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(平13.6.27裁決、裁決事例集No.61 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、ゴルフ会員権の販売代行業を営んでいた株式会社A(以下「A社」という。)を介してゴルフ会員権を購入した会員が、その購入代金相当額を破産債権として裁判所に届け出て、その債権が破産債権として確定した旨債権表に記載されたことが、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号の規定に当たるか否かを主たる争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ A社は、昭和63年6月1日から平成元年5月31日まで及び平成元年6月1日から平成2年5月31日までの各事業年度(以下、順次「平成元年5月期」及び「平成2年5月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ その後、A社は、平成3年10月29日午後1時に、B地方裁判所から破産宣告を受け、審査請求人(以下「請求人」という。)が破産管財人に選任された。
ハ 原処分庁は、平成4年1月22日付で、平成2年5月期の法人税について、別表の「更正処分」欄のとおりの更正処分をした。
ニ 請求人は、平成4年5月20日に通則法第23条第2項第1号に規定する後発的事由が生じたとして、同年7月20日に、本件各事業年度の法人税について、別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件各更正の請求」という。)をした。
ホ 原処分庁は、本件各更正の請求に対し、平成4年10月20日付で、いずれも更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。
ヘ 請求人は、本件各通知処分について、平成4年12月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年3月18日付で棄却の異議決定をし、その異議決定書謄本を請求人に対し同月22日に送達した。
ト 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年4月22日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査した結果によってもその事実が認められる。
イ A社は、株式会社C(以下「C社」という。)の委託を受けて、同社が建設中の「Dカントリークラブ」と称するゴルフ場(以下「Dカントリークラブ」という。)の会員権の販売業務を行ったが、当該会員権を購入した者からされた破産宣告の申立てによって、平成3年10月29日に、B地方裁判所から破産宣告を受けた。
 なお、C社も、平成3年10月29日に、同様にE地方裁判所から破産宣告を受けている。
ロ 当該各裁判所は、Dカントリークラブの会員権を購入した者から破産債権として届出をされた金額が債権調査の期日(平成4年5月20日)において破産債権として確定したことから、A社及びC社の各債権表にその旨を記載した(破産法第241条)。
ハ A社の代表取締役であったFほか同社の役員は、Dカントリークラブの会員権の販売代金(入会金と預託金の合計額)名下に多数の顧客から金員を騙取したとして、平成5年10月5日にB地方裁判所から詐欺罪で有罪の判決を受けた。
 なお、Fらは控訴をしなかったので、当該判決は確定した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ Dカントリークラブの会員権を購入した多数の者(以下「本件会員ら」という。)からの購入代金(以下「本件購入代金」という。)の返還請求権がA社及びC社の各債権表に破産債権として確定した旨記載されたということは、当該返還請求権は、破産法第242条及び第287条の規定により、破産者であるA社及びその他の全債権者に対して確定判決と同一の効力を有することになる。そうすると、本件会員らとC社との間において締結されたDカントリークラブへの入会契約(以下「本件入会契約」という。)は、実質的に詐欺により取り消されたのと同視され、C社には当初から本件購入代金を受領する権利がなかったことになるから、A社が収益に計上したC社から受領したDカントリークラブの会員権に係る販売手数料収入についても、本件会員らの届出債権が返還請求権として確定した部分に相当する金額(平成元年5月期の金額は6,257,632,500円(17,878,950,000円×35%)、平成2年5月期の金額は20,923,355,000円(72,149,500,000円×29%)。以下、これらの合計金額を「本件販売手数料収入」という。)だけ生じなかったことになる。
 このことは、通則法第23条第2項第1号に規定する「申告に係る税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に該当することになるから、本件各事業年度の所得金額の計算上、申告に係る所得金額から本件販売手数料収入を減算すべきであるとする本件各更正の請求は認められるべきである。
ロ 原処分庁は、法人の所得の計算については、当期において生じた損失は、その発生事由を問わず、当期において生じた益金に対応させて当期において経理処理すべきものであって、その発生事由が既往の事業年度の益金に対応するものであっても、その既往の事業年度にさかのぼって損金として処理すべきものではない旨主張するが、この主張は最高裁判所昭和62年7月10日判決の判断と同様の内容であって、これはあくまで事業を継続する法人についてのものであり、本件のように破産宣告により法人の事業が廃止されることまでを前提としているものではない。
 ところで、法人税法上、法人の事業が破産宣告により廃止された場合において、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実が変更されたときは、その事実を基礎として申告した破産宣告前の事業年度にさかのぼって所得金額を減額する更正の請求を認める旨の規定はないが、これを認めるのでなければ極めて不合理である。
 すなわち、本件の場合のように、本件販売手数料収入を収益に計上し、その収益に対する法人税を納付したにもかかわらず、当該収入を収益に計上すべきでない事情が後発的に生じ、それが確定したことにより、当該事業年度に当該収入に相当する額を損金の額に算入したとしても、所得金額が欠損であるときは、現行で認められている欠損金の繰戻しによる還付請求という方法以外に、納付した法人税を取り戻すことができなくなる。
 しかしながら、通則法第23条第2項の規定は、法が課税の公正・公平の見地から、その後の事業年度に生じた事実の影響を当該事業年度にさかのぼって考慮するという原則を採用することを明白にした規定と解されるから、法人が破産等により将来における事業の継続が全く期待できない場合にあっては、当該原則に立ち返り、発生事由が既往の事業年度の益金に対応する損金である限り、その事業年度にさかのぼって損金として処理することを認めるべきである。

