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(平12.8.31裁決、裁決事例集No.60 8頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、共同審査請求人E、F、G、H、I及びJ(以下「請求人ら」という。)が、平成5年分の相続税の申告に当たり、同年分の路線価により相続財産である土地の評価をしたが、実際は当該土地が無道路地であるから、この路線価に基づく土地評価額を減額すべきであるとして、原処分全部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 請求人らは、平成5年10月18日に死亡したKの共同相続人7名のうちの6名であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税の申告から審査請求に至る経緯は別表のとおりである。
 なお、請求人らは、Eを総代として選任し、その旨を平成12年1月13日に届け出た。

(3)原処分の概要

 請求人らは、本件相続により請求人らが取得したP市Q町5丁目1546番1所在の土地986平方メートル(以下「本件土地」という。)について、財産評価基本通達(以下「評価通達」という。)第13項《路線価方式》に基づき、本件土地の南東に接する部分に付された平成5年分の路線価により評価して申告(以下「本件申告」という。)した。
 その後、請求人らは、平成9年分以降本件土地の南東部分に路線価が付されていなかったため、平成11年6月30日付で本件土地を無道路地として評価すべきであるとする更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項に規定された期限を経過していることから、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

イ 通則法第23条第1項は、「法定申告期限から1年以内」、同法第2項は、「後発的事由が発生してから2か月以内」に更正の請求ができる旨それぞれ規定しているが、本件更正の請求の期限の起算日については、通則法第74条《還付金の消滅時効》が、還付金等の還付請求権に係る消滅時効の起算日につき、「その請求をすることができる日」である旨規定している趣旨を尊重し、また、請求人らには申告漏れ等の過失がないことを考慮すべきである。
 そうすると、本件更正の請求の起算日は、請求人らが平成9年分以降路線価が付されていないことを知った日である平成11年6月20日とすべきであるから、同月30日にした本件更正の請求は適法である。
ロ 本件土地は、平成5年当時から、排水溝をはさんで、P市Q町2丁目1545―3、1541―3、1539―1、1541―1及び1561―2等の私有地、ポンプ場及び公園によって囲まれた無道路地であり、広い舗装道路に面し駐車場として利用されている近隣の土地とは状況が異なっていたが、平成5年分の路線価図に本件土地の路線価が付されていたため、これに基づき本件申告をしたものである。
 無道路地である本件土地の南東部分に路線価を付すべきでないことは、平成9年分以降、本件土地に路線価が付されていないことからも推認でき、また、原処分庁の担当者が、「路線価を付したことが錯誤と言われてもしょうがない。」とはっきり認めていることからも明らかである。
 このように、原処分庁が本来路線価を付すべきではない土地に路線価を付したことにより、請求人らは、課税標準等を誤った本件申告をし、重大な損害を被ったのであるから、過大となった税額を減額すべきである。

(2)原処分庁の主張

 通則法第23条第1項によれば、本件更正の請求ができる期限は、本件相続に係る相続税の法定申告期限(平成6年5月18日)から1年を経過する平成7年5月18日であり、これを経過した平成11年6月30日になされた本件更正の請求は、不適法である。また、本件更正の請求は、同法第2項各号に規定する事由にも該当しない。
 なお、請求人らは、本件更正の請求の期限の起算日につき、通則法第74条の趣旨を尊重し、また、請求人らに申告漏れ等の過失がないことを考慮すると、本件土地に平成9年分以降の路線価が付されていないことを請求人らが知った日とすべきである旨主張するが、このような理由により更正の請求の起算日を読み替える法令の規定はない。

