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(平12.12.14裁決、裁決事例集No.60 229頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地の譲渡所得の計算に際し、土地改良区の組合員たる資格の喪失に伴い支払うこととなった農地転用金を総収入金額から除外すべきか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても、その事実が認められる。
イ 請求人は、P県が施行する造成事業のための土地の買収に係る譲渡所得について、租税特別措置法第34条の2《特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除》の規定を適用して、平成10年分の所得税の申告をしている。
ロ 請求人は、平成10年10月15日に、P県が施行するQ地区内陸用地造成事業(以下「本件造成事業」という。)のため、同県へP県Q町65番の田1,661平方メートル(以下「本件土地」という。)を43,352,100円で譲渡する旨の売買契約を締結した。
ハ 本件土地の土地売買契約書第9条(負担の帰属)2には、本件土地の公租公課は、所有権移転登記終了後であっても、譲渡人を義務者として課されるものは、譲渡人の負担とする旨記載されている。
ニ 請求人は、P用水土地改良区第三事務所(以下「P用水第三事務所」という。)から、平成11年3月2日に同23日を納入期限とした本件土地に係る農地転用決済金(以下「本件農地転用決済金」という。)の納入を請求され、同年7月21日に納入した。
ホ 本件農地転用決済金の額439,540円は、本件土地に係る農地転用金(以下「本件農地転用金」という。)の額433,521円とQ支線事業費償還金の額6,019円の合計額であった。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由から違法であり、本件農地転用金は、本件土地の譲渡所得の総収入金額から除外すべきである。
イ P用水第三事務所が発行した「農地転用決済金の納入について」の通知書(以下「本件通知書」という。)には、本件農地転用金は本件土地の買収金額に含まれていると記載されているので、本件農地転用金は、本件土地の譲渡所得の総収入金額43,352,100円に含まれている。
ロ 本件農地転用金は、本件土地に対する受益者負担金、将来着手が見込まれるかもしれない建設負担金及び将来の維持管理費等からなっており、P用水土地改良区(以下「P用水改艮区」という。)の将来の経費について残存する組合員の過大な負担を避けるため、いったん、請求人に支払われ、請求人からP用水第三事務所へ納入したものであり、実質的には本件土地の買収金額にならない。
ハ 請求人は、P県から本件造成事業の用地買収のとりまとめを行ったQ町役場において、本件農地転用金を1平方メートル当たり400円と見積もって本件土地の買収金額に含めて支払った旨の説明を受けたため、本件農地転用決済金を支払ったものである。
ニ 以上のとおり、本件農地転用金は、本件土地の買収金額に含まれているから、譲渡所得の総収入金額から除外すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 農地転用決済金は、土地改良法第42条《権利義務の承継及び決済》第2項の規定に基き、土地改良区の組合員の資格の全部又は一部の喪失に際し、土地改良区の事業に関する権利義務の移転がない場合に、その権利義務を清算するために徴収されるものであるから、本件農地転用金は土地の譲渡とは直接の関係がないものである。
ロ 譲渡所得の総収入金額については、所得税法第36条《収入金額》第1項において、譲渡所得の計算上、総収入金額に算入すべき金額は、その年において収入すべき金額とする旨規定されている。
 したがって、本件土地の譲渡所得に係る総収入金額は、上記1の(3)のロのとおり43,352,100円であり、上記イ及びロのとおり、本件農地転用金は土地の譲渡とは直接の関係がなく、本件農地転用金を収入すべき金額から除外すべき特段の事情も認められない。

