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(平12.12.12裁決、裁決事例集No.60 134頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、ボイラー取付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人名義の預金口座に振り込まれた売上金を総収入金額に計上しなかったことが、重加算税を賦課すべき事実に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成4年分、平成5年分、平成6年分、平成7年分、平成8年分、平成9年分及び平成10年分(以下、併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、平成4年分の所得税について、別表1の「修正申告1」欄のとおりとする修正申告書を平成5年12月1日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成5年12月22日付で別表1の「賦課決定処分1」欄のとおりとする過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 次いで、原処分庁は、平成7年2月24日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分をした。
ハ 請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け(以下、この調査を「本件調査」といい、本件調査の担当職員を「調査担当職員」という。)、各年分の所得税について別表1の「修正申告2」欄のとおりとする各年分の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成11年6月3日に提出した。
ニ 原処分庁は、これに対し、各年分の所得税について、平成11年6月25日付で別表1の「賦課決定処分2」欄のとおりとする重加算税の賦課決定処分(以下、この賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成11年8月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成11年12月9日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、平成7年分及び平成9年分については棄却の異議決定をし、平成4年分、平成5年分、平成6年分、平成8年分及び平成10年分についてはその一部につき過少申告加算税相当額を超える部分を取り消す異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年12月13日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、事業に係る預金口座として、〔1〕H銀行△△支店の請求人名義の普通預金口座(以下「H銀行預金口座」という。)のほか、〔2〕I銀行△△支店にJ社代表N名義の普通預金口座(以下「I銀行預金口座」という。)及び〔3〕K信用金庫△△支店に請求人名義の普通預金口座(以下「K信金預金口座」といい、I銀行預金口座と併せて「本件預金口座」という。)を保有していた。
ロ 請求人は、平成9年12月30日付でK信金預金口座を、また、平成10年7月10日付でI銀行預金口座をそれぞれ解約している。
ハ 請求人は、各年分の所得税の確定申告に当たり、H銀行預金口座に入金された売上金は総収入金額に算入していたが、本件預金口座に入金された売上金は総収入金額に算入せずに申告していた。
ニ 原処分庁は、平成11年5月6日に本件調査に着手した。請求人は、調査の結果、本件預金口座に入金された売上金が申告漏れとなっていたとして、本件修正申告書を提出した。
ホ 本件賦課決定処分において重加算税の対象とされた売上計上漏れの金額は、別表2のとおりであり、すべて本件預金口座に入金されたものである。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件調査によれば次の事実が認められる。
(イ)調査担当職員は、金融機関に対する調査をしたところ、本件預金口座が請求人に帰属する預金口座であることを確認した。
(ロ)請求人は、本件預金口座に別表2のとおり、売上金を振り込ませ、また、売上金の回収に係る小切手を取り立て、入金していた。
(ハ)請求人の帳簿及び決算書の作成を担当していた請求人の妻であるL及び二女であるM(以下、両名を併せて「記帳担当者」という。)は、本件預金口座の存在を知らなかった。
(ニ)上記(ロ)の売上金は、請求人が各年分の所得税の確定申告書を提出するに当たり使用していた帳簿に記載がない。
(ホ)請求人は、調査担当職員の上記(イ)ないし(ニ)の指摘により、本件修正申告書を提出した。
(ヘ)請求人は、調査担当職員に対し、H銀行預金口座以外の預金口座はない旨申述した。
(ト)請求人は、上記(ロ)の売上金に係る請求書控及び領収証控等の関係書類をすべて破棄していた。
ロ 上記イの各事実を総合すると、請求人は、本件預金口座に入金された別表2に記載の金額を故意に除外したところに基づき所得金額を過少に計算して、各年分の確定申告書を提出していたものと認められる。
 このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」場合に該当するから、原処分に何ら違法、不当はない。
 また、原処分は、国税通則法第68条第1項の規定に基づいて適正に計算されている。
ハ 原処分に係る賦課決定通知書に処分の理由を附記しなければならない旨を定めた法令の規定はなく、賦課決定通知書に処分の理由が附記されていなくても、何ら違法、不当ではない。

(2)請求人

イ 本件賦課決定処分の税額の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装した事実はないから、その全部を取り消すべきである。
(イ)原処分庁は、本件預金口座に入金された金額を売上げに計上していなかったことが隠ぺい又は仮装に該当すると判断しているが、本件預金口座の名義人は、請求人名義となっており、他人名義を使用していない。
 また、請求人には、いわゆる二重帳簿を作成したり、隠し財産を秘匿した事実はない。
(ロ)本件預金口座の存在を記帳担当者に知らせなかったのは、税金をごまかす意思からではなく、単に小遣い稼ぎという軽い気持ちからである。
(ハ)本件調査の際、調査担当職員の取引銀行に係る質問に対し、H銀行預金口座のみである旨回答したのは、既に本件預金口座は解約済であり、質問の時点ではH銀行預金口座しか使用していなかったからである。
(ニ)原処分庁は、請求人が計上漏れとなった売上金に係る請求書控及び領収証控等の関係書類をすべて破棄したとしているが、調査担当職員は何らその事実を確認しておらず推論に過ぎない。
ロ 本件賦課決定処分は、賦課決定通知書に処分を正当とする理由が附記されていないから、違法、不当である。

