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(平12.11.27裁決、裁決事例集No.60 612頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、納税者E(以下「滞納者」という。)の滞納国税に係る差押処分の対象とされた別紙差押債権目録の債権(滞納者が契約した養老生命共済に係る満期共済金の支払請求権及び解約返戻金の支払請求権)が、滞納者の父である審査請求人(以下「請求人」という。)に帰属するか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、F税務署長から、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成9年9月19日付で滞納者に係る別表1の滞納国税について徴収の引継ぎを受け、さらに、同年12月12日付で滞納者に係る別表2の滞納国税について徴収の引継ぎを受けた(以下、別表1及び別表2の滞納国税を「本件滞納国税」という。)。
ロ 次に、原処分庁は、本件滞納国税を徴収するため、別紙差押債権目録記載の養老生命共済契約(以下「本件養老生命共済契約」という。)に基づく満期共済金の支払請求権及び解約返戻金の支払請求権(以下、これらの支払請求権を併せて「本件債権」という。)について、平成12年2月16日付で第三債務者であるG農業協同組合(以下「G農協」という。)あてに債権差押通知書を送達し、これを差し押さえた(以下、この処分を「本件差押処分」という。)。
ハ 請求人は、本件差押処分を不服として、平成12年4月7日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件養老生命共済契約は、平成2年5月22日付で滞納者を共済契約者としてG農協との間で締結されたものであり、本件養老生命共済契約に係る共済証書には、共済契約者及び満期共済金受取人は共に滞納者と記載されている。
ロ JA共済が発行している養老生命共済に係る「ご契約のしおり」には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)共済契約者とは、組合と養老生命共済契約を締結し、契約上の権利(契約内容変更等の請求権など)及び義務(共済掛金支払義務など)を有する者をいう。
(ロ)共済金受取人とは、共済契約者により指定された者で共済金を受け取ることができる者をいう。
ハ JA共済が発行している「養老生命共済約款」には、要旨次のとおり記載されている。
(イ)養老生命共済契約により組合が支払う満期共済金の受取人は、満期共済金受取人とする(養老生命共済約款第10条第1項)。
(ロ)共済金受取人は、共済金の支払事由が発生したことを知ったときは、定められた書類を組合に提出して、その支払を請求する(養老生命共済約款第12条第1項)。
(ハ)共済契約者は、組合の定める手続により、いつでも、将来に向かって養老生命共済契約を解除することができる(養老生命共済約款第28条)。
(ニ)組合は、養老生命共済契約が解除され、又は消滅した場合には、組合の定めるところにより、共済掛金積立金に相当する額の返戻金を共済契約者に返戻する(養老生命共済約款第33条第1項)。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件差押処分の取消しを求める。
イ 本件養老生命共済契約は、請求人が滞納者の名義を借りて契約したものである。
ロ 共済掛金は、請求人及び請求人の妻名義のG農協H支店の貯金口座から引落としにより支払われている。
ハ 上記イ及びロのことから、本件債権は、請求人に帰属する。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 上記1の(3)のロ及びハのとおり、養老生命共済契約における権利、義務の当事者となるのは共済契約者であり、本件養老生命共済契約の共済契約者は滞納者であるので、本件債権は滞納者に帰属する。
ロ ところで、納税者が国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならないとされており(国税通則法第37条《督促》第1項)、督促に係る国税がその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納されない場合には、国税徴収法その他の法律の規定により滞納処分を行うとされている(国税通則法第40条《滞納処分》)。
ハ そこで、本件滞納国税について、別表1及び別表2に記載された督促年月日にそれぞれ督促状を発し、その日から起算して10日を経過した日までに滞納者が完納しなかったので、国税徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号及び第54条《差押調書》の規定に基づいて本件差押処分をしたものである。
ニ なお、その後において課税額が取り消された事実もなく、他に何らの違法性も存していない。
ホ 以上のとおり、本件差押処分は適法であり、請求人の審査請求には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件債権が請求人に帰属するか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件差押処分の適否について

イ 本件債権の帰属
(イ)満期共済金の支払請求権の帰属
 上記1の(3)のロの(ロ)及びハの(イ)のとおり、満期共済金の支払請求権を有するのは共済契約者により共済金受取人に指定された者であるとされており、また、上記1の(3)のイのとおり、本件養老生命共済契約における満期共済金受取人は滞納者であることから、満期共済金の支払請求権は、滞納者に帰属する。
(ロ)解約返戻金の支払請求権の帰属
 上記1の(3)のハの(ハ)のとおり、解約返戻金の支払請求権を有するのは、共済契約者であるとされており、また、上記1の(3)のイのとおり、本件養老生命共済契約の共済契約者は滞納者であることから、解約返戻金の支払請求権は、滞納者に帰属する。
ロ また、本件滞納国税については、別表1及び別表2の督促年月日にそれぞれ督促状が発せられ、その日から起算して10日を経過した日までに滞納者が完納しなかったことから、原処分庁は、国税徴収法第47条第1項第1号及び第54条の規定に基づき本件差押処分をしたことが認められるので、本件差押処分は適法な手続に基づいて行われたことが認められる。
ハ なお、請求人は、本件養老生命共済契約は請求人が滞納者の名義を借りて契約したものであり、また、共済掛金も請求人及び請求人の妻が支払っていることから、本件債権は請求人に帰属し、本件差押処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、仮に、本件債権が請求人に帰属するとしても、次に述べる理由から、請求人は、原処分庁に対してその旨を対抗することはできず、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(イ)民法第94条第2項には、相手方と通じてなしたる虚偽の意思表示の無効は、これをもって善意の第三者に対抗することができない旨規定されているが、この規定の趣旨は、意図して虚偽の外形を作出した者の権利主張が善意の第三者に不測の損害を与える場合に、当該第三者を保護したものと解される。
(ロ)本件において請求人が主張するとおり請求人が滞納者の名義を借りて本件養老生命共済契約を締結したものであるとすれば、本件債権が請求人に帰属するとしても、請求人は虚偽の外形を自己の意思で作出したことになるから、民法第94条第2項の類推適用により、本件債権が請求人に帰属することをもって善意の第三者である原処分庁に対抗することはできないというべきである。
ニ 上記イないしハのことから、本件差押処分は適法であると認められる。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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