ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.60 >> (平12.11.10裁決、裁決事例集No.60 362頁)

(平12.11.10裁決、裁決事例集No.60 362頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地、建物の譲渡所得につき、居住用財産として特別控除が認められるか否か、請求人の確定申告につき重加算税を賦課すべき事実があったか否かの2点を争点とする事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成5年4月3日に相続により取得したP市Q町5丁目1番167所在の木造瓦葺地下1階付2階建の居宅103.9平方メートル(以下「本件家屋」という。)及び本件家屋の敷地の用に供していた宅地89.41平方メートル(以下「本件家屋」と併せて「本件譲渡資産」という。)を所有していたが、平成9年2月21日にE(以下「譲受人」という。)に30,000,000円で譲渡した。
ロ 請求人は、平成10年3月16日、本件譲渡資産に係る所得(以下「本件譲渡所得」という。)について、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定(以下、この規定による特例措置を「本件特例」という。)を適用し、別表1の「確定申告」欄のとおり平成9年分の所得税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までにF税務署長に提出した。
ハ F税務署長は、これに対し、本件譲渡所得に本件特例を適用することはできないとし、平成11年2月26日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として平成11年4月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月30日付で別表1の「異議決定」欄のとおり原処分の一部を取り消した。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年12月28日に審査請求をした。
 なお、請求人は、平成11年3月15日に納税地を事業所の所在地であるP市R町5丁目8―12―4Cに変更する旨の異動届をG税務署に提出したため、これに伴い、原処分庁はF税務署長からG税務署長となった。

(3)基礎事実

 請求人の住民登録の住所は、昭和61年9月4日から平成8年6月11日まではP市S町1丁目5番1号Tマンション302号(以下「本件マンション」という。)、平成8年6月12日から平成9年2月27日までは本件家屋の所在地、平成9年2月28日以降は本件マンションであることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

トップに戻る

2 主張

(1)更正処分について

イ 請求人の主張
 原処分(異議決定により一部取り消された後のもの。以下同じ)は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 請求人は、次のとおり主たる生活の本拠として本件家屋に居住していたものであるから、本件特例を適用すべきである。
(イ)請求人は、本件家屋が相続以後空き家となっており建物が傷むため、平成6年2月上旬ごろに本件マンションから妻(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)と共に本件家屋に転居した。その後、平成9年1月ごろに譲受人から本件譲渡資産を購入したい旨の申入れがあり、同年2月に売却したが、それまでは本件家屋に居住していた。
(ロ)譲受人とは、H神社を通じた20年ほど前からの知り合いで、譲受人の娘のIが平成6年2月に結婚することになったため、I夫婦(以下「I夫婦」という。)の新居として本件家屋の2階の和室5.5畳を無償で貸すことになり、その後、平成9年2月に売却するまでの3年間、請求人らは1階に居住していた。
 なお、I夫婦に貸し付けていた部分の面積は、全体の14.7パーセントに相当し、請求人が居住の用に供していた面積は、残りの85.3パーセントに相当する。
(ハ)請求人が、本件マンションから本件家屋へ転居したときは、身の回りの物だけを自分の車で運び、再び本件マンションへ転居したときも、同じように身の回りの物だけをライトバンを借りて平成9年2月28日ごろから約3日間かけて運んだ。
(ニ)本件マンションは、請求人らが本件家屋に転居した後、平成6年2月から平成7年5月までの間は、請求人の次女(以下「次女」という。)が一人で居住し、平成7年5月に次女が婚姻転居した後、平成9年2月に請求人らが本件家屋から転居し再び居住することになるまでの間は、主に請求人の事業である真珠穴明業の事務所として使用していた。
(ホ)原処分庁は、電気、ガスの使用量は居住人数によって変動するものであるとし、それを基に請求人らが居住していたかどうかを判断しているが、それらの使用量は季節によって変動するものであり、この点に関する原処分庁の主張は失当である。
ロ 原処分庁の主張
 本件家屋及び本件マンションに係る電気、ガスの使用量並びに本件マンションの近隣住民の申述等を総合すると、請求人は、本件マンションに居住していたものと認められ、本件家屋が、請求人の主たる生活の本拠として居住の用に供されていたものと認めることはできず本件特例を適用することはできない。

(2)重加算税の賦課決定処分について

イ 請求人の主張
 請求人は、主として本件家屋に居住していたため、更正処分は取り消されるべきであるから、重加算税の賦課決定処分も取り消されるべきである。
ロ 原処分庁の主張
 請求人は、本件マンションに居住しており、本件家屋を居住の用に供していなかったにもかかわらず、本件特例の適用を受けるため、〔1〕平成8年6月12日に本件家屋の所在地に転入したとして同年9月11日にP市Q町長に対して転入届出を行い、〔2〕実体のない居住期間が記載された同区長発行の住民票除票の写しを添付して本件申告書を提出した。
 これらの行為は、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしており、重加算税の賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)更正処分について

