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(平12.12.20裁決、裁決事例集No.60 344頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が同族会社に賃貸している土地の賃貸料が、当該土地と同地域にある他の土地の賃貸料に比して著しく低額であるとして、所得税法第157条《同族会社等の行為又は計算の否認》の規定を適用して不動産所得の金額の計算をした原処分の適否が争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり。
 なお、請求人は、住所を平成11年3月12日に肩書地からP市Q町二丁目18番55号○○マンション第2の201号へ異動した後、平成12年2月21日に再び肩書地に異動した。
 これに伴い、原処分庁はR税務署長からQ税務署長となり、再びR税務署長となった。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ P市R町二丁目16番4号に所在する株式会社F(以下「F社」という。)は、平成7年分、平成8年分及び平成9年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)に対応する期間中、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社であり、また、請求人は、F社が同号に規定する同族会社であることについての判定の基礎となった株主に該当する。
ロ 請求人は、昭和58年9月27日から現在に至るまでF社の代表取締役を務めている。
ハ F社がビル用敷地として賃借しているP市S町三丁目504番1、同504番2及び同504番3の土地(以下、これらを併せて「本件S町三丁目土地」という。)の共有持分の状況等は、不動産登記簿によると別表2のとおりであるところ、請求人は、本件S町三丁目土地のうち株式会社Gの持分を除いた部分(以下「本件土地」という。)の賃貸料としてF社から支払われる後記ニの金額について、他の共有者の持分に対応する金額を含む全額を不動産所得の収入金額として申告している。
 なお、株式会社Gの持分は、昭和62年1月22日付の強制競売により、請求人と同様亡Hの共同相続人の一人であったIから移転されたものである。
ニ 請求人がF社から受領した本件土地に係る賃貸料(以下「本件賃貸料」という。)は、各年分ともそれぞれ5,400,000円である。
ホ F社の法人税確定申告書によると、F社は、本件賃貸料を損金に計上している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)所得税法第157条の規定は、所得税の負担を減少させる結果が「不当」であると認められる場合に限り適用できるものであるが、「不当」とはどのような事由をいうのかについては税法上何ら規定されていない。
 したがって、その適用に当たっては、請求人の所得税の負担の減少額、申告の経緯、請求人に対する原処分庁の申告指導の状況及び相手方同族会社の租税負担の状況等を総合的に勘案して行うべきである。
 なお、F社は、営利法人であるから、F社の役員である請求人からその所有する土地を無償又は著しく低い額で借り受けたとしても、営利法人としての当然の行為であって、経済的合理性がある。
(ロ)原処分庁は、本件賃貸料が著しく低額であることを理由に、所得税法第157条の規定を適用して請求人の不動産所得の金額を計算しているが、本件賃貸料が低額であるかどうかの判定は、F社から本件土地の賃貸に伴って受領した無利息の保証金から生ずる利息相当分の経済的利益と本件賃貸料の合計額をもって判定すべきであり、この合計額は必ずしも低額とはいえない。
 当該経済的利益は、所得税法第36条《収入金額》に規定する経済的利益となるから、同法第157条の規定の適用に当たっても当該経済的利益を加味して判断しなければならない。
(ハ)原処分庁は、比準同業者(本件土地の近隣において請求人と類似の条件で土地を貸し付けている底地権利者。以下同じ。)16件の平均賃貸料(比準同業者が受領する1平方メートル当たりの平均的な土地の賃貸料。以下同じ。)を基に、本件土地が同族関係にない者に貸し付けられた場合に通常設定されるであろうと認められる賃貸料(以下「適正賃貸料」という。)を算定しているが、採用した比準同業者の賃貸面積、権利金又は保証金などが明らかでなく、比準同業者の選定には疑問がある。
(ニ)本件土地は、請求人が他の共有者の持分を使用貸借により借り受け、請求人の持分と併せてその全部を請求人の責任においてF社に貸し付けたものであるから、本件土地の固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)の全部を不動産所得の計算上必要経費に算入すべきである。
