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(平12.7.12裁決、裁決事例集No.60 546頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求に至る経緯とその内容は、別表1ないし別表2に記載のとおりであり、審査請求人a、b及びc(以下「請求人ら」という。)は、平成11年6月3日に異議申立てをしたが、3月を経過しても異議決定がないことから、同年10月4日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、aを総代として選任し、その旨を同年10月4日に届け出た。

(2)事案の概要

 請求人らは、平成8年6月17日に死亡した被相続人d(以下「被相続人」という。)に係る相続税につき、相続財産のうち株式会社e(以下「評価会社」という。)の株式50,740株(以下「本件株式」という。)の価額を昭和39年4月25日付直資56ほか1課共同「財産評価基本通達」(平成11年7月19日付課評2―12ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)185《純資産価額》ないし186―2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》に定める方法によって、1株当たり14,574円、総額739,484,760円と算定して申告した。
 これに対して、原処分庁は、評価会社においては、合併により株式会社f(大阪証券取引所第2部上場会社。以下「f社」という。)の株式を著しく低い価額で受け入れたことによって創り出された評価差額(合併時におけるf社の株式の時価と合併による同株式の受け入れ価額との差額)があるので、評価通達の定めによって本件株式の価額を算定するのは著しく不適当であるとして、純資産価額の計算上、この評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除せずに1株当たり25,931円、総額1,315,738,940円と算定して原処分を行った。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 調査手続について
 請求人らは、評価通達179《取引相場のない株式の評価の原則》の(3)、同185ないし186の定めに基づいて本件株式を評価し、期限内申告をした。
 本件更正処分は、評価通達186―2の(2)のかっこ書きの定めを適用したものと思われるが、仮に、この定めを適用すべきであるならば、当初申告のときからその指摘があってしかるべきであり、本件税務調査の初期段階から課税当局としての確固とした信念に基づいて強い指摘がされるべきである。
 課税当局には一貫性が強く求められるところ、原処分庁は、調査の終局段階において唐突に本件株式の評価額を問題とし、請求人らが再三にわたって説明を求めたにもかかわらず、納得のいく説明のないまま突然に更正処分等を行った。
 このように調査当初から主要な争点となるべき事項が、調査の終局段階において唐突に更正処分の対象となったことは著しく公正さを欠き不当である。
 また、原処分庁の説明は、評価会社を純資産価額方式で評価する場合において法人税額等相当額を控除することができないというだけで、行政処分における納税者の知る権利を著しく侵害した行為であって、不当の誇りは免れない。
ロ 更正処分の理由附記について
 更正の理由附記は法的要件とされているものではないが、本件更正処分の理由は「株式会社eの株式評価に誤りがあったため」とあるだで、更正に至った根拠法令の明記もないばかりか、株価がどのような計算過程によって算定されたものか全く不明である。
 少なくとも根拠法令及び計算根拠が示されるべきであるのに、極めて不十分な理由附記であり、法の要請する理由附記があったものとはいえないから、本件更正処分は取り消されるべきである。
ハ 更正処分について
(イ)評価通達186―2の(2)は、平成6年6月27日付課評2―8ほか1課共同「財産評価基本通達の一部改正について」により、「現物出資により著しく低い価額で受け入れた取引相場のない株式がある場合には」と改正された。
 しかるに、評価会社の主な財産は、有限会社eを吸収合併することによって受け入れた財産からなっており、「現物出資」に基因するものではない。また、評価会社が合併によって受け入れた財産は、上場株式又は市場価格を有する有価証券であって、「取引相場のない株式」ではない。