 本件譲渡資産が、本件特例の対象となる居住用財産に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)本件家屋及び本件マンションの電気、ガスの使用量は、別表2及び3のとおりである。
(ロ)昭和44年10月17日作成の本件家屋に係る建物図面、各階平面図等によれば、本件家屋の間取りは、地下1階が車庫、1階が和室6畳、応接室6畳、台所、風呂、便所、2階が和室8畳、和室6畳、洋室6畳である。
(ハ)I夫婦は平成6年2月22日に婚姻の届出をし、同時に、本件家屋の所在地で住民登録をしており、請求人が本件譲渡資産を譲渡した後も住民登録に異動はない。
(ニ)請求人の、平成6年分及び7年分の所得税の確定申告書に記載された住所は、いずれも本件マンションの所在地である。
(ホ)本件家屋の近隣住民Aは、平成10年10月20日に原処分庁の調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、〔1〕請求人の父親が亡くなってから本件家屋は空き家となっていたが、平成6年ごろにIという新婚夫婦が転居してきた、〔2〕I夫婦以外の者が居住していたことはない旨申述した。
(ヘ)本件家屋の近隣住民Bは、平成10年10月21日に調査担当職員に対し、〔1〕自分は平成6年初めにここへ引っ越してきたが、しばらくしてIという新婚夫婦が転居してきた、〔2〕2人住まいで、時々夫方の親が来ていたが、最近は妻方の親がよく来ている旨申述した。
(ト)本件マンションの近隣住民C及び本件マンションの管理人の両名は、平成10年10月19日に調査担当職員に対し、〔1〕請求人は、本件マンションに妻及び娘と暮らしていたが、娘が結婚した後は夫婦2人暮らしであった、〔2〕阪神淡路大震災の時も本件マンションで暮らしており、途中で他所に引っ越したことはない旨申述した。
(チ)請求人は、本件家屋への入居時期と入居理由を、〔1〕調査担当職員に対しては、請求人の母親が死亡した平成2年ごろに、請求人の父親の世話をするために入居した旨申述し、〔2〕異議審理庁の調査を担当した職員(以下「異議担当職員」という。)及び当審判所に対しては、請求人の父親が死亡した平成5年4月以降空き家になっており、建物が傷むため平成6年2月上旬に入居した旨答述した。
(リ)請求人は、本件家屋での日常生活の状況を、〔1〕調査担当職員に対しては、朝食は摂っていたが夕食は月に10日位しか摂っていなかった、〔2〕異議担当職員に対しては、台所は使用していなかった旨申述し、〔3〕当審判所に対しては、主に寝るためだけの使用であり、風呂、洗濯、食事は主に本件マンションで済ませていた旨答述した。
(ヌ)Iは、異議担当者に対し、〔1〕平成6年2月に結婚し本件家屋の2階の5.5畳の一間を借りて生活を開始した、〔2〕本件家屋入居時から譲受人である父が本件譲渡資産を購入するまでの間、本件家屋の1階の6畳の間には請求人らが住んでいた、〔3〕父が本件譲渡資産を購入した後は本件家屋のすべてを居住用として使用している、〔4〕間借りしていた3年間の家賃並びに電気及びガス代は請求人の好意で支払っていなかった、〔5〕請求人らは夜遅く車で帰って来た、〔6〕請求人らが毎日帰っていたか否かは判然としない旨申述した。
(ル)請求人が、当審判所に対し、本件家屋を主たる生活の本拠として居住していたことを証明する資料として提出した平成8年9月25日消印のH神社の封筒及び平成8年1月から同年10月までの国民年金保険料納付額通知書等の郵便物の写しには、本件家屋の所在地があて先として記載されている。
ロ 本件特例の適用の可否
(イ)本件特例の対象となる「居住の用に供している家屋」とは、真に居住の意思をもってその者がある程度の期間、継続的に起居するなど実質的に生活の本拠として利用している家屋をいい、一時的な目的で短期間、臨時に使用する家屋等はこれに当たらないと解するのが相当である。
 また、「居住用家屋」は租税特別措置法施行令第23条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項で準用する同令第20条3《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第2項において、所有者である個人が居住の用に供している家屋とし、その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち「その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋」に限るものとするとされている。
 そして、いずれの家屋を主として居住の用に供していたものであるかの判断は、その者及び社会通念上その者と同居することが通常であると認められる配偶者等の日常生活の状況、入居目的、その家屋の構造及び設備の状況及び利用状況、その他諸般の事情を総合勘案して判断すべきものと解するのが相当である。
(ロ)これを本件についてみると、次のとおりである。
A 請求人らが本件家屋に居住していた状況について、別表2及び3の電気、ガスの使用量をみると、本件家屋に係る電気、ガスは、請求人らが入居したと主張する平成6年2月ごろから使用が開始されているが、請求人が本件家屋から退居したとする平成9年2月以降も使用量に顕著な増減はないことから、請求人らが電気、ガスを使用したことはほとんどなかったと推認することは可能である。
 他方、本件マンションに係る電気、ガスについてみると、請求人らが本件家屋に転居したとする平成6年2月以降、次女が結婚し転居した平成7年5月以降及び請求人らが再入居したとする平成9年2月以降も、その使用量に顕著な増減はないことから、請求人らが本件家屋に居住していたという期間においても、本件マンションにおいて転居前と同程度の電気、ガスを使用していたものと認められる。
 そして、これら客観的数値と請求人らの居住地に関する本件マンション及び本件家屋の近隣住民の申述内容並びに平成6年分及び7年分の所得税の確定申告書に請求人の住所として、いずれも本件マンションの所在地が記載されているところ、仮に請求人主張のとおり平成6年2月ごろに本件家屋に居住していたのであれば、このような記載をするとは考えにくいものであることなどを併せて判断すると、請求人らが主として居住の用に供していたのは本件マンションであり、本件家屋は、仮に使用していたとしてもその使用は、一時的ないし臨時的なものであったと推認することができる。
B この点につき請求人は、空き家となっていた家屋が傷むのを防ぐために平成6年2月上旬に本件家屋に転居した旨主張し、これを裏付けるものとして、本件家屋あての通知書等を提出した。
 しかしながら、請求人主張の転居時期と同時期に、I夫婦が本件家屋に入居しているのであるから、請求人らがあえて本件家屋に転居しなければならない必要性は認められず、本件家屋への入居時期及び入居理由についての請求人の申述ないし答述の内容にも一貫性がない。
 また、請求人提出の郵便物は、種類及び時期が限定されたものであり、これのみで上記Aの認定を覆すものではない。
 さらに、Iは、請求人らは1階に居住していた旨申述しているが、同人は、本件家屋を無償で借用し、電気、ガス料金も負担していなかったというのであって、請求人とは利害関係を同じくするものであることから、この申述内容はにわかには信用し難い。
(ハ)そうすると、請求人が主たる生活の本拠として居住の用に供していた家屋は、本件マンションであったと認められ、本件家屋は本件特例の対象となる居住の用に供している家屋には該当しないのであるから、請求人の主張は、いずれも理由がない。
 したがって、原処分庁が、本件譲渡所得の計算に当たり、本件特例に基づく特別控除の額を控除しないで、措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第4項の規定による長期譲渡所得の特別控除の額を控除して行った更正処分は適法である。