(ホ)請求人は、平成2年分の所得税について、原処分庁の調査を受けたが、賃貸に関する内容については税法上問題とする点はないとして容認されたため、本件賃貸料を不動産所得の収入金額とする行為計算を継続してきたものであり、所得税の負担を減少させる結果が生じたとしても、請求人にはゆうじょすべき事情がある。
 さらに、請求人の所得税の確定申告書を検討すれば、容易に本件賃貸料が低額であることが判明するのに、何ら申告指導などを行わず、放置しておいた原処分庁には税務行政上の瑕疵がある。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、各年分の更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い各年分の過少申告加算税の賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)同族会社の行為等が所得税法第157条にいう「所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」行為等に当たるか否かは、同族会社のした当該行為等が通常の経済人の行為等を基準として経済的合理性を欠いているかどうかを基準として判断されるべきところ、当該行為等が経済的合理性を欠いた場合とは、それが異常又は変則的で租税回避以外に正当な理由が存在しないと認められるような場合のみではなく、独立・対等で相互に特殊関係のない当事者間で通常行われる取引とは異なっているというような場合も含むものである。
 また、「所得税の負担を不当に減少させる」ものであるかどうかは、当該同族会社の株主等の所得税額について判断すべきものであり、当該同族会社の法人税額を勘案して判断すべきものではない。
(ロ)本件賃貸料は、原処分庁が適正賃貸料を算定する際に採用した比準同業者のうち、権利金や保証金等の金員を受領している者の賃貸料と比較しても著しく低額であるが、このことは、請求人がF社の代表取締役であるがゆえに可能な行為又は計算であり、通常の経済人の行為としては不自然・不合理なものと認められる。
 そこで、比準同業者16件の平均賃貸料により算定した適正賃貸料を基に請求人の各年分の所得税額を計算すると、別表3のとおりとなり、請求人の確定申告による所得税額と比較すると、両者の所得税額には著しいかい離があり、各年分の所得税の負担を不当に減少させる結果となっていることが認められる。
 このように、請求人はF社から受領する賃貸料を著しく低額にすることにより、各年分の所得税の負担を不当に減少させていたと認められることから、所得税法第157条の規定を適用して各年分の更正処分を行ったものである。
(ハ)比準同業者の平均賃貸料から適正賃貸料を算定するに当たっては、比準同業者の抽出が合理的であれば、比準同業者間に通常存在する程度の個別的な諸条件の差異は平均化され得るものであり、納税者の個別具体的な事情のいかんは当該平均値による算定自体を全く不合理とする程度に顕著なものでない限りしんしゃくすることを要しないというべきである。
 請求人には、当該算定を全く不合理とする程度に顕著な個別的具体的な事情があるとは認められず、また、原処分庁が採用した比準同業者は、本件土地と類似する地区に所有する土地を賃貸している個人で、賃借人が賃借した土地の上に堅固な建物を所有している者であり、その抽出基準は合理的であるから、原処分庁が行った適正賃貸料の算定に合理性を欠いた点はない。
(ニ)請求人は、上記1の(3)のハのとおり、本件賃貸料について、本件土地の他の共有者の持分に対応する部分を含む全額を各年分の不動産所得の収入金額として申告しているが、資産から生じる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定すべきであるから、本件土地の貸付けに伴い請求人が計上すべき不動産所得の収入金額は、請求人の持分に応じた部分とすべきである。
 このように、本件土地の貸付けに係る不動産所得の収入金額を請求人の持分に応じた部分に限定する以上、必要経費に算入できる固定資産税等も請求人の持分に応じた部分に限るべきである。
(ホ)過去の税務調査において不動産所得の収入金額について指摘がなかったとしても、そのことのみをもって原処分の違法性を主張することはできない。
(ヘ)以上のことから、所得税法第157条の規定を適用して不動産所得の金額を計算して行った各年分の更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、各年分の更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った各年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

