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(平12.11.21裁決、裁決事例集No.60 463頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、貿易業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に係る法人税の青色申告の承認の取消処分の適否及びこれに係る通知書の理由附記の有無を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年4月1日から平成11年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を平成11年6月8日に原処分庁に提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成11年12月24日付で本件事業年度以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件取消処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件取消処分を不服として、平成12年1月4日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月8日付で棄却の異議決定をしたので、同年4月1日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成9年5月20日に原処分庁に対し法人税の青色申告の承認の申請を行い、法人税法第125条《青色申告の承認があったものとみなす場合》の規定により、平成11年3月31日において本件事業年度以後の青色申告の承認があったものとみなされた。
ロ 請求人は、上記(2)のイのとおり、本件確定申告書をその提出期限を経過した後の日である平成11年6月8日に原処分庁に提出しただけでなく、本件事業年度の前事業年度及び前々事業年度の法人税の確定申告書についてもその提出期限を経過した後の日である平成10年6月4日(前事業年度について)及び平成9年7月4日(前々事業年度について)に提出している。
ハ 請求人は、本件確定申告書の提出について、法人税法第75条《確定申告書の提出期限の延長》及び同法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》の規定に基づく提出期限の延長の申請をしていない。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により不当であるから、その取消しを求める。
イ 裁量権の濫用等について
 本件取消処分は、次のとおり、請求人に対し事前に説明や予告をすることなく行われたもので、原処分庁の裁量権を逸脱し、これを濫用して行われたものであるから、違法又は不当な処分である。
 すなわち、原処分庁から請求人に送付された申告書用紙及び書類等に、期限後申告をした場合には青色申告の承認が取り消される旨記載がされていなかったし、また、請求人が青色申告について原処分庁の担当職員に相談した際にも、青色申告の承認の取消しについて、何ら説明はなかった。
ロ 理由附記について
 本件取消処分に係る通知書(以下「本件通知書」という。)には、当該処分の理由として、「法人税法第127条第1項第4号に該当する」としか記載されておらず、本件通知書の理由附記は不備である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件取消処分について
(イ)請求人は、本件確定申告書をその提出期限までに提出していないところ、このことは、法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》第1項第4号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当することから、本件取消処分をしたものである。
(ロ)請求人は、本件取消処分は事前の説明も予告もないまま、裁量権を濫用して行われた旨主張するが、税務署から納税者に送付する申告書用紙及び書類等に青色申告の承認の取消事由を明記しなければならない旨の法令の規定はなく、また、税務署における申告相談の際に、青色申告の承認の取消事由の説明等をしなければならない旨の法令の規定もないのであって、原処分庁に裁量権の濫用はないし、そもそも、法令の規定について不知又は誤解があるからといって、その法令の適用を免れることはできないのであるから、請求人の主張には理由がない。
ロ 理由附記について
 本件通知書には、法人税法第127条第2項の規定に基づき、処分の基因となった事実として本件事業年度の法人税の確定申告書がその提出期限までに提出されていないことが、そして、このことは同条第1項第4号に該当することが記載されており、理由附記に不備はない。

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3 判断

(1)関係法令

イ 法人税法第127条第1項は、青色申告の承認を受けた法人につき、同項の各号の一に該当する事実がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該各号に掲げる事業年度までさかのぼって、その承認を取り消すことができる旨規定し、同項第4号は、上記の承認を取り消すことができる事由として確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことと、また、取り消すことができる事業年度を当該申告書に係る事業年度と規定している。
ロ また、法人税法第127条第2項は、同条第1項により青色申告の承認を取り消す場合には、当該法人に対し、書面によりその旨を通知することとし、その書面には、その取消しの処分の基因となった事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない旨規定している。

(2)本件取消処分について

イ そこで、本件取消処分の適否について検討すると、上記1の(3)のロ及びハのとおり、請求人は、本件確定申告書を、その提出期限の延長の申請をすることもなく、当該期限までに提出しなかったのであり、この事実は法人税法第127条第1項第4号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するから、上記(1)のイの規定に基づき本件事業年度以後の青色申告の承認についてなされた本件取消処分は適法といえる。
ロ この点、請求人は、本件取消処分は、事前の説明もないまま、裁量権を濫用して行われたもので違法不当である旨主張するが、法人税の青色申告の承認の取消手続において、当該処分の相手方に対し、事前に説明や予告を行わなければならない旨を定めた法令の規定はないから、原処分庁においてこれらを行わないからといって、本件取消処分が違法不当となるものではない。
 なお、法人税法第127条第1項の各号の一に該当する事実がある場合に、実際に青色申告の承認を取り消すか否かは、所轄税務署長の合理的な裁量にゆだねられているところ、その裁量権の行使が社会通念上妥当性を欠いていると認められる場合、あるいは裁量権を付与した目的を逸脱しこれを濫用したと認められる場合には、当該処分は違法又は不当ということになる。ただ、本件においては、請求人に対し事前に説明や予告がなかったからといって、本件取消処分が違法不当となるものでないことは上記のとおりであるし、請求人は、上記1の(3)のロのとおり・本件確定申告書のみならず、その前事業年度及び前々事業年度の法人税の確定申告書の提出についてもその提出期限を徒過しており、しかも、請求人の代表取締役であるEの当審判所に対する答述によれば、本件確定申告書を含むこれらの確定申告書の提出がその提出期限を徒過した理由は、請求人の事務処理の遅れというのであって、これらの事情に照らすと、本件取消処分が裁量権を濫用して行われたということはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)理由附記について

 請求人は、本件通知書の理由附記は不備である旨主張するので、この点について検討する。
イ 法人税法第127条第2項は、青色申告の承認の取消処分の通知書には、その取消しの処分の基因となった事実が同条第1項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない旨規定するところ、その趣旨は、青色申告の承認の取消しに関する処分庁の判断の慎重と公正妥当を担保して、その恣意を抑制するとともに、取消しの理由を相手方に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることにあると解される。
 この趣旨からすれば、当該通知書に記載する理由附記の程度としては、当該取消処分の基因となった事実を、相手方が知り得る程度に具体的に特定して摘示する必要があり、かつ、それで足りると解するのが相当である。
ロ これを本件通知書の理由附記についてみると、本件取消処分は本件確定申告書をその提出期限までに提出しなかったことをその理由とするものであるところ、本件通知書には、本件取消処分の基因となった事実として、本件確定申告書がその提出期限までに提出されていないことを明示した上で、当該事実が法人税法第127条第1項第4号に該当する旨を記載していることが認められる。
 そうすると、本件通知書には、法人税法第127条第2項の規定に基づき、本件取消処分の基因となった事実を請求人が知り得る程度に具体的に特定して摘示していると認められるので、その理由附記に不備はないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張にも理由がない。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

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