ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.60 >> (平12.12.18裁決、裁決事例集No.60 256頁)

(平12.12.18裁決、裁決事例集No.60 256頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、会社役員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、公共事業の施行に伴いP市から移転補償金として交付を受けた金額のうち、移転先土地に要した造成費は、所得税法(以下「法」という。)第44条《移転等の支出に充てるための交付金の総収入金額不算入》に規定する資産の移転等の費用に該当し、一時所得に係る総収入金額に算入されない旨の請求人の主張が認められるか否かを争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成10年分の所得税について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成11年7月23日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成11年9月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成11年12月17日付で別表1の「異議決定」欄のとおり原処分の一部を取り消す異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年1月19日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、P市が施行するP市中央卸売市場用地取得事業のために、同市に土地(以下「本件土地」という。)を売却しその代金を、建物等(以下「本件建物等」という。)については、物件移転補償金(以下「本件補償金」という。)をそれぞれ収受した。
 本件補償金の内訳は、別表2の「補償内訳」のとおりである。
ロ 請求人は、本件建物等を移転する土地(以下「移転先土地」という。)を購入し、その土地が田であったため、E株式会社(以下「E社」という。)に依頼して造成工事(以下「本件工事」という。)を3,780,000円(以下「本件造成費」という。)で行い、その土地上に本件建物等を移転した。
ハ なお、本件補償金に係る収用等のあった日は、平成9年6月25日であるが、請求人は本件補償金について、平成10年3月13日付で「収益(経費・移転)補償金の課税延期申請書」を提出し、平成10年分の一時所得として申告した。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分(異議決定により一部取り消された後のもの。以下同じ。)は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 原処分のその他の部分については争わない。
イ 更正処分について
 原処分庁は、本件造成費について、固定資産の改良その他資本的支出に充てたもので、移転補償金をその交付の目的に従って支出したものとは認められないとして一時所得を計算して更正処分を行った。
 しかしながら、請求人の事情に鑑みれば、原処分庁は、法第44条に規定する資産の移転、移築若しくは除却その他これらに類する行為(以下「資産の移転等」という。)の法解釈についてあまりにも狭義、限定的に捕らえている。
 請求人は、本件土地以外に本件建物等を移転する宅地を有しなかったことから、P市の斡旋により移転先土地を取得したものであるが、この土地は、田であり、宅地造成しなければ移転できない事情があったため、本件工事を行い、本件造成費を支出したものである。
本件造成費は、土地の造成ということだけを捕らえて固定資産の改良その他資本的支出とみるべきでなく、請求人の事情を考慮し、収用、移転という一連の全体的見地から移転等のために支出した費用とみるべきである。
 したがって、その支出は、移転補償金をその交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てたときに該当するから、一時所得の計算上総収入金額に算入されない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は違法であるからその一部を取り消すべきであり、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
 本件造成費は、資産の移転等の費用に当たらないから、移転補償金をその交付の目的に従って支出した場合に該当せず、一時所得に係る総収入金額に算入される。
 移転補償金については、法第44条に「国等からその行政目的の遂行のために必要なその者の資産の移転等(固定資産の改良等を除く)の費用に充てるため補助金等の交付を受けた場合において、その交付を受けた金額をその交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てたときは、その費用に充てた金額は、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない。ただし、その費用に充てた金額のうち、各種所得の金額の計算上必要経費に算入される部分の金額等については、この限りでない」旨規定されている。
 また、租税特別措置法通達(昭和46年8月26日付直資4−5)ほか、国税庁長官通達「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」33−9《補償金の課税上の取扱い》においては、移転補償金をその交付の目的に従って支出したかどうかの判定は、次により取り扱うこととされている。