 租税法律主義の下にあっては、可能な限り明文解釈をすべきであるから「合併」によって受け入れた「上場株式」にこの通達が適用される余地はない。
 平成6年6月27日付の通達改正後の評価通達186―2の(2)が例示的な定めであるとすれば、その趣旨から、合併によって受け入れた上場株式についてもこの通達の適用があると解する余地が全くないとはいえない。
 しかしながら、この評価通達186―2の(2)は、平成11年7月19日付課評2―12ほか1課共同「財産評価基本通達の一部改正について」により、「現物出資又は合併により著しく低い価額で受け入れられた資産がある場合には」と改められ、改正通達186―2の(2)は、平成11年9月1日以降に相続等により取得した財産の評価に適用されることとされ、この改正の経緯に照らせば、平成8年6月17日相続開始の被相続人に係る相続税について、原処分庁の主張するような評価をすることができないことは明らかである。
(ロ)本来、法令が定める客観的価値としての株式の時価を算定するに当たって、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除するのは当然のことであって、これを控除せずに評価した更正処分は極めて過酷な処分であり、原処分庁の主張に係る評価会社の1株当たりの株価25,931円は著しく高額で、このような価額では引き取る者はいない。評価通達186―2の(2)のかっこ書きの定めが設けられた趣旨は、作為的に創り出された評価差額に対する法人税額等に相当する金額の控除を通じて、一般の納税者との間に著しい課税の不公平が生じないようにすることを目的とするものであるが、本件において相続税額を納付するに当たり、今後予想される事態は、法令が本来予想する事態とは随分と様相を異にするといわざるを得ず、同通達を適用することは、かえって課税の公平にもとることになる。
 すなわち、現に、評価会社においては「合併による受入差額」が相当額発生しているのであり、加えて、本件には、次のような特有の事情があり、同通達のかっこ書きの取扱いを本件に適用するのは明らかに法令の適用又は解釈を誤ったものである。
A 相続人らはこれまで被相続人に係る相続に関して、おおよそ12億円のキャッシュフローを余儀なくされているので、株式会社eが保有する株式を売却して資金を確保せざるを得ない。売却に当たっては、同社には評価差額に対応する法人税等が課せられることになり、その負担が現実の問題となっている。
B さらに、本件においては、相続人らが相続した株式会社eの株式を物納することによって相続税等を納付せざるを得ない。
(ハ)評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》は、「経済的合理性を著しく欠く(動機を含めた)行為」の有無を表面的に判定して適用するのではなく、その事例の具体的な事実関係や取引の実態に照らし、評価通達の適用があるか否かを慎重に検討し、検討を行った結果によっても、なお評価通達を適用をした場合には著しく課税の公平が損なわれると認められる事例に限って適用されるべきであって、評価通達6の適用にはこのような慎重さが要求されている。
 請求人らは、評価差額が生じた原因や経緯が不自然不合理で、将来を見越して観察しても、看過しがたいほどの課税上の不公平が生じている場合には、評価通達6の趣旨に照らして、評価差額に対する法人税額等の控除を定めた評価通達の適用がないのは当然のことと考えるが、本件の場合は、そのような事情がないのであるから、評価通達6を適用すべきでない。
(ニ)原処分庁は、有限会社eとの合併によって受け入れた上場株式の合併時の市場価格と帳簿価額との差額を評価差額としているが、有限会社eが有していたf社の株式はすべて同じ条件で取得したものではなく、取得の態様は、〔1〕現物出資、〔2〕クロス取引、〔3〕無償交付及び〔4〕転換社債の4種類から成っているのであるから、それぞれの態様に応じた計算がなされるべきである。
ニ 賦課決定処分について
 本件更正処分は、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定されている正当な理由(税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変された。)がある場合に該当するので、過少申告加算税の賦課決定処分は取り消されるべきである。

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(2)原処分庁の主張

イ 調査手続等について