 本件土地の賃貸借について、所得税法第157条の規定を適用することができるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)本件土地には、F社ほか4社が共同で所有する鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下4階付11階建ての建物が建てられている。
(ロ)請求人は、異議申立てに係る調査において調査担当職員に対し、使用貸借に関する昭和59年8月21日付契約書(以下「本件使用貸借契約書」という。)及び賃貸借に関する同日付契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)を提出したが、その要旨は、次のとおりである。
A 本件使用貸借契約書
(A)借主請求人を甲、貸主J、K及びIを乙とする。
(B)乙はその所有物件である本件S町三丁目土地の持分4分の3を甲に貸与する。
(C)賃貸条件
a 契約期間は、昭和59年8月21日から昭和89年8月20日の間とする。
b 保証金は、35,000,000円の4分の3(26,250,000円)とする。
c 管理は、甲がすべて行う。
d 賃貸料は、甲及び乙の父Hの遺言により無償とする。
e 本件S町三丁目土地の固定資産税等は、甲が責任をもって負担する。
f 本件S町三丁目土地の運営は甲が代行し、本件S町三丁目土地を一括してF社に貸与する。
B 本件賃貸借契約書
(A)貸主請求人を甲、借主F社を乙とする。
(B)甲は、本件S町三丁目土地267.95平方メートルを乙に貸与する。
(C)賃貸条件
a 賃貸借期間は、昭和59年8月21日から昭和89年8月20日の間とする。
b 保証金は、35,000,000円(保証金には利息をつけないこと)とし、乙の財政が良化した場合は協議の上、保証金を増額することができる。
c 賃貸料は、1ヶ年5,400,000円とし、30年間は不変とする。
d 貸借期間に生じる固定資産税等は、すべて甲においてその責任に任ずるものとする。
(ハ)F社の総勘定元帳によれば、上記(ロ)のBの(C)のbに定める保証金は、別表4のとおり平成5年8月21日以降増減している。
ロ 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)本件使用貸借契約書及び本件賃貸借契約書は、請求人の父Hが昭和58年9月28日に死亡した後、その相続について相続人間で遺産分割協議が整わなかったために作成したものである。
(ロ)不動産登記簿に記載されている別表2の持分と本件使用貸借契約書及び本件賃貸借契約書に記載されている持分とが相違するのは、Hの相続財産について、請求人、K、J及びIの4名で相続する旨の合意に達していたが、その後、Lが法定相続分を主張してきたことに加え、Iの法定相続分である持分8分の1が上記1の(3)のハのとおり競売された際に、裁判所が法定相続分で登記を行ったことによるものである。
(ハ)上記(ロ)の合意については、法定相続人全員で書面に印章を押したものではなく、Hの相続については、未だ遺産分割は確定していない。
(ニ)本件使用貸借契約書の賃貸条件の保証金26,250,000円については、K、J及びIに直接手渡すことなく、相続財産の維持・管理のための費用として使用した。
(ホ)F社が平成5年8月21日以降保証金を増額したのは、過去に請求人が支払うべき固定資産税等をF社が立替払したこと等により生じた請求人に対する立替金及び貸付金等を保証金に振り替えたことによるものである。
ハ ところで、所得税法第157条は、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合にはその株主若しくは社員である居住者又はこれと特殊な関係にある居住者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の所得金額及び納付すべき税額を計算することができる旨規定している。
 この規定は、同族会社の選択した行為又は計算が実在し、それが私法上有効であっても、その行為又は計算が特殊な関係のない当事者間で行われる通常の取引を基準とした場合に経済的合理性を欠いており、それが所得税の負担を不当に減少させていると認められる場合に、税務署長において、これを通常あるべき行為又は計算に引き直すことができるとすることにより、租税負担の公平を図ろうとする趣旨の規定であると解される。
 そして、「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められるか否かは、同族会社の行為又は計算に基づいて計算された所得税額と通常あるべき行為又は計算に引き直して計算された所得税額とのかい離によって判断すべきものであり、経済的合理性を欠いた行為又は計算の結果として所得税の負担が減少していれば十分であって、租税回避の意図若しくは所得税の負担を減少させる意図が存在することまでは必要でないと解される。