(イ)移転補償金をその交付の基因となった資産の移転若しくは移築又は除却若しくは取壊しのための支出に充てた場合交付の目的に従って支出した場合に該当する。
(ロ)移転補償金を資産の取得のための支出又は資産の改良その他の資本的支出に充てた場合その交付の目的に従って支出した場合に該当しない。
 したがって、本件造成費については、資産の改良その他資本的支出に充てたものであり、移転補償金を交付の目的に従って支出したものとは認められない。
 また、法第44条の適用に当たっては、条文に「固定資産の改良その他政令で定める行為を除く」と規定されており、法解釈を狭義、限定的に捕らえているのではないかとの請求人の主張は、当たらない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件造成費が、法第44条に規定する資産の移転等の費用に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所が調査した結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件工事の内容について
A E社作成の本件工事に係る平成9年3月28日付の工事見積書によれば、工事内容等は次のとおりである。
工事名  F邸宅地造成工事
工事場所 P市Q2地割
見積金額 3,600,000円

B 本件工事は、平成9年4月8日から同年5月20日まで行われ、追加・変更工事はなく、同年7月15日に工事代金3,600,000円に消費税及び地方消費税180,000円を加算した3,780,000円が決済された。
(ロ)移転先土地の状況について
 当審判所の調査によれば、移転先土地は田であったところ、上記(イ)のAの内容のとおり、一連の工事を行って宅地とし、その土地上に本件建物等を移転したことが認められる。
ロ ところで、法第44条は、資産の移転等の支出に充てるための交付金について、居住者が、国若しくは地方公共団体からその行政目的の遂行のために必要なその者の資産の移転等(固定資産の改良その他政令で定める行為を除く)の費用に充てるため補助金の交付を受け、その交付を受けた金額をその交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てたときは、その費用に充てた金額は、その者の各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しない旨規定している。
 また、所得税法施行令(以下「施行令」という。)第92条《資産の移転等に含まれない行為》は、法第44条に規定する政令で定める行為は、施行令第181条《資本的支出》に規定する支出に係る行為とする旨規定している。そして、施行令第181条は、固定資産について支出する金額で、その支出する金額のうち、資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額又は資産の価額を増加させる部分に対応する金額は、資本的支出に当たる旨を規定している。
 これらの規定によると、「交付を受けた金額をその交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てたとき」というのは、本来、資産の移転等の費用に充てるために交付を受けた補償金をその資産の移転等のために支出したような場合のことをいうのであり、資産の改良その他資本的支出に充てた費用の額は、移転補償金をその交付の目的に従って移転等の費用に充てた以外の金額となるから、一時所得の計算上総収入金額に算入されることになる。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件造成費について、移転先土地は田であり、宅地造成しなければ移転できない事情があったことを考慮し、収用、移転という一連の全体的見地から、移転等のために支出した費用とみるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件工事は、上記イの(イ)の工事内容及び工事費の額並びに上記イの(ロ)の移転先土地の状況に照らすと、田を宅地化するという土地の価値を高める工事に当たるものであり、結果的にも移転先土地の価値の増加をきたしたものと認められるので、本件造成費は、いわゆる資本的支出に当たるとみるのが相当である。
 そうすると、本件造成費は、本件補償金をその交付の目的に従って資産の移転等の費用に充てた以外の金額となり、一時所得の総収入金額に算入されることとなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ)そこで、請求人の一時所得の金額を検討すると、次のとおりとなる。
 原処分庁は、一時所得の総収入金額を本件補償金から、総収入金額に算入されない金額48,531,049円を差し引いた64,456,491円と算定し、また、その収入を得るために支出した金額はないと算定しているところ、当審判所の調査、審理によってもその算定は相当と認められる。
 そうすると、一時所得の金額は、一時所得に係る総収入金額64,456,491円から一時所得の特別控除500,000円を控除した63,956,491円となり、また、総所得金額に含めるべき金額はその2分の1に相当する31,978,245円となる。
ニ この結果、請求人の平成10年分の総所得金額は次表のとおり34,013,424円となり、この金額は更正処分の金額と同額となるから、更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る