 調査担当職員は、数回にわたり、g税理士及びh税理士を通じ、あるいは直接、総代のaに対し、本件株式を評価通達によって評価することが著しく不適当であるため、評価通達6に基づき国税庁長官の指示を受けて評価することが相当であり、評価通達186―2の(2)のかっこ書きの定めによって評価すべきである旨の説明をし、修正申告のしょうようを行っているから、請求人らの主張には理由がない。
ロ 更正の理由附記について
 相続税法には、更正する場合に理由附記をすべき旨を定めた規定はないから理由附記をしなかったとしても相続税に係る更正処分が違法になることはない。
 そうすると、本件更正処分に係る更正通知書の理由附記が不備であるかどうかを判断するまでもなく、この点についての請求人の主張には理由がない。
ハ 更正処分について
 評価会社においては、有限会社eを吸収合併するに当たり、著しく低い価額でf社の株式を受け入れているが、これは、純資産価額を算定するに当たり評価差額に対する法人税額等相当額の控除することを定めた評価通達186―2の定めを利用し、本件株式の評価額を圧縮するために、恣意的に評価差額を創り出したものであると認められる。
 仮に、請求人らが主張するとおりに、同通達のかっこ書きの文言にとらわれて、「現物出資」により受け入れたものでないこと及び受入資産が「取引相場のない株式」でないことから、同通達のかっこ書きの適用ができないとすると、著しい不公平が生じ、同かっこ書きが設けられた趣旨が生かされないことは明白である。
 したがって、本件株式の評価においては、評価通達によらないことが相当と認められる特別な事情があると認められるから、相続時評価差額のうち合併時評価差額に対応する法人税額等相当額の控除を行うことは適当でない。
 したがって、合併時評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないで本件株式を評価した本件更正処分は正当である。
ニ 賦課決定処分について
 本件更正処分は上記ハのとおり適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
ホ 以上のとおり、原処分は適法であり、請求人らの主張には理由がないから、審査請求人a及びcからされた審査請求は、いずれも棄却されるべきである。
 また、審査請求人bからされた審査請求は、却下されるべきである。

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3 判断

(1)調査手続等について

イ 請求人らは、本件株式の評価額の問題は調査の終局段階において唐突に提起されたもので、請求人らが再三にわたり説明を求めたにもかかわらず、調査担当職員は納得のいく説明を行わず、突然に本件更正処分を行ったことは、著しく不当である旨主張する。
 しかしながら、更正処分等を行うに当たって、納税者の同意を得た上で、あるいはあらかじめ連絡等を行った上で処分を行わなければならないことを定めた法令の規定はないし、また、当審判所が調査したところによれば、調査担当職員は、平成10年10月20日に被相続人宅を訪れ本件税務調査に着手した後、次のとおり、請求人らに対し、申告に係る本件株式の評価額を認容することができないことについて説明を行い、また、修正申告をしょうようした上で本件更正処分等をした事実が認められるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(イ)平成10年12月4日にj税務署において、本件相続税の申告代理人であるg税理士及びh税理士並びにg会計事務所職員kに対し、本件株式を評価通達によって評価することが著しく不適当である旨を説明し、修正申告をしょうようした。
(ロ)平成11年1月11日にm国税局において、g税理士及びh税理士に対し、修正申告に応じない場合には更正処分を行う旨を伝えた。
(ハ)平成11年2月9日にm国税局において、請求人総代のa、同人の配偶者n、g税理士、h税理士及びg会計事務所職員kに対し、本件株式の評価額の計算内容を説明した上、同月12日を期限とし、修正申告のしょうように応じるかどうかの回答をするよう伝えた。
(ニ)平成11年4月2日に電話により、g税理士に対し更正処分等をする旨の連絡をした。
ロ 請求人らは、更正の理由附記が不備である旨主張するが、相続税の更正処分を行うに際し、更正の理由を附記しなければならないことを定めた法令の規定はないから、仮に本件更正処分に理由が全く附記されていなくても、そのことで処分が違法又は不当となるものではないから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ハ また、請求人らは、原処分庁の主張する本件株式の評価額が正当であるとするならば、課税当局には一貫性が強く求められるのであるから、当初の申告のときから指摘があってしかるべきであり、本件税務調査の初期段階から課税当局としての確固とした信念に基づく指摘があって当然であると主張する。