ニ そこで、本件土地の賃貸借が請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっているか否かについて検討したところ、次のとおりである。
(イ)原処分庁は、比準同業者の平均賃貸料を基に算定した額をもって、適正賃貸料であるとし、適正賃貸料を基に計算した所得税額と請求人が申告した所得税額を比較することにより、所得税法第157条の「所得税の負担を不当に減少させる結果となる」か否かの判断をしていることが認められるところ、原処分庁が採用したこの方法は、上記ハに照らして合理的であると認められる。
(ロ)原処分庁は、本件土地の適正賃貸料を比準同業者16件の平均賃貸料を基に算定しているが、当審判所の調査によれば、比準同業者の選定に当たっては、次の基準によるのが相当と認められる。
A 賃貸借に係る土地が本件土地と同じP市S町三丁目内にあり、立地条件が類似していること。
B 賃借人と賃貸人との間に同族関係がないこと。
C 賃貸借に係る土地の上に、賃借人が所有する鉄骨鉄筋コンクリート造の建物が建てられていること。
D 収支計算により所得税青色申告決算書(不動産用)を提出している者であること。
 以上の基準により、原処分庁が選定した16件について検討したところ、比準同業者として相当でない者が10件含まれていたが、これらを除いた残りの6件は、上記基準をすべて充たし、比準同業者として相当であると認められた。
 そこで、当審判所としては、原処分庁が選定した16件のうち、上記基準をすべて充たす6件を比準同業者として採用することとする。
(ハ)上記(ロ)により採用した比準同業者6件の平均賃貸料を計算すると、平成7年分が204,783円、平成8年分が207,299円、平成9年分が207,659円となり、これらの額を1平方メートル当たりの本件賃貸料と比較すると別表5のとおり約8倍の開差が認められ、本件賃貸料は著しく低額であると認められる。
 このことは、F社と請求人が同族会社とその株主かつ代表取締役という関係にあるがゆえに可能な行為又は計算の結果であり、このような特殊な関係のない当事者間で行われる通常の取引を基準とした場合、本件賃貸料は、著しく低額で経済的合理性を欠く不自然・不合理なものといわざるを得ない。
(ニ)ところで、請求人は、本件賃貸料が低額であるかどうかの判定は、無利息の保証金から生ずる利息相当分の経済的利益を加味して判定すべきであると主張するところ、一般的に相当多額な敷金・保証金等を授受することによって賃貸料を低額に取り決めている場合、その多額な敷金・保証金等の預託を受けることによって生ずる経済的利益は、賃貸料に代わるものであると考えられる。
 そこで、かかる経済的利益を加味して検討したところ、次のとおりである。
A 無利息の保証金の預託を受けることによって生ずる経済的利益とは、具体的には、当該保証金が預貯金等の金融資産に運用されている場合の預金利子等であることから、その額は、代表的な金融資産である10年長期国債の平均利率によって計算するのが相当であり、その利率は平成7年分及び平成8年分が3%、平成9年分が2%となる。
B F社の総勘定元帳によれば、本件土地の賃貸借に係る保証金は別表4のとおりであるが、上記ロの(ホ)から、平成5年8月21日以降の保証金の増額分については、本件賃貸料の多寡とは関係なく、過去の立替金等を振り替えたものにすぎないと認められるため、本件賃貸借契約書記載の35,000,000円を基に、請求人がF社から保証金の預託を受けたことによる1平方メートル当たりの経済的利益を計算すると別表6のとおりとなる。
C 上記Bの経済的利益に1平方メートル当たりの本件賃貸料25,468円を加えると平成7年分が30,420円、平成8年分が30,420円、平成9年分が28,769円となる。
D そこで、当審判所が採用した比準同業者6件について、保証金等を受領している者についてはその経済的利益を加算した上で平均賃貸料を算定すると別表7の「経済的利益加算後の比準同業者の平均賃貸料」欄のとおりとなり、上記Cの経済的利益を加算した後の1平方メートル当たりの本件賃貸料と比較すると、同表のとおり最低でも6.74倍の開差が認められる。
E このように、保証金から生ずる利息相当分の経済的利益を加味して検討しても、本件賃貸料は著しく低額で経済的合理性を欠くものといわざるを得ない。
(ホ)そこで、請求人の各年分の所得税について、後記ヌの課税総所得金額に基づき計算した所得税額と、請求人が確定申告書に記載した所得税額とを比較検討したところ、別表8のとおりとなり、双方の所得税額には著しいかい離があり、請求人の所得税の負担を不当に減少させる結果となっていることが認められる。
(ヘ)以上のとおり、請求人はF社から受領する賃貸料を著しく低額にすることにより、各年分の所得税の負担を不当に減少させていたと認められるから、原処分庁が所得税法第157条の規定を適用したことは相当であると認められる。
