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(平12.10.30裁決、裁決事例集No.60 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成8年分の所得税の確定申告において、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第36条の6《特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)の適用を受けた結果、平成8年分と平成10年分の所得税の合計税額が、適用を受けなかった場合の合計税額よりも過大になったとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年分の所得税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、平成11年4月19日に総所得金額、分離短期譲渡所得の金額及び納付すべき税額を別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成11年7月30日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、平成11年9月1日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年12月8日付で棄却の異議決定をしたので、同月27日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年3月7日、P市Q町12番地の53の土地及び同土地上の居住用家屋を57,000,000円で譲渡し(以下、この譲渡を「平成8年の譲渡」という。)、また、同年7月26日、R市S町3丁目6番地1の居住用家屋(マンション。以下「本件資産」という。)を53,548,800円(登記費用等を含む。)で取得し、同日、居住の用に供した。
ロ その後、請求人は、平成10年3月15日、本件資産を48,000,000円で譲渡した(以下、この譲渡を「平成10年の譲渡」という。)。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、平成8年分の所得税の確定申告書に、平成8年の譲渡に係る譲渡所得について、本件特例の適用を受けようとする旨記載し、分離長期譲渡所得の金額を2,836,434円及びこの金額に対する税額を○○○円と記載して申告し、平成10年分の所得税の確定申告書には、平成10年の譲渡に係る譲渡所得について、分離短期譲渡所得の金額を36,528,164円及びこの金額に対する税額を○○○○円と記載して申告した。
ロ ところで、本件においては、本件特例の適用を受けなかった場合、平成8年の譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額は45,846,528円、この金額に対する税額は9,461,500円となるものの、逆に平成10年の譲渡に係る分離短期譲渡所得の金額は7,481,930円の損失となり、この金額に対する税額は零円となるのであるから、結果的には、請求人は、本件特例の適用を受けたことにより、納付すべき税額が6,493,800円過大となったことになる。
 このように本件特例の適用を受けたことにより、かえって納付すべき税額が過大となることは、措置法第1条《趣旨》が同法の趣旨について「この法律は、所得税を軽減し、若しくは免除し、若しくは還付し、又はこれらの税に係る納税義務、課税標準若しくは税額の計算、申告書の提出期限若しくは徴収につき、所得税法の特例を設ける」旨規定していることに反し、不合理であるし、将来の納付すべき税額が本件特例の適用を受けない場合より過大となるかどうかを、本件特例の適用を受けようとする時点で予測することは、専門家でもない請求人にとって不可能であるから、請求人は、本件特例の適用を受けようとしたことを撤回できるというべきである。
ハ 平成10年分の所得税については、上記のとおり、その納付すべき税額が過大であるにもかかわらず、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は不当である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人は、平成8年の譲渡に係る譲渡所得について、本件特例の適用を受けており、したがって、平成10年の譲渡に係る譲渡所得の計算上、本件資産の取得価額は、措置法第36条の6第2項において準用する同法第36条の4《買換えに係る居住用財産の譲渡の場合の取得価額の計算等》の規定により算出されるのであるから、請求人の場合、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号に規定する「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」には該当しない。
ロ 請求人は、本件において、本件特例の適用を受けることによって、当該特例の適用を受けない場合より、結果的に納付すべき税額が過大となるのは不合理であるとして、措置法の趣旨等に照らし、当該特例の適用を受けようとしたことを撤回できる旨主張するが、当該特例の適用を受けた結果、納付すべき税額が過大となったとしても、これは「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」には該当しないし、納税者は、いったん措置法に規定する課税の特例措置の適用を受けた以上、後日になってこれを撤回することはできないというべきである。
ハ 以上のとおり、本件は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求をすることができる場合には該当しないから、本件通知処分は適法である。

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3 判断

(1)通則法第23条第1項は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときは、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
(2)これを本件についてみると、当審判所の調査の結果によれば、請求人の平成10年分の確定申告書に係る所得税の計算は、措置法第36条の6第2項において準用する同法第36条の4の規定等に基づき適法に計算されていることが認められるのであり、請求人が平成8年の譲渡に係る譲渡所得について本件特例に従って誤りなく申告し、これを受けて平成10年の譲渡に係る譲渡所得についても誤りなく申告している以上、結果的に、本件特例の適用を受けなかった場合よりその納付すべき税額が過大になったとしても、請求人の場合、通則法第23条第1項第1号に規定する「課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」に該当しないというべきである。
(3)請求人は、本件特例の適用を受けたことにより、かえって納付すべき税額が過大となるのは措置法の趣旨に反し不合理であるし、請求人において将来の税額を本件特例の適用を受けようとする時点で予測することは不可能であるとして、本件特例の適用を受けようとしたことを撤回できる旨の主張もする。
 しかしながら、本件特例の適用を受けるか否かは、措置法第36条の6第2項において準用する同法第36条の2《相続等により取得した居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例》第4項に規定するとおり、専ら納税者の自由な選択にゆだねられているところ、いったん納税者が本件特例の適用を受けることを選択しながら、後日、その選択が見込み違いであることを理由として更正の請求をすることができるとすると、納税者のし意により税の確定が左右されることとなり、租税法律関係の安定を著しく損ねかねないことを考えると、措置法第1条に規定する同法の趣旨を考慮しても、請求人において、本件特例の適用を受けることを撤回して、これを理由に更正の請求をすることはできないというべきである。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(4)以上によれば、本件は、通則法第23条第1項第1号に規定する更正の請求をすることができる場合には該当しないから、本件更正の請求には理由がないので、本件通知処分は適法である。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

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