 しかしながら、申告内容の正否は、事実関係を詳細に調査しだ結果によって収集した証拠を基に、総合的かつ客観的な観点から事実認定をした上、これに法令の規定を適用してはじめて明らかになるものであって、当初の申告のとき又は税務調査の初期段階から、その正否を誤りなく認定することは事実上不可能であるというべきであるし、これらの時期において、申告内容の正否を明らかにして、課税当局としての見解を表示しなければならないことを定めた法令の規定もないから、この点に関する請求人の主張も採用することはできない。

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(2)相続税の更正処分等について

イ 更正処分について
 本件更正処分に係る中心的な争点は、評価会社の株式の価額を評価通達に定める純資産価額方式によって評価するに当たり、評価会社が保有する電響社の株式の相続税評価額と帳簿価額との評価差額に対する法人税額等相当額を純資産価額から控除すべきか否かであるので、以下、この点について検討する。
(イ)当審判所の調査によれば、次の各事実が認められる。
A 昭和62年5月11日、被相続人、b、a及び同人の配偶者n(似下「被相続人ら」という。)は、出資総額30,300,000円(1口1,000円、総出資口数30,300口)で有限会社eを設立し、出資金のうち20,200,000円はf社の株式202,000株を現物出資(1株当たりの受入価額100円)し、また、10,100,000円は現金で出資した。
B 有限会社eは、昭和63年3月11日に21,000,000円の増資をしたが、その後、平成2年12月31日に至り、50,274,000円の減資(50分の1に減資)をし、その結果、資本金は1,026,000円となった。
C 平成2年11月28日、被相続人らは、P證券○○支店においてf社の株式1,475,000株を1,475,000,000円(1株当たり1,000円)で売却する旨の売注文を行い、他方、有限会社eは、同支店において当該売注文と同数の同株式を同額で購入する旨の買注文を行った結果、いわゆるクロス取引により、これらの両注文に係る取引が成立した。
D 同年12月3日、被相続人らは、P證券○○支店から送金された上記Cのf社の株式の売却代金に手持ち資金を加えた計1,477,000,000円を有限会社eに貸し付け、他方、有限会社eは、同日、被相続人らから借り入れた金員をもってP證券○○支店に対してf社の株式の購入代金を支払った。
E 有限会社eは、〔1〕不動産の賃貸及び管理、〔2〕有価証券への投資及び運用、〔3〕健康器具の販売及び健康に関する情報の収集サービス、〔4〕前各号に附帯する一切の業務を事業目的とする青色申告法人であるが、同社の設立(昭和62年5月11日)以後の各事業年度の売上高及び申告所得金額は、次のとおりである。

F 平成3年2月14日、有限会社eは、1,476,894,000円の増資を行った。
G 同日、被相続人らは、上記Fの増資払込みをすべて引き受け、q銀行○○支店から1,470,500,000円を借り入れて、これに手持ち資金を加え、有限会社eの増資払込金を支払った。
 なお、この借入金の返済期日は、翌日の15日とされた。
H 上記Gの増資払込金は、1口当たり131,000円で、このうちの1,000円は資本金に、残余の130,000円は資本準備金にそれぞれ繰り入れられ、その結果、同社の資本金は12,300,000円、資本準備金は1,515,894,000円となった。
I 同月15日、有限会社eは、上記の増資払込金をもって、前記Dの被相続人らからの借入金1,477,000,000円を返済した。
J 同日、被相続人らは、上記Iの有限会社eからの貸付金の返済金をもって、前記Gのq銀行○○支店からの借入金を返済した。
K 同年3月6日、被相続人らは、f社の子会社である株式会社rの発行済株式総数40,000株すべてを20,000,000円(1株500円)で購入した。
L 平成4年2月14日、株式会社rは、有限会社eを吸収合併し、有限会社eが保有する有価証券のうち、f社の株式は1株50円で、また、その他の上場株式は有限会社eの帳簿価額と同額で受け入れた。
 なお、平成4年2月のs証券取引所第2部におけるf社の株式の最終価格の平均額は○○円である。