トップに戻る

(2)重加算税の賦課決定処分について

 請求人が、本件家屋の所在地に住民登録を移したこと並びに本件申告書に住民票除票の写しを添付したことが、重加算税の賦課要件を満たしているか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成8年9月11日にP市Q町長に対して、同年6月12日に本件マンションから本件家屋の所在地に転居したとして住民登録の届出をし、その旨が記載された同区長発行の住民票除票の写しを本件申告書に添付して提出した。
(ロ)請求人は、上記(イ)の届出理由について、〔1〕調査担当職員に対しては、実際の生活状況に合わせるため、〔2〕異議担当職員に対しては、選挙等の関係で行ったものである旨申述し、〔3〕当審判所に対しては、異議担当職員に対する申述内容を撤回した上で、理由は特にない旨答述した。
(ハ)請求人が本件家屋に住民登録していた期間には、衆議院議員総選挙及び参議院議員補欠選挙が実施されているが、いずれも、本件マンション所在地と本件家屋所在地は同一選挙区であった。
ロ ところで、通則法第68条第1項によれば、納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したことを重加算税の賦課要件としている。
ハ これを本件についてみると、請求人は、異議申立書において住民票を異動した理由を選挙の投票区の関係である旨記載していたが、答弁書において本件家屋の所在地と本件マンションの所在地とは同一選挙区であるとの指摘を受けて、請求人面談の際には上記異動理由を撤回し、住民票を異動した理由は特にない旨答述するに至ったものであって、住民票を異動しなければならない合理的な理由はなかったものと認められる。
 さらに、請求人は当審判所等に対して、平成6年2月上旬に本件家屋に入居した旨答述しているが、そうであるとすれば、本件家屋に入居後2年7か月も経過した平成8年9月11日に突然に、しかも、合理的な理由がないにもかかわらず、請求人はP市Q町長に対して転入届出をしたことになる。
 そうすると、上記(1)のロのとおり、請求人が生活の本拠として居住の用に供していた家屋は本件マンションであるところ、本件特例の適用を受けるための事実を仮装するために、合理的な理由もなく、あえて住民票の異動届出をしたものであり、更に、この事実に反した住民票除票の写しを本件申告書に添付して提出したことは、通則法第68条第1項の課税標準の基礎となるべき事実を仮装し隠ぺいしたことに該当すると認められるから、同項の規定に基づいてされた重加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る