(2)原処分庁

イ 通則法第23条第1項及び第2項の規定は、手続法であって、同条第1項に規定するように法人税法等に基づいて計算したところにより課税標準等又は税額等が過大となった場合に限り更正の請求ができるというものであるところ、A社の本件各事業年度の課税標準等又は税額等は過大になっていないのであるから、本件購入代金の返還請求権がA社の破産債権として確定した旨債権表に記載されたことは同条第2項第1号の規定に該当するとして、A社が収益に計上した本件販売手数料収入は当初から生じなかったとの理由による本件各更正の請求は認められない。
ロ 請求人は、A社は破産宣告により事業を廃止したのであるから、本件販売手数料収入を益金の額に算入して申告した本件各事業年度にさかのぼって当該益金の額を所得金額から減額する更正の請求を認めるのでなければ不合理である旨主張するが、法人の所得の計算については、法人税法上、当期において生じた損失は、その発生事由を問わず、当期において生じた益金に対応させて当期において経理処理すべきものであって、その発生事由が既往の事業年度の益金に対応するものであっても、その既往の事業年度にさかのぼって損金として処理すべきものではないから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)原処分関係資料を当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。

イ A社は、C社との間で締結したDカントリークラブの新規会員募集に係る会員権販売の業務委託に関する契約(以下「本件会員募集業務委託契約」という。)に基づき、本件販売手数料収入を受領していた。
ロ 請求人から提出されたA社に係る破産の申立事件に関するB地方裁判所の平成3年10月29日付の「決定」と題する書面(以下「本件破産決定書」という。)には、要旨次のとおりの記載がある。
(イ)債務者(A社)は、大量販売によって、実質的価値の乏しいDカントリークラブの会員権を購入させて、債権者ら(本件会員ら)に故意に損害を与え、また、債権者らの会員としての権利を故意に侵害したというべきである。
(ロ)Dカントリークラブの会員権は、プレー権としても、投資対象財産としても、実質的価値は極めて乏しいものであり、15年間据え置かれる預託金返還請求権を含めた当該会員権の現在価値が著しく低いものにならざるを得ないと考えられるから、債権者らが被った損害の額は、同人らが現実に出捐した購入代金相当額を大きく下回るものではないと認めるのが相当である。
(ハ)以上のとおりであるから、債権者らは、債務者に対し不法行為による損害賠償請求権を有する。