M 同月20日、株式会社rは株式会社eと商号を変更した。
N 株式会社rは、前記Kの被相続人らによる株式買収に先立つ平成2年8月18日に、同社の業務の中心であった痩身美容教室等に関する営業を譲渡した。
 当該譲渡の日の直前に終了した事業年度以降の同社(上記Mによる商号変更後は株式会社e)の各事業年度の売上高及び申告所得金額は、それぞれ次のとおりであり、このうち営業譲渡がされた後の売上高は、主として不動産管理収入から成っている。

O 前記Gのq銀行○○支店からの借入れに当たり、被相続人らは、同支店に対して「t」の社名入りの便箋を用いて作成された「株式対策提案書」及び「持分移動と贈与の有無」と題する各文書を提出しており、当該各文書には、「91―01―22 10:52tKK」と平成3年1月22日10時52分にtKKからファックス送信されたことを示す印字があり、このうち「株式対策提案書」と題する文書には、被相続人らが所有するf社の株式を売却し、有限会社eにこれを取得させる方法、その取得資金及び取得に伴う費用並びに同社の増資資金の資本金及び資本準備金への組入金額、増資の引受者の氏名として被相続人ら各氏名と各人ごとの出資口数及び出資金額などが記載されており、また、「持分移動と贈与の有無」と題する文書には、f社の株式の売却金額、有限会社eの増資払込金額及び株式会社rの株式の買取金額が記載されており、これらの文書に記載されている内容は、前記各認定事実に掲げた内容と同一である。
P q銀行○○支店は、前記Gの被相続人らの1,470,500,000円の融資の申込みの目的が主としてf社のオーナー会長である被相続人の相続対策のための必要資金であり、相続対策の第2段階として有限会社eの増資払込資金を被相続人らが必要としていること、また、この資金は増資払込後に有限会社eから被相続人らに対し、借入金の返済金として還流し、融資の翌日に被相続人らから回収される予定であることを了知した上で、被相続人らが推進している相続対策に協力するために貸付が実行された。
Q 上記「t」又は「tKK」は、被相続人らがP證券○○支店から紹介されたw税理士を介して、上記の相続対策の企画を依頼した株式会社tが使用している名称で、同社は、〔1〕コンピュータによる財務会計計算業務の受託、〔2〕経営コンサルタント業及び〔3〕前各号に付帯する一切の事業を事業目的としている。
R 調査担当職員が、平成10年10月27日に請求人a宅を訪れた際に、有限会社e、株式会社r及び両社が合併した後に商号を変更した株式会社eの各社に関し、設立から合併に至る一連の手順を示す文書のほか、「t」の社名入りの便箋を用いて作成された「合併受入仕訳」及び「財産鑑定書」と題する文書などの提示を受けた。
S 有限会社eは、前記Lの合併直前において、法人税法施行令第35条《有価証券の評価の方法の選定》第2項の規定に基づく有価証券の評価の方法の選定の届出をしていない。
(ロ)以上の各認定事実によれば、被相続人らは、株式会社tの指導の下で、上記(イ)のC以降の各取引を行ったものと認められる。
 その第一段階は、資金の拠出をほとんど行わずに、被相続人らが保有するf社の株式を有限会社eへ移転するための手段であり、被相続人らにw税理士を紹介したp證券○○支店がこの取引の一端を担い、クロス取引により当該株式を移転(譲渡)したもので、株式の譲渡所得につき源泉分離課税の選択ができるように同支店を介在させたものと認められる。
 他方、株式の取得者である有限会社eがp證券○○支店に対して支払う株式の買付代金の決済金は、そのほとんどが同支店から被相続人らに支払われた売付代金の決済金をそのまま流用することによって形成されたもので、当該流用された金員は、有限会社eが被相続人らから借り入れたように法形式が整えられているが、要するに、これらの各取引により、p證券○○支店から拠出されたf社の株式の決済代金は、被相続人らに支払われ、次いで有限会社eを経て、p證券○○支店に還流したに過ぎない。
 その第二段階は、有限会社eの被相続人らからの上記借入金を弁済するための手段で、同社の営業実績から勘案すれば、f社の株式を処分せずに1,475,000,000円もの借入金を返済することは極めて困難であると認められるのに、被相続人らは、有限会社eの出資金等の額を借入金の額を上回る金額にまで増資して、その払込みをすべて引き受け、そのためにq銀行○○支店から期間が1日だけの借入れを行い、当該借入金を増資払込金に充当するという方法でこの計画を実行したものである。
