価額の届出に対し、著しく適正を欠くものではないと判断し、国土利用計画法に基づいて不勧告通知を行った価額にすぎず、さらに、請求人らの主張する214,383,000円も、相続の開始のあった平成3年当時の評価額であるため、公売時点の時価を反映したものとはいえないものである。
 また、前記(1)のホのとおり、原処分庁の決定した本件公売見積価額は、不動産鑑定士の評価額を基礎としているところ、公売に当たっては、公売財産の買受代金が即納を原則としていること、公売開始から買受代金の納付に至るまでの手続が任意売買に比べて複雑であること、公売の日時、場所が一方的に決定されていること等の特殊性があるため、公売による売却価額は、任意売買の場合と比べて安価となる傾向があるから、本件土地の評価に当たって、公売の特殊性に伴う減価を考慮したことは相当と認められるし、本件公売見積価額の算定に特に違法、不当な点を認めることはできない。
 したがって、本件土地の評価額は適正であるというべきであるから、請求人の主張は採用できない。
(ニ)請求人らは、原処分庁が本件公売通知書の「公売条件その他」欄の3に「公売財産上の建物及び動産については、所有者と協議すること」と記載しているが、請求人らと売却決定の前に本件土地上に存する建物及び動産等についての処置方法を協議していない旨主張する。
 しかしながら、本件公売処分は、公売を現況有姿で行うことから、原処分庁には差押財産ではない本件土地上に存する建物及び動産について、処分権限がないところ、前記(1)のヘのとおり、単に、請求人らと本件土地に存する建物及び動産の処置方法について協議することを知らせただけのものであるから、原処分庁には、何ら不当な点はない。
ロ 本件配当処分について
 請求人らは、違法な本件公売処分に基づき、本件換価代金を配当したものであるから、本件配当処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、前記イの(イ)及び(ロ)で述べたとおり、本件公売処分に係る審査請求は期限を徒過した不適法なものであり、本件公売処分は適法に成立していることから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 また、前記イの(ハ)及び(ニ)のとおり、本件公売処分において原処分庁の決定した評価額及び手続は適正であり、本件配当処分は適法であると認められる。
(7)原処分のその他の部分について、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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