(2)関係法令について

イ 通則法第23条第1項は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等又は税額等(以下、これらを併せて「課税標準等」という。)の計算が誤っていたこと等の事由により、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である等の場合には、その国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、更正の請求をすることができる旨規定し、さらに、同条第2項第1号は、同条第1項に規定する期間の経過後であっても、申告等に係る課税標準等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したときは、その確定した日の翌日から起算して2月以内に、更正の請求をすることができる旨規定している。
 これは、申告時には予想し得なかった事由がその後において生じたことにより、課税標準等の計算の基礎に変更を生じ、さかのぼって課税標準等の減額をなすべきこととなった場合に、申告期限から1年を経過していることを理由に更正の請求を認めないとすると、帰責性のない納税者に酷な結果となることがあるため、例外的に、納税者の側からもその更正を請求し得ることとし、納税者の権利救済の途を拡充したものと解される。
 そして、通則法第23条第2項において、納税者が更正の請求をすることができる場合を列挙しているところ、上記規定の趣旨と各列挙事由の内容を照らしてみると、同項第1号の「判決」に基づいて更正の請求をするためには、当該訴訟が申告等に係る課税標準等の計算の基礎となった事実の存否、効力等を直接、審判の対象とし、判決により当該事実と異なることが確定するとともに、申告時において納税者が当該事実と異なることを知らなかったことが必要であると解される。
ロ 通則法は「国税についての基本的な事項及び共通的な事項」を定めている(第1条)ところ、これを更正の請求についていえば、税法の基本的な手続に関して規定しているにとどまり、課税の実体的要件である納税義務者、課税物件、帰属、課税標準、税率等については、所得税法、法人税法等の各租税実体法がこれを規定しているのであって、通則法の関知するところではないから、同法第23条第1項各号に掲げる課税標準等の過大等の実体的要件を満たしているか否かということについても、各租税実体法の規定するところによるものと解される。
 したがって、更正の請求が手続上適法になされ、租税実体法の規定に照らし課税標準等が過大である等の場合に限り、更正の請求が認められることになるが、課税標準等に変動がない場合には更正の請求は認められないことになる。
ハ 上記ロに述べた租税実体法としての法人税法は、各事業年度の所得の計算に関し、同法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項において「内国法人の各事業年度の所得金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」旨規定し、同条第4項において「当該事業年度の益金の額及び損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」旨規定しており、その後の事業年度において判決等によって課税標準等の計算の基礎となった事実が変更され、それが確定した場合に、それによって所得金額をさかのぼって変更させることになるかどうかについて直接規定しないで、このことについては、一般に公正妥当な会計処理の基準に従うこととしたものということができる。
ニ これに関して、東京高等裁判所昭和61年11月11日判決(昭和60年(行コ)第59号)は「当期において生じた損失はその発生事由を問わず、当期に生じた益金と対応させて当期において経理処理をすべきであって、その発生事由が既往の事業年度の益金に対応するものであっても、その事業年度にさかのぼって損金としての処理はしないというのが、一般的な会計の処理であるということができる」旨判示している。そして、この上告審において、最高裁判所第二小法廷は、「原審の判断は、正当として是認することができ」るとしている。
ホ 破産法第241条第1項は「裁判所は、調査の結果を債権表に記載することを要す」と規定し、同法第242条は「確定債権については、債権表の記載は破産債権者の全員に対し確定判決と同一の効力を有する」旨、同法第287条は「確定債権については、破産者が債権調査の期日において、その債権に対して異議を述べなかった場合に限り、債権表の記載は破産者に対し確定判決と同一の効力を有する」旨規定している。
 この「破産債権者の全員及び破産者に対して、確定判決と同一の効力を有する」とは、破産債権届出額が債権表に確定した旨記載されると、当該届出債権者と破産者及び他の破産債権者との間において、当該届出債権者には記載された金額や順位等に従って破産手続に関与する資格を有することを宣言する確定判決があったのと同様の効果が生じ、これを基礎として配当を受ける権利が承認され、破産者及び他の破産債権者もじ後にこれを争うことができなくなると解される。