 この計画を実行するため、有限会社eは、有限会社法(平成2年法律第64号による改正前のもの。)第10条が「出資一口ノ金額ハ均一トシ千円ヲ下ルコトヲ得ズ」と規制しているだけであることに着目し、被相続人らから払い込まれた増資払込金の実に99パーセント強に相当する金額を資本準備金に繰り入れ、当該金額の範囲内で被相続人らからの借入金1,475,000,000円の返済を行い、当該返済金は、被相続人らを経て、q銀行○○支店が融資した翌日に再び同支店に還流している。
 そして最終段階は、有限会社eに移転した上記f社の株式の帳簿価額を圧縮するための手段であり、被相続人らは、あらかじめf社の子会社である株式会社rに営業譲渡を行わせ、これによって形骸化した同社の株式すべてを買収した上、有限会社eを吸収合併する方法によって有限会社eが保有する有価証券のうち、f社の株式を時価に比して著しく低い価額で受け入れ、もってf社の株式の帳簿価額をおよそ20分の1に圧縮し、評価通達に定める純資産価額計算上の評価差額を創り出したものである。
 このように各段階において、特異な取引が行われたのは、被相続人らが株式会社tの指導の下で、同社の企画を実行したもので、被相続人らの行為は、被相続人の保有するf社の株式についての相続対策を行う目的のみで行われたものであり、このことは、前記(イ)のPないしRの各認定事実からも明白である。
(ハ)ところで、評価通達は、小会社の株式評価は純資産価額方式によることを基本としており(同通達179の(3))、純資産価額の計算上、相続税評価額と帳簿価額との差額に対する法人税額等相当額を控除することとしている(同通達186及び186―2)。
 これは、小会社は事業規模や経営の実態からみて個人企業に類似するものであり、これを株式の実態からみても、株式を保有することを通じて株主が会社資産を完全支配しているところから、個人事業者が自らその財産を所有している場合と実質的に変わりはないため、純資産価額方式によって評価することを基本としているのであるが、小会社の株式といえども、それが「株式」である以上は、株式の保有を通じて会社の資産を間接的に所有することになるので、個人事業主が個々の事業用資産を直接所有している場合とでは、その所有形態が異なることから、両者の事業用財産の所有形態を経済的に同一の条件の下に置き換えた上で評価の均衡を図ったものである。
 すなわち、前記評価通達の定めは、評価会社の資産の相続税評価額と帳簿価額との評価差額を法人税法第92条《解散の場合の清算所得に対する法人税の課税標準》に規定する清算所得の金額とみなし、事業用資産の所有形態を法人所有から個人所有に変更した場合に課税されることとなる清算所得に対する法人税額等に相当する金額を純資産価額から控除する方法であり、上記のとおり、経済的に同一条件の下に置き換えをしたものであって、評価通達186―2の定めによる株価計算は、評価会社が解散し、清算が結了したとした場合の会社財産の価値を測るものにほかならず、いわば特殊な条件下における評価方法であるということができる。
 そして、そもそも株主たる地位が化体した「株式」の価値は、評価会社が現に社会的実在として活動しており、今後も継続企業として存続していくことを前提として評価するのが原則であるから、評価会社の純資産価額は、常に評価差額に対する法人税額等相当額を控除して算定しなければならないものではなく、したがって、これを控除せずに純資産価額を算定したとしても相続税法第22条《評価の原則》の「時価」の意義に反するものではない。
(ニ)前記(ロ)の認定のとおり、被相続人らが経済的に不自然、不合理な一連の行為を繰り返した後、株式会社eの株式を取得した目的は、株式会社rが有限会社eを吸収合併することにより、有限会社eに移転させていたf社の株式を著しく低い価額で受け入れることにあり、これにより多額の評価差額を創り出し、これに対して形式的に評価通達の定めを適用して法人税額等相当額を控除することにより、本件株式の評価額を圧縮することを企図したもので、被相続人らがこのような手段を講じて本件株式を取得した目的は、専ら被相続人に係る相続税の負担の軽減を図るためであったものと認められる。
 また、前記(ハ)で述べたように、評価差額に対する法人税額等相当額を控除するのは、個人事業者が個々の事業用資産を直接所有している場合と株式の保有を通じて会社の資産を間接的に所有する場合との均衡を図るものであるが、本件のように租税負担の軽減を図って作為的に評価差額を創り出した場合にまで、当該評価差額に対する法人税額等相当額を控除することは同通達の趣旨を著しく逸脱するものであって、このような保有形態を利用していない一般の納税者の租税負担を考慮すれば、課税の公平の観点からみても、看過し難いものである。