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3 判断

(1)本件賦課決定処分について

イ 認定事実
(イ)請求人は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述した。
A 得意先に対する請求書は、すべて請求人が作成している。
B 青色申告決算書及び確定申告書は、平成6年頃からMが作成し、それ以前はLが作成していた。
 なお、売上金額は、記帳担当者が請求人から渡されたH銀行預金口座及び請求書控により把握していた。
C 本件預金口座への入金は、小遣い稼ぎと考えていたので、公表外の収入として記帳担当者には知らせていなかった。
D 本件預金口座は、請求人が管理していたが、妻であるLに口座の存在を知られたため解約した。
E 記帳担当者に売上関係書類を引き継がなかった結果として、納める税金が少なくなるとは思っていた。
F 売上計上漏れに係る請求書関係書類については、必要ないと思い、平成11年の1月に破棄したもので、調査担当職員には保存していないと答えた。
(ロ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、調査担当職員が平成11年5月25日に請求人の自宅を訪れた際に、請求人は、売上計上漏れ分の原始記録等については平成11年1月に破棄した旨申述している。
ロ ところで、国税通則法第68条第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定により過少申告加算税を課する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
 ここでいう「隠ぺい」とは、納税者がその意思に基づいて、特定の事実を隠匿しあるいは脱漏することをいい、「仮装」とは、納税者がその意思に基づいて、特定の所得、財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいうものと解されており、経理処理等の際に課税要件の事実についてこれを隠ぺい又は仮装することについての認識がある場合には、納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装したものというべきであり、隠ぺい又は仮装に該当する以上、重加算税の賦課要件として納税者において租税負担を回避する意図を有していたか否かは関係がないものと解されている。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、他人名義の預金口座の使用、二重帳簿の作成及び財産の秘匿はしておらず隠ぺい又は仮装の事実は認められない旨、税金をごまかす意思はなく単に小遣い稼ぎという軽い気持ちであった旨主張する。
 確かに、上記1の(3)のイの事実によれば、本件預金口座の名義は請求人又は請求人の屋号となっており他人名義は使用していない。
 また、請求人が二重帳簿を作成した事実も認められない。
 しかしながら、上記イの(イ)のAないしEの答述によれば、請求人は、〔1〕得意先に対する請求書を自ら作成して売上金の一部を本件預金口座に入金しており、当該事実が妻であるLに発覚するまで確定申告書の作成を担当していた記帳担当者に内密にしていたこと、〔2〕その結果として、納付すべき税額が過少になることを認識していたこと及び〔3〕いわゆる公表預金口座であるH銀行預金口座とは別に請求人の実名名義ではあるが本件預金口座を開設し、公表外で管理して、そこに売上金の一部を入金していたことが認められるから、故意に売上金の一部を隠ぺいしていたというべきである。
(ロ)また、請求人は、調査担当職員に対し、H銀行預金口座以外の預金口座はない旨申述したのは、本件調査の時には本件預金口座は解約済であったためである旨主張する。
 しかし、上記1の(3)のロ及びニによれば、確かに本件調査の着手前に本件預金口座が解約されていた事実は認められるが、上記イの(イ)のCないしEの答述によれば、請求人は、調査対象年分の公表外の売上金を本件預金口座に入金し、記帳担当者に公表外の売上関係書類を引き継がなかった結果として、納める税金が少なくなることを認識していたにもかかわらず申告していなかったのであるから、調査担当職員に対して売上金から除外したものが入金されている本件預金口座の存在を意図的に明らかにしなかったものと容易に推認することができる。
(ハ)さらに、請求人は、売上計上漏れに係る請求書控及び領収証控等の関係書類をすべて破棄したとする原処分庁に対し、調査担当職員は何らその事実を確認しておらず推論に過ぎない旨主張する。
 しかし、上記イの(イ)のFの答述及び上記イの(ロ)の事実によれば、請求人が売上計上漏れに係る請求書等を平成11年1月に破棄した事実が認められる。
(ニ)そうすると、請求人は、自らの意思に基づいて売上金の一部を隠匿し、その結果所得金額を脱漏していたと認めるのが相当であり、これらの事実は、国税通則法第68条第1項に規定する、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当する。
ニ 以上のとおりであり、原処分庁が国税通則法第68条第1項の規定を適用し本件賦課決定処分をしたことは、適法である。
(2)なお、請求人は、本件賦課決定処分は、賦課決定通知書に処分を正当とする理由の記載がないので、いずれも違法である旨主張する。
 しかしながら、国税通則法第32条《賦課決定》は、加算税の賦課決定は、税務署長がその決定に係る課税標準及び納付すべき税額を記載した賦課決定通知書を送達して行う旨規定しているが、当該通知書に加算税の賦課決定に係る理由を附記しなければならない旨を定めた法令はないから、請求人の主張を採用することはできない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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