ホ 請求人は、F社がその役員である請求人から無償又は著しく低い額で土地を借り受けたとしても、それは営利法人として当然の行為であって、経済的合理性がある旨主張するが、上記ハで述べた所得税法第157条の趣旨等に照らして採用できない。
ヘ 請求人は、本件土地については、請求人が他の共有者の持分を使用貸借により借り受け、請求人の持分と併せてその全部を請求人の責任においてF社に貸付けたものであるから、本件土地の固定資産税等の全部を不動産所得の計算上必要経費に算入すべきである旨主張する。
 請求人は、上記1の(3)のハのとおり、本件賃貸料について、本件土地の他の共有者の持分に対応する部分を含む全額を各年分の不動産所得の収入金額として申告しているが、本件使用貸借契約書は存するもののLとの間では使用貸借契約はなされておらず、また、上記ロの(ロ)及び(ハ)から、本件土地は未だ未分割の相続財産であると認められる上、そもそも資産から生じる収益を享受する者がだれであるかは、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定すべきであるから、本件土地の貸付けに伴い請求人が計上すべき不動産所得の収入金額は、請求人の持分に応じた部分とすべきである。
 このように、本件土地の貸付けに係る不動産所得の収入金額を請求人の持分に応じた部分に限定する以上、必要経費に算入できる固定資産税等も請求人の持分に応じた部分に限るべきであり、その額を計算すると別表9の「合計」欄のとおりとなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 請求人は、平成2年分の所得税について、原処分庁の調査を受けたが、賃貸に関する内容については税法上問題ないとして容認されたため、その行為計算を継続してきたものであり、請求人にはゆうじょすべき事情があると主張する。
 さらに、請求人の所得税の確定申告書を検討すれば、容易に本件賃貸料が低額であることが判明するのに、何ら申告指導などを行わず、放置しておいた原処分庁には税務行政上の瑕疵がある旨主張する。
 しかしながら、客観的事実関係を前提としてこれに租税関係の諸規定を適用した場合に更正処分が必要となるのであれば、租税負担の公平の見地からも課税庁がこれを是正することは当然の責務であり、一方、納税者は自己の判断と責任において正しい申告をする義務を有しているのであるから、前回の調査時及びその後において、本件賃貸料について低額であるとの指摘がなかったとしても、原処分庁がこれを是正できなくなるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 不動産所得の金額
 各年分の不動産所得の金額については、次の(イ)及び(ロ)から、別表10の「不動産所得の金額」欄のとおりとなる。
(イ)本件土地に係る収入金額及び必要経費に算入できる固定資産税等
 各年分の本件土地に係る収入金額は、別表5の「平均賃貸料」欄の金額に、別表2の請求人の持分に応じた面積55.92平方メートルを乗じて計算すると、別表10の「本件土地に係る収入金額」欄のとおりとなる。
 また、各年分の必要経費に算入できる本件土地の固定資産税等は、上記ヘで述べたとおりであり、別表10の「本件土地の固定資産税等」欄のとおりとなる。
(ロ)上記(イ)以外の収入金額及び必要経費
 各年分の上記(イ)以外の収入金額及び必要経費については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、各年分の上記(イ)以外の収入金額及び必要経費は、別表10の「上記以外の収入金額」欄及び「上記以外の必要経費」欄のとおりとなる。
リ 総所得金額
 各年分の不動産所得の金額以外の所得金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、各年分の総所得金額は、別表10の「総所得金額」欄のとおりとなる。
ヌ 課税総所得金額
 各年分の所得控除の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められないから、各年分の所得控除の額は、別表10の「所得控除の額」欄のとおりとなる。
 以上の結果、各年分の課税総所得金額は、別表10の「課税総所得金額」欄のとおりとなり、これらの金額は、いずれも更正処分に係る課税総所得金額を上回るから各年分の更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、各年分の更正処分は適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定によりなされた各年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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