 そうすると、本件株式については、評価通達に定める方法によって評価することが著しく不適当となる特別の事情があると認められることから、評価通達6の定めにより、合併によって創り出された評価差額に対する法人税額等相当額を控除せずに計算した金額が相続税法第22条の「時価」に当たると解するのが相当である。
(ホ)以上に対し、請求人らは、法令が定める客観的価値としての株式の時価を算定するに当たって、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除するのは当然のことである旨主張するが、仮に、株式会社eが、請求人らの主張のとおり、その保有する株式を売却しなければならないような事態に陥っており、同株式を売却をした場合には、被相続人らによって創り出された評価差額に対しても法人税等が課されることになるとしても、前記(ハ)のとおり、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除して評価するのは、むしろ特殊な条件下における価額を求めるものであるから、かかる事態を本件株式の評価上考慮すべき理由はない。
(ヘ)なお、請求人らは、本件株式の純資産価額の計算上、有限会社eが有していたf社の株式は、すべてが同一の態様で取得したものではないので、当該態様の別に評価差額の計算をすべきである旨主張するが、前記(イ)のSで認定したとおり、法人税法施行令第35条第2項の規定に基づく有価証券の評価の方法の選定の届出をしていない場合の有価証券の評価額(帳簿価額)は、総平均法による原価法で算定することとなるから、この点に関する請求人らの主張にも理由がない。
(ト)また、請求人らは、評価通達186―2の(2)の改正について主張するが、前記(ニ)で説示したとおり、本件においては、同通達186及び186―2を適用して評価するのは相当でないと認められるのであるから、この点に関する請求人らの主張はその前提を欠き理由がない。
(チ)以上のとおり、本件株式の評価に当たっては、法人税額等相当額を控除せずに算定すべきであるから、これを控除せずに行った原処分の評価は適法であり、この点に関する請求人らの主張は理由がない。
ロ 賦課決定処分について
 請求人らは、仮に、本件更正処分が適法であったとしても、当初申告の時点において本件株式の評価に評価通達6の適用があることは想定していなかったのであるから、本件株式の評価が過少であったことにつき国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当する旨主張するが、同項にいう正当な理由とは、申告に係る税額に不足が生じたことについて、納税者が通常の状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰すことができない事情が存在した場合などを指すものと解され、具体的には、〔1〕税法の解釈に関して申告当時に公表されていた公的見解がその後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、〔2〕災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けた等のため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、及び〔3〕その他真にやむを得ない事由があると認められる場合等がこのような事例に該当すると解される。
 これを本件についてみると、本件株式の評価額が過少となった原因は、前記認定のとおり専ら被相続人に係る相続税の負担を軽減する目的で本件株式を取得し、これに評価通達を形式的に適用することにより評価額の圧縮を企図したことによるものであって、相続税の納付すべき税額が過少申告となったことについて上記に述べたような正当な理由がある場合には該当しないから、これに対して過少申告加算税を賦課したのは適法というべきである。
 したがって、この点に関する請求人らの主張にも理由がない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 なお、審査請求人bからの審査請求が対象とする処分は、納付すべき税額を増加させる処分ではなく、審査請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえないから、これに対する審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。

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