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(3)本件各通知処分について

 請求人は、A社及びC社の破産手続において、各債権表に確定した旨記載された届出債権は本件購入代金の返還請求権に基づく債権であり、破産法の規定により確定判決と同一の効力を有することになるから、本件会員らとC社との間で締結された本件入会契約が本件会員らの意思によって取り消されたのと同視され、本件入会契約の一方の当事者であるC社においては本件購入代金を受領する権利が当初からなかったことになるから、A社がC社から支払を受けた本件販売手数料収入も初めから生じなかったことになるのであって、本件各更正の請求は認められるべきである旨主張するので、以下検討する。
イ A社の破産手続において債権表に確定した旨記載された本件会員らに係る破産債権(以下「本件破産債権」という。)は、上記(1)のロの本件破産決定書のとおり、A社がDカントリークラブの会員権の販売に当たり本件会員らに対して行った不法行為による損害賠償請求に基づく損害の額であることは明らかであって、返還請求権に基づくものではないこと、そもそも本件入会契約は、本件会員らとC社との間で締結されたものであるから、同社が本件販売代金の返還義務を負うことはあり得ても、当該契約の当事者でないA社が本件購入代金相当額の返還義務を負うことはないこと、本件破産債権が債権表に記載されると破産法第242条及び同法第287条の規定により確定判決と同一の効力を有することになるとしても、上記(2)のホのとおり、本件会員ら、A社及び他の破産債権者の間において、本件会員らには債権表に記載された当該金額に従って破産手続に関与する資格を有する旨を宣言する確定判決があったのと同様の効果が生じ、配当を受ける権利が承認されたというもので、あくまで破産手続上での効力であること、すなわち、A社とC社との間で締結した本件会員募集業務委託契約の存否、効力等を直接審判の対象とした訴えがなされたとみることはできないことからすると、A社の不法行為による本件会員らからの損害賠償請求に基づく損害の額が破産債権として債権表に記載されたことをもって、通則法第23条第2項第1号に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決があったことにより、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」に該当するとはいえない。
ロ 仮に請求人の主張するようにC社に本件購入代金を受領する権利が当初からなかったとしても、そのことをもってA社がC社から支払を受けた本件販売手数料収入が当初から生じなかったということはできない。
 つまり、Dカントリークラブの経営会社で本件入会契約の当事者であるC社が本件入会契約の不履行等により本件会員らから受領した本件購入代金を返還することになったとしても、それは本件会員らとC社との間のことであり、本件販売手数料収入の基となるA社とC社との間で締結された本件会員募集業務委託契約の内容に変更をもたらすものではなく、A社が当該契約に基づいてC社から受領していた本件販売手数料収入について行った経理処理には、何らの影響を及ぼすものではない。
 したがって、本件の場合、通則法第23条第2項第1号に該当しないものである。
ハ なお、請求人は、通則法第23条第2項の規定は、法が課税の公正・公平の見地から、その後の事業年度に生じた事実の影響を当該事業年度にさかのぼって考慮するという原則を採用した規定と解されるから、法人が破産等により将来における事業の継続が全く期待できない場合においては、この原則に立ち返り、発生事由が既往の事業年度の益金に対応する損金である限り、その事業年度にさかのぼって損金として処理することを認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、通則法及び法人税法上の取扱いは、上記(2)のハ及びニのとおり、一般に公正妥当な会計処理の基準に従って、当期に生じた損失は、その発生事由を問わず、当期に経理処理し、その発生事由が既往の事業年度の益金に対応するものであっても、その事業年度にさかのぼって損金として処理しないものであって、破産等があった場合の取扱いについて法令上特に規定していない以上、更正の請求を認めることはできないのであるから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ニ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件各更正の請求には更正をすべき理由が認められないのであるから、本件各通知処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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