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(平12.10.20裁決、裁決事例集No.60 605頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、共同審査請求人が、相続に起因した同人ら名義の不動産に対する差押処分につき、被相続人には相続財産はなく、相続税の納税義務もないとして、原処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 共同審査請求人E(以下「E」という。)及びF(以下「F」といい、両名を併せて「請求人ら」という。)並びにG(以下「G」という。)は、平成5年5月9日に死亡したH(以下「H」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税について、法定申告期限までに相続税の申告を行わなかった。
ロ このため、I税務署長は、平成10年10月27日付で、Hの共同相続人に対し、本件相続に係る相続税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件決定処分等」という。)をした。
 なお、本件決定処分等及び滞納国税の状況は、別表1のとおりである。
ハ 原処分庁は、平成11年1月28日付で、国税通則法(以下「通則法」という。)第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定により、I税務署長から徴収の引継ぎを受け、請求人らに対し、別表1に記載した滞納国税及び相続税法第34条《連帯納付の義務》第1項による連帯納付責任額に対する滞納処分として、平成11年10月21日付で、別表2の不動産(以下「本件不動産」という。)について差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
ニ 請求人らは、本件差押処分を不服として平成11年12月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成12年2月16日付で棄却の異議決定をしたので、同年3月15日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、同日、Eを総代とする選任届を提出した。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ E及びGは、Hの子であり、Eは、Hの夫J(以下「J」という。)の養子である。また、Fは、HとJの養子であり、請求人らは、夫婦である。
ロ 本件不動産は、Jが所有していたところ、Jは、昭和48年7月21日に死亡し、H及び請求人らが各3分の1の持ち分で相続した旨の共有持分登記がされた。
ハ 請求人らは、本件決定処分等についての異議申立てを行っていない。
ニ I税務署長は、請求人ら固有の相続税及び連帯納付責任額が納期限である平成10年11月27日までに納付されなかったため、請求人らに対し、平成11年1月19日付で督促状を送達したが、請求人らは、督促状が発せられた日から起算して10日を経過した日以後においても完納しなかった。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部を取り消すべきである。
もともとJの真正な相続人は、Eのみで、形式上、F及びHも含めた3名を相続人としたにすぎない。このことを証する遺言書等はないが、EがJの死亡に伴う相続税や固定資産税を支払っているのであるから、Hは、本件不動産をJの相続により取得していないし、また、他に請求人らがHから相続すべき財産もないから、相続税の納税義務は生じない。
 したがって、相続税の納税義務がないのに行われた本件決定処分等そのものが違法であるから、違法な本件決定処分等に起因して行われた本件差押処分も違法である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
 Hが本件不動産の共有者であったことは、前記基礎事実ロのとおり、共有持分登記がされていることから明らかであり、また、請求人らは、本件決定処分等につき、法定の不服申立期間内に不服申立てを行っていないのであるから、本件相続に係る相続税は、適法に確定している。さらに、そもそも租税の課税処分と滞納処分は、それぞれ別個の法律効果の発生を目的とする別個独立した処分であり、課税処分に不服があることを理由に、滞納処分である本件差押処分の取消しを求めることはできないものである。
 したがって、本件差押処分は適法である。

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3 判断

(1)本件決定処分等について

イ 国税の課税処分と滞納処分とは、それぞれ目的及び効果を異にする別個の手続による行政処分であり、前者の違法性は後者に承継されず、仮に前者に瑕疵があったとしても当該課税処分の瑕疵が重大かつ明白で当然無効であるか、権限のある者によって取り消されない限り滞納処分の効力に影響を及ぼすものではないと解されている。
ロ そこで、これを本件について見ると、前記基礎事実ロのとおり、Jの死亡に伴って、本件不動産につき相続を原因とするH及び請求人ら3名の共有持分登記がされているのであるから、Hは本件不動産の共有者であると推認され、かつ、同ハのとおり、請求人らは、本件決定処分等について異議申立ても行っていないのであるから、課税処分である本件決定処分等は適法に確定しているというべきである。
 この点について、請求人らは、Eが相続税や本件不動産の固定資産税をすべて負担しているから、Jの相続開始時における真の相続人はEのみであり、F及びHは、形式的な相続人にすぎない旨主張するが、たとえ、これらの負担をEがしていたとしても、Hが共有持分を有していたとの推認を覆すものでなく、請求人らの主張を裏付ける遺言書等の直接的な証拠もない。
 本件においては、本件決定処分等について重大かつ明白な瑕疵があり当然無効であるということはいえず、また、権限のある者によって取り消された事情も認められないから、請求人らの主張には理由がない。

(2)本件差押処分について

イ 通則法第37条《督促》第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定している。
 そして、国税徴収法第47条《差押の要件》第1項は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ロ これを本件についてみると、前記基礎事実ニのとおり、本件決定処分等により確定した各相続人固有の相続税及び連帯納付責任額について、請求人らは、納期限である平成10年11月27日までに完納せず、平成11年1月19日付で督促状により督促がされたにもかかわらず、督促状が発せられた日から起算して10日を経過した日以後においても完納しなかったため、原処分庁が本件不動産を差し押さえたことが認められるから、本件差押処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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