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3 判断

 本件の争点は、本件農地転用金を譲渡所得の総収入金額から除外すべきか否かにあるので、以下審理する。

(1)譲渡所得の総収入金額について

イ 認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)土地改良法第42条第2項には、土地改良区の組合員において、組合員たる資格に係る権利の目的たる土地についてその資格を喪失した場合に、その土地について権利の承継又は資格の交代がないときは、その者及び土地改良区はその土地につきその者の有するその土地改良区の事業に関する権利義務について必要な決済をしなければならない旨規定されている。
(ロ)P用水改良区は、P用水土地改良区規約を設け、同規約第57条《農地転用に伴う処理》の規定により、P用水土地改良区地区除外等処理規程(以下「地区除外等処理規程」という。)を定めている。
(ハ)本件農地転用金は、地区除外等処理規程による決済金等算定基準(以下「算定基準」という。)に基づき、平成8年3月26日の平成7年度通常総代会において議決した1平方メートル当たり261円の割合で算定されている。
(ニ)上記(ハ)の本件農地転用金1平方メートル当たり261円の内訳は、算定基準の「2決済の範囲」の「(1)土地改良区が徴収すべき金銭の額」の「ウ維持管理事業以外の事業に係る事業費」(決済時点において公団、県又は土地改良区が行う土地改良事業に係る事業費のうち決済年度以降において土地改良区が負担又は分担すべき額)に該当する〔1〕建設負担金相当分106円及び〔2〕末端支線相当分21円並びに同基準2の(1)の「エ維持管理事業に係る事業費」(決済時点において公団又は土地改良区が行う土地改良事業に係る土地改良施設の耐用年数期間の維持管理費の合計額のうち、決済年度の翌年度以降において土地改良区が負担又は分担すべき額)の〔3〕維持管理費相当分134円である。
(ホ)本件土地を買収したP県企業庁の担当職員は、本件土地の買収金額について当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A 本件土地の買収金額は、売買契約書に記載のとおり43,352,100円である。
B 土地の買収金額は、土地を評価して決めるものであり、灌漑設備があれば土地の評価も増加するものである。
C P県は、公共事業の農地転用に伴う決済賦課金を負担しないこととして取り扱っている。
D P用水第三事務所が発行した本件通知書に「転用決済金については買収金額に含まれていると報告されています。」と記載されていることについて、P県は、同事務所に対し本件通知書の記載内容についてそのような指示をしていない。
(ヘ)P用水第三事務所の担当職員は、本件農地転用決済金の徴収について当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A 農地転用決済金は、土地の買収金額に含まれているか否かにかかわらず、土地改良法第42条第2項の規定に基づき組合員たる資格に係る権利の目的である土地の全部又は一部について資格を喪失した場合に徴収するものである。
B 本件通知書に「転用決済金については買収金額に含まれていると報告されています。」と記載があることについて、従来から慣例として用いられているものであるが、農地転用決済金を個人から徴収する場合は、当該決済金が土地の買収金額に含まれているか否かにかかわらず、すべてこの様式を使用している。
(ト)Q町役場の産業課商工係(旧振興係)の担当職員は、本件造成事業の地主に対する土地の買収金額の説明について、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
 土地の買収に当たっては、地元の説明会で土地買収単価を公表し、その後の交渉時において単価を増額しているが、これはあくまでも土地を評価しての問題であって、農地転用決済金相当部分の金額を支払うということではない。
ロ 譲渡所得とは、資産の保有期間中における値上がり益をその資産の所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税するものであると解されている。
 また、譲渡所得の収入金額については、所得税法第36条第1項において、譲渡所得の計算上、総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とされ、その資産の譲渡により現実に収受する売却代金及び金銭以外の経済的利益の価額によることとなり、資産を売却したことにより取得した売却代金の使途や残高の有無等は、譲渡所得の総収入金額に何ら影響を及ぼすものではないと解される。
ハ 請求人は、本件土地の買収金額には、本件農地転用金が含まれており、本件農地転用金は、実質的には本件土地の買収金額にはならないから、譲渡所得の計算上、総収入金額から除外すべきであると主張する。
 確かに、本件通知書には「転用決済金については買収金額に含まれていると報告されています。」と記載されているが、上記イの(ヘ)のBのとおり、P用水第三事務所は、農地転用金を個人から徴収する場合は、当該決済金が土地の買収金額に含まれているか否かにかかわらず、本件通知書を使用しているのであるから、そのように記載されていても、直ちに、本件土地の買収金額に本件農地転用金が含まれていると判断することはできない。
 また、上記イの(イ)ないし(ニ)及び(ヘ)のAのとおり、そもそも、本件農地転用金は、土地の買収金額に含まれているか否かにかかわらず、土地改良区の組合員が権利の目的たる土地についてその資格を喪失し、その土地について権利の承継又は資格の交代がないときに支払義務を要するものであり、さらに、資産を売却したことにより取得した売却代金の使途は、譲渡所得の総収入金額に何ら影響を及ぼすものではないというべきである。
 そして、上記イの(ホ)のB及び(ト)のとおり、土地の買収価額は、土地を評価して決められるものであり、上記イの(ホ)のCのとおり、P県は農地転用に伴う決済賦課金を負担しないこととしており、また、本件農地転用金が本件土地の買収金額に含まれていないことは本件土地の土地売買契約書からも明らかであるから、買収金額43,352,100円には、本件農地転用金が含まれているとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ニ 以上に加え、上記ロで述べたとおり、譲渡所得は資産の保有期間中における当該資産の値上がり益に課税するものであり、譲渡所得の計算上、総収入金額に算入すべき金額は、原則として、その年において収入すべき金額とされていることからすると、上記1の(3)のロ及び上記イの(ホ)のAのとおり、本件土地の譲渡に係る総収入金額は43,352,100円と認められ、原処分は適法である。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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