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3 判断

(1)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 被相続人とP市との間の昭和57年6月8日付け土地境界確認承諾書によれば、このころの本件土地は、北側を公園、西側をポンプ場、南側及び東側をP市Q町2丁目1545―3、1541―3、1539―1、1541―1、1561―2及び1561―1の私有地によって囲まれた土地である。
ロ P市役所固定資産税係の担当者は、当審判所に対し、次のとおり回答した。
 平成5年当時の本件土地の南東に接する部分の状況については、当時の担当者が転勤しているので、はっきりとはわからないが、本件土地の南側に接して水路があり、その水路の南側に人によって踏み固められた通路があったと思われる。この通路の幅員は、1メートルないし1メートル50センチメートルくらいであったと思われ、本件土地の南側にある水路と5メートルくらいの長さに渡って面していたと思われる。
ハ 請求人らは、当審判所に対し、次のとおり答述した。
 相続税の申告書の作成に至るまでの準備事務は、Eが中心となって行い、関係資料を関与税理士に手交し、関与税理士は、本件土地の南東部分に付された路線価を確認の上、当該路線価を基に本件土地の評価額を算出した。
 請求人らは、本件土地の評価に当たっては、路線価に基づかなければならないと思い込んでいたため、算出された本社土地の評価額が時価と比べて高額となっているかどうか判断することはなかった。
ニ 原処分庁の担当者は、当審判所に対し、次のとおり答述した。
 本件土地及びその南東部分の状況は、相続開始時である平成5年当時と路線価を付さなくなった時期である平成9年当時では変わっていない。
 なお、相続税の申告時等において、請求人ら及び関与税理士が原処分庁に評価通達の路線価等の具体的な取扱い等について相談した形跡はない。
(2)通則法第23条は、いわゆる権利救済制度の一環として、納税者から税務署長の減額更正という行政処分の発動を求める更正の請求制度について規定している。
 すなわち、同条第1項では、納税申告書を提出した者は、その申告に係る税額が過大であること等を知った場合には、その法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対してその税額等につき更正をすべきことを請求することができることとし、また、同条第2項は、いわゆる後発的事由として、法定申告期限当時に内在していなかった減額要因が後日発生した場合には、このような後発的事由が発生してから2か月以内に限り、特に更正の請求ができることとされている。
 そこで、本件更正の請求が、通則法第23条第1項あるいは同条第2項の規定に基づく適法なものか否かについて、以下検討する。
イ まず、同条第1項について検討すると、本件において更正の請求を提出できる期限は、法定申告期限である平成6年5月18日から1年以内である平成7年5月18日までであるから、平成11年6月30日付でされた本件更正の請求は、更正の請求期限を経過してされたものとなる。
ロ 次に、同条第2項について検討すると、同項各号の趣旨は、納税者が課税当時もしくはその後の同条第1項の期間内にも適切に権利主張ができなかったような後発的事由により、当初の課税が実体的に不当となった場合に、納税者からその是正を請求できる途を認めたものと解される。
 これを本件についてみると、前記(1)のとおり、本件相続時と平成9年当時とでは本件土地及びその南東部分の状況に大きな違いはないのに平成9年分以降本件土地の南東部分に路線価を付さなくなったという経緯に照らすと、本件相続当時、本件土地の南東部分に路線価を付していたことは適切でなかったと評することも可能であるところ、請求人らは、本件相続時の路線価に基づく本件土地評価額が時価であると信じ、これに基づき本件申告をしたものであり、その後平成11年6月20日になって初めて平成9年分以降路線価が付されていないことを知ったのであり、同条第1項の期間内に適切に権利主張ができなかったとして、同条第2項に基づく更正の請求が認められるべきであると主張していると解せられる。
 しかしながら、同項は、第1号及び第2号の事由を判決、和解、更正、決定といった外部的ないし客観的な事由とし、同項第3号の「やむを得ない理由があるとき」をこれらに類するものとしており、同項第3号を受けた通則法施行令第6条《更正の請求》においても、官公署の許可等の取消し、契約解除、帳簿書類の押収等を更正の請求事由とするものであるから、同項ないし通則法施行令第6条に規定のない納税者の主観的な事由をもって、同項の後発的事由に該当すると解釈することはできないというべきである。
 したがって、「本件土地に平成9年分以降の路線価が付されていないことを請求人らが知った日」という主観的な事由は、通則法第23条第2項の「後発的事由」に当たらないというべきである。
ハ この点について、請求人は、通則法第23条の適用に当たっては、同法第74条の趣旨を尊重すべきであって、「その請求をすることができる日から5年」以内に更正の請求を認めるべきであると主張するが、同条は、還付金等の消滅時効について規定したものであり、同法第23条とは規定する趣旨が異なるのであるから、同法第23条の解釈に当たり同法第74条の規定を考慮することはできず、請求人の主張を採用することはできない。
ニ なお、原処分庁は、更正の請求の有無に関わらず、客観的真実の存在の確認ないし納税者の負担の公平を図る見地から、申告により確定した税額を適正な税額に是正することができるが、通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》は、「納付すべき税額を減少させる更正は、法定申告期限から5年を経過する日まで」しかできない旨規定しているから、本件においては、法定申告期限である平成6年5月18日から5年を経過した日の後である平成11年6月30日にされた更正の請求時点においては、請求人主張のような事情が認められたとしても、更正をする権限がなかったというほかない。
ホ 以上のとおり、本件更正の請求は不適法であるから、本件更正の請求に理由がないとしてされた原処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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