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(平12.8.31裁決、裁決事例集No.60 62頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、会社員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税の修正申告書を提出したことによって、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第1項に基づき賦課された過少申告加算税について、同条第4項及び第5項に規定する賦課対象から除かれる事由に該当する事実が存するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 本件の審査請求(平成12年1月10日請求)に至る経緯及び内容は、別表のとおりである。

(3)基礎事実

 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成10年分の所得税の確定申告に当たり、配偶者特別控除の額を380,000円と記載した確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を、法定申告期限までに原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、配偶者特別控除の額を記載しない修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を、平成11年7月13日に原処分庁に提出した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件修正申告書の起因となった配偶者特別控除の適用誤りは、請求人の税法の不知が原因ではなく、原処分庁が本件確定申告書を受理等するに際し、その内容の確認を怠り、計算等の誤りを指摘することもせず、受理すべきでない申告書を受理したことが原因である。
ロ 本件修正申告書を提出したのは、税務の専門家である原処分庁の指示に従っただけのことであり、請求人において、原処分庁が送付したとする来署案内のはがき(以下「本件はがき」という。)を見た覚えもなく、また、配偶者特別控除の額を記載しないところで計算した内容を記入した修正申告書用紙(以下「本件修正申告書用紙」という。)が送付される以前に、原処分庁から申告内容について確認を受けたこともなく、修正申告を求められたこともないのであるから、調査を受けたとはいえず、調査があったことにより更正があるべきことを予知したものではない。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件修正申告書の起因となった配偶者特別控除の適用誤りは、請求人が所得税法第83条の2《配偶者特別控除》第2条に規定する合計所得金額が10,000,000円を超える場合には同法の適用ができない旨を知らなかったことによるものであり、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しない。
ロ また、本件修正申告書は、原処分庁が本件確定申告書を審理したところ、配偶者特別控除の適用を受けられないことを把握し、請求人に修正申告書の提出を求めた後に提出されているのであり、仮に、本件はがきが請求人に届いていなかったとしても、原処分庁は本件修正申告書用紙を送付していることから、通則法第65条第5項に規定する更正があるべきことを予知してされたものでないときにも該当しない。
ハ 過少申告加算税を賦課する趣旨は、当初から適法に申告した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正することにより、申告納税制度の信用を維持し、適正な期限内申告を図ろうとするものであるから、仮に、請求人が本件確定申告書を原処分庁に提出した際に受付において担当職員が申告書の記載内容の確認をしなかったり、あるいは、本件確定申告書に係る納付書を送付する際に申告内容の誤りについて指摘をしなかったとしても、そのことをもって本件の賦課決定処分が違法となるものではない。

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3 判断

(1)原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 原処分庁は、本件確定申告書の内容を検討した結果、請求人の合計所得金額は10,022,573円であり、10,000,000円を超えていることから、配偶者特別控除の適用ができないことを把握した。
ロ 原処分庁の来署案内のはがきを送付する対象者を記載した整理簿には、請求人の住所及び氏名が記載されており、また、平成11年4月15日の郵便発送票には本件はがきを含め通常郵便物として送付したことが記載されている。
ハ その後、原処分庁は請求人に対し本件修正申告書用紙を送付し、請求人はこれに署名押印の上、原処分庁に提出した。
ニ 原処分庁は、当審判所に対して要旨次のとおり答述した。
(イ)来署案内のはがきの送付対象者は、平成10年分の所得税の確定申告書を提出した者のうち、申告内容等に疑義のある者及び税額計算に誤りがある者である。
(ロ)上記(イ)の来署案内対象者のうち来署しなかった者に対し、修正すべき内容をあらかじめ記入した修正申告書用紙を送付した。
(2)ところで、通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において,修正申告書の提出又は更正があったときは、当該納税者に対し、その修正申告又は更正により納付すべき税額を基礎として過少申告加算税を賦課する旨規定している。
 そして、過少申告加算税の賦課対象から除かれる場合としては、通則法第65条第4項において、修正申告又は更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合と規定し、また、同条第5項において、修正申告書の提出がその申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときと規定している。
(3)同条第4項でいう「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば、税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けた場合や、災害又は盗難等に関し、申告当時損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けたため、修正申告をし又は更正を受けた場合など、申告当時適法とみられた申告がその後の事情の変更により過少申告となった場合のように、納税者の責に帰せられない真にやむを得ない理由がある場合などがこれに当たり、単に過少申告が納税者の税法の不知若しくは誤解に基づく場合には、これに当たらないとされている。
 また、同条第5項でいう「調査」とは、課税庁が行う課税標準又は税額等を認定するに至る一連の判断過程の一切を意味するものであり、課税庁の証拠書類の収集、証拠の評価あるいは経験則を通じての課税要件事実の認定、租税法その他の法令の解釈適用を経て更正処分に至るまでの思考、判断を含む極めて包括的な概念であると解するのが相当であるから、課税庁が確定申告書を検討して納税者の過少申告の事実を把握し、これを当該納税者に連絡したような場合は、「調査があったこと」に該当するものと解すべきである。
 さらに、納税者が確定申告書の提出後、何らかの事由によって、先に申告した所得金額が過少であり、修正申告書を提出しなければならないことを認識し、これを決意したとしても、その決意は単に内心にとどまるものでは足りず、客観的に認められるものでなければならないと解するのが相当であって、その修正申告書が提出される以前に課税庁において当該申告内容についての調査が開始され、それにつき納税者が認識することができる程度の申告指導等があった場合には、その後に納税者の自発的な意思に基づく修正申告書が提出されたとしても、「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」には当たらないものと解するのが相当である。
(4)これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 本件修正申告書の提出は、請求人が本件確定申告書の提出に当たり配偶者特別控除の規定の適用を誤ったことに起因し、かつ、当該誤りを是正するために行われたものであって、当初適正であった申告につきその後の事情の変化により過少申告となったことによりされたものではないことは明らかであり、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある場合には該当しないというべきである。
 また、所得税法は、いわゆる申告納税制度を採用しており、この制度の下では、納税者が自己の判断と責任において、課税標準等及び税額等を法令の規定に従い計算し、適正な申告をすることが求められているのであるから、原処分庁が申告の誤りを確定申告書の提出後直ちに指摘しなかったとしても、そのことで法令の適用を誤った請求人の責任が原処分庁に転嫁されるものではなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ そして、前記(1)に認定のとおり、原処分庁は、本件確定申告書の内容を検討した結果、請求人には配偶者特別控除の規定が適用されず、結果として過少申告になっていることを把握し、その是正を行うために請求人に本件はがきを送付し、来署を依頼したこと、その後、原処分庁は、請求人が来署しないため、修正すべき内容を記入した本件修正申告書用紙を請求人に送付し、請求人はこの本件修正申告書用紙に署名押印して原処分庁に提出したことが認められる。
 以上の事実によれば、本件において納税者宅に赴く等の直接的な調査までは行われていないが、原処分庁が確定申告書を精査検討して過少申告の事実を把握した事実が認められ、このことは通則法第65条第5項に規定する「調査」に該当すると認められるし、また、本件修正申告書の提出は、修正すべき内容を記入した本件修正申告書用紙の原処分庁からの送付を受け、本件確定申告書の誤りを原処分庁から指摘されたことによるものであり、同項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しないというべきである。
 なお、請求人は本件はがきを見た覚えがない旨主張するが、仮にそうであったとしても、一方で請求人は本件修正申告書の提出につき、原処分庁の指示に従ったとも主張していることから、前記認定が左